百合(?)娘プリティーダービー ~男トレーナーは生き延びたい~ 作:バウム
また、第一話目にして説明回なためウマ娘要素も控えめです。
俺は今、アニメだった世界の舞台に立っている。
目の前に広がる見覚えのあるデザインの建物を、初めて実感を以て訪れた事で改めてその事実を認識している。
そう、俺は所謂『転生者』というものだ。それも覚えのある世界に転生するタイプの、オリジナルよりは二次創作でよく見るシチュエーションでの転生だ。
そのアニメの名は『ウマ娘プリティーダービー』、と言っても知っているのはせいぜい名前と学園ものである事、あとは競馬が基になった位で詳しい事は全く知らなかったのだが、転生した後の今となってはもうどうでもいい事だ。
そんな事より、今はそのアニメの舞台である学園に、『トレーナー』として就職できた方がよっぽど重要である。いくら名前しか知らないとはいえ、やはりアニメにもなった舞台に自分も立てるとなると気分が高揚する。
それに、少々品の無い話ではあるがこの『トレーナー』という職業はなかなか給料がいい、中央トレセン学園というエリートの集いであるなら尚更だ。更には在校生徒である『ウマ娘』は種族単位で美人が確約されているという目にも優しい所なのだ。
流石に生徒と教師で禁断のアバンチュールを築く気は無いが、職場に美人がたくさんというのはやはり心が躍る。これからの生活が楽しみだ。
と、この時浮かれ気分で学園の門を潜った俺に、時間を遡って会えるのならこう言いたい
「お前は何故、ろくに職業研究もせずに仕事選びに苦労した前世の経験から何も学んでいないのか」と
◆
「……おかしい」
学園に入り、そこで可愛らしい学園理事長と美しいその秘書の方から軽くこの学園について説明を受けた後、これからの仕事――『ウマ娘』の育成に向けて三週間後に行われる『選抜レース』と自分の足で学園を回る事でスカウトしたいウマ娘に目星をつけておくか、誰かの元でサブトレーナーとして付くか選ぶように言われたのだが……
「スぺちゃん、よかったら私の分のハンバーグも食べる?」
「わぁー! ありがとうございますスズカさん! いただきます!」
「ふふっ……それじゃあ、あーんして?」
昼食を摂ろうと寄ったカフェテリア、今俺の座っている机の二つ右の席ではそんなバカップルみたいなやり取りが行われているし……
「もぐもぐ……おかわり」
「はい、ちょうど追加のカレーができましたよ~」
少し遠めの席では、めちゃくちゃ食べるウマ娘の為にわざわざ手料理のカレーを振舞っているウマ娘の姿
「今度のレースもボクが勝っちゃうもんねー!」
「いいえ、勝つのはこのわたくしですわ!」
そしてすぐ後ろでは、王道ライバル的セリフを言いながらもカップル限定スイーツを仲睦まじく分け合うウマ娘たちの姿が……うん、まあ、なんだ。
「距離感、近くないか……?」
中高生の女子というのは同性同士でいる時は表情豊かで声も大きいのに異性と話すときや授業中になった途端静まり返る生き物だという事は前世を通して知っている、そのため仲のいい女子同士ならある程度のスキンシップはするだろうとは思うが、流石にあーんで食べさせたりエンドレスランチに手料理を作り続けたり寄せ合った席でカップル用スイーツを分け合うのは……いや、最後だけなら無くはないか?
とにかく、そんな彼女たちの態度、そして『もう一つの事に』に違和感を覚えた事と居心地の悪さを覚えた俺は頼んだ料理を早々に片づけ、席を立ったのだった。
◆
「……おかしい」
数十分前と全く同じセリフをこぼしながら、俺はあたりを見渡す。
あれから学園の地理の把握ついでにいい感じのウマ娘いないかなぁなんて考えつつ、あちこちブラついては周囲の人物にも目を配ったのだ。
その結果、見つかったのは授業を受けるウマ娘、コースを走るウマ娘、屋台を用意してまで焼きそばを販売しているウマ娘、部屋から異臭と共に怪しい煙を充満させているウマ娘、茂みで変な顔して死んだように倒れているウマ娘、火を用いるBBQセットで肉焼きをやっているウマ娘、変な呪文を唱えて占いをやっているウマ娘とちょっと……ちょっとで済むか?とにかく個性的なウマ娘に加えて
授業を受け持つ女教師、トレーニングを指導している女トレーナー、清掃員のおばちゃん、用務員のお姉さん、なんか変なマスク着けてる保健室の女医と、ここで働く人にもいろんな種類が……最後のはちょっと違う気がするけど、とにかくいろんな人がいた。
しかし、しかしだ。ここまで発見した人物にはある共通点……あるいは絶対に共通しない点と言うべきだろうか?があるのだ。
「結構な時間と場所をうろついたんだけどなぁ……」
そう、男が居ないのだ。いや、もっと正確にいうなら『男を見かけない』といった方が正しい。
流石に、今俺がいるような広々とした練習場に行けば一人か二人の男トレーナーはいるし、生徒と接する機会の少ない事務員に限れば、もう少しいる。
だが、ただでさえ少ない男性もよく見れば半分くらい結構年食ったようなおっさんかお爺さんが半分だし、若い男性は俺のような新人か、ここに来て数年って感じのまさしく若手って感じばかりでその中間あたりの人物が全く持って見当たらない
ウマ娘の学園――所謂『女子高』みたいな事である事を差し引いてもちょっと異常ではないだろうか、と不安を感じてきたところに俺の後ろを二人組のウマ娘が通り過ぎようとしていた。
彼女たちは俺の事を気にも留めずおしゃべりに興じているようで、少し距離があるにも関わらずその内容は明確に聞こえてくる。
「聞いた? あの子のトレーナー、セクハラ疑惑で問題になったんだって」
「あー、聞いた聞いた! 食事に誘って来るときとか見ててキモかったよねー! あれもう疑惑っていうか、確定だよね!」
「ね、あの子は二年の先輩と付き合ってるのに、空気読めってカンジ、男ってそういうとこイヤよねぇ」
それ以上は通り過ぎ、遠ざかって行ってしまったためその内容は聞き取れなかったが、その内容は俺の顔を青ざめさせるのには十分だった。
「……なんだって?」
事の子細は不明だが、今聞いた情報を纏めると、最近一人の男トレーナーがセクハラがどうとかで問題になって、でもその内容は食事に誘ったくらいで、被害者の子は先輩と付き合っている――この学園において先輩と付き合うって事は、相手はウマ娘、つまりはレズビアンだ。
そしてここがアニメだった世界、『ウマ娘』というタイトルとこの学園の
「まさか」
カフェテリアではウマ娘同士のイチャつき風景が散見されたことを考えれば――
「まさかっ」
男の数が少なく、比較的厳しめな措置が取られている事を考えれば――
「まさかっ……!」
特にイケメンとかがハーレムを気付いているわけでも無い現状を考えれば――
「『ウマ娘』って……百合アニメだったのかぁ~!?」
しかも、徹底的に男を出さない、出したとしても百合の出汁にして酷い目に遭わせるタイプの
その事に考えが及んだ時、俺は自ら死地へと飛び込んでしまった事を悟った。しかし、せっかく就いた給金のいい職をいきなり手放すのはもったいないし、何より入社一年未満でやめてしまうと後々の転職活動に確実に支障が出る。今この場を逃げ出しても、そこから生き延びれるかが分からない、となれば俺のやるべきことは――
「百合の間に挟まらないようにしつつ……転職先、探すしかねぇ」
そうつぶやいたはいいが、食事に誘うだけで制裁を喰らうこの学園、あっちこっちで百合つくウマ娘との接触を極力避けながらウマ娘と関わるトレーナー業をこなしつつ転職先も探すのだ。
…………無理じゃね?
不定期更新です。