百合(?)娘プリティーダービー ~男トレーナーは生き延びたい~   作:バウム

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第二話「百合アニメにおける、男の正しい振る舞い考察」

 百合アニメ、それはアニメ作品の数あるジャンルの内、女の子同士の日常や関係を描くことに軸を置いた作品である。

 普通の日常アニメとの相違点は女の子同士の関係性に恋愛要素、またはそれを匂わせる描写があると言ったことだろうか、この描写の幅広さが曲者で、例え作者にその意図が無くとも視聴者の解釈1つで百合アニメに分類される事すらあるのだ。

 しかし、そんな百合アニメにもある程度の共通点があるのだ。それが男性の存在が極端に薄い事である。

 女性同士の関係性を描くアニメである以上、男性の影が薄い事自体は自然な事なのだが、重要なのはその扱いである。

 背景(モブ)や脇役で一人や二人出る程度のものから設定レベルで徹底的に男性を排除する作品もある。中には女性同士の恋愛を強調するために男性を当て馬にして男を弾劾、断罪行為で酷い目に遭わせる作品すら存在する。……同性愛かどうかに関わらず、わざわざ悪役を用意しなければいけない恋愛事情はいかがなものかと思うが

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 ここがその男に厳しい百合アニメの舞台であると気付いた以上、俺はこれからのトレーナー生活は慎重に慎重を重ねなければいけない、故意だろうと過失だろうと、百合関係に割り込めば……否、姿を表しただけでも最期、件の食事に誘ったトレーナーのように俺は即刻この職場をクビにされ、後ろ指をさされつつ、せっかくの二度目の人生をみじめに暮らしていかなければならないだろう。最悪、直接命を刈り取られるかもしれない、それだけは何としても避けたい

 

 「お疲れ様です。どうですか、担当してみたいウマ娘は見つかりましたか?」

 

 そんな事を考えながらターフを眺めていると、全身緑のスチュワーデスの様な服装に帽子を被った女性が、微笑みを浮かべながら此方に歩み寄ってきた。そんな上品な恰好と佇まいとは裏腹に、右腕にピンク色の可愛らしい腕時計が巻かれており、以外と女子高生っぽい趣味なのだろうか、と勘ぐってしまう。

 

 「お疲れ様です。たづなさん……うーん、まだ初日ですし、何とも……」

 

 彼女の名は駿川たづな。この学園の理事長の秘書を努めており、俺達新人トレーナーに学園の案内と業務説明を行ってくれた人で、その常に絶えない微笑みと柔らかな物腰と口調で接する人に安心感を抱かせる印象を持つ、しかも理事長秘書なんて結構偉い立場なのにこうしてまだ就業して三日も経っていないペーペーの新米にも気にかけてくれるいい人だ。

 何より理事長との関係性は保護者と子供のようであり、百合の気配が薄いのも今の俺にはポイントが高い、こちらから変なアクションを取らなければコミュニケーションに不安を抱く必要は無いだろう。

 もっとも、そうすることが単に仕事の内の可能性もあるが、そんな事を考えたらキリが無いし、そうやって人の好意を何でもかんでも疑うのは心の卑しい人間になったようで嫌だった。

 

 「そうですか……サブトレーナーとして研鑽を積むという選択肢もあるので、焦らないでくださいね」

 

 「ありがとうございます」

 

 眉を八の字にして少し残念そうにしていたたづなさんだったが、特に俺に何か行動を急かすでもなく、こうして別の選択すら促してくれる。

 そんな人が上司とあったら、少し前の俺なら意地でも担当ウマ娘を見つけてバリバリレースに勝たせるぞ、なんて息まくかもしれないが、生憎と此処は百合の園、そんな出しゃばりをしでかせば一週間と経たず袋叩きだろう。

 と、考えたところで先程たづなさんが言ったサブトレーナーという選択肢が頭に浮かぶ、ひょっとしてサブトレーナーなら裏方として働いて安全に生活が出来るのでは……?

 

 「因みに、サブトレーナーって実際どんな感じで仕事するんですか?道具の準備や後片付けとか?」

 

 「それもありますけど、一番多いのは先輩のトレーナーさんの指導に立ち会ってその方法を学んだり、それが進むと自分でトレーニングメニューを考案したり、実際にウマ娘を指導したりもしますよ」

 

 「……先輩トレーナーといいますと、あそこのお爺さんのトレーナーとかですか?」

 

 「あの人たちは今は教官の立場で指導したり、他のトレーナーさんのヘルパーとして働いているので、少し違いますね。大抵はチームを結成しているトレーナーさんの基に就くか、個人でも大きな成績を残しているトレーナーさんの基に就きますね」

 

 「…………なるほど、ありがとうございます」

 

 だめだ、サブトレーナーは危険すぎる。あのおじいちゃんトレーナーのサブトレーナーになれるならまだしも、チームを結成しているトレーナーは大抵女性、つまりは既に完成されている百合ップル集団に異物(男性)を投入するのだ。ただでさえ既に関係性が完成されたグループに入り込むのは気を遣うのに百合集団に割り込むなど正気の沙汰ではない、どれだけ言動に気を付けても最初から割り込んでいるのだからその未来はDEATH or DIEである。

 

 となると、ここは無難に百合っ気の少ないウマ娘を一人担当にしてトレーニング以外では関わらない、トレーニングでもなるべく淡泊な態度を取る、がベストなんじゃなかろうか……?

 

 「とにかく、三週間後に選抜レースもありますから、今はこの学園に慣れる事を優先してゆっくり考えてください」

 

 「分かりました。色々と教えてくれてありがとうございました」

 

 最後に俺はたづなさんに頭を下げてから、その場を後にした。

 しかし、百合っ気の少ないウマ娘か……言っといてアレだが本当にいるのかなぁ?

 

 

 

 

 「いねぇなあ……」 

 

 三日後、やはりそう簡単に見つかる事も無く、俺は屋台で購入した焼きそばを啜りながら広場できゃいきゃいとお昼休みにはしゃぐウマ娘達を眺めながらボーっとしていた。

 

 「どしたー? そんな干からびたマンドラゴラみてーな面して、ヒマなのか?」

 

  そんな俺の様子が気になったのか、屋台の主である銀髪の――この世界では芦毛と言うのだったか、とにかく長い芦毛を靡かせたウマ娘が此方の顔を覗き込んでいた。そうやって余所見をしながらも焼きそばを作る手元には一切のブレが無く、如何に長くこの絶品焼きそばを作り続けているのかが伺える。

 

 「いや……担当ウマ娘どうしようかなーって、ウマ娘からすると男性トレーナーってどんながいいんだろうって……」

 

 この三日間、俺が見続けたウマ娘はわざわざ寝坊しそうな同室の子を起こして世話を焼いているウマ娘だったり、先日のあーんで食べさせ合いっこしていた二人のウマ娘をガン見するウマ娘だったり、その娘のご飯にデスソースぶっかけて折檻されるウマ娘だったり、ぶりっ子系のツインテールのウマ娘に予定がああだこうだと述べているウマ娘であり、どいつもこいつも距離が近い、あれはもう明らかにただの友人に対する距離ではないし、行動内容も普通の友人関係なら破綻しかねない程に踏み込んだものすらある。十中八九出来ているだろう。きっと他のウマ娘も似たようなもんだ。

 

 「あん? 男がどうとかってのはよく分かんねーけど、アタシならやっぱトレぴっぴにすんなら面白れーやつがいいな! ゴルゴル星までひとっ飛び出来る奴ならサイコーだぜ!」

 

 「面白さか……」

 

 ちょっとこのウマ娘の言動の内容は理解しがたいものはあるがしかし、なるほどギャグキャラなら多少目立っても『そういうやつ』で済まされる可能性もあるだろう。この世界に未だにアニメ補正が加わるかは未知数だが、やっておいて損は無い

 とはいえ、下手にギャグ的行動を取って百合地雷を踏み込んでしまっては元も子もない、ここは口調を変えて小物っぽいキャラにする程度に留めておくのがいいだろう。

 

 「どーもッス、焼きそば屋さん。ちょっと考えてみまス」

 

 「んあ? そうか? まあまたゴルシちゃんの焼きそば食いに来いよな! 普通に食いに来るやつあんまいねーからよ!」

 

 そうと決まれば基準を改めて担当するウマ娘を決めるべく観察に赴くとしよう。ギャグキャラなら許してくれそうな程度の百合っ気のあるウマ娘のところへ――

 

 「よ、避けてぇぇーーー!!」

 

 そんな声と同時に聞こえたガコンッという重い金属音、そして頭部に走る衝撃と共に俺の意識は暗くなっていくのだった。

 

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