最高に面白かった。
負けた。
身体が地面にめり込むように倒れ込む。白き我が龍の身体から大量の血が吹き出し、古びた塔の頂上のあたり一帯を赤く染めていく。
我の脳裏に敗北という言葉が浮かぶ。目の前景色が赤く染まり、徐々に力が入らなくなる。
我が生涯において、初めての黒星……だが悔いは無い。
お互いに全力を尽くした紛う事なき見事な
惚れ惚れする程の圧倒的な太刀筋と感嘆するほどの技量。そして、我が龍鱗を切り裂いた漆黒の闇と荒々しい溶岩を合わせたような美しい刀剣。
たった一人の男によって、我は地に這いつくばっている。我の慧眼は、当たっていた。この男こそ最強にふさわしい。
男は、肩で息をしふらつきながらも流れるように刀を納刀し、片膝をつきながらも兜の奥の黒き両目が我を見下ろしていた。
そして、男は何か寂しそうに我に呟いた。
しかし、残念ながら我には微かにしか奴の声は届かなかった。
負け惜しみになるが、ここで我が死に絶えとしても、また無から数千年の時を得てまた我では無い存在として復活するだろう。
それでも、自己という存在意識が消えてしまうのは流石の我でも畏れてしまう物だ。成る程これが、恐怖か。なんとも耐え難いものだ。
そっと我は、瞼を閉じ意識が途切れる瞬間を待った。
その時周りの空間に異変を感じた。塔の頂上の真上に巨大な渦が出現し、強力な吸引力で周囲の瓦礫や雲を巻き込んで回転していく。
突然の渦の現象によって、身体が地面から浮き、なすすべなく我と男は渦の中心に吸い寄せられていく。身体は、思うように動かずせいぜい眼を左右に動かすくらいが関の山だ。男を眼で探すと、男は身体を捻りながらもがいているが全く抵抗できていない。
渦の中心に吸い込まれる直前に我は見た。
渦の中心の更に奥に異界が広がっていた。こことは違う全く異なる世界。
別種の法則と摂理によって存在する世界。
面白い。
死ぬ前の最後の余興だ。どんな世界か見物してやろう。
そして、我の意識はそこで途絶えた。
※
目が覚めた。ここまで熟睡した事は久しぶりかもしれない。
意識が戻った瞬間から感じた違和感があった。
身体を起こし、周りを見渡した。
白い部屋の内装は、特に大したものは置いておらず、せいぜいベットの近くの丸いテーブルの上に白い花の花瓶があるくらいだ。
「……どこだ、ここは?」
ん?何かおかしい。色々疑問と謎が脳内に浮上していく。
何故自分は生きているのか。
何故人のベットの上に寝ているのか。
どうやらかなり、面白い事になってるようだ。
我は、人の姿となった我の身体の調子を確かめた。両手を何度も握っては開けるのを繰り返し、ぐっと背伸びをした。
傷は、胸に切られた痕が残っているくらいで他は完全に復元されている。
どうやら相当腕の良い者がいるようだ。
全く本調子ではないが、とりあえず動く分には問題ないだろう。
ベットに腰掛けながら、これからについて思考を張り巡らせようとした時、誰かが近づい来る気配を感じた。
我がいる部屋にノックの音が響いた。扉から銀髪の顔の整った女性が入室してきた。
「失礼しますよ。ああ、良かった意識が戻ったのですね。あまりにも、酷い怪我をしてまして治療中も、かなり厳しい状況でしたから良くなってよかったです」
「……そうですか…つまり、貴方が私の命をたすけてくれたの?」
と軽く相槌を打った後、状況を確認する為に質問した。
「はい。貴方の治療は私がさせていただきました。先程も言った通り、かなり深い傷も多く貴方を発見した人達の素早い対応と処置がなければ手遅れになっていました」
「…でしょうね。でも、助かったのは綺麗な顔のお姉さんの治療のおかげなんでしょう?」
つまり、今生きているのは発見者の対応が的確だった。そして、このお嬢さんの治療のおかげと言ったところかしら。だとしたら、かなり腕の良い治療師という事ね。
「やけに、冷静ですね。こう言っては、何ですけどももっと取り乱すとかと思っていました。自己紹介を忘れてましたね。治療とポーション等の販売を営んでいるディアンケヒト・ファミリア所属のアミッド・テアサナーレです。よろしくね可愛らしいお嬢さん」
「…ミラ・アーツよ。助けてくれてありがとうアミッド 」
「どういたしましてミラ。無事回復してなによりです」
と我は命の恩人に感謝を述べ、手のひらを差し出した。意図を理解したアミッドは小さな手のひらを掴み優しく握りしめた。
その後、色々気になる情報について説明してもらった。とりあえず、今自分は記憶が飛んでいると適当に説明し、アミッドにいぶしげな眼で見られたがそんな事は些末な問題である。無知でいるよりはマシなのである。
その後、外に出かけようとしたらアミッドに止められた。死ぬ直前で、更に目が覚めた状態の患者を出すわけにはいかないと扉の前で仁王立ちしながら笑顔で止めてきた。目が笑っていないし顔には絶対に出させないという鉄の意思を感じる。
ある程度享受してもらった話を要約するに、ここは分かっていた通り元の場所とは違う世界。更に、『
何より、一番驚いたのはこの世界には
冒険者達は、神から
かなり話が長くなってしまったらしく日が暮れそうだ。明日、我を救助してくれた人達が見舞いに来てくれるらしい。実は、ここに運ばれて七日も経っておりそれまでずっと眠ったままだったという事だ。
食事をアミッドと一緒に取り、まだ安静にする必要があるため早めに寝る事にした。
退院は、一ヶ月と言われたがほぼ完治しているし、いたずらも兼ねて軽くアミッドの背後をとって首に両腕で抱きついたらかなり動揺して「レベル2の私が…見えなかった」困惑した様子てつぶやいた。
アミッドの検診とやらを受けて何事もなかった為とりあえず三日様子を見る事になった。今すぐ、強行突破しても良いがこの姿に慣れる為にもう少し休む事にした。
治療にかかった費用は、救助してくれた人が全て出してくれたそうだ。どこかアミッドが憐れんだ目で教えてくれた。
それについても、明日話があるそうだ。会うのが楽しみだ。確か名前が、シル・フローヴァという女性だそうだ。
ハンター「ここは、どこだ?この芋虫はいったい……」