ミッションタイマー物語   作:ゆっくり霊沙

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日本ダービー

 病室から空を眺めた

 

 鍵がない開かない窓から見えた空はとても澄んでいた

 

 黒子と白子は幻覚だった

 

 唯一の友達を失った私に残ったのはなんだろう

 

 恩師がいる

 

 チームメイトもいる

 

 ルームメイトもいる

 

 お父さん、お母さんもいる

 

 なんだ私にはまだいっぱい頼れる人が居るじゃないか

 

「先生」

 

「どうしたんだい小西さん」

 

「日本ダービーに私は間に合いますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院食が合わず体重はみるみる落ちた

 

 薬漬けにされて思考力も落ちた

 

 ただ策戦を考える時間だけは沢山あった

 

 私は周囲から終わったウマ娘として見られているだろう

 

 冗談じゃない……私はまだ終わってない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1400メートル時点でスパートをかけるなんて無茶だ……それ以前に私はダービーを辞退することも考えてるんだぞ」

 

「デジタルさん……私は本気だ」

 

「そのガリガリの姿で走ってみなよ! 怪我するだけじゃ済まないぞ」

 

「それで結構……私は三冠を達成する。そうすれば4強ではなく私にようやく世間は見てくれる」

 

「それはそうだけど……」

 

「私も反対です何でそんなに身を削る必要が有るんですか!!」

 

「メジロエンジンか。聞いてたのか」

 

「退院してすぐに坂路走って……怪我しちゃいますよ」

 

「頼む一生に1度のダービーなんだ私は勝てるビジョンが有るんだ」

 

「まずは体重を戻しなさい。話はそれからだよ」

 

「デジタルさん!」

 

「……最終追いきりまで見守る。GOサインはそこで決める」

 

「それでも良い……必ず勝つ」

 

 

 

 

 

 

 

「人が変わりましたねミッションタイマーさん……デジタルトレーナー」

 

「幻覚が見えていたことに気がつかなかった私の責任だ……たぶん幻覚が見えなくなったことでようやく補助輪が取れたんだろう」

 

「補助輪ですか?」

 

「黒子と白子と言ったか……その二人が居たことで辛い現実から隠れていたんだ。それが無くなって少しばかり堂々とできるようになったんだろう」

 

「……ただ今のミッションタイマーさんは怖いです」

 

「ダービーはそれだけ人を狂わせるんだ……エアシャカールちゃん達がダービー出てた時も人が変わったような子は居たからね……トレーナーは支えることしかできないからそこが辛いね……メジロエンジンちゃん、私生活で無茶しないように見張ってくれないかい」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日本ダービー……その戦いに勝てれば引退しても良いと言ったトレーナーがいた

 

 その戦いに勝てれば燃え尽きてもかまわないと言ったウマ娘がいた

 

 多くの人、ウマ娘を狂わせる

 

 熱く、激しい戦いが今始まる

 

 勝負の世界へようこそ

 

 日本ダービー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今年のクラシッククラスのウマ娘達が姿を現します実況はわたくし赤坂と解説の』

 

『竹ですよろしくお願いします』

 

『竹さん、今年もやってきましたねこの季節が』

 

『ええ、昨年も熱い戦いが繰り広げられました。今年の最も幸運なウマ娘が勝つこのレース誰が制するのでしょうかね』

 

『やはり注目はエアエンジェルとデーモンコアでしょうか』

 

『そうですね、エアエンジェルは前走の皐月賞では惜しくも2着でしたが驚異の末脚で会場を湧かせてくれました。デーモンコアはNHKマイルカップを勝利し、誰かが言い出したか解りませんがマツクニローテに挑みます』

 

『NHKマイルカップと日本ダービーを勝つことによる変則二冠ですね。このローテを勝ったウマ娘は必ず強いと証明されますからね……中2週を連続で行ったデーモンコアの疲労は大丈夫でしょうか』

 

『脚部異常の報告は有りません。パドックでの様子でわかるでしょう』

 

『さぁパドックになります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『1枠1番ワクチン』

 

「熱烈大歓迎!! ワクチン様だ!!」

 

『皐月賞では5着でしたが今回も見せてくれるかワクチン劇場!!』

 

『1枠2番サイタマ』

 

「さいたまー!! さいたまー!!」

 

『青葉賞2着の実力バです。ここでも末脚爆発かサイタマ』

 

『2枠3番エアエンジェル!!』

 

「……ダービーは取る」

 

『人気と実力と美貌を兼ね備えています。今日こそその美しき容姿をウイニングライブで見られるか!!』

 

『いつ見ても美しいですね』

 

『2枠4番シンボリウオッチ』

 

「今日はルドルフさんも来てる……無様な姿は見せられない!!」

 

『手を振っている先には居るのはシンボリルドルフでしょか』

 

『注目されてますね』

 

『3枠5番テイエムジュール』

 

「オペラオー様! 勝ちますから見ていてくださいまし!!」

 

『青葉賞1着の差しウマ娘です。その末脚を今日も見れるか』

 

『3枠6番オーシャンブルー』

 

「絶対勝つ!!」

 

『こちらはプリンシパルステークスの勝ちウマ娘です。得意の幻惑戦術で勝利を狙います』

 

『4枠7番タダノエスプレス』

 

「今日こそ勝つからね!! 応援よろしく!!」

 

『皐月賞で不発だった豪脚を今度は見せてほしいですね』

 

『4枠8番メジロファンタジー』

 

「4強最強は私だー!」

 

「ファンタジー頑張って!!」

 

「ファンタジーさん応援してます!」

 

『メジロ家の応援団も応援に熱が入ります3番人気です』

 

『5枠9番スピアーノ』

 

「ダービーは絶対取る!!」

 

『皐月賞よりも調子が良さそうですね7番人気です』

 

『5枠10番エイシンサレンダ』

 

「今日はペースメーカーなんて言わせない」

 

『前走では不本意にペースメーカーとなりましたが今回こそ計算された先行策を取りたいところ』

 

『6枠11番デーモンコア』

 

「変則二冠取れよデーモン!!」

 

「お前の強さ見せてくれ!!」

 

『熱い声援がここまで聞こえてきます2番人気デーモンコア、変則二冠に向けて出撃……現在G1最多の2勝です』

 

『6枠12番スカーレットリボー』

 

「スカーレットの意地を見せつけるわ」

 

『前走ではバ群に沈んでしまいましたが、強さは折り紙付きです』

 

『今日も頑張ってほしいですね』

 

『7枠13番オリエンタル』

 

「マッスルマッスル!!」

 

『今日もキレッキレの筋肉ですね! フィジカルの強さはピカ一です』

 

『7枠14番マチカネソーマ』

 

「シラオキ様!! 今度こそ」

 

『今日も天に向かって祈っています! 頑張ってほしいところです』

 

『8枠15番スイープミドリ』

 

「……全力で勝ち取る……ダービー」

 

『相変わらず壊れないサイボーグっぷりです。無事之名バの体現者として勝利を目指してほしいですね』

 

『8枠16番ミッションタイマー』

 

 

「……」

 

「おいおい大丈夫かよ」

 

「体重マイナス10kgだとよ」

 

「なんで8番人気なんだ?」

 

「皐月賞勝ってるからじゃね?」

 

「いや買ったやつバカだろガリガリじゃねぇか」

 

「なんでこんな状態で出したんだ……トレーナーもバカだろ」

 

『……大丈夫でしょうか』

 

『見た限り状態は悪いようですが健闘を期待しましょう』

 

 私を見て皆私の勝利を切っている

 

 期待されていない

 

 そうだ、それで良い

 

 勝つには私は居ないものとするのが良い

 

 私の第一関門はクリアーした

 

 ……持ってくれ私の体……ダービーを取って菊花賞も取って……誰がこの世代の覇者か教えるんだ

 

 

 

 

 

『9枠17番ディープバズーカ』

 

「今日こそバクシンします!!」

 

『見せてくれるかバクシン魂』

 

『9枠18番カレンダー』

 

「せっかく出れたんだ!! 伏兵でもなんでも良い1つでも良い順位を!!」

 

『以上18名フルゲートで行われる日本ダービーです』

 

『どの子が勝つのかわかりませんファンファーレが始まります』

 

 

 

 

 

 好スタートから後ろに圧をかけながら最後尾に下がる

 

 体調が悪いのは周知の事実

 

 無理できない、リタイアしたと思わせることが第二関門だ

 

 

『東京レース場芝2400メートル灼熱のダービーが始まります』

 

『ゲートに全員入りました』

 

 ガコン

 

『スタートです16番ミッションタイマー好スタートそのまま逃げるか……いや失速しています』

 

『やはり体調が厳しいのでしょうか』

 

『やや斜めに下がっていきますオリエンタル、マチカネソーマ、スイープミドリの3人がやや不利を受けたか』

 

『これは妨害にはなりません。ならないように下がっていますが3人は走りにくそうですね』

 

『ペースを作るのはシンボリウオッチ先頭です。その後ろにぴったりとエイシンサレンダ、タダノエスプレスが1バ身離れた所に居ます』

 

『エアエンジェルはここ! エアエンジェルをピッタリマークするのはメジロファンタジー、デーモンコア、スカーレットリボー4強はここで固まっております』

 

『ワクチンが今回は8番手先頭集団はこの位置まででしょうか団子のように固まっております』

 

『3バ身離れてスピアーノ、ディープバズーカ、オリエンタル、カレンダーと続きます』

 

『1バ身離れてスイープミドリ、サイタマ、テイエムジュール、オーシャンブルーまでがポジション的には差しでしょうか2バ身離れてマチカネソーマ、最後尾にミッションタイマーです』

 

『綺麗に先頭集団と後方集団が別れましたマチカネソーマとミッションタイマーは厳しいか』

 

『オーシャンブルーが中段までポジションを上げていきます。それを不気味にサイタマが追っていきます』

 

『先頭シンボリウオッチ第一コーナーから第二コーナーにさしかかります』

 

『タダノエスプレスがエイシンサレンダを抜かして2番手につきます』

 

『スローペースですね。これは直線勝負になりそうです』

 

『後方集団が先頭集団との間を詰めていきます上空から見ると最後方のマチカネソーマとミッションタイマー以外は団子になっていますね』

 

『1000メートルの通過タイムは1分02秒0です』

 

『やはりスローペースですね』

 

『ミッションタイマーがマチカネソーマを抜かして後方集団に追い付きます。先頭はまだシンボリウオッチです』

 

 第二関門クリア

 

 後は自分との勝負! 

 

 皆騙されろ

 

『エアエンジェルがメジロファンタジー、デーモンコア、スカーレットリボーを牽制しています……スカーレットリボーかかってないか? ペースを上げます』

 

『悪手ですね。ペースが乱されています』

 

『ワクチンがポジションを上げ今メジロファンタジーに追い付きました』

 

『いや~混沌としてきました互いを牽制して出方をうかがっています』

 

『第三コーナーを終えて第四コーナーに入ります』

 

『後方集団がざわついています』

 

『どうしたんでしょうか?』

 

『シンボリウオッチからスカーレットリボーに先頭が変わります』

 

『府中の直線は長いぞ』

 

『500メートル超えの直線……これは末脚勝負になりそうです……ん?』

 

『最後尾の一団に居たハズのミッションタイマーが大外を回って先頭に躍り出た』

 

『外ラチギリギリの奇襲に先頭集団が気がついてない』

 

『2バ身、3バ身離していく! どこにそんなスタミナが残されていたのか!』

 

『残り400メートル坂を登っていきます』

 

『スカーレットリボーはここまでかズルズル後退していきます』

 

『ワクチンが集団から飛び出た! しかし後ろから凄まじいプレッシャーを放ちながらやって来るのはエアエンジェル!』

 

『エアエンジェル仕掛けた!! マークしていたメジロファンタジーとデーモンコアも追撃を開始』

 

『シンボリウオッチを抜いて、タダノエスプレスも抜いて、エイシンサレンダも抜いていく!!』

 

『残り200メートル先頭はまだミッションタイマー!! ここで更に加速していく』

 

『どこにそんなパワーが有るのか!!』

 

『エアエンジェル抜け出した残り100メートル』

 

『凄い末脚!! しかしまだ先頭はミッションタイマー!! これは皐月賞の様に間に合わないか!!』

 

『残り50メートルエアエンジェル笑っている! そこは先頭じゃない!! 見えていないのか!! 先頭は黒鹿毛の少女だぞ』

 

『メジロファンタジー、デーモンコアも集団から抜け出した! しかし彼女らは見えているミッションタイマーの姿が!!』

 

『今ミッションタイマーがゴールイン!! 半バ身差でエアエンジェルが続くエアエンジェル拳を上げた! 違う君じゃない! 勝者は黒い髪の毛を靡かせたガリガリの少女……ミッションタイマーだ!!』

 

『3着メジロファンタジー、4着デーモンコア、5着意地を見せましたスカーレットリボーです』

 

『4着まで皐月賞といっしょです! またしてもエアエンジェル2着!! 誰が予想できたか! 体調不良を気合いと策略でクリアーしましたミッションタイマー!!』

 

『勝ち時計は2分23秒4!! 賞金2億円を手にしたのはミッションタイマーとチームガンマです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミッションタイマーさんおめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「闘病生活をえて掴み取ったダービー、作戦通りでしたか?」

 

「勝つためにはこれしかないと思いました。作戦通りならもっと楽に勝てたと思います」

 

「半バ身差の決着見事でした……次のローテは決まってますか?」

 

「次は体調次第ですが札幌記念から再始動したいと思っています」

 

「体調を戻して頑張ってもらいたいです」

 

「はい! 頑張ります」

 

 

 

 

 

 

 

 ウイニングライブはやっぱり困惑の声が大きかった

 

 上がり3ハロン最速はやっぱりエアエンジェルさんだし、運が良かっただけと思われてるみたい

 

 菊花賞で観客に思い知らせてやる

 

 誰がこの世代の覇者かを


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