「君は、強くないから弱い人の気持ちがよくわかるんだよ」
「・・・えっ?」
ある放課後のことだった。
宮尾時雨は里見メディカルセンターに江連のお見舞いにやってきた。
彼とは魔女の結界で会って、助けたことから交友関係が始まった。
最近、大怪我で左足を失ってしまい、入院したそうだが。
そして、病院の庭園で話している最中だったのだ。
「君はいい奴だよ。僕なんかよりもずっと」
「・・・でも、兄さんの言う通り、ぼくは強くないから、たぶん何もできずに終わるよ」
江連はしばらく空の向こうを見て、そして言った。
「ここに来て毎日思います・・・何でこんなことになったんだろうって・・・」
彼はぽつりぽつりと語りだす。
「心も体も蝕まれ、徹底的に自由は奪われ、自分自身をも失う。
いや、生まれたときから僕は自分自身を見失ってたんです・・・」
「そんな・・・」
「でも・・・皆『何かに』背中を押されて地獄に足を突っ込んだんです。
大抵、その何かってのは他人とか環境とかで仕方なくってものなんですよ。
自分の意志なんかではどうにもできないものだったと思います」
時雨も彼の言う通りだと思った。
魔法少女になったのだって、結局は自分以外の誰かのためだった。
そして、毎日が辛い日々であった。
「でも・・・自分で自分の背中を押した奴の見る地獄は別です」
「・・・」
突然の言葉に、時雨はあっけにとられた。
「その地獄の先にある何かを見ることになるんですよ。
それは希望かもしれませんし、さらなる地獄かもしれません。
それはわかりません・・・ええ、進み続けた者にしか」
---〇---
「はぐむ君、召喚された理由はわかってるかい?」
安積はぐむはマギウスの一人である柊ねむに呼び出されていた。
黒羽根が一人ここに来るなど、本来なら異例のことだ。
「い、いえ・・・」
「そんなに緊張しなくてもいい。君にとっていいニュースなんだ。
喜んでくれ。君は今日から白羽根に昇格することが決定した」
突然の朗報に、彼女は耳を疑った。
「私が・・・白羽根?」
「ああ、そうだ」
「で、でも、私は弱くて、とてもじゃないけど・・・。
だから、他の子を白羽根にした方がいいかと・・・」
「・・・はあ」
ねむは呆れてため息をつく。
「逆に聞くけど、今の時雨君と一緒にやっていける子がいると思う?」
「・・・」
急に時雨が強くなったのだ。
攻撃力は変わらないはずなのに、勇猛果敢に戦っている。
それどころか、ソウルジェムさえ濁らなくなったそうだ。
今の時雨は例の『猛者』とやらと同じ感じだ。
そして、そんな彼女は『
でも、はぐむの前だといつもの一面を見せてくれる。
「君には時雨君の補佐を任せたい。
神楽君と同じように、幹部の補佐なんだ」
「・・・わかりました」
「あと、聞きたいけど、時雨君が強くなった理由に心当たりはあるかい?」
「いえ・・・でも、病院に行った後から急に・・・。
確か、江連君のお見舞いだったと思います」
「江連君?」
---〇---
「調子良さそうじゃないですか、時雨さん」
「兄さんのおかげだよ・・・正直、まだ足りないけど。
それでも、迷わずに・・・突き進めそう・・・」
「そうですか・・・僕も進まないと」
「兄さんだったら、きっと頑張れるよ!じゃあね!」
しばらく一人で座っていると、院長が近づいてきた。
「隣に座ってもいいかい?」
「えぇ・・・どうぞ」
隣に座った院長はこう言った。
「心が健康なら、大切な人たちのところに帰った方がいい。
もう会えなくなってからでは・・・後悔を残してからでは遅いんだ」
院長の優しい口調は何かを悔いているようだった。
「後悔・・・ですか。家族に・・・悔いがあるようですね」
「後悔しない日などないよ・・・。
私が、私がもっと弟のことを認めていれば・・・。
あぁ・・・ああああ
あああああああぁあああああ」
そこに医師と看護師が駆けつけた。
「院長、勝手に出歩かないでください」
「すみません、少し目を離した間に・・・」
こうして院長は屋内に連れられて行った。
江連は落ちていたボールを拾い上げ、もてあそんだ。
「・・・進まないと」