友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第16話 【同郷とはとても】

「おおお!? やっぱりそうか! やべー初めて見た! 俺以外にもいたんだ~はぇ~」

 

 僕の目の前で若干理解に苦しむような喋り方をしている男。そんな男が、僕らの方を見て嬉しそうに近寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 ――話は数時間前に遡る。

 

 ゼストスに到着してから三日目。僕らは昨日話に上がった流れ人に会いに行くため、とある場所へと赴いた。灯火の話ではここに例の流れ人がいるらしいんだけど……。

 

「本当にここにいるの? ここ領主さんの家でしょ?」

 

 僕らがやってきたのはゼストスの領主が暮らす屋敷。街の北部に建てられている大きな建物で、門の前には門番が立って怪しい人物が近寄らないように目を光らせている。

 

「俺だっておかしいとは思ったさ。でも俺が情報屋に聞いた話だと、ここだって言うんだ」

 

「ガセ掴まされたんじゃない?」

 

「情報屋ってのは信用が命だから、流石にそんなことはしない。……と、信じたい。

 もしガセなら血眼であいつを探し出して金取り返してやるけど」

 

 領主家の近くにある物陰に隠れながら、僕と灯火が小声で話し合う。昨日聞いたときもまさかとは思ったけど、こうして来てみると余計に疑念が深まる。本当にここに流れ人が住んでいるって言うんだろうか?

 

「とにかく、その流れ人が出てくるまで張り込もうぜ」

 

 何故僕らがこうして物陰に隠れながらコソコソしているかと言うと、先ほど門番に直接「流れ人に会わせてほしい」と交渉したらあっけなく門前払いされてしまったからである。

 僕らは事を荒立てに来たわけでも殴り込みに来たわけでもない。あくまでも話し合いに来ただけなので、出来るだけ穏便に事を運びたいと考えていた。

 

 だから屋敷に侵入するという案は即座に却下され、こうして流れ人が出てくるのをこっそりと待っているというわけだ。

 

「やっぱり信じられないなぁ……」

 

 肉や酒を市場に流通させたり、領主の屋敷に住んでいたりと、この街の中心部分に関わりすぎじゃないだろうか? 聞けば聞くほど、噂の主が本当に流れ人なのかということさえ不安になってくる。

 

「今んとこ俺らにはこの情報しかないんだし、今日一日張り込んでみよう。それで空振りだったらまた情報集めからやり直すしかないだろ」

 

「……それもそうだね」

 

 結局、今の僕らにはこうやって手に入れた情報を一つ一つ潰していく方法しか取れない。だからたとえ非効率的だとしても、張り込んで流れ人が出てくるのを待つしかないんだ。

 

「さて、奴が本当に冒険者ならそろそろ出てくる時間だと思うが……」

 

 灯火曰く、冒険者の朝はそこそこに早い。理由は依頼の取り合いが発生するから。

 ギルドが開くと同時に、その日に入った新着の依頼がボードに張り出される。冒険者はその中から難易度と金額を天秤にかけ、一番割のいい依頼を取っていくんだそうだ。

 

 そろそろギルドが開く時間帯。ここからギルドまでは歩いて10分くらいなので、このくらいの時間に出ると丁度オープンに間に合う訳だが、果たして……。

 

「……ん? あれじゃね?」

 

 目の前の屋敷、門の奥にある扉が開き、一人の人物が出てきた。よく見てみると、腰に剣を携え機能性を重視したレザーアーマーを身に着けている。

 ここからだと顔はよく見えないが、領主の家族に冒険者がいるとは少し考えにくい。

 

「本当にここにいるんだ……」

 

 目の前で見ている今でさえ、にわかには信じがたい。だって領主の屋敷から当たり前のように冒険者が出てくるんだよ? 日本で考えたら県庁から銃持った一般人が出てくるようなものでしょ? ……ちょっと違うか。

 

 僕が何とか目の前の現実を飲み込もうとしている間にも、冒険者は門へと向かって歩いてくる。段々僕らとの距離が近づくにつれ、見えていなかった顔立ちもよく見えるようになってきた。

 

 まず、それは男性だった。顔立ちはお世辞にもイケメンとは言えないが、ブサイクとも言えない。特徴らしい特徴が無いものだった。

 背は遠めなのでしっかりとは分からないが、170cmくらいはあるだろうか? それなりに高そうだが、がっしりしているようには見えない。絵にかいたような中肉中背、そんな感じだった。

 

「あれ、本当に冒険者?」

 

 正直、強そうには見えない。体つきだけで言えば確実に灯火の方がしっかりしている。あれで本当に戦えるのか、疑問に思ってしまう。

 

「まあ恰好からしてそうなんだろうな。

 それよりも行こう。屋敷から出てきた今なら接触できる」

 

 灯火に言われ、僕らは男の後を追いかける。男は既に屋敷を離れ、ギルドへ向かって歩いているところだった。

 

 向こうが歩いていたおかげで、僕らは直ぐに追いつくことが出来た。

 

「あの、すいません。ちょっといいですか?」

 

 男の前に立ち、話しかける。目の前に立って改めて男の顔を見ると、確かにピラマの人とは少し違っていた。彫りが浅く、丸っぽい形をしている。目の色も青や赤ではなく、日本人によくある黒だった。

 

 僕が男の顔を観察しているのと同様に、男も僕の顔を観察していた。話しかけた瞬間はめんどくさそうにしていたが、僕らを見るなりじろじろと覗き込むように僕らの顔を見る男。

 

「……もしかして、お前ら日本人か?」

 

 男の第一声がそれだった。『流れ人』ではなく『日本人』と言ったということは、この人は僕らの同郷で間違いないだろう。

 

「はい。貴方もですよね?」

 

 僕がそう聞くが、男は僕の声が聞こえていなかったのか、一人でテンションを上げて僕の手を掴んで来た。

 

「おおお!? やっぱりそうか! やべー初めて見た! 俺以外にもいたんだ~はぇ~」

 

「あの……?」

 

 いきなり手を握ってきたので少しびっくりした。やんわりと手を離すように言うと、男はハッとした後で申し訳なさそうに僕の手を離す。

 

「いや~ごめんごめん。こっちで日本人に会うの初めてだったから感動しちゃって」

 

 笑顔で僕の手を離し、形だけの謝罪をする男。

 

「俺は星嶋(ほしじま)(れい)。二人とも、この街の評判聞いて来てくれたん?」

 

「浦沢陽向です。僕らは王都に行く旅の途中で立ち寄ったんです」

 

「明村灯火だ」

 

 玲さんの自己紹介に続く形で、僕らも名前を名乗る。

 

「王都? 何でそんなところに」

 

「地球に帰る方法を探す為です」

 

 僕がそう言うと、玲さんは目を丸くして驚いた。

 

「は? お前らマジで言ってんの? あんなところよりもここの方がよっぽど楽しいじゃん。

 見ろよこの街を!」

 

 そう言いながら、玲さんは手を前に向けてどや顔をして見せる。

 

「フィクションの中にしかないと思っていた異世界が、本当に目の前にあるんだぞ!? 魔法に剣に冒険、こんなに楽しい世界なのになんで地球になんて帰ろうとするんだ?」

 

 玲さんは心底信じられないと言った表情で僕らの方を見る。僕にはむしろ玲さんの考えの方が信じられないけど。

 

「家族や友人に会いたくないんですか?」

 

「そんなクソみたいなものよりもこの世界の方がよっぽど楽しくね?」

 

 まるで僕の考えの方がおかしいと言わんばかりに即答する玲さん。ムキになって更に言い返そうとしたところで、灯火に脇腹を小突かれた。

 

「陽向、そろそろ」

 

「……あ、ごめん。ちょっとムキになってた」

 

 危うく話し合いどころではなくなりそうになっていたところに、灯火の待ったが入ってくれたおかげで何とか平静を取り戻すことができた。

 一度深呼吸をし、僕らは玲さんに今日ここに来た目的を話した。

 

「玲さん、僕らは今日玲さんにお願いがあって来ました」

 

「お願い? 今さっき会ったばかりの俺に?」

 

 不思議そうな顔をする玲さんに、僕は更に言葉を続ける。

 

「今行っている市場への肉類や酒類の流通、それをくれませんか止めてくれませんか?」

 

「は? 何でだよ」

 

 眉を顰めて聞き返す玲さん。明らかに、僕の言葉に不快感を示している。

 

「肉類や酒類は、この世界では高級品に分類されています。それを無理に市場に流通させようとすれば、苦しむのはこの街に住む人たちなんです。

 だから、今すぐに止めてはくれませんか?」

 

 僕の話を聞いた玲さんは、

 

「どうでもよくね? この街に住んでる人とか」

 

 そう言って、僕の話を鼻で笑い飛ばした。


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