彼らの奇妙な冒険‐シンフルクルセイダーズ‐   作:ウグイス将軍

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戦慄の侵略者

 県立石矢魔高校。

 ヤンキー率一二〇パーセントと呼ばれる県下最凶の不良校だ。三歩歩けば不良に絡まれるこの学校で、異彩を放つ男がいた。

 男鹿辰巳。

 デーモン、アバレオーガなどの異名を持つその男は、機嫌でも悪いのかただでさえ目つきの悪い顔にさらに鋭さを増していた。

 だがその日は、そんなものよりもさらに存在感があるものがいた。

 それは男鹿が手にもった筒状の物体であり、そしてアバレオーガと恐れられた男の背中にしがみつきながら器用に眠っている者だ。

「よーやく眠りやがった」

 目元に隈が出来ている男鹿は、あくびをしながら手の玩具、ガラガラを鳴らしそう言った。

「・・・お前、なんで連れてきてんの、王子」

 校舎の外で弁当を食べていた古市が男鹿の背中にしがみついている赤ん坊を見てひきつった顔をしていた。

「古市、聞いてくれ」

 珍しく、男鹿は憔悴している様子だった。

 顔を青ざめながら、ため息をつくように男鹿は口を開いた。

「オレんちは、もうだめだ」

「ふざけんな! オレんちのがもっとだめだ! 一昨日から半壊してんだぞ!!」

 「きけこら」とわめく古市を気にせず、男鹿は問答無用で回想を始めた。

 

「というわけでございまして」

 夕方の六時ごろ。夏のため、まだ日も暮れきっていない時間帯。

 夕飯のため、男鹿家の全員が居間で寛いでいた。

「今日からこの子共々お世話になります。ヒルデガルダと申します。ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 そんなお茶の間に爆弾をぶちこむゴスロリ少女。

 全員もれなく固まっていた。

「まてまておい。なんだその誤解をまねく言い方は」

「ん? なにか問題でも?」

「大アリだ!!」

「しかしこの国ではこうするものだと聞きました」

「誰情報だこら!! 前提が間違ってんだよ!!」

 男鹿は冷や汗が止まらなかった。男鹿の父に母、姉の全員がヒルダと、そしてその横にいる赤ん坊、ベル坊を凝視していた。

「だいたい言ってんだろ。オレは親だなんで認めねーっつの!!」

 親。という単語に男鹿家は強烈な動揺を食らったが、男鹿はそれに気づいていない。

 そんななか、なんとも愉快な笑い声が部屋の入口から聞こえてきた。

「おいおい、何をいまさらそんなこといってるんだ」

 扉の前に立っていたのは、青い軍服のような服装の男だった。整った顔立ちは東洋人のそれではなく、どこか凛々しさを感じさせる。

「あ、あなたは?」

「ロイ・マスタング。そこのヒルダの連れ、まあ兄みたいなものです」

 ロイはそうにこやかに笑いながらヒルダの肩に手を置こうとして力強くはじかれていた。

「それよりも男鹿辰巳よ。あれだけのことをしておいてこの子の親だと認めないなんて、男としての甲斐性がないんじゃないか?」

「だから誤解を招く言い方すんじゃねーよ!!」

 そんなやり取りを聞き、我慢の限界が来たのか男鹿家の大黒柱、男鹿洋次郎が机を叩いた。

「辰巳!! お、お前子供まで作っておいて、しかもそれを認めないだと!!」

「ちょ、ちょっとまて。だから誤解だって」

「なにが誤解だ! どう見てもお前の子じゃないか! 目元なんてそっくりだぞ!」

「そっくりじゃねーよよく見ろ!」

 父子でどなり合っているなか子供のほうを見ると、「あらほんとそっくり」「小さい頃の辰巳を思いだすわぁ」「あんたどこの国のひと?」「アメストリアです」「どこだっけそれ。日本語達者ねー」と、女連中がめちゃくちゃなじんでいた。先ほどまで父と一緒に固まっていたはずなのにもうすでに受け入れている男鹿家の女に父子共に絶句してしまう。

「ひ、ヒルデガルダさん、それにロイ・マスタングさん!!」

 洋次郎は男鹿の頭をつかむとヒルダとロイの下に滑り込むように頭を下げた。洋次郎の伝家の宝刀、スライディング土下座である。妻と娘には白い目で見られている。

「本当に至らん息子で申し訳ない!! こいつには責任もって育てますので、今後とも一つ、よろしくお願いします!!」

 「おら、お前も頭を下げろ!!」と男鹿の顔面も床に叩きつけた。

「いえ、こちらこそ」

 それに対し、目の前の悪魔のような女は憎たらしいほどに良い笑顔でそう言った。

「ヒルダとお呼びください」

 数時間後。

 ヒルダ達も同伴で夕食を済ませ、家族の対応に疲れながらもようやく男鹿は自分の部屋に逃げ込むことができた。

「てめぇらいい加減にしろよ。人の家族取り込みやがって・・・」

「仕方あるまい、貴様が坊ちゃまに選ばれてしまったのだから。あと夕飯うまかったぞ」

「くつろぎすぎなんだよ!!」

 精神的に疲れ果てた様子の男鹿に対し、ヒルダはお茶をすすり悪げもなしに言った。

「だが、君も気になっているんじゃないか? 己の身に宿った力について」

 それは、男鹿の椅子に勝手に座りながら同じくお茶をすすっているロイの言葉だった。

「あぁ? こいつのことか?」

 男鹿はそれ(・・)を出した。

 『自分自身を横にずらす』といった感じだった。言葉では説明しにくいそれを、男鹿は感覚的にやることができた。

 全身緑の、不気味な実態。背中には蟲のような羽が生え、緑の学ランと、なぜかおしゃぶりを加えている。

「結局なんなんだよ、こいつは」

「言っただろう、それは君の『スタンド』だと」

「だーからスタンドってなんだって言ってんだろうが」

 夕方のあの時から出してはいなかったが、男鹿はその存在が自身の体にあることを常に感じ取っていた。

幽波紋(スタンド)。生命エネルギーが形になって現れた存在」

 ベル坊を膝に抱え座るヒルダが、お茶を置きながら口を開いた。

「いわばそいつは、形をもった超能力みたいなものだ。物体を動かしたり、破壊することはもちろん、スタンドにはそれぞれ特殊な能力をもつ」

「例えば、私の『焔の錬金術師(サタン)』は指を鳴らすことにより焔を操ることができる」

 そういうロイの手には、先ほどまでなかった手袋がはめられていた。甲に赤い魔方陣のような模様が刻まれた、白いグローブだ。

「スタンドとは本来、生まれついての発現する。それも極まれに生まれるものだ」

「スタンドはスタンド使いにしか見えない。そのため、スタンドの存在を知るのも極少数になる」

「・・・じゃあなんでオレがこんなもんだせんだよ。オレはこんな気持ち悪いもんみたことねえぞ」

 その男鹿の言葉に、ヒルダはあきれたようにため息をついた。

「だから言っておるだろうたわけ。貴様は坊ちゃまに選ばれたのだと」

 なんども聞いた台詞。この赤ん坊、アメストリスという国の王子。このふてぶてしい顔の王子に選ばれた、と。

「ベルゼバブ家は、昔から表に出ない脅威を相手にしてきた。それは普通の人間だけではなく、存在自体表ざたにはできない化け物も含めてだ」

 お茶を飲み干したロイは淡々と話をつづけた。

「それを可能にしたのが、ベルゼバブ家が代々受け継ぐ『力』」

 曰く、それはかの昔に、ベルゼバブの祖先が脅威をたおすために身に着けた力が、代が変わるごとに変化していったものだという。

 強大な力で、ベルゼバブ家はその力と、アメストリスの軍事力を持って脅威を排除してきたのだと。

 そして、オール・フォー・ワンもかつて、その力によって封じられた脅威の一つだった。

「百年前。やつはベルゼバブ家の力によって打倒されたと考えられていた。だが生き延びており、数か月前に復活したのだ」

 そして、オール・フォー・ワンは復活を知られる前に、自らの脅威となるベルゼバブ家を滅ぼそうとした。だが、直前で自体を察知したベルゼバブ三世が息子のベルゼバブ四世を逃した。ベルゼバブの血筋を絶たせぬために。オール・フォー・ワンを、今度こそ打倒すために。

「・・・だが、ベルゼバブ四世。坊ちゃまにはまだオール・フォー・ワンを倒すだけの力がそなわっていない」

 そう言うヒルダの膝にいるベルゼバブ四世、ベル坊は、見ての通りの赤ん坊だ。巨悪を倒すための力も、育っていない。

「だが、坊ちゃまが育つのを待っていればオール・フォー・ワンはこの世界を支配してしまう」

「だから、そのためにベルゼ様の力を引き出すことができる者を探していたのだ」

 ベル坊が、その力を託すのに足る人物。

 ベル坊が信頼することができる人物。

 それが、男鹿だったのだ。

「・・・いや、なんでオレなんだよ」

「ベルゼ様は強いものに惹かれるのだ」

 もっともな質問をした男鹿だが、ロイから言われたその答えに、少しいい気分になった。

「そしてベルゼ様はどうも性格がひねくれていてな。卑怯で残忍で人を人とも思わぬクソやろうだとなおいいようなのだ」

 しかし付け足されたその項目に固まってしまう。

 どれもこれも完全に当てはまっていた。

「巻き込んでしまって申し訳ないとは思っている」

 改めって、ロイはまっすぐな目で男鹿の顔を見ていた。うちに秘めた誠実さがわかる、綺麗な目だ。

「だが、こちらも手段を選んではいられないのだ。力を貸してほしい」

 その真摯な言葉を聞いた男鹿は、

「ぜってーやだ」

 思いっきり顔をゆがめて即答した。

「なにが脅威だ。オレはそんなめんどくせーこと絶対やらねえからな」

 取りつく島もないとはこのことだろう。あんな話を聞いておいてなんの躊躇もなくここまで言える者もなかなかいないのではないだろうか。

 だが、ロイ達は特に困惑も動揺もしなかった。

「だが、オール・フォー・ワンの刺客は近いうちにやってくるだろう。それがなくとも、君はいずれ戦うことになる」

 脅しだとかそういったものではなく、ただそういった事実をつげるように、ロイは言った。

「なぜなら、スタンド使いは引かれあうものだからだ。まるで、そう決まっているかのように」

 

「ちょっと待て。てめえあの金髪ゴスロリ巨乳と一つ屋根の下で寝たのか?」

「・・・そこかよ」

 国がどうたらという話を聞いた後の感想ではなかった。だが思春期盛りの男・古市にとっては重要事項だったらしく、ロイというおっさんもいたのに「ふざけんなオレが半壊した家でしょっぱい思いしてる時にてめえだけいい思いしやがって」とわめいていた。

「・・・しかし、お前思ってたよりもやばいことになってんな」

 改めて、ことの深刻さを思いしった古市。

「まったくしょうがねえやつらだぜ。人の迷惑をまるで考えてねえ」

「お前もな」

 いま、二人は校舎の外を歩いていた。少し行った先に、アイスの自動販売機があるのだ。

 昼も過ぎて思いっきり授業中なのだが、校舎の外には普通に生徒がはびこっていた。

「で、なんでお前その子連れてきてんだよ」

「いやな。こいつ少しでも離れると泣きだすんだよ」

 泣く、という言葉で、古市は一昨日のことを思い出していた。

 あの、地獄のような惨事。雷の渦を。

「・・・まじかよ」

「ああ、十五メートル以上離れると死ぬらしい」

 さらっと言うような言葉ではなかった。なによりも恐ろしいのが、それが冗談だと断定できないことだった。

 そんな物騒な話をしながら、自動販売機のある場所へ続く階段を上っていた、そんな時だった。

 男鹿の肌が、なにかを感じ取った。

 突き刺すような、鋭い感覚。

 喧嘩慣れしている男鹿にとっては慣れた、だが、これまで感じたこともないほどの、殺気だった。

 瞬間、男鹿の体が吹き飛んだ。脇腹をえぐるようにして、なにかが男鹿を吹き飛ばしたのだ。

「男鹿っ!?」

 階段のかなり上のほうから転落したが、なんとか持ち前の反射神経と身体能力で受け身をとり、すぐさま辺りを見渡した。だが、辺りに人の気はなく、男鹿に当たったと思われる道具もなかった。

 ふと気が付いたのは、脇腹、なにかを食らったあたりが、濡れていることだった。

「どうした男鹿。いきなり転げ落ちて」

 慌てて駆け寄ってきた古市を睨めつける男鹿。

「古市・・・てめえの仕業か」

「は、え、なにが!? お前が一人で吹っ飛んだんだよ!」

 そうやって言い合っていると、痛みも消えていった。

 もう一度周りを見たが、やはり何者もいなかったため訝し気に思いながらも、男鹿は古市をつれてその場を去った。

「にゃー。アレが、男鹿辰巳、か」

 それを陰で見つめる男がいたことに、男鹿はやはり気が付かなかった。




スタンド名-焔の錬金術師≪サタン≫
   本体-ロイ・マスタング

破壊力-A  スピード-C 射程距離-B
持続力-A 機密動作性-A  成長性-C

能力-指を鳴らすことによって炎を発生させ操ることができる。空気が乾燥していないと使えないため、雨が降っていたり使用者自体が塗れていたりすると能力が使えなくなる。
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