友人の【魔法適正】が最強クラスだったので、僕は大人しく支援に回ろうと思います。   作:にっぱち

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第一章第7.5話 【受付嬢の疑問】

 新たにやってきた流れ人二人の登録書類をじっと見つめるトーシェ。

 

「トーシェ、さっきの流れ人二人の書類の処理は終わったの?」

 

 今はまだ午後ということもあり、多くの冒険者が依頼をこなしに行っているおかげで受付の仕事はそんなに多くはない。

 だからといって仕事をサボっていい理由にはならず、冒険者ギルドタラハット支部の支部長『ロイハ・シーラ』はトーシェの元へと歩み寄ると、トーシェが持つ書類を取り上げた。

 

「ウチにしては珍しい流れ人だからって、なにうつつぬかしてんの」

 

「あ、ロイハさん違いますよ。ちょっとその二人について気になることがあって……」

 

「気になること?」

 

 肩甲骨くらいまで伸びた長いピンクの髪を耳にかけ、ロイハはトーシェから奪い取った書類に目を通す。

 

「はい。その二人、どうやらキゼモナスの住処がある方向からやってきたみたいで……」

 

「……は? あの厄災龍の?」

 

 キゼモナスとは、タラハットの門前にある森を抜けた先、ずっと向こうにある『厄災の降る地』と呼ばれる場所に住まうドラゴンの名前である。大昔に国を一つ壊滅させたという逸話が残っていて、ピラマに住まう人々からは『厄災龍』として恐れられている。

 キゼモナスの名前に驚いたロイハは、思わず持っていた書類を地面に落としてしまった。

 

「ああ、やばい落としちゃった。トーシェがいきなり変な冗談言うせいで大事な書類にホコリがついちゃったよ」

 

「私のせいにしないでくださいよロイハさん。私はただ事実を伝えただけなんですから」

 

 ジトッとしたロイハの視線を受けたトーシェが反論する。それを聞いたロイハは、もう一度書類を上から下までじっくりと見つめる。

 

「……このトウカ、って子が四属性持ちで適正強めってくらいしか怪しい要素は無いと思うけど。

 ねえ、本当にあの二人は厄災の降る地から来たって言ったの?」

 

 ロイハの問いに対して、トーシェは手と頭を使って全力で否定の姿勢を取る。

 

「ち、違いますよ! そっちの方向から来たってだけで厄災の降る地から来たとは言ってません!」

 

「紛らわしい言い方しないでよトーシェ……危うく調査隊を派遣しなきゃいけなくなるところだったじゃない」

 

 大きくため息を吐いたロイハは、書類を持って奥へと戻ろうとする。

 

 その背中を、トーシェが呼び止める。

 

「あ、待ってくださいロイハさん。どのみち調査隊の派遣はしてほしいんです」

 

「どういうこと? 彼らは厄災の降る地の()()から来たのであって、実際にその地から来たわけじゃないんでしょ? なら問題は何も―――」

 

「いえ、彼らが来たのは途中にある『はじまりの森』です。それも、そこにある原っぱから、って」

 

「……はじまりの森にある原っぱ?」

 

 はじまり森は、初心者冒険者でも狩りやすいモンスターが多く住んでいる森として有名で、そこで戦い方や森での身のこなし方を覚えて次のステップへと進んでいく場所となっている。

 故にこの森はギルド職員によって完全に調査されていて、その地図もギルドから発行されているくらいだ。

 

「はい。私の記憶違いだったら申し訳ないんですけど、はじまりの森に原っぱなんてないですよね?」

 

 調査され尽くしているからこそ、トーシェは陽向の発言に疑問を持った。あそこに開けた原っぱなんて存在しないはずだ、と。

 トーシェに問われたロイハも、首を横に振って答える。

 

「ええ、あそこに原っぱなんて存在しない。となるとあの二人が嘘を吐いているってことになるけど……」

 

 そこで、トーシェもロイハも口ごもる。二人には明らかにこの世界に来たばかりの陽向たちが、わざわざそんな見え透いた嘘を吐く理由が分からなかったからだ。

 

「それで怪しいと思って、あの方向にいる厄災龍の名前がトーシェから出てきたってことね。

 私はその二人を直接見たわけじゃないから何とも言えないけど……トーシェはどう思った?」

 

「この世界に戸惑っている流れ人、って感じでした。正直他の流れ人よりも何も知らない感じと言うか、魔法とか魔道具についても質問されましたし」

 

「別に魔法や魔道具について聞いてくる流れ人自体は珍しくないけど……この世界に戸惑ってるって言うと、確かに他の流れ人とはちょっと違うね」

 

 大体の場合、流れ人はこの世界のことを熟知とまではいかないがある程度知っている状態でギルドへとやってくる。だから殆ど何も知らない、というのはかなり珍しい。

 

「それに検閲官のシニカルさんによると、手ぶらの状態だったうえにスキルについても知らなかったようだと」

 

「スキルを知らない? 流れ人なのに?」

 

「ほら、これを……」

 

 トーシェはロイハに"紹介状"を渡す。これは門番たちによって書かれた『流れ人の危険性や怪しさを表す通達文』であり、万が一内容を読み取られないように"紹介状"と銘打ち、更に開封しないように流れ人に釘を刺した上で手渡されている。

 因みにこれを開封した場合、本来受けられるはずの初心者向けのサポート(宿の支援や講習を受けている間の資金支給)が一切なされない上、ギルドから発行されるギルドカードが監視機能の付いたものになるというペナルティが加算される。

 

 シニカルが渡した通達文には、『流れ人二名、スキルについて無知。また持ち物も一切なし。未知の能力を有している可能性あり』と言った内容の文章が書かれていた。

 

 流れ人がピラマの人々とは異なる力を持ち、彼らがそれを『スキル』と呼んでいるということは最早共通認識になりつつある。故にスキル無しの陽向たちは、オズウェルやシニカル、そしてトーシェには服装とは違った意味で目立っていた。

 

「しっかり未開封の状態で持ってきたんですよ、あの二人。

 ……もしあれが演技で、本当はこの街を滅ぼそうとしていたりする、みたいなことだったら正直脱帽するしかないです」

 

「そのくらい嘘感が無かった、ってことか……」

 

 ロイハは手元の二人に関する資料とシニカルの通達文を交互に見る。そして数刻考える素振りを見せた後、纏まった考えをトーシェに伝える。

 

「『はじまりの森』へは調査隊を出す。それとあの二人にこっちから『はじまりの森』に関するクエストを斡旋しておいて。そこに冒険者に扮したギルド職員を同行させて反応を確かめて貰う。

 それら全ての資料を持ったうえで、改めて判断するわ」

 

「はい、分かりました。」

 

 ロイハは大きく息を吐くと、手をパンと叩いた。

 

「よし、この件は一旦終わり。これから忙しくなる時間だし、トーシェも仕事に戻りな」

 

 そう言うと、ロイハは受付奥に用意された自分用の執務室へと戻っていった。

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