友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第17話 【白黒つけてやるから】

「…………はい?」

 

 一瞬、玲さんが何を言ったのか全く理解できなかった。どうでもいい? 今どうてもいいって言ったのか?

 

 驚いて言葉を失っている僕を他所に、もう話は終わったと思ったのか玲さんが僕らを避けてギルドへと向かおうと一歩踏み出す。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

 そんな玲さんの腕を、灯火が掴む。

 

「あ?」

 

「あ? じゃねえよ。お前自分がやってることと、今自分で言った言葉の意味分かってんのか?」

 

 灯火の言葉に、玲さんは苛つきを隠すこともなく答える。

 

「お前らこそバカじゃねえのか? 俺のおかげで、この街はこんなにも賑わってるんだぞ?

 異世界なのに肉も酒も無くて、宿のベッドは藁が痛くて寝た気がしない。そんなクソみたいな話があると思うか?

 他の冒険者だって、この街の様相に満足してる。それの何がいけないってんだよ」

 

「俺たちが言ってるのは『この街の人』の話だ。お前のエゴを押し付ける為の金は誰が出してると思ってんだよ」

 

「んなもん、金持ちどもが出せばいいだけの話じゃねえか。どうせ金持ってるんだし、自分らの欲を満たすために使ってるんなら少しは俺らに還元しろってんだよ」

 

 灯火と玲さんの言い合い、議論は平行線のままだ。というより、話がかみ合っていないように感じる。

 

「玲さんはそもそも、この街に貴族がどれくらいいると思っているんですか?」

 

「んなもん、俺が知る必要ないだろ。クソみたいなしがらみから解放されて、漸く自由に生きられるんだ。

 俺は俺のやりたいことだけやって、この異世界生活を満喫するんだよ。お前らも同じ日本人なら分からねえか?」

 

「分からねえな、そんな自分本位な考え方。てめえの自由の為に多くの犠牲があるって、考えたことねえのか?」

 

 玲さんの言葉に突っかかるように、灯火が一歩前に出て言い返す。その瞳は鋭く玲さんを捉え、一触即発の状態だった。

 

「何も知らねえガキがいい気になってんじゃねえよ」

 

 玲さんが灯火の胸倉を掴もうと右手を前に出すが、灯火がその腕を掴み止める。

 

 このままだと本当に暴力沙汰に発展しかねないと思った僕は、慌てて二人の間に割って入り互いの手を解く。

 

「とにかく、さっきの僕らの話を一度考えてみてくれませんか? この街に住む人がどれだけ苦しんでいるのかを。お願いします」

 

「チッ、知るか。二度と関わんじゃねえ」

 

 吐き捨てるように言った玲さんは、それ以降僕らの方を見ることもなくギルドの方へと歩いて行った。

 交渉は失敗に終わった。あの様子だと話を聞いてくれることもないだろう。

 

 これからどうしようか、そんなことを思いながら灯火の方を見ると、僕の視線に気づいたのか灯火も顔を僕の方へと向けた。僕は不安な気持ちを抑え、ぎこちなく口角を上げながら

 

「どうしようね」

 

 と困ったように笑いながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 星嶋玲との交渉が決裂した日の夜、陽向が寝たのを見計らって俺はゼストスを出てすぐのところにある開けた草原へとやってきた。

 何故こんなコソコソした真似をしているのか、それは陽向に今からやろうとしていることがばれたくなかったからだ。あいつがいると『もっと穏便にやろうよ』とか生易しいことを言うに決まってるからな。

 

「この俺を待たせるとは、ガキのくせにいい度胸してるな」

 

 俺が目的の場所に辿り着くと、そこには先客がいた。俺が呼びつけたんだから当たり前と言えば当たり前だが、本当に来たことに内心で少しだけ驚いた。

 

「お前こそ、逃げずに来たんだな。そんなに俺に負けたのが悔しかったか?」

 

 たっぷりの余裕を見せつけながら、目の前で青筋を浮かべ俺を睨む先客――星嶋玲を挑発する。案の定星嶋玲は俺の安い挑発に乗り、先ほどよりも声を張り上げて怒鳴りつけて来た。

 

「てめえの相方が割って入ってきたんだろうが。何勝手に勝ったことにしてんだ! ああ!?」

 

 向こうが俺の方へと歩み寄り、昼間のように俺の胸倉を掴みに来る。でも今回はその腕を掴むようなことはせず、わざと星嶋玲に掴ませる。

 

「おい、昼間の話覚えてるか?」

 

 相手を馬鹿にするように顎を上げ、こっちが不利な状況にあるにもかかわらず余裕たっぷりに構えながら星嶋玲に聞く。

 

「昼間?」

 

「うちの相方が言ってた話だよ。『肉と酒の流通を止めろ』ってやつ。あれさ、お前ボコボコにしたら言うこと聞いてくれるか?」

 

「……んだと?」

 

 星嶋玲が俺を掴み上げたまま、眉を顰めて聞き返してくる。こいつ、さてはキレ慣れてねえな?

 

「だからさ」

 

 俺はだらりと下げていた腕に力を込め、星嶋玲の胸倉を一瞬で掴み取る。そして力任せに引っ張り、俺と星嶋玲の顔の距離を一気に鼻先まで引き寄せた。

 星嶋玲は突然のことに動揺したのか、怒りから驚きへと表情を変える。

 

「昼間の話、俺がお前をボコボコにしたら言うこと聞けって言ってんだよ。俺らより年上のくせに脳みそ足りてねえのか?」

 

 そうやって煽り、持っている腕を今度は前へと押し出す。その拍子に俺の胸倉を掴んでいた星嶋玲の腕は解け、向こうは二、三歩よろめくとバランスを崩して地面に尻餅をついてしまった。

 不格好な姿勢で地面に座り込む星嶋玲。漸く自分の状況を理解したのか、顔を真っ赤にして立ち上がると肩を震わせて俺を睨みつける。

 

「てめぇ、いい加減にしろよ!」

 

 腰に携えた剣を抜き、俺に向けて構える星嶋玲。目には怒りと共に確かな殺意が込められ、俺を殺すことに何の躊躇いも無いことが見て取れる。

 いいね、それくらいキレてもらわなきゃ負けた時の反動が小さくなっちまう。俺は陽向みたいに口での交渉とかまどろっこしいことは出来ないし、陽向と違って温厚でもない。話が通じ無さそうな相手なら、殴って聞かせりゃいいだけの話だろ。

 

「来いよ雑魚。その下らねえプライド、お前の抱いた幻想と一緒にへし折ってやるよ」

 

 そう言って俺は()を構える。向こうは一瞬目を丸くしたが、俺が剣を抜かないことすら挑発だと思ったのか更に顔を憤怒に染め、俺へと襲い掛かってきた。

 

「馬鹿にしてんじゃねえぞコラァ!!」

 

 両手で握った剣を腰下に構え、低い姿勢で走ってくる星嶋玲。俺はその場にどっしりと構え、向こうが近づいてくるのを待った。

 俺が間合いに入るや否や、右下から斬り上げるように剣を振ってくる。その剣筋は、思っていたよりもしっかりとしたものだった。伊達に三年以上この世界で生きてきたわけではないらしい。

 

 それでも避けられない程ではない。何ならダインさんは、この何倍も速い剣を振るう。この程度の剣筋、冒険者なら出来て当然だろう。

 

 俺の胴体を狙って振るわれた剣を左にずれることで回避する。そして剣を振り上げたことでがら空きになった右わき腹に、挨拶代わりに右のストレートを一発ぶち込んでやった。

 

「ぐうっ!?」

 

 星嶋玲が衝撃でよろめく。殴ったことでより確信できたが、やっぱりこいつは弱い。冒険者としても人間としても、どうしてこの世界で三年も生きていられたのか不思議なくらいには弱い。

 

 苦痛に歪む顔面に向けて左のジャブを一発、更に空いた胴体に右足でミドルキックをお見舞いしてやる。その衝撃で、星嶋玲は30cmほど吹っ飛んでいった。

 

「お前よくそんなんで三年も生きてこれたな。今日まで守ってくれた仲間でもいたのか?」

 

 これは先程までの煽りとは違い、本心からの疑問だった。今の交戦で分かったが、こいつの攻撃には二の手が無い。一撃目が当たると思って振っているせいか、避けた後が隙だらけになっていた。戦い方があまりにも杜撰すぎる。ここまで来ると、流石に仲間がいるとしか思えない程だった。

 

「……また俺を、馬鹿にしたな。ガキのくせにいいいいいいい!!」

 

 剣を杖替わりにして立ち上がる星嶋玲。馬鹿にしたつもりは無かったが、向こうはそう受け取ったらしい。正直どっちでもいいけど。

 

「もういい。お前ごときには使わないでおこうと思っていたが、ここまで馬鹿にされたら俺だって我慢の限界だ!」

 

 そう言うと、星嶋玲は剣を投げ捨てた。敵前逃亡か? と思ったが、俺の考えは直ぐに否定された。

 

 星嶋玲が、何かを溜め込んでいるような動作を見せる。もしやと思って目にマナを通して見てみると、空気中のマナが星嶋玲の元へと集まっているのが見えた。

 

 マナはどんどんと星嶋玲の元へと集まり、その色を紫から赤へと変えていく。

 

「見せてやるよ、俺の"スキル"を!!」

 

 星嶋玲は俺に右の掌を向ける。それを中心に、赤い魔法陣が空中に描かれた。

 

「あの世で後悔しな、俺に喧嘩を売ったことをな!!」

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