龍の祖がダンジョンにやってきた   作:それはどうかな!

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豊穣の女主人

シル達が訪ねてから二日が過ぎた。

 

この二日、アミッドや他の団員達と談笑をしたり、リハビリなども兼ねて治療院内を歩き回った。その時、あちこち血を流している者や素材を売る為に交渉する冒険者がいる事に気がついた。我は、面白そうな話が聞けそうだと思い適当な柱の裏に隠れて冒険者達の話に耳をすませた。

 

「聞いたか、あの話…例の…」

 

「あれだろう、各層に神出鬼没に現れる"黒騎士"の事だろう」

 

「今じゃ、その話でオラリオ中持ちきりだからなあ」

 

「どこのファミリアで、容姿も性別も年齢さえも不明だからなあ。分かってる情報だと全身黒い鎧姿で背に極東の大太刀を装備してくるくらいか」

 

「それだけじゃねえ、あの()()()()()()()()()()()が直々にスカウトしに来るくらいだからなあ。断ったらしいがな」

 

と色々と噂話をある程度聞いた我は、その場を離れた。

それからもこの二日間情報を集めた。

 

ーとりあえず()もこの世界にいるのは分かった。それも近くに。

 

ー彼が、今何をしているのか気にはなるが…あー、まぁいい。戦闘になったらその時はその時だ。

 

さて、そろそろシル達が迎えに来る頃合いだと感じ自分の部屋に戻った。

 

※※※

 

我の前に、大きな存在が立ち塞がった。自分より二回りは大きい身体と圧倒的な存在感。恰幅のいいドワーフの女性がこちらを見下ろしていた。

ーまぁまぁ強い。それでもそこらの有象無象とは、次元が違う程の力を感じる。リューという名のエルフもかなりの実力者だが、目の前彼女に比べればティガレックスとドスファンゴ並みの差がある様に感じた。

 

「あたしは、ミア・グランド。この馬鹿娘達の働いている店の主人(オーナー)さ。あんたが、内の裏手で死にかけてた小娘かい。聞いてた通り元気そうじゃないか。内は、常に多忙だからあたしにとっちゃ都合がいいよ。助けた分は、あんたが内の店で働いて返してもらうよ」

 

「…何をすればいいの?」

 

「簡単だよ。内の店を手伝うそれだけさ」

 

「大丈夫ですよミラさん。私たちも、サポートしますから」

 

「最初は、慣れないかもしれませんが私たちも居ます」

 

「ありがとう2人共。ミラ・アーツよ宜しくミア。他に行くアテもないし、貴方のお店手伝わせてもらうわ」

 

「あんたがどんな素性の者か知らないけど、あたしの店で働くからには、手抜きは許さないし、勝手に辞めることも許さないから覚悟しな。いいね」

 

「分かったわ。これから宜しくね」

 

「決まりだね。着いてきな」

そして、我は前の世界を含めて初めて人の世の為働く事になった。ふと人の世を滅ぼさんとした我が、人の下で働く姿を彼が見たらどれ程驚き呆れるだろうかとそんな事を頭の片隅で考えていた。

 

※※※

 

「アミッド世話になったわ。もしなにか、手伝える事があったら言って手伝うから」

 

「ええ、その時は是非。ただ、もう無茶はしないでください」

 

我は、静かに頷きアミッドに礼を言い三人について行った。故に、気づかなかったアミッドがどこか痛ましそうな目で見ていた事を。

 

 

二、三十分程歩き、周囲を見渡し驚嘆した。人間以外の、種族もいるがそんな事は目の前の現象に比べれば瑣末ごとだった。昔、前の世界で見たどの都市よりも豊かで繁栄している。神が降臨しているおかげか、それとも地下の迷宮の恵みのおかげなのかわからんが凄まじい活気である。

そして、先頭のミアが二階建ての石造りで出来た奥行きのあるお店の所で止まった。

 

「着いたよ。ここがあたしの店“豊穣の女主人"さ。さぁ、中に入りな」

ミアに促され我は、酒場の出入り口の扉を開けた。そこでは、人間の女性と頭に猫の耳を生やした二人の女性店員達が忙しなくテーブルや床の掃除を行なっていた。

 

「マジでまずいニャ〜。そろそろ母ちゃん達が新人連れて帰ってくるニャ」

 

「うるさいにゃ。口じゃなくて手を動かせにゃ」

 

「元々、あんたらが寝坊したのがいけないでしょうが」

 

ー全体的に動きに無駄がない。店の奥にいる者たちも含めて、先程ここにくる途中ですれ違った冒険者達と比べてもかなり抜きん出ている。

 

「ただいま戻りました」

 

「いつまで、ダラダラ掃除してるんだい。さっさと開店の準備をしな」

 

「みんなかわいい新人さん連れて来ましたよ。ミラさん、今日は私が仕事を教えるので気軽に聞いてください。それと、ミラさん用の制服も用意しているのでこちらについて来てください」

 

シルに連れられ、更衣室なる場所に案内された。なんでも店の正装に着替える場所らしいが、わざわざ別の服で働く必要があるのだろうか?

 

「似合ってますよミラさん。すごくかわいいです」

 

「そう?このスカートって言うのすごく動きづらいし違和感があるわ」

 

何故か、興奮してはしゃいでるシルを横目に、鏡に映った自分の姿を見てどこか滑稽に感じた。目の前には、白と緑のエプロンドレスに身を包み、頭の上に白のヘッドドレスを被った可憐な少女。竜の祖である自分が今では、人間の小娘の真似事をしている事に内心ため息をついた。

 

「では、着替えも終わった事ですしそろそろ仕事を始めましょう」

 

「よろしく頼むわ」

我は、甘く見ていた。働くという事が、彼の戦いを除いた今までの龍生の中で一番過酷で苦しい戦いになるという事を。

 

一言で言えば悲惨だった。

 

作業一つ目皮剥き。

道具の使い方が分からず、シルに教わるもつい加減を忘れ粉々にする。

流石のシルも、顔が引き攣っていた。ミアに、物を壊すんじゃないよと怒られた。

失敗。

 

作業二つ目接客。

お品書きの文字が読めずシルに聞いた。何故か、アーニャという猫人に笑われた。ちょっとイラッとした。更に、ガラの悪い客同士(冒険者)の仲裁するも相手にされず仕方なく外に吹っ飛ばす。ルノアという人間の女性にやり過ぎだと注意された。逆に何故か、クロエという黒髪の猫人には見所があるにゃと褒められた。

まぁ、失敗。

 

作業三つ目皿洗い。

軽く握った瞬間白銀の丸い器が砕け散った。あれ?脆くない?

結局またミアに叱られた。拳骨つきで。

後片づけ含めて、リューに呆れられながら手伝ってもらった。

……失敗。

 

結局、今日一日失敗続きで初めての労働は終了した。

ただ夜食のミアの料理は美味だった。とりあえず唖然としたシル達の顔を見て自重しておかわり10回位で辞めた。何故か、みんな我から一歩引き下がっていたがまぁいいだろう。

辺りが闇に包まれ、従業員達がそれぞれの更衣室に入り、元の普段着に着替え始めた。

 

「そんにゃ気にする事ないにゃ〜。誰しも()()()()があるにゃ」

 

「アーニャ、それを言うなら()()()()()です」

 

「かなりの不器用ぶりだけど、昔はどうしてたの?」

 

「それは、ミャーも気になるにゃ。あほ冒険者共を吹っ飛ばした時はすごかったしにゃ。どっか外のファミリアに所属してたのかにゃ?」

 

「まぁまぁ…ルノアもクロエもいきなり聞きすぎですよ。まだ、始めて一日目ですから慣れないのは当然ですよ」

 

「…大丈夫。明日は失敗しない様にするわ。今日は、疲れたから先に休ませてもらうわ。お休みみんな」

我は、着替え終わりシル達より先に更衣室から出て行き自分の寝室とは逆の方向に進んで行く。ゆっくりとただ目的地を見据え、気付かれない様に足音を立てずに歩く。

向かう先は、この真夜中でも圧倒的存在感を見せ聳え立つ白亜の摩天楼。

そしてその地下に広がる迷宮ーダンジョン。そこには、自分の求める物があるかもしれない。そう思った時いても立ってもいられなくなった。

 

「ごめんねシル、リュー。ちょっと様子を見て朝には戻るから許してちょうだいね」

 

 




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