ウマ娘ッ!クレイジー・ダービィーッッ!! 作:ウマ娘(たぬき)
「生まれついての
近々、ドリームトロフィーリーグ移籍を真剣に検討していたウマ娘・マルゼンスキーは、学園の保健室で世間話もそこそこにそう言い放った。外向気味の彼女の両脚は、韋駄天のごとき快足を生む加速装置であり、同時に……全力疾走を頑なに阻む、「爆弾」でもあったからだ。
だから、多少でも良い方向に向かうなら万々歳。先日ライスシャワーの話を聞きつけてここに来たのは、そんな一縷の望みも込めてのものであり。
「もちろん治るぜ?ただ……」
「ただ?」
今しがたまで彼女の脚を鋭い眼で診ていた校医は、長い指をバキリ、と一度鳴らして答える。
「……急に変えるとおそらく、走り方にも悪影響だ。数ヶ月かけて徐々に『矯正』してくのがベターだな」
至極あっさりとした返答。『クレイジー・ダイヤモンド』……にわかには信じがたいその異能が、力の源泉だろうことは疑いない。降って沸いたような景気の良い……いや、あまりに都合の良い話に、半信半疑なのも事実だったが。
「おハナさんが言ってたぜ?『望むならいくらでも、花道は用意してやりたい』、ってな」
「あの人が、そんな事を……?」
『目一杯に仕上げたことは一度もない。マルゼンスキーは常に脚部不安を抱えていたからな。おまけにいらん規則のせいで、辛い思いばかりさせてしまった』……過去を振り返る担当トレーナーの
学園最強と称されるチーム・リギル最初のメンバー。東条ハナが初めて担当した俊英。そして……アメリカのウマ娘であった彼女の母・シルが日本で産んだ、とある英国人との間の子ども。ソレがマルゼンスキーである。
かつて英国クラシック三冠を獲った「伝説」ニジンスキーを祖に持ち、
だが、当時の日本競バ界は利得者らの思惑が多々絡み合った結果、国内G1において「日本国籍非保持者への出走を認めない」、などの出走制限を課していた。そして父母が揃って外国籍ゆえ、マルゼンスキーは生まれついて
すなわち……クラシック登録を「し忘れた」のではなく、「登録すら許されなかった」のだ。生まれ育った日本に深い愛着を抱き、自ら帰化を望んでいたにも関わらず。
結局は皐月賞も菊花賞も天皇賞も出られぬまま、シニアへ突入した彼女。クラシック級最後の試合を制したのち、直後の記者会見で「キャリアに未だ敗け無し。この栄誉以上に望むことはありますか?」と、なんの気無しに記者に問われた時。
いつもはちょっと古くさい言い回しでマスコミを沸かせる彼女が、初めて一瞬、固まった。それから数拍おいて、ようやっと。
『……望みが、叶うなら……出て、みたかったです。日本……ダービーに』
絞り出すような声音で、彼女は小さく呟いた。
☆
自分が何を言ったのか、言い終わった後に気づいたのだろうか。慌てて笑顔を貼り付けた彼女だったが、思いと裏腹。言葉を紡ぐ度に表情は暗くなり、口角は下がり、更には……目尻に、光るものが見えはじめて。
『……大外枠で良い、他の子の邪魔もしない。賞金も要らない。だから────』
────だから、……ダービーに、出たかった。
言い終わる頃には、下を向いて震えていた。それは、「楽しく走る」をモットーに、競技中でも笑顔を絶やさなかった少女が人前で初めて見せた、最初で最後の嗚咽だった。
涙がぽたり、と床に一滴、落ちたタイミングで。『……ごめんなさい、今日はこれで』と言い残し、足早に去った彼女を尻目に。その場に居合わせたカメラマンや記者らは、呆然とするほかなかった。
てっきり彼らも視聴者も、「マルゼンスキーは全勝のキャリアに傷を付けたくないから──言い方は悪いが──格下狩りに終始している」とばかり思っていたからだ。
もちろん、彼女が実は「二重国籍の長期滞在者」であったことも知らなかった。『実力もあるが走りは堅実、勝てない相手とは闘わない。ともすればヒールになりかねない役回りを面白トークでかわす、
『
『彼女は「出なかった」んじゃない、「出られなかった」んだ!』
『だが……どうする?大手メディアで糾弾するか?』
『しかし中央に睨まれたら、重賞の放送枠貰えなくなるぞ?』
そうなったらまず間違いなくクビだろう。誰だって食い扶持は失いたくない。……黙すか、声をあげるか。しばらく沈黙していた彼らだったが、やがて、誰からともなく。
『でもよ……
奇しくもその言葉は、その場に居た者の総意であった。折りしもスマホが普及し始めて間もない時期。彼女に嵌められた「枷」の仔細は、TVで大っぴらに放送できずとも、黎明期のまとめサイトやSNSを介して、多くの日本国民へと届いていた。
国民的スポーツの「負の側面」を大っぴらに垣間見た国内世論は、にわかに沸騰。「出生差別に繋がりかねない。中央はレイシストの集まりか」「気丈に頑張ってきた少女から偏狭な作為でチャンスと青春を奪い、あまつさえ泣かせるなど鬼畜の所業」「そもそもこの規定、憲法に抵触しないか?なんで今まで放置されてたんだ?」……などなど、右派左派問わず批判が殺到。
抗議のメール・投書・電話は優に30万件を超え、果ては国会で国籍法改正が論議されるまでに至った。
当時の中央競バ会がダース単位の更迭人事を実行し、のちURAに発展改組され規則を大幅改定したのは、これらの動きが大きく関わっている。業界のイメージ刷新を兼ねたさまざまな施策の一環として、「競バ」を「レース」と横文字に無理やり直したのもこの頃から。
ちなみに「皇帝」シンボリルドルフがその高い志を抱く様になったのも、一連の大騒動を同じチームで間近に見続けたからこそ。
そう。彼女の涙は奇しくも……後に続くウマ娘達に、確固たる「道」を切り拓いたのだ。
(……思えばあれからもう、3年近く経つのね…………)
学園の保健室で、マルゼンスキーは回想から現実へ意識を戻す。
諦めたはずだった。天覧試合で拝謁の栄誉を賜ることも、あるいは無敗の三冠を達成することも、出走さえできれば可能だったんじゃないか。
別に日本に帰化せずとも、その気になれば英国ダービーや米ケンタッキーダービーには出られただろう。父にそう促されもした。でも彼女が最も強く望んだのは、生まれ育ったこの国で得る「誉れ」だったのだ。
巻き戻せぬ過去を振り返って、一瞬だけ寂しげな眼をした彼女に対し。傍らに居た男は直感で「何か」を察したのか、まるで学生の頃のような、悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「……なあ、今から軽く走ってみねェーか?外」
「えっ?」
★
「なんていうか、ものすごく……」
「ああ。活気づいてんな」
「ええ」
言われるがままジャージに着替えたあたし──マルゼンスキーが見る休み時間の校内は、いつもより賑やかだ。そう形容するに相応しい光景が、グラウンドのあちこちに広がっていた。どこを見ても生徒、生徒、生徒。
ここ一月ほど、あたしは新学期編成に伴う生徒会の事務作業を手伝ったりしていたから、日中はあまり外に出ていなくて分からなかったけど。
「これも貴方が?」
「おそらく。赴任して今日までで、大体200人近く診たからな。その足で早速トレーニングってとこだろ、結構なこった」
「そうね。あっちで薙刀振るってるのはウチのグラスちゃんで、物陰で素振りしてるのはマックイーンちゃん。テラスでブレイク中のタキオンちゃんのトレーナー君は虹色に光ってる……たまげたわねぇ、すごいわドクター」
「誰も走ってねえけどな」
校費で学園の生徒全員に、CTスキャンをはじめとした精密検査を受けさせる。得たデータも併せて患部を修復し、場合によってはカウンセリングも行う。アメリカで確立したこの方法により、米国では昨年、レースを絶望視されていたウマ娘達が続々と復帰したばかりでなく、怪我に伴う引退がゼロ件だったという。
「よっ、ほっ、とっと……アップはこんなとこかしら、ねっ?」
その立役者が何を隠そう、今となりに居るDr.東方さん。ルナちゃん……おっと、ルドルフからの情報によれば、この人の所属を巡って各国のトレセン上層部で暗闘が繰り広げられていたとか。
「十分だ。……そんじゃあいくか、『晴れの良バ場・芝1500m』を一本。軽く流すだけでいいからな?」
「そりゃあもう。あんまりやり過ぎたら、おハナさんに怒られちゃうわ」
「違いねえ。さて、問題は走るスペースだが……なんか、綺麗に空いたな」
「あ、あら〜……ごめんなさいね皆……」
後輩ちゃん達が『モーセの十戒』がごとく、おあつらえ向きとばかりターフを空けてくれた。悪い気がするけれど、皆してキラキラした目でこちらを見てくるので引き下がるのも駄目だろう。録画しようとしてるのか、スマホを構えて待機している子まで出てきた。
……あのね、皆。OGがちょっと走るだけよ?レースどころか練習よ?
「おっし、ブチかましてけ」
と思ってたら、まさかの校医に煽られた。
「イケイケねドクター。ひょっとして昔はヤンチャしてた?」
「い〜や、カワイイもんだったぜ?」
「どーだか」
後でライスちゃんに聞いてみようかしら?……そんな軽口もそこそこに、スタートダッシュの姿勢に入り。天高く弾かれた25セント硬貨が、ターフに口付けする刹那。
ダンッッッ!!──鮮やかな緑を、軽く蹴ったつもりだった。
☆
(えっ……!?)
踏み出した一歩目から、すでに別モノ。いつもの蹴り方、いつものペース。腕の振り、息の入れ方、目線の位置、その他もろもろ普段の通り。だけど。
(……脚の
跳ぶと言うより「飛ぶ」ような感覚。今まで膝あたりでいくらか抜ける感覚のあったパワーが、余すところなく爪先まで伝播する。自分自身は筋力もスタミナも変わってないはず、ただ脚の形を、歯列矯正よろしく整えただけ!だと言うのに!
(こんなに違うモノだなんて……ッッ!?)
コーナーを曲がり風を切る。ギアを上げてスパートする。慣れ親しんだ感覚が、ここまで新鮮だったとはっッッ!
「……足裏は親指の付け根、
ギャラリーと化した後輩ズに向かって、何やら解説していた担当医を横目に、あっさりゴール。皆に礼を言ったのち、ドクターからアイシング用品を渡されると同時、ストップウォッチをチラつかされる。
表示されたタイムは──1500mの、自己ベストだった。
「
「……自分でもびっくりよ。つい全力疾走しちゃったこと、おハナさんに黙っといてくれるかしら?」
「今回だけな?」
「アリガト。…………ねえ、ドクター」
わずかに1500m。しかし逡巡を振り払うには、十分な距離だった。だから決めた。もう決めた。いま決めた。
「どうした?」
新しい夢が、出来てしまった。本当は来年、エスカレーターでドリームトロフィーリーグに行っても良い。そう思っていたけれど。
「……あたし、『出たい』わ。いや、『勝つ』わ。ブリーダーズカップで」
空いたスペースで再び自主練を始める子たちで、周囲が喧騒を取り戻す中。
「獲ってやろうじゃない。シニア『最強』の座を、ね」
あたしの言葉に一度瞑目した彼は、ニカっと笑って即答した。
「歓迎するぜ。サンキューな、決断してくれてよ」
「もちのロン!よぉーし、それじゃあOGだけど頑張っちゃうぞー、お姉さん!」
勢いも冷めやらぬまま、更衣室に戻ったのち。再び保健室に寄って話を詳しく聞いていくと、開催日は約一年後。チームで出るため最低でも「メンバーはあたしを含めて5名はいる」とのこと。あとひとりはライスちゃんで確定として……そこまで考えたあたしは、弾かれた様に面を上げた。
「それじゃあ、のこりの3名様を集めれば良いのね?」
「平たく言やあな。なんだ、もしかしてアテがあんのか?」
「ふっふーん、任せてちょ〜だい♪」
そう。思えばこの時すでにあたしの脳内では……勝利どころか「全勝」のビジョンが、浮かび上がりつつあったのだ。
★
「そういうわけで東方さん。来年
「待て待て待て待て」
更に数日後。私・サイレンススズカは、マルゼン先輩とライスに揃って口説かれ?あれよあれよという間に保健室にいた。なんだか最近は毎日来ている気がする。今日はメンバーも多いし。
当の東方さんといえば、「昨日飲んだ冲野がニヤついてたのはこーいうことかよォ〜……」と零していた。あらら、トレーナーさん何も言ってなかったのね?
「トレーナーさんからは、『来年の話だし気が早いと思うだろうが、長期目標として見据えてくれ。ドクターにはサプライズな?』とだけ」
「なぁーにがサプライズだあのヤロウ……」
「あ、あはは……」
恐るべしは一週間足らずのあいだに根回しを全て整える、マルゼン先輩の政治力といったところだろうか。ウチのトレーナーさんに話を通した上で、『貴女の夢と目標を叶える過程を、あたしにも手伝わせてくれないかしら?』とか言われたら、私としてはもう舞い上がる他なかった。
ライスが「最初に先輩を誘って人選も相談した」と言ってたけど、もしかしてここまで織り込み済みだったのかな?
「そういうわけで、とりあえずミーティングしましょう?今更だけど一応自己紹介でもする?」
これに名乗りをあげたのは、新学期になって様変わりした保健室のあちこちを眺めたりしていた、
「はいはーい!じゃあトップバッター、天下無双のナンバーワン・ウマドル目指してます、スマートファルコンでっす!てことでハイ、これファル子の公式ウマッターだからフォローしてね♪あ、でも鍵アカは絶対覗いちゃダメだぞ?」
「サラッと闇深いの混ぜんなって」
スマートファルコン、通称「ファル子」。プロフは自己紹介の通り。「ダートに強い」となれば、まずこの子の名前が上がるくらいに手堅い人選だ。戦法は私と同じ「逃げ」。個人的にはなんかこう、一緒にユニットでも組めそうなくらいの親近感を勝手に感じている。
「コホン、お次は『私』ですね、ドクター。このエルコンドルパサー、不退転の決意で臨みます……ッ!」
「いつから中身グラスになったんだ」
エルコンドルパサー、通り名はエル。私からすればリギルの元同期であり、グラスと並び「世代最強」と目されるダービー候補でもある。あとダスカもそうだけどスタイルに中等部らしさが感じられないキャラは見ての通りハイテンション。……実は仮面を外すと、とってもシャイな子なんだけどね。
「ちなみに我々としてはこのチームで、東方さんにトレーナー兼メンタルコーチ兼主治医兼エステティシャン兼美容師兼ネイリストをやってほしいです」
「後半3つは各自でやれ」
「お兄さま、ライスの自己紹介は聞かないんですか?」
「いまさら俺の知らない情報あるか……?」
「あっ……仰る通りですね、さすがですお兄さま!」
もはや無条件でキラキラした眼を向けるライスを尻目に。
「ね、みんないい子達じゃない?自由でのびのびしてるでしょう?」
「無政府状態だろどっちかっつーと」
「この流れでついでに質問してもいいかしら?」
「どんな流れだどんな」
年長格たるマルゼン先輩が場をまとめる。自然と精神的支柱を兼ねてくれてるのはありがたい。なお、ツッコミ役はこの場の最年長者になりつつある。
「あ、じゃあ東方さん。先日貰ったプロテイン、言い値で買うので余りを全部頂いても良いですか?」
「はい!『実は理事長にウマ耳がある』って話の真偽、知ってるってホントなの?」
「『ドクターは女難の相が出てる』とフクキタルが言ってマシタ!心当たりあるって事でイイんデスか?」
「お兄さま、『またお見合いを蹴った』と風の噂で伺ったんですが……」
「『たづなさんと昔付き合ってた』って風聞が流れてるけど、実際どうなのよ?」
「学級崩壊かここは」
ちなみに後でコッソリ聞いた限りでは、質問に一つだけホントの話が混じっていたらしい。
☆
「よぉし、集中集中……!」
アメリカ遠征チームと顔合わせをした翌週。G2・毎日王冠を来月に控えた私は、叩きとなるG3レースのパドックに立っていた。
新たに属したチーム・スピカの声援を受けつつゲートイン。この狭苦しい感覚は好きじゃないけれど、同時にここから抜け出た時の景色は、この上なく──美しくて、たまらない。
パンっ、と。乾いたゲートの開くに乗り、即座に…………!
(……駆け出すっっ!!)
『おおっと、サイレンススズカ一気に先頭へ躍り出たッ!連敗記録を更新中の彼女だが、今日はシニアの意地を見せることが出来るのかッ!?』
スタートからギアを落とさず、タレずに加速。あえて名をつけるなら「コンセントレーション」とでも言おうか。脚の負荷は当然大きい。下手を打てば破滅的な走り方ゆえ、大失速する可能性ももちろんある。でも。
(それが……どうしたっ!!)
私が見たいのは、誰にも邪魔されない景色ッ!私が皆に与えられるのは、私の叶えるべき夢とは、ターフの果てのその先にあるッッ!!
私の走り方に、激しい『叩き合い』は要らない。大外からの『ごぼう抜き』もない。何故ならッッ!!
(このサイレンススズカに、『駆け引き』はない……ッ!あるのはただ────)
『サイレンススズカ、第4コーナーを曲がって更に加速ッッ!止まらないッッ!!もはや彼女は誰にも止められないのかッッ!?』
いついかなる時でもたった一つのみ掲げる絶対の金科玉条、ソレはッッ!!
(────ただ『逃げて、差す』!それだけよッッ!!)
一切の減速をせず、ゴール板の横を駆け抜けた。……瞬間。
『サイレンススズカ、四馬身差の一着でゴールインッッ!!実に五試合ぶりの白星は、復活の狼煙となるかッッッ!?』
(…………勝った……っ!)
やっとだ。やっと、不甲斐なかった自分への『リベンジ』を果たした。今日この場で、燻っていた自信が「確信」に変わった。ぶっ千切った瞬間に脳髄から溢れ出るこのエンドルフィンこそ、私にこれから先、走り続ける覚悟をくれるッッ!!そう!
(私の辿るべき正しい『道』とは、この「大逃げ」に他ならないッッ!!!)
濁流のように迸る思いを押さえつけつつ。観客席に愛想を振り撒き、小さく手を振る。なお、心の中では飛び上がってガッツポーズ。
ターフを去って地下へと戻り、「手応えはどうだ?」とトレーナーさんに問われたのに対し、ノータイムで。
「最ッッッッ高にハイな気分ですッッ!!まるで正月元旦に下ろしたてのショーツを穿いた時みたいな高揚感ッ…………」
そこまで一息に言い切って。
眼前のトレーナーさんが、「お前そんなキャラだったか?」という顔で絶句しているのに気付き。ようやく自分が、紙面に載せられないようなコメントを流したことを自覚する。
「……というのは冗談で。私は叶えるべき夢のため、そしてファンの皆様と支えてくれた方々のため、自分の走りをするだけです」
「もうちょいはやく繕ってな?」
善処します。
☆
「お、遅れて大変申し訳ありません……っ……!北海道から来ました……スペシャルウィーク、と、申します……!」
そんな訳でG2レース・毎日王冠の叩きとして、あるG3レースに出た日の夜。門限をとうに過ぎた栗東寮に、息も絶え絶えな新入りの子がやってきた。
ゴール手前の観客席に居たという彼女は、私のウイニングライブを観戦している最中に遅刻に気付き、走ってここ府中までやってきたらしい。最初は電車と地下鉄を駆使しようとしたが、帰宅ラッシュに伴う激混みで諦めたという。
「い、いらっしゃい……あの、全身草まみれだけど大丈夫……?」
「あ、失礼しました!山道走ってる途中で野生のオオカミさん達を見つけて、群れにくっついてけもの道をショートカットしてきたんですっ!」
「割と大発見してない?」
もう絶滅してなかったっけ?……ともかく、小枝やら葉っぱやらをあちこちに引っ付けてきた彼女──暫定的に心の中でスペちゃんと呼ばせてもらっている──は、なにやらム⚫︎ゴロウさんのごときスキルを持っているようだった。
さて、既に時刻は夜の9時すぎ。スペちゃんをお風呂場に放り込んだのち、夜食(夜鳴きそば)を二人して掻き込んだ私たちは、「学用品と服の荷解きだけして早めに寝る」方針で一致した……のだけれど。
「あら?何かしら、これ?」
「えっ、何です…………あっ」
目ざとく見つけたのは、荷造りされた衣類の下に隠すように入っていたもの。割とスペースを取っていたソレの正体は。
「ふるさと納税の返礼品リスト……?どうしたの、こんなに大量に?」
というと彼女、少しばかり困ったような顔をして。
「その……私の地元、ウマ娘が私しか
「あー、納得したわなんとなく……」
要するに過疎地域振興のための、広告塔に抜擢されたらしかった。確かにスペちゃん可愛いし人懐こいし、広報を担うにはうってつけだろう。
彼女いわく、そんな中でもせっかくトレセンに受かったけれど、寒村になりつつある地元の現状にも気兼ねしてしまい、とっさについた方便が。
「『日本一のウマ娘になって、この村の税収を5000%上げるから楽しみにしててください』って大見得切って出てきたんです」
「ひょっとしたら日本一になるより難しいんじゃ……?」
「だ、大丈夫です!そしたら長期休みでマグロ漁船に乗って補填しますから!」
「流石にそこまではしなくていいと思うわ」
老婆心ながら心配。遠洋漁業なんかに出てたら、出席日数が足りなくなっちゃうだろう。聞けば育てのお母様に冊子の存在を知られる前に、箱詰めして空輸してしまったらしい。今になって手を焼いているのが現状、といったところか。
「……とりあえず、一冊頂いてもいいかしら?」
前例がないわけじゃない。かつてはタマモクロス先輩とかも、経済的な事情を抱えたまま入校してきたらしい。いざとなれば生徒会に頭を下げて、なんとかハケるくらいには持ち込みたい。問題は、むしろ中身。この手の事業はリピーターがつかなければ話にならない。
「い、いやいやスズカさん、初対面の方にそこまでやって頂かなくても「スペちゃん」……はい?」
「こういう時はお互い様よ?『自分の夢を叶えたいけど、地元だって見捨てたくない』……当たらずとも遠からず、ってところでしょう?」
「す、スズカさんっ……!」
「いいのよいいのよ、気にしないで」
どさくさ紛れに抱き締めて背中をトントン叩くと、ちょっと涙目だった。色々と思うところがあったんでしょう、この薄い胸でよければいくらでも貸してあげるわ。かわいい同寮生を助けるためだし、こんな時くらい一肌脱ごう。
ささやかだけど、5000円分くらい出せば良いかな?と思って冊子を一冊もらい、パラパラとめくると。
「私が好きでやってるだけだし大丈夫…………ってなにこれ、『返礼品限定・北海道ミルクジェラート、今年のフレーバーはシャインマスカットと沖縄バナナ』……?」
1ページ目から、ラインナップがいきなり強い。そのほかも見てみると……定番のROYCEのチョコポテトに六花亭のレーズンバターサンド。生キャラメルに特選どさんこ味噌ラーメン、四つ葉のチーズセットに毛ガニと帆立。スモークサーモンといくらと雲丹の詰め合わせ、あたりが破格の値段でギッシリだった。
……なんだこれ、神か?
「あの、スズカさん……?」
「スペちゃん」
「はい」
「10万円分買うわ。寄附金控除の申請書もらえるかしら?」
「は、ハイただいま!」
写真だけで食欲ソソられすぎてバイブスがアガりますね、全部食べたら脳がキマるわ。困った時は持ちつ持たれつ。こういう関係構築は大事ね、うん。
☆
「……ところでスズカさん、ずっと気になってた事があるんですが」
室内照明を最小に設定した部屋の中。真新しい布団にくるまったスペちゃんは、ベッドの向こうの私に向かって問いかけてきた。
「なあに?」
彼女の居る方へ寝返りを打ち、返答を待つ。なんでも言ってごらんなさいスペちゃん。なんだって教えてあげるわ。
「部屋の隅でビカビカに光ってる金色の鯛の置き物って、なにかの御神体とかですか?」
「あれね、いくら捨てても戻ってくるの」
「えっ………………?」
途端に「こんな時間に聞くんじゃなかった……!」とばかり青褪めた表情を浮かべるルームメイトを、適当に宥めすかす。ちなみに誓って嘘じゃない。世の中には知らない方がいいこともあるのよ、スペちゃん。
まあこの手のブツに詳しいフクキタルが言うには「遠ざけるのではなく、綺麗に磨いてやればきっと御利益がある」らしいから、ああやって置いているんだけどね。
あ、ちなみに残った返礼品リストは、
【登場キャラが増えてきたので今更なメモ】
(このssのキャラの呼称一覧)
・ライス……全てさん付け。最近「さすおに」なる概念を知った。
・スズカ……呼び捨てか「先輩」付け。スペにのみちゃん付け。歳上は親友のエアグルーヴのみ「グルーヴ」呼び。スランプを抜けた。
・マルゼン……一人称は平仮名で「あたし」、畏まった場でのみ「私」。ウマ娘にはすべて「ちゃん」付け(ルドルフ除く)。
・エル……片仮名で「アタシ」。歳上にはさん付け。その他の点はマルゼンと同じ。大事な事を言う時はカタコトが外れる。
・ファルコン……TPOに応じ「ファル子」と「私」を使い分け。
・スペ……誰に対しても呼び捨てはしない。学園周辺で狼、カワウソ、胴体が異様に膨らんだ蛇などを目撃している。
・仗助……基本は「ドクター」。ライスとカレンチャンのみ「兄」呼び、スズカとスペのみ苗字に「さん」付けで呼ぶ。
・金色の鯛の置物……蟄ヲ蝨貞卸險ュ蠖灘?縺九i蟄伜惠縺吶k縲∽ス懆??ク崎ゥウ縺ョ鄂ョ迚ゥ縲ゅ←縺薙°繧峨→繧ゅ↑縺冗樟繧後※縺ッ縲√>縺、縺ョ髢薙↓繧?i豸医∴縺ヲ縺?k縲ゅヵ繧ッ繧ュ繧ソ繝ォ譖ー縺上?碁剄繧頑寺縺九k轣ス蜴?r閧ゥ莉」繧上j縺励※縺上l繧玖カ?クク縺ョ蟄伜惠縲阪i縺励>縺後?∵棡縺溘@縺ヲ窶ヲ窶ヲ?