友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第二章第18話 【スキル】

 これは、マズい。

 

 星嶋玲の元に集まるマナの量から、俺は即座にそう判断した。

 

 星嶋玲はこの辺りにある全てのマナを喰いつくし、自分の魔法を発動させるための糧にした。あんな量、普通に魔法を使う分には絶対に必要にならないはずだ。

 

「吹き飛べ……【インフェルノストーム】!!」

 

 星嶋玲が技名を叫ぶと同時に、魔法陣から獄炎がとぐろを巻いて飛び出してくる。

 

「ぐ……うおおおぉぉぉ!!」

 

 マナの集め方的にあれを喰らったらヤバいと理解した俺は、魔法が発動した直後に左に向かってダッシュした。後ろを振り返るような余裕はなく、ただひたすらに走った。俺の背中に、熱が感じられる。恐らく今まさに俺の後ろを通り過ぎたんだろう。

 

 危機を脱したと思った俺は、星嶋玲が放った魔法がどんなものだったのかを見る為に後ろを振り返る。

 

 

 

 

 それはまるで炎で出来た龍であり、また一種の厄災であった。

 

 獄炎は意思があるかのように地面を喰い、俺が先ほどまでいた場所を奔り過ぎる。炎は前へと進むごとにその勢いを、大きさを増し、燃え尽きる直前には一つの竜巻のようになっていた。

 炎が通り過ぎた場所は赤く灼け、ドロドロに融解している部分もあった。その光景が、さっきの魔法がどれだけの威力を秘めていたかを物語る。

 

 肩で荒く呼吸をし、ほんの数メートルまで差し迫っていた恐怖を実感する。ちらりと星嶋玲の方を見やると、奴は俺を見下ろすように余裕綽々の態度で立っていた。

 

「おい、さっきまでの余裕はどうしたよ、えぇ?」

 

「お前こそ、あの一発で終わりか? もう一発撃ってみろよ、ほら」

 

 顎に伝う汗を手で拭い、星嶋玲を睨む。星嶋玲は口惜しそうに俺を見ると、先ほど投げ捨てた剣を拾い上げて再び俺の方へと迫ってきた。

 

「だと思ったよ」

 

 焦った表情の星嶋玲を見ながら小さく呟く。スキルというものがどんな原理なのかは知らないが、あれは立派な『魔法』だと言うことが今見て分かった。発動にはマナがいるし、マナを染め上げるまでの時間だってかかる。名前が変わったからと言って、その制約からは逃れられないらしい。

 

 つまり、さっきの技は連発出来ない。奴がこの辺りのマナを全て喰い尽くした以上、少なくとも一帯にマナが戻るまでは撃つことは出来ないだろう。

 

 それまでに、決着を付ければいい。

 

 念のため目にマナを通し、周囲の様子を確認しながら星嶋玲を迎え撃つ為に拳を構える。さっきの【インフェルノストーム】レベルの技をホイホイ撃って来られたら流石に打つ手なしだったが、一発芸なら十分に勝機はある。

 

 そんなことを思っていた矢先、

 

「【身体強化】!」

 

 なんてことを走りながら叫ぶ星嶋玲。周りにマナは無いはずだが、何をする気だ?

 

「っは!?」

 

 瞬間、星嶋玲の踏み込みの速度が上がった。一瞬にして俺の懐近くまで身を寄せ、先ほどとは比べ物にならないほどの速度で横一線に剣を振るってきた。

 いきなりのことで反応が遅れた俺は、ギリギリで後ろに飛んで致命傷を回避する。しかし完全には回避しきれず、切っ先が俺の胸を掠めた。切り口から血が滴る。

 

「マナは無いはずなのに……」

 

 もう一度辺りを見渡すが、空気中にマナは一切ない。

 

 

 

 

 

 

 そう、()()()()()――

 

「そんなんありかよ……」

 

 俺の目は、紫色の光に包まれる星嶋玲を捉えていた。マナは星嶋玲の体内、心臓の辺りから湧き出るように発生し、そのマナが奴の身体を包み込んでいた。どうも奴は体内でマナを作り出せるらしく、それを元手に魔法を発動させたらしい。

 

 こうなると状況は一転して不利になる。奴がどれくらいマナを生成出来るのかによって、あの魔法が連発できるかどうかが変わってくる。もし無尽蔵に出来るのなら俺の勝機はかなり薄いだろう。

 

 星嶋玲は再び剣を構え、俺に向かって突進してくる。分かっていれば避けられない速度ではないが、それでも反撃に出れるほど隙が多いわけでもない。剣技自体のレベルが低いのは幸いだが、その分動きの予測がしにくい。それにさっきの【インフェルノストーム】をどこで撃ってくるか分からない為、攻撃にも出にくい。

 

「おら、おらおらどうした!! 俺をボコボコにするんだろ? えぇ!?」

 

 力任せに剣を振るいながら俺を挑発する星嶋玲。ああくそ、こっちがイライラしてきた……!

 

「っ、うるせえなぁ!」

 

 迫りくる剣に向かって風魔法をぶっ放す。威力の調整を考えていなかった為、星嶋玲の剣を風圧で吹っ飛ばすのと同時に俺自身も衝撃に耐え切れずに吹き飛ばされてしまう。

 

 俺と星嶋玲の間に、三度距離が出来る。

 

 どうやってあいつをぶん殴ってやろうかと考えた時、ふと先ほど自分でやったことが気になった。

 

「……魔法が撃てた?」

 

 殆ど無意識でやったことだが、冷静に考えたらおかしなことだ。マナは無いはずなのになんで魔法が発動したんだ?

 

「切羽詰まってんなぁ。今なら土下座したら許してやるよ」

 

 俺との距離が出来たことで向こうにも余裕が生まれたのか、右の掌を向け魔法の発動準備をしながら言う星嶋玲。しかし俺の頭は、さっきの風魔法のことでいっぱいだった。

 

「……仮説としてはあり得ない話じゃないが、いけるか?」

 

「てめえ何ぶつぶつ喋ってんだ。あぁ!?」

 

 星嶋玲が何か怒鳴っているが、今はどうでもいい。もし俺の考えが合っているなら魔法が撃てたことにも納得できるが、本当に合っているのか? もし間違っていた場合、俺が今からやろうとしている作戦は完全に頓挫する。

 

 体内の通り道を開け、魔法発動の準備だけ整える。マナさえくればいつでも撃てる状態にして星嶋玲を見据える。今の俺に向こうの挑発に答えられるような余裕は無かった。

 

「失敗を恐れるな。やらなきゃ失敗したのと同じだ……」

 

 俺の格闘技の師匠がよく言っていた言葉を小さく唱える。一見無鉄砲にも聞こえる言葉だが、俺はこの言葉に何度も救われてきた。

 

 大きく息を吐き、呼吸を整える。向こうも準備が整ったのか、掌に浮かぶ魔法陣が一層紅く光り輝く。

 

「今度こそ焼け死んじまえ! 【インフェルノストーム】!!」

 

 言葉と共に、再び現れる獄炎の龍。俺はそれが見えた瞬間、全速力で右斜め方向に向かって走り出した。

 逃げる為ではなく、戦う為のダッシュ。一発目を見た感じ一度撃ったらその位置からはずらせないように感じたからこそのギリギリを攻めたルートを選択する。これで指向性を変えてくることが出来たら俺の負けだ。

 

 ちらりと奴の方を見る。奴は俺の方を口惜しそうに見ながら、先ほどと変わらない体勢で魔法を撃っていた。どうやら方向転換はおろか、途中で魔法を中断することも出来ないらしい。

 

 それを確認した俺は、星嶋玲に向かって走りだす。もし魔法を撃ち終わる前に奴のところに辿り着ければ、その時点で俺の勝ちは確定する。

 勝利を確実なものにするためにひたすらに走る。俺が奴の元に辿り着くのが先か、奴が魔法を撃ち終えて迎撃の体制を整えるのが先か――

 

 

 

 

 

 

 

「――調子に乗ってんじゃねぇ!」

 

 先に動いたのは、星嶋玲だった。俺が奴の元に辿り着くよりも先に魔法を撃ち終えた星嶋玲は、自身に【身体強化】を使って俺を迎え撃つ。手にはいつの間に握ったのか、奴の剣がある。勿論避けることは出来るが、それをしたらまた先ほどのようにジリ貧になってしまう。

 

 やるしかない。

 

 覚悟を決め、俺は迫りくる剣を避けることなく出来るだけ星嶋玲に近づく為に走り続ける。奴との距離が近づくにつれ、俺の身に死が迫ってくることを否応にも感じてしまう。恐れるな、逃げるな、大丈夫、絶対にいける……!

 

 目を奴から離さずに走る。まだか、まだ近づかなきゃ駄目なのか!?

 

 たかが数十メートルくらいしか走っていないはずなのに、異様なまでに息が切れる。焦りが、恐怖が俺の息を荒くしているのが自分でもよく分かった。

 

「頼む、頼む……!」

 

 俺と星嶋玲の距離が片腕一本にまで縮まった。それと同時に、奴の剣も俺の首元数センチのところまで迫っていた。

 

 

 

 

 そして、奴の身体から俺の身体へとマナが流れ込んでくる様が()()()

 

 

 

 

「っ――うおおおおおおおお!!!」

 

 流れ込んできたマナを即座に変換、左腕に集めて放出する。

 

 俺の身体は風圧に押される形で右へと一瞬で飛んだ。今回は予め準備していたこともあり、威力を調整して俺の身体だけが飛ぶように出来た。

 そして続けざまに体内に残ったマナを右手に移動、再び俺の身体は宙を飛んだ。

 

 滑るように二度空中を移動し一瞬で星嶋玲の背後へと回りこむことに成功した俺は、渾身の右を奴の背中目掛けて放つ。

 

 一瞬遅れて俺が背後にいることに気づいた星嶋玲が振り向く。向こうの身体の向きが変わったことで、俺のパンチは奴の左わき腹へと突き刺さった。

 

「ぅぐっ!」

 

 苦悶の表情を浮かべる星嶋玲。続けざまに右のローキックで奴の足を崩す。バランスを崩して地面に倒れこむ奴の顔面目掛けて、左の拳を叩きこんだ。

 

 ベキッ、と骨の折れる音が俺の耳に届く。

 

「…………」

 

 今の一撃で気を失ったらしく、星嶋玲は白目を剥いて伸びてしまった。鼻の骨が折れてしまったのか、先の方が潰れている。

 

「いつっ!」

 

 地面に倒れる星嶋玲の姿を見ながら呼吸を整えていると、いきなり首筋に沁みるような痛みを感じた。その場所を手で触れてみると、また痛みが。触れた手を確認すると血がついていた。どうやらさっきの星嶋玲の剣が、俺の首筋を掠めていたらしい。

 

「マジで、危なかったな……」

 

 軽い気持ちで売った喧嘩ではあったが、予想外に苦戦したこと、そして何とか生き残れたことに胸を撫でおろす。改めて振り返っても、かなり危険な橋を渡っていたと思う。

 

「……あとは、こいつに要求を飲ませるだけだな」

 

 星嶋玲を近くの木に吊し上げ、俺はこいつが目を覚ますのを待った。

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