友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
翌日以降、僕たちは順調に道を進んでいった。ゼストスに近づくにつれて平野から林へと周りの様相が変わり、その分魔物に出会う機会も増えて来たがレイさんたちも戦闘職ということもあり今まで以上に危なげなく突破することが出来た。
「なんか、ますますやることなくなってる気がする……」
「陽向はこのパーティーの大事な料理人だから、仕事としては十分だろ」
「うん、こうした美味しい食事があるだけでこんなにも戦闘へのモチベーションが変わるとは思わなかった。正直これからもお願いしたいくらいだ」
「それは流石に……」
レイさんたちにも喜んでもらえたようでよかったけど、流石にレイさんたちに今後付いていくことは出来ないからやんわりと勧誘をお断りする。
「にしても、動物に会わないね」
魔物から食肉を採取することは出来ない為、道中では適当に見つけた動物を狩って肉を調達してきたが、昨日からそういう動物の類を一切見かけていない。
「肉なら、私達のを食うか?」
そう言いながらレイさんは、背負っている袋を指差す。恐らくそこに肉が入っているんだろうけど、流石にそんな貴重品をおいそれと頂くわけにはいかない。
「いえ、もうすぐゼストスに到着するはずですし大丈夫です」
「そうか」
そんな風に最初に会ったわだかまりも徐々に溶けていき、旅も大分楽しいものへと変化してから2日後、僕たちはゼストスへと到着した。
タラハットを出てからおよそ7日。食料はともかく水が底をつきかけていて、最悪灯火にお願いしなければいけないと思っていたからギリギリセーフと言える。
「本当にありがとう。ここまでの道中でも、大分世話になった。
もしよかったら、私たちの使っている宿に後で来てくれないか? お礼にご馳走がしたい」
前回とは違い、ギルドから発行してもらった身分証があるおかげで検閲は難なく抜けることが出来た。街に入って、レイさんたちと別れるときに、レイさんたちが使っている宿の場所を記した簡単な地図を手渡してもらえた。
「だって。どうする?」
「まあ奢ってもらえるって言うなら素直に受け取っとくか。どうせこの街には何日か泊まる予定だったし」
まだ資金には余裕がある為、この街で依頼をこなす予定はない。でも水や野菜の調達をしたり、道中で狩った魔物の素材をギルドに提供したりとやること自体は結構あるので、2~3日くらいはここに留まる予定だ。
「じゃあ、早速今夜行ってみようか」
「だな」
まだ日中ということもあり、僕らはまずゼストスの探索がてら冒険者ギルドへと向かうことにした。ゼストスはタラハットとほぼ同じような城塞都市で、街のつくりもかなり似通っている。
しかしタラハットとは大きく違う点があった。それは―――
「お肉が売ってる……?」
タラハットには無かった肉類の商品が、この街では販売されていた。
僕が聞いた話では、肉は高級品として扱われ貴族が食すものだとされているはずだ。それなのにここでは、さも当然であるかのように肉が屋台で売られていた。
「兄ちゃん冒険者か? なら一本どうだ」
屋台のおじさんに勧められ、僕と灯火で一本ずつ肉串を購入。値段も足元を見るようなものではなく、庶民でも普通に買える値段だった。
「タラハットに近い街なのに、随分違うんだね」
「…………」
肉串を見ながら、難しい顔をする灯火。
「……何か考え事?」
「いや、この肉って何の肉なんだろうな~と」
「そんなに大事?」
灯火が肉の種類で考え事なんて随分と珍しい。『食えればいい』なんて言いそうなもんだと思っていたけど、何かこの世界に来てから嫌な思い出でもあったんだろうか?
「いや、ダインさんに聞いた話なんだけどな。ピラマでは牛や豚、鶏みたいな食肉用の動物を育てる、見たいな文化が無いらしいんだ。
魔物はそもそも元がマナであるために肉というものが存在しない。食べられる肉はあくまでも野生の動物を狩って、それを解体することで得ているらしいんだ」
灯火によれば、この世界で肉は安定した供給源が無いため希少なものらしい。確かに僕もタラハットにいた頃は肉なんてめったにお目にかかれなかったけど、そういうものだってくらいにしか思っていなかった。
「冒険者ってのは基本的に魔物を狩ることを生業としている。食べる為の肉を市場に流す為に動物と戦うやつはいないんだ。だから肉が市民の市場に流れてこない」
「冒険のついでには狩るけど、そういうのって自分たちで消費しちゃうのか」
「そ。だからこうして市民に対しても安定的に肉が供給されていることに違和感があってな」
肉汁が滴る串を眺める灯火。灯火の説明を聞いた後だと、この街で当たり前に肉料理が売られていることにも違和感が湧いてくる。
「そういえばレイさんも、僕らに肉を分けることにあんまり抵抗が無さそうだったっけ。あの時は僕らのことを信頼してくれたからだと思ってたけど、ここだと簡単に肉が入手できるからだったのかな……?」
「どっから仕入れてるんだろうな、この肉」
「きな臭いってこと?」
「流石にそこまでは言ってない。でもこうやって肉を串にさして屋台で販売とか、発想がどうも日本人っぽいなって思って」
そう言われて、辺りを見回す。タラハットのように家の前にタープを引いてバザーを開いているのを奥に見れるが、その手前、僕らの近くでは祭りの出店のように肉串が売られていたり、またさっきまでは気づかなかったが、木で出来たジョッキのようなものを片手に肩を組んで騒ぐ男性たちの姿が見える。
「あれ、お酒……?」
酒も肉と同じく高級品のはず。見た感じ街並みは中世に似ているのに、食文化が現代日本に近いものを感じる。
「なんか、物語の中の世界っぽい……かな?」
それこそ異世界に転移して戦う主人公の物語の舞台は、こんな感じで中世ヨーロッパを土台に現代のテイストを交えたものが多い印象ではある。まさに今の僕らみたいな話ではあるけど、ここはまさにそんな街だった。
「でも、ピラマに住んでる人だけでこれを維持するのは厳しそうじゃない?」
「俺もそう思う。ってことは―――」
この街に、僕らと同じ『流れ人』がいる可能性がある。
僕と灯火は目を見合わせ、ゼストスの冒険者ギルドまでの道を急いだ。
* * * * * * * * * * * *
「ああ言われてみれば、確かにそうだな」
その日の夜、僕らはレイさんたちに連れられて街の一角にある居酒屋へとやってきた。居酒屋では冒険者と思しき人たちが酒を片手に盛り上がっている。
この街のギルドもまた、タラハットのものとは様相が異なっていた。ギルド内部には簡易的な酒場が併設されていて、昼間にも関わらず何人かの冒険者が酒に酔っていた。
僕はタラハットとゼストスの違いについてレイさんたちに尋ねてみたところ、レイさんが思い出すように語りだした。
「私たちはこの街を活動拠点にしていて他のところに行く機会が殆ど無いからあまり違和感を持つことは無かったが……言われてみればこの街くらいだな、こんな風に酒や肉を当たり前に売っているところは」
「そんなに裕福なんですか? この街は」
ギルドの依頼ボードを確認してみたが、食肉の調達を促すクエストは存在していなかった。
「いや、別に特段裕福だと感じたことは無いぞ。金銭感覚も普通だと思っているが……」
そう言って、目の前の分厚い肉にかぶりつくレイさん。僕らの目の前には机いっぱいに料理が並べられていて、とても庶民に手を出せるような料理には思えない。
「正直なことを言うとな、この街は他に比べてどこかおかしい。肉や酒は当たり前に庶民に出回っているし、俺たちからしたら貴族の飯としか思えないこの目の前の料理でも、ちょっと奮発すれば別段払えないことも無い、ってくらいの値段なんだ」
食事に夢中なレイさんに代わり、ダグラスさんが会話を続ける。
「俺はこの街以外にもいくつか街を渡り歩いていたから分かるが、こんな風に肉や酒が一般市民に浸透しているのはここくらいのもんだ。
ま、俺たちからしたら安い金でうまい飯が食えるんだからありがたい限りなんだけどな」
そう言って、笑顔で酒をかっ食らうダグラスさん。ユースさんもミリメリさんも、やっぱり当たり前のようにご飯を食べている。
この街ではこれが当たり前。そう言ってしまえばそれまでかもしれないが、肉は最悪何とか供給できたとしても酒に関しては不可能なはずだ。
だってこの世界の酒は基本的に蒸留酒か醸造酒といった、時間を掛けて造る酒しか存在しないはず。ビールやチューハイみたいな、そんな安価に作れるものは存在していない。
「どう考えてもおかしいよなぁ……」
笑顔で騒ぐレイさんたちを見ながら、僕と灯火はこの街の違和感について考え始める。
「魔法で酒って造れるのか?」
「そりゃ理論上は可能だと思うけど……そもそも製法を知らないと話にならないだろうし、知っていたとしても炭酸系は厳しいと思う。
もしも『自分の思い通りの事象を引き起こす魔法』なんてものを本当に実践できる人がいるなら話は別だけど……」
「てことは、事実上はほぼ不可能か」
「うん。そう思っていいかな」
ズルをして高級品を作り出すことはほぼ不可能。となれば問題になってくるのは、これだけど酒や肉の出どころだ。
「昼間にざっと街を見て回った感じでも、本当に酒も肉もありふれていた。ありふれていたんだけど、この街の人はあんまり買っていなかった印象があるのは気のせいかな?」
昼間、ギルドに立ち寄った後に街を散策してみたところ、そこかしこに屋台が建てられていて肉串やら酒やらを販売していた。
そしてそれらの売れ行きもぼちぼち良さそうではあったけど、どの店も買っているのは冒険者ばかりで他の市民の人が買っているところを見ることは無かった。
「偶々タイミングが悪かっただけなのかもしれないけど、一応留意しておいた方がいいかな?」
「ああ。もしかすると、そこに謎があるかもしれないしな」
結局僕らは食事には殆ど手を付けず、レイさんたちと別れることになった。出どころが怪しいものを食べることは僕らにはどうしても出来なかったから。
そして翌日、ゼストスを統治する貴族家から呼び出されることで事態は新たな展開を迎えることとなった。