友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
翌日、僕らはこの街についての調査を行うことにした。昨日のレイさんたちとの話から、僕と灯火はこの街に酒や肉製品がこれだけ溢れている理由が何かあるはずだと結論付けた。
そしてその理由には、流れ人が関与している可能性があるとも僕らは思っている。この世界で僕ら以外の流れ人に初めて会える可能性、もしかしたら地球への帰り方についてのヒントも何か見つかるかもしれない。そんな期待も胸に込め、僕らは街の人に聞き込みへと向かった。
僕はまず、街道でバザーを行っている女性のお店に立ち寄った。
「すいません、この果物一つ頂けますか?」
女性は僕を見ると、一瞬顔を顰める。そして僕が指さしたリンゴに似た果物を一つ手に取ると、僕へ向けて突き出してきた。
「銅貨20枚」
ぶっきらぼうに言う女性。そんな女性の態度に思うところはあったが、それよりも聞くべきことがあったためにぐっと堪えてこの街について聞いてみる。
「この街って特殊ですよね、お酒やお肉が当たり前に売られているなんて。特産だったりするんですか?」
果物を受け取り、代わりに銅貨を手渡す。女性は銅貨の枚数を数えながら、僕に視線を向けることなく答えた。
「肉や酒が特産なら、皆それで稼いでいるさ」
女性の言葉は、自虐のようにも嫌味のようにも聞こえた。あれは自分たちの本意じゃない、とでも言いたげに。
「何かあったんですか?」
そう尋ねると、女性は僕の方をちらりと横目で見やる。そしてすぐに手元の銅貨へと視線を戻すと、またぶっきらぼうに答え始めた。
「この街は普通の街だ。私ら地元の人間からしてみたら、何も変わらない。変わったのは領主と、冒険者どもだけだ」
「やっぱり、この街の食糧事情には何か問題があるんですか?」
「…………」
僕の問いかけに、女性は答えない。「商売の邪魔だ」と言わんばかりに手で僕のことを追い払った。
これ以上は何も教えてくれないだろう。そう思った僕は、一言お礼を言って店を離れた。
「……次行くか」
少なくとも、この街には『何か』があることが確定した。次はその原因を探る為にもう少し踏み込んで聞き込みをしていこう。
「――ありがとうございました」
もう何人に聞いて回ったかも分からないくらい聞いてみたが、結果はあまり芳しくは無かった。最初の女性が教えてくれた以上の情報を手に入れることは出来ず、分かったことも僕らの推測が正解だったことくらい。収穫らしい収穫も無いまま、僕は宿へと戻った。
「おう、お帰り」
部屋に入ると、そこには先に着いた灯火がベッドに腰を下ろしていた。この宿は別段宿泊料が高いわけじゃないのに、マットレスには羊毛がふんだんに使われている。その為、昨日はぐっすりと眠ることが出来た。
「空振りだったか?」
僕の顔を見た灯火の第一声がそれだった。それほどまでに失望感が顔に出ていたのかな?
「分かる?」
「見りゃわかる。
まずはそっちの話から聞いてもいいか?」
灯火に促され、僕はバザーで聞いた話を灯火にそのまま話す。と言っても手に入れた情報は微々たるものだったので、話自体は直ぐに終わった。
「なるほどな。ってことは俺たちの予想は当たってたってことか」
「うん。でも核心的なことまでは分からなかった。ごめん」
「いやいいさ。その為の俺だから」
そう言って、どや顔で胸を張る灯火。この反応だと、僕よりもいい情報を仕入れることが出来たんだろうか?
「じゃあ、灯火の成果を聞いてもいい?」
「おう。
まずこの街の現状についてだが、かなり厳しい状態にある。肉や酒を無理な値段で市場に流しているせいで、その皺寄せがこの街の住人や領主に来ているらしい。ここ一、二年で税の徴収率が倍にまで跳ね上がっているんだと」
「一、二年で倍って、そんな無茶苦茶な……」
日本の法案でももう少し慎重にやるだろうに、いきなり倍近くまで税率が跳ね上がるのは暴利もいいところだ。
「んでやっぱりいたぞ、流れ人。こうなった背景に、三年くらい前にこの街にやってきた流れ人が絡んでいるらしい」
「流れ人が絡んでいるって、具体的にどういう風に?」
「その三年前にやってきた流れ人が領主に直談判して、酒と肉を冒険者が買いやすくなるようにさせたんだって。直談判とは言ったけど、実際はほぼ脅しに近かったと噂されている。
んで流れ人の要求を飲んだ領主は酒や肉を冒険者や農民でも買えるような値段で市場へと流したそうだ」
「脅しって……何でそんなことを?」
どうにも、その流れ人の行動理由がいまいち読めない。肉や酒を市場に流通させる理由が一般市民の為なら、今皺寄せが来ている時点で即刻流通を止めるべきだ。
「さあな、流石に理由までは分からなかった。でもこの街の中途半端に豪勢な部分には、その流れ人が絡んでいるらしいぞ。
例えば……このベッドとかな」
そう言いながら、自分が座るベッドをポンポンと叩く灯火。確かにピラマで羽毛布団を使える人なんて、貴族くらいなものだ。それを一般向けの宿に当たり前に設置されているのは、かなり違和感がある。
「……待って。その皺寄せって冒険者には来てるの?」
灯火の話を聞いて、ふと気になったことがある。灯火は『この街の住人や領主に皺寄せが来ている』と言っていたが、冒険者はどうなんだろうか?
聞くと、灯火は渋い顔で答える。
「冒険者は移動が多い職業で、一つの地に定住することが少ない。だから税の徴収方法が少し特殊で、国に定められている一定の額をギルドに納める形になっているんだ。
だから自分がいる街によっては損をすることだってあるが、大半の場合は得をすることが多い。軽いとはいえ、命を賭している職業だからな」
つまり、この街を拠点にしている冒険者は重い税徴収の対象にはなっていないということか。
「というか、それは商業ギルドも同じなんじゃないのか?」
「いや、こっちの場合は街に定住する人の方が多いから税金は街に直接納めてるよ。僕は特殊だから、灯火と同じように一定額を納めてるけど」
冒険者と違い、僕らはあまり遠出をしない。行商人は別だけど、基本的には一つの街に留まるのでその街の税率が適応される。
でも灯火が説明してくれたことで、例の流れ人の行動理由も何となく見えてきた。
「ってことは、その流れ人がやっていることって冒険者の為ってことなのかな?」
ぽつりと呟くと、灯火は顔を顰めて答えた。
「俺も恐らくそう思う。
だが、もしそうなら俺はその流れ人のやったことを許せない。冒険者として、同郷の人間として」
灯火の言うことも最もだろう。他人から搾取して得られる幸福で、心が満たされることはない。
「なら、僕らでその流れ人を探して直談判してみようよ」
この問題に関与することで時間を浪費し、王都に到着する時間がどんどんと伸びてしまうことは僕だってよく分かっている。出来ることなら一秒でも早く王都に辿り着きたいし、地球に帰りたい。
だとしても、ここで見て見ぬふりが出来るほど、僕の肝は据わっていない。苦しむ人がいると分かっていてそれを見捨てられるほど、僕は人間が出来ていない。
「そう言うと思って、その流れ人の居場所も調べてある」
待ってましたと言わんばかりに灯火がにやりと口角を上げる。本当にこの親友には、どこまでも敵わない。
「なら明日、早速行こう」
「おう」
* * * * * * * * * * * *
「そう言えば灯火、これだけの情報どうやって手に入れたの?」
灯火から流れ人の現在の居場所と、何を材料に説得するかを話し合った後。僕はずっと気になっていたことを灯火に聞くことにした。
これだけの量の情報をたった半日で仕入れてくるというのは、ちょっと信じられなかった。冒険者独自の情報網でもあるのか、はたまたこの街に知り合いがいるのか。何よりもその情報の出どころが僕はとても気になった。
「ああ、情報屋に聞いたんだ」
「情報屋?」
この街に来たばかりなのに情報屋と繋がりがあったのか。なんて感心していると、灯火は申し訳なさそうな顔で両手を合わせて頭を下げてきた。
「すまん。この情報を聞くために結構使っちまった」
「使ったって、お金?」
「ああ。流石に新顔の俺に情報を教えるとなるとそれなりの額がいる、って言われてさ。必要なことだから多少なら……と思ってたけど今にして思えばかなり吹っかけられちまった」
ピラマにおける情報の価値がどれくらいのものなのかはよく分からないが、別にこれだけの情報を手に入れてくれたんだから多少なら問題ないだろう。
それに、懐にはある程度余裕があるし特段問題は無いだろう。
「ちなみに、幾ら使ったの?」
「…………金貨二枚」
「…………まあ、うん。いいんじゃないかな?」
幾らと言われても受け入れようと思ってはいたけど、流石に所持金の二割を持っていかれたと言われればたじろきもする。
とはいえ、必要な情報なので仕方がないことだ。
うん、仕方がないことなんだ。……よね?