友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。 作:にっぱち
男性が言うには、この世界における冒険者という職業は割と一般的なもので、その基本的な仕事内容としては『ギルドから発注される様々な依頼を受注し、達成することで報酬を得る』ことらしい。冒険者というよりも万事屋の方が意味的には合ってそうな気がするが、そこは気にしたら負けなのかもしれない。
「多分その恰好でしたら門番の方もすぐにお二人が流れ人だと気づいてくれるでしょう。冒険者ギルドへの紹介状を書いてくれるはずですので、それを持ってギルドの方へ行けば色々と手続きを進めてくれると思いますよ」
男性は懇切丁寧にギルドについて教えてくれた上に、門からの簡単な道まで教えてくれた。本当に優しい人に巡り合えてよかった。
「何から何まで本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
「いえいえ、私はただ恩を売っておきたかっただけですので」
「恩、ですか?」
正直、僕らに恩を売っても何の得もないような気がするが。男性は僕らに一体どんな価値を見出したというのだろうか。
「ええ。元来から流れ人は、我々には無いような特殊な能力を持つと聞きます。彼ら自身はそれをすきる、とか呼んでいるようですが」
「スキル、ですか。そういえばさっきも言ってましたけど、そのスキルって具体的にどんなものなんですか?」
ものはついでとばかりに疑問をぶつけてみる。男性は少し困った顔をして右手で頬をポリポリと掻きながら、申し訳なさそうに答える。
「さあ……。何分私も間近で見たことは一度もありませんもので。ただ人づてに聞いた話では、流れ人は天変地異を起こせるほどの力を持っているとか」
「天変地異?」
人一人が天変地異を起こせるなんてあり得るのだろうか。そんなの人じゃなくて、神様か何かの間違いだろう。
「私も人づてに聞いたものですので、本当かどうかは分かりませんがそれほどの強さを持っているという話はよく聞きますよ」
どうもこの世界にやってきた地球人というのは、とんでもなく強い人ばかりらしい。とても現代社会に暮らしている人間とは思えないんだけど、この世界に来ると何か身体能力が変異したりするんだろうか……?
「あの、色々と教えて頂き本当にありがとうございます。僕は浦沢陽向と言います。今後お会いしたときには必ずこのご恩は返させて頂きますので」
「俺は明村灯火って言います。右も左も分からない俺たちに丁寧に色々と教えて頂き、本当にありがとうございました」
僕と灯火が揃って男性に向かって深々と頭を下げる。この人のお陰でこの世界の仕組みや流れ人についての情報を得ることができ、今後の方針も立てやすくなった。感謝してもしきれない。
「いえいえ、先ほども言いましたが、私はただお二人に恩を売っておきたかっただけですので。
あ、ちなみに私はオズウエルと言うもので、キース商会で働いています。何か縁がございましたら、ぜひうちの商会を宜しくお願いします」
キース商会のオズウェルさんか、何か買うことがあったらその時はこの商会を使わせて貰うことにしよう。
「それでは、そろそろ私の番ですので」
気づけば、列は随分と進んでいてもうすぐ僕らの番、というところまで来ていた。
オズウェルさんは僕たちに手を振りながら、検閲官と思しき鎧姿の人のところへと向かっていく。僕らはその背中に向かって、ずっと頭を下げ続けた。
「……あ、言い忘れてた。
一番最初に仰ってた『魔法』についてですが、冒険者ギルドに行けば詳しく教えてくれると思いますので是非聞いてみてください」
オズウェルさんが門の前に辿り着く直前、こちらを振り向いて僕らの一番最初の疑問にも答えてくれた。
「はい、ありがとうございます!」
再び心からのお礼を言う。それを受け取ってくれたオズウェルさんはこちらに向かって軽く手を振ると、今度こそ検閲官の元へと向かって行った。
「優しい人で良かったな」
オズウェルさんが検閲を受けている間、灯火が微笑みながらぽつりと言った。
「本当に助かったよ。正直ああやってコミュニケーションが取れただけでも大分収穫なのに、あんなに丁寧に教えてくれるなんて」
ここまでの道中、内心不安や焦りでいっぱいだったことや、この世界に来てから初めて話す人だったことも相まってオズウェルさんが菩薩のようにも見えてくる。オズウェルさんの存在はそれほどまでにありがたく、そして偉大だった。
「オズウェルさんの言う通り、まずは検閲を受けてから冒険者ギルドに行ってそこで話を聞くことにしよう。
あの話の感じだと、多分流れ人の対応には慣れていそうだしもっと詳しい話が聞けるかもしれない」
「だな。そこから今後の方針を立てていく形にするか。
にしても冒険かー、なんか陽向が先月くらいに貸してくれたゲームみたいでワクワクするな」
キラキラと瞳を輝かせる灯火。きっと魔法やら剣やらを巧みに使って敵を圧倒する自分の姿を思い浮かべているんだろう。
「灯火、忘れてるかもしれないけどこれゲームじゃないんだよ。死んだらリセットできないんだよ」
危うくトリップしてしまいそうな親友を現実へと引き戻す一言。灯火は僕の言葉につまらなそうに頷いた。
「分かってるよんなことは。ここまで不安だらけだったんだ、少しくらいいい妄想するくらい許されるだろ?」
「お願いだから妄想の中だけにしてね。現実でカッコよさなんて求めなくていいからね」
「大丈夫だって」
重みの無さすぎる大丈夫に頭が痛くなるけど、こういう明るさも灯火の良さではあるから叱りにくいところではある。
「お、次俺らっぽいぞ」
灯火と雑談をしていたら、いつの間にかオズウェルさんの検閲は終わったらしい。僕らを待つように、検閲官がこちらを見ていた。
「行こうか。一応事情も話さないと」
「オズウェルさんの話だと、多分ここも話をするのは大丈夫だと思うけど果たして……?」
確かに、僕らがそのスキルとかいうものを持っているという確たる証拠は無いから、灯火の言う通り偶々オズウェルさんとだけ話せたっていう可能性も無くは無い。
まあ、もしそうなったら今度こそボディランゲージでもなんでも使って何とかコミュニケーションを取る他無いだろう。
「次……ってなるほど、お前らがオズウェルさんの言っていた流れ人か」
僕らの心配はどうやら杞憂に終わったようで、検閲官の言葉も普通に日本語として聞き取れた。
「オズウェルさんが何か言ってたんですか?」
「別に大したことじゃない。今冒険者ギルドへの紹介状を書いているところだから、その間に所持品の検査をさせて貰う」
オズウェルさんが検閲官の人に何を言ったのかは気になるところだけど、この感じだと別に悪口ってことは無さそうだ。
僕たちは検閲官に言われるがまま、ポケットの中身を検閲官へと見せる。
「……何も持っていないのか?」
僕らが手ぶらなことに疑問を抱く検閲官。正直スマホの一つでも持っていたらまた説明もややこしくなっていただろうし、手ぶらな方が楽だろう。
「済まないが念のためボディチェックをさせてもらえるか? 流石に手ぶらというのは少し怪しい」
どうやら何も持っていないことが裏目に出たらしい。大人しく僕も灯火も検閲官のボディチェックを受ける。
「……本当に何もないのか」
体の隅々まで触って調べられた結果、漸く僕たちへの疑いが晴れた。多分服のつくりがこの世界のものと比べて複雑だから、ああして触って調べたんだろう。
「この世界に来た時から、何も持ってなかったんです」
「そうか、それは災難だったな。……ああ、ありがとう。
これが冒険者ギルドへの紹介状だ。これを持って目の前の大通りを真っすぐ行くと、突き当りに剣と盾が描かれた看板がある。そこが冒険者ギルドだ。
この紹介状は、君達の手では開けないように。開けると本物であるという証拠が無くなるから気を付けて」
検閲官の人、そして奥にいた門番と思しき人物に軽く会釈をして、僕たちはこの世界で初めての街―――『城塞都市タラハット』へと足を踏み入れる。