戦場より電海へ、再会を望む便りを   作:来亜昌

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設定の矛盾に気づいたので頭を抱えながら投稿させていただきました。
そして謝罪をします。申し訳ありません。ネフホロでは弾同士は干渉しないことを失念していました。原作改変のタグ通り、このユニバースでは、弾同士が干渉するということで何卒お願いします。
他に、榴弾砲よりも、カノン砲の方が適当であると判断した為、この回より変更をさせていただきました。重ね重ね、申し訳ありません。


天地を縫いて凶兆を告げよ

side 【“Leonardo ・artigliere(万能の砲手)”】

 

「右背部カノン砲残弾、三十%』

 

無機質な音声に注意を促されるが、既に合図は出ている。残弾には構わず、カノン砲で私達にも攻撃を仕掛け始めた羽付きを堕とす。

戦線(ライン)を上げた今、モノの通信妨害圏の境目で戦闘は進行している。foolやクトゥルンへの支援砲撃が不可能になった為に、一つの戦闘に集中できる状態だが、少々数が多く、手間取っていた。

 

「予想以上の数ね」

 

同じ考えを持たれていたようで、指揮者のようにピットを操作する姫も、鬱陶しそうにされている。

私の機体と姫の機体は、射撃に偏ってはいるものの、接近拒否は比較的できる部類。敵を遇らうのはそう難しいことではないが、数機、十数機が絶え間なく、しかも数の補充がすぐ為されるとなると、最終的に近接攻撃で応戦することもしばしばあった。

極力、姫にリスクを背負ってほしくはないので、その都度、近接攻撃手段が豊富で、装甲も厚い私が対応に務めたかったが、姫の「私がやるわ」の一言には逆らえず、任せきりになってしまっている。

 

「っ。やはり、少し退くべきではないでしょうか。姫お一人でこの数と立ち向かうのは、やや厳しいかと」

「退いても、確実に撃ち抜ける自信はあるのかしら?」

「…断言はできません」

「なら、此処にいるべきよ。最終的に、貴方が万全のコンディションで撃てれば良いのだから」

「しかし…」

 

ビームシューターピットで滑走する敵の足元をおぼつかせ、派手に転んだ隙にソードピットでコアを貫く。それと並行して、羽付きの右翼を左斜めに切りつけ、不安定にさせた所を集中砲火で一気に堕とす。

守る行為が烏滸がましく思える操作を、私との会話と並行して行われる姫に、返す言葉が見当たらず、口を閉ざす。

今作戦の要である私は、最終段階であるプロットFに移行すると、約二十秒置物と化してしまう。そしてその間、姫が私という荷物を抱えた状態で、一人で戦闘を行わなければならない。

想定以上の数であるとはいえ、作戦立案時にこの段階で守られるという役割を承諾した以上、今更私がどうこう言うのは筋違いだ。

…筋違い、なのだが。

 

「それとも、私では力不足かしら?」

「そのような、ことでは…」

 

敵を処理しきれず、私を庇い、姫が脱落する。いざその可能性が迫ると、体が強張り、それが許容できなくなっていく。

 

「…はぁ」

「…申し訳ありません」

 

溜息に、私はただ謝罪しかできない。

沈黙が続く。カノン砲の長砲身を羽根付きが移動する先に向け、硝煙を連れて飛び出すAP弾で胸元を抉り貫きながら。左腕に持つライフルで狙いを定めていた脚を砕いた敵を、左脚部の無誘導ミサイルで炭にしながら覚悟を決めようとするが、本当に良いのか?と自問が投げかけられ、答えられない私は、結局覚悟を決められずにいる。

時間は有限だ。現在も二人は戦っていて、バリアを破壊しようとしている。私が姫を想う権利も、時間も、一抹たりともない。

燻りを解消しようとするも、敵を撃破するようにはいかず葛藤する私に、姫は微笑した。

 

「ふふっ。何時までたっても変わらないわね」

「…申し訳ありません」

「責めてないわよ。ただ、貴方はあの頃から、ずっと変わってないって思っただけ」

 

平常とは異なり、年頃の少女らしさが垣間見える穏やかな声調で、姫は追憶する。

 

「覚えてる?貪牛を倒そうとして、大失敗した時のこと」

 

刹那、鋼の躯体が鈍る。

硬直を振り解き、どう返答するべきか悩んだ挙句、私は無難に肯定の二文字を発した。

 

「はっ」

「当時は慢心していて、貴方の言葉に耳を傾けなかった。なのに貴方は、皆がボロ雑巾みたいに吹き飛ばされて、作戦が失敗に終わっても、私を逃がす為にたった一人で殿を務めてくれたわ」

「…仕える者として、当然のことをしたまでです」

 

あまり自ら触れない過去を語る姫は、今でもそうするであろう私の取った行動を突然賞した。

何故今褒められたのか。当惑する私を余所に、姫は話を続ける。

 

「リスポーンして、再会しても、皆と力不足でしたと謝ってくれたわね」

「私に力があれば、遂行は可能でした」

「いいえ。あんな稚拙な作戦では不可能よ」

 

結果は不変。冷却の為、ビームシューターピットを一機ずつ繰り替える姫は、先端を黄に染めた掴みどころのないうねる両腕で、近接型の敵を射程外から交差するように脚を断ちつつ、譲らない。

自他共に厳しく接している姫は、その事件が起きてから一層自身を律した。悔やんでいる意見の汲み取りは勿論。全盛期は百を超えていた家来を纏めるカリスマを研削し、資材の管理や武器の状態、他の勢力の動向にも目を張り、何とか止められたが、姫自らが戦う術を身に付けようとしたこともあった。

あまりそういった類のものに精通していない家来達に代わり、様々なことを一人で回していた姫が、過労で足取りを崩したこともある。しかし、幾度となく頼ってくださいと誰もが頼んでも、並みの少女には持ちえない頑固さで譲ろうとはせず、約三週間、説得が完了するまでそんな生活が続いた。

ただ家来が、ゲームで一度死んだだけ(・・・・・)であるのに。姫の働きに見合うようなことは、何一つとしてなかったのに、だ。

 

「…私は、死を軽視していたわ。所詮は、遊戯の中に過ぎないって」

「違いありません。所詮は遊戯の中。仮初の命を投げ出すことなど、姫の苦労の前には」

「でも…それは違った(・・・)

 

支えを失った敵のコアに、姫は力強く右腕の溶断剣を突き立てる。

 

「まるで機関車の汽笛だった、草木を捥ぎ取る鼻息を立てて。およそ日常生活では耳にしない異音を、魔豚を含んだ口から発して。私の命を聞いてくれた皆だったものに塗れながら、理性の認められない血走った目で、次はお前だって睨まれて」

「…」

「いざ直面して、漸く私は自分の浅はかさを理解したわ。所詮と蔑していた世界は、それこそ所詮非力な少女が振ればカラカラと音を鳴らす頭で夢想した、物語の主人公として輝く舞台とは程遠い世界だって」

「っ間違いは誰にでも起こり得るものです。姫がご自身を卑下なさる必要はありません」

 

姫は緩慢な動きで首を上げ、自嘲気味に音を揺らす。ピットの操作には微塵の乱れも発生させず、精彩な機動で空を滑らせながら。

目を逸らせば、波紋のように跡形もなくなってしまう気がして、私は喉から上がってきた言葉を手をつけることなく口から出した。

 

「優しいわね。でも、私は貴方を、皆を、この手で弄び、殺めたのは覆しようのない事実よ」

「私共は、死を承知の上で姫に付き従っています。命に沿い、地に還るのであれば本望です」

「貴方と皆はそうかもしれない。けど、覚悟を持たない私に、そうしてもらう資格自体が無いわ」

 

だから、と姫は纏う雰囲気を儚く散りそうなか細さから、一片の歪みなく張った弦が如き威に一変させる。そして眩い太陽から遠ざけるかのように首を下げ、橙色のモノアイで、きっぱりと正面を見据えた。

 

「私は貴方と皆を、例え血を流してでも守れるように、私なりの方法を模索して、努力すると誓ったの。死を厭わない働きに報いれる、主として恥ずかしくない姫になる為に。無論、今もよ」

「なりません。血を流すのは、私共の役目です!」

「そうね。孤島ではそう言われたわ。でも、この世界ならどうかしら?血はおろか、痛みさえ感じない。死んでも、暗闇に少し包まれるだけ。生温いことこの上ない」

 

確かに、あのもう一つの現実を体現した孤島に比べれば、生温いかもしれない。しかし、私は、私共の為に姫が谷底に身を投じるなど、無二の恐怖であり、遊戯の中であっても、とても受け入れられるものではない。

心の内から洩れ、漏れた不安が震えとなり、震える唇を開いて姫に送る文が、何よりも的確に私の心の内を伝える。

晴れない不安を払おうと、無尽の敵を腰部の機関銃で撃ち退ける私の数歩先にいる。その身に悉く大きな貫録を詰める小さき姫は、意を知ったうえで、退かなかった。

 

「大丈夫、ではないかもしれないけれど、心配は要らないわ。もう私は、あの慢心に満ちた()じゃない。実力を客観的に分析して、いけると判断したから、挑もうとしているのよ」

「…」

「…ふふっ。本当に、貴方は変わらないわね。タイムスリップしてきたのかしらと考えるぐらい、変わらない」

 

過信(家臣)でなく、自信(自身)を以って制すると物語る背に、私は想起した。

灯台の灯りも見失い、総舵手も失って孤島を彷徨う私の舵を取った、高嶺の花のような彼女を。自身に満ち溢れた瞳をする、一等星のような姫との邂逅を。

相応の対価をあげるから、私の忠実な家来になりなさい。そう言いきった姫に、私は慌てて膝を突き、話を受けた。受けたのだ。忠実な家来として、姫に仕えると。

そうだ。私は受けた。一等星の光を、微々たる距離でも近くで眺められるように。もう迷わず、歩けるように。

だとすれば、私がすべきことは、一体なんだ。

 

「…ぁぁ」

 

思考がついに答えに至り、全身から強張りが消えた。

沼底もかくやという濁りは去り、視界が鮮明に映った。

 

「…fool。そこで観ていて。ここで私が、証明して見せるから」

 

初めて海に潜り、目にした空を泳いでいるような幻想的な光景にも勝る、今の光景。中でも姫は、記憶にあるどの星よりも輝いていた。

私はただの馬鹿者。己が目的すら持てず、人生を無意味に浪費するだけのfool(愚者)

そんな私を導いてくださる姫の輝きを、遮ってはいけない。

 

「…仰せのままに」

 

瞬間、モノのコアを守護する障壁がひび割れ、やがて砕け散った。

姫は、私と掛け合うこともなく、顔を見合わせもしない。攻撃を停止した私も、同様に。

姫の輝きを遮る(モノ)は、私の全力を尽くして排除する。

迷いの壁を打ち砕いた私は、決意を胸に姫に守られながら、あるコードを宣言し。

 

εσύ,κομήτης σκοπευτής(汝、妖星の砲手)

 

貯蓄しておいたエネルギーを喰らい尽くす。

 

『…認証』

 

切り札(・・・)の、目蓋を上げた。

 

 

 

『―――オクタ・カタスヴァシィ、起動』

 

 

 

 

 

時に、Nephilim Hollowには、未確認文明浸食武装という武装カテゴリが存在する。

十二の天災に属する機衣人の、それぞれの最高難易度をクリアすると一定確率で入手ができるもので、観賞用に入手するプレイヤーが殆ど。実際の戦闘では用いられず、それを組み込んだ構築を愛機とする者は、端的に表現すれば過疎っているゲーム内でも、両手でこと足りる程しか存在しない。その理由としては、単純な使いにくさ(・・・・・)が大部分を占めている。

例として、ヘキサ・モイラ(以降、ヘキサと略する)を挙げよう。ヘキサは、すべてにおいて性能が平均以上の弾を発射できる代わりに、六種の弾から発射するものを選択できないデメリットを保有している。このデメリットにより、状況に不適切な弾を撃ってしまうことが多く、また、敵が使用していた際は弾数が無限だったのに対し、プレイヤーが使用する際は弾数に制限が付けられてしまう。環境を一新してしまうのではないか、という期待が密かにあったが、期待と共に倉庫に送られてしまった悲しき武装でもある。

そして問題なことに、このヘキサの使いにくさを、他の未確認文明浸食武装は蟻を飛び越えるように軽々と超えてしまった。中でも、とびきりの癖を持つ武装の一つが、武装と同様にドロップで手に入るコードの宣言により起動した、オクタ・カタスヴァシィ(消滅の八)である。

 

「…」

 

万能の砲手が、背部に装備した長方体から二門のカノン砲をパージし、ズゥン、と重厚感のある音を響かせる。次に、機銃など物ともしないずんぐりした脚部を、縦断されたかのように分離して、二人が背中合わせになるかのように膝を曲げ、四脚形態へと移行した。

邪魔なものが取っ払われ、自由になった長方体。オクタ・カタスヴァシィは、枯渇した川に水を流しむが如く、金茶色(機体色)の表面の線に薄紫を満たし始め、次第に濃く、光度も高める。そして、エネルギーの充填が終了した時、蕾は綻んだ。

 

『保護防壁、開錠』

 

背部に直接繋がる箇所と、支える下部を別として、保護防壁が徐々に開き、内部に秘めていたものを露わにする。

カノン砲ですら、対象にならない太さと厚みを併せ持った砲身。複雑怪奇な凹凸に動力ラインが無数に走る、不明特殊弾生成装置。何より、無窮の星海を凝縮した色。

異様という他ないその武装は、正しく宇宙の産物であった。

 

「「「「…!!」」」」

 

戦場の様相が急変する。ベティヴィエールや超越者の付近にいた個体を除いた敵全てが、一斉に万能の砲手へヘイトを集中させた故に。

何故か。原因は至極単純。万能の砲手を放置すれば、コアを露出したモノは、たったの一撃(・・)で命を絶たれる可能性があるからだ。

 

『砲台形成、履行』

 

オクタ・カタスヴァシィが設置されている防壁が、固定された上部に負担を掛けつつ途中から折れて時計回りに持ち上がる。やがて水平になると、背部に繋がっていた二枚壁の一枚がまた時計回りし、収納されていた防壁を地面に投下。姿勢を安定させる。

後は砲身を連結して、標的に狙いを定めつつ、特殊弾の生成を待つのみ。だが、モノとモノが生産した敵機衣人、ピットは、蛮行を許しはしない。

万能の砲手の近辺にいた射撃機体は無防備な体に銃を構え、近接機体は首を撥ねんと鬼気迫る速度で剣を固く握り、ピットは多種の攻撃を仕掛け、モノは粒子砲で多大な被害をもたらそうとする。

ただの一機に対して、過剰の熟語ですら気後れする、いっそ清々しいまでの死刑宣告。盾を緩衝材にしたとしても、塵すら残らない数の暴力に、万能の砲手は動じず、主の勇姿を静観する。

 

「限界起動」

 

硝煙を蔓延る虚空に、呟きが霧散する。鼻から聞く耳すら持ち得ないモノ達は、少しも慮ろうとはしないままに脅威の排除を執行しようとし…

 

「!?」

 

三十機(・・・)のピットと、二本の触手に阻まれた。

 

「行くわよ!」

 

万能の砲手の前面と上方の邪魔にならない位置に配置した五機の代替えに、腕部からと脚部から新たなピットを補充。ビームシューターピット二十一機。ソードピット六機。シールドピット三機。占めて三十の小隊に値する機数が、一機の機衣人の指揮を受け、本体と淀みなき舞の一足目を踏む。

連なり肉薄する四機のビームシューターピットが、次々に射撃機体を取り囲んで銃を持つ手だけを撃ち壊し、切り込む四機を援護せんと、中央を先頭に左右に下がりつつ並ぶ七機のビームシュータ―ピットが、ヘイトを切り込み役に変更しかけている敵の脚部や頭部目掛けて光線を飛ばす。

ソードピット三機が、一機小隊の周囲をぐるりと一周した後帰還した右腕に寄り添い、指し示す方へと射出されたように急加速して敵を穿ち、シールドピットが、遠方より襲い来る凶弾を自らを犠牲に堰き止める。

 

『砲身連結、完了』

 

大木を連想させる砲身が直上を巡り、連結が完遂した直後、護りを突破した近接機体を、手首を高速回転させ、焔の円を作り出す左腕が上下にスライスした。

コンマ一秒の間隙もない舞台を、二つの灼熱のチャクラムと、ピットの小隊がメリーゴーランドのように華麗に揺蕩う。

冷却を要するビームシュータ―ピットが、他のピットと交差して下がる場面は、まるで互いを庇い合う尖兵のようで。上空から降り注ぐ鉄塊や光線から、本体や万能の砲手を守護し、果敢に攻め立て一刀両断する剣と盾の活躍は、さながら王族に仕える騎士で。

小さな妖精が数多の敵を退け続ける景色は、御伽噺の演劇を思わせる。

 

「…っ」

 

しかし、劇の裏。スポットライトの当たらない暗がりでは、血の滲むような努力が行われていると相場が決まっており、そしてそれは、一機小隊の操縦者も、例外ではない。

並列起動の最大数である三十機のマニュアル操作に加え、常時冷却や耐久値の把握。既に計り知れない負担の上に、追い討ちするかの如く複雑な両腕による攻撃が乗っている。一機を一機として扱わず、何機かを一つの隊に仕立て上げ、その隊を一機として認識することで軽減はしているが、多大なる負担に耐え切れず、今にでも操縦者が限界を迎えるのは、そう想像に難くない。

 

発射刻限始秒(カウントダウンスタート)

 

万能の砲手の、前に盛り上がった頭部に置かれた砲身が浮き上がり、調整を行う。標準を合わせる目標は、彼方の宇宙を体現する山の主柱。大きさにして機衣人一機分の、菱形の紫水晶(コア)

決して狙撃機などではなく、名の通り万能機として設計された機体で、目標を撃ち抜くのは容易でない。一機小隊の芸当に勝るとも劣らない高難易度であるのは、口に出すまでもないだろう。

 

「…」

 

だが、無謀とすら言える挑戦にも。持ち前の冷静沈着を崩さず、ただ一点を見つめ、角度調整に全神経を注ぐ。

一機小隊の操縦者は、万能の砲手の操縦者に傷一つ付けまいと、脳を焼きつかせる苛烈さで稼働させる。万能の砲手の操縦者は、一機小隊の操縦者に立ち塞がる障害を排除せんと、目を渇かせ萎ませる熾烈さで目標を捉える。

戦友の為、同じ戦地でありながら、非なる戦いに臨む二人。彼彼女は、逆境に立たされ、己のパフォーマンスを際限なく上昇させていく。

 

『十』

 

短いようで長いカウントダウンが、秒針を刻み始める。

 

『九』

 

二機の最前線にいたビームシュータ―ピットが、光の奔流に消えた。同種のピットが炎刃を振るう左腕から離れ、即座に空いた穴を埋める。

 

『八』

 

直角に曲がり、意表を突いた右腕の炎刃が敵の首を刎ねた。一機のシールドピットが、伸びきった腕の隙をカバーして鉄剣を遮り逃がしたのち、出力で負けて黒土にはたき落される。その事象を脳が認識するよりも早く、一機小隊は反射的に万能の砲手の付近の同種のピットに操作を切り替え、代わりを用意した。

 

『七』

 

真上から襲撃する敵方のピットを切り捨てていたソードピットが、死を厭わず突撃するコマンドピットの波に呑まれる。剣の替えはもうなく、仕方なしに一機小隊は左腕を空に向け、回転させて発生した天使の輪で蠅を一掃し、一瞬の余裕を創造して体勢を立て直させた。

 

『六』

 

微調整の段階に突入した万能の砲手が、オクタ・カタスヴァシィをミリ単位で駆動させていく。複数の騒音が入り乱れる渦中に身を置きながら、たった一つ以外を全てシャットアウトして。沸騰寸前の精神も、小池の水面とに転じさせて。一意専心に、砲の角度を修正する。

 

『五』

 

両腕に細かな傷こそあれど、一機小隊は目立つ被害を受けることなく、折り返し地点に到達する。

息すらも挟めない状況でありながらも、残り五秒という時間をどうしてでも稼ごうと、気を引き締め直そうとした刹那。

 

「…!」

 

防御の隙間に差し込めという祈祷を現実とする、砲火より出でたロケット弾を、機械の一つ目越しに見た。

 

「っ!」

 

炸裂。火の花と呼ぶにはあまりに汚いそれは、強敵だったと敬意を払うかのように花弁擬き(煤煙)で、一機小隊の機体を隠匿する。

機動力の確保の代償に装甲を削っている一機小隊は、一発のロケット弾の直撃でも、致命傷に繋がりかねない。刺突や切払いに使用していて、何とか戻そうとした腕を盾にできなかったともなれば猶更であり、最悪、脱落だってあり得る。

 

 

―――もしも、まともに直撃していればの話だが。

 

『四』

「舐めっ」

 

煤煙の内側で、操縦者の意思に呼応するかの如くオレンジのモノアイが爛々と煌めいた。

 

「るなぁ!!」

 

ある意味攻撃の前兆とも取れる光を見た二体の近接機体が、ほぼ同時に煙中より突如として出現した、球体の集合体のような腕にコアを貫かれる。

膝を突き、倒れる二機に目もくれず、一機小隊はシールドピットを残し他のピット全てを自機の付近に帰還させつつ、極彩色の外套を音を立てて広げ、先のロケット弾を凌いだ正体。近寄られた時の最後の防衛線である、四十七機のコマンドピットを曝け出し、全機を惜しみなく特攻させていく。

 

『三』

 

攻撃の起点となる腕、移動の要となる脚と翼に向かってコマンドピットが飛翔し、積み重なる残骸を乗り越えてくる無数の敵を押し留める。怯みや硬直を起こしている間に、前線に舞い戻ったピット達が、身を粉にして再び敵陣を荒らし回る。

 

『二』

 

狙いが定まり、オクタ・カタスヴァシィの微動が遂に停止した。

艱苦奮闘を乗り越え、手中に収めた希望。燦然たる可能性を勝利へと至らせるべく、両脇から抜けようとする敵を刺し止めた一機小隊の操縦者が、断崖絶壁を共に歩んできた者の名を叫ぶ。

 

『一』

「fool!!!」

 

忠義を尽くす主に、万能の砲手の操縦者は澄んだ声で応答し。

 

「お任せを」

 

かつて凶事の前触れとして恐れられ、今は願いを叶えると信じられるまでに成長した星を謳う、青白く照り輝く特殊弾を放つ。

 

『零。疑似星誕再現消滅弾頭(アステルケーステラ)発射(ファイア)

 

妖星が、空を翔け上がる。雷も音も凌駕して、込められた思いを成就せんと征く。

目標は紫水晶。行く手を阻む者の動力源。

母なる大地を鋤いた極光をも背に追いやって、寸分のズレなく歌う機械の胸元を穿った妖星は宙へと飛び。

 

 

黒雲を、一息に晴らした。

 

 

 

 

 

side【“plotone・comandante(一機小隊)”】

 

見上げた妖星が目視できなくなり、無限に広がる青空だけが瞳を映った。

 

「…ふ、ぅ」

「姫!」

 

久しぶりの全力で疲れ、操作が覚束なくなって斜め後ろに重心が傾く。まあいいかしらと衝撃に備えるが、万能の砲手に受け止められ、備えは杞憂に終わった。

 

「調子はいかがでしょうか、気分が悪いなどは?」

「…平気よ。ちょっと、疲れただけ。それより、どうだったかしら?」

 

あえて主語抜いて、foolに問う。だけど、彼は迷う間も見せず、静かに答えた。

 

「この目に、しかと焼き付けました。姫の、多大なる成長を」

「…そう」

「とても、御立派でした」

「………そう」

 

送られた純粋な誉め言葉。表情にでる訳でもないのに。思わず私は顔を背ける。

すぐに戻すのも嫌なので、一面の青を視界から外し、動力源の破損により倒れたまま不動を貫く、モノ・ズィミウルギアを見る。

 

「よく、あんな小さい的に当てられたわね」

「姫の獅子奮迅の活躍に比べれば、大したことではありません」

「謙遜しすぎよ。もっと誇りなさい」

 

ズームするにしたって限度があるのに、綺麗に中心を撃ち抜いたのだから、誇ったって罰は当たらないのに。foolはそうでしょうかと困ったように呟く。苦笑している姿が、ありありと目に浮かんだ。

 

「…私が誇るものは、一つで充分です」

「…一つって、何?」

「姫に仕えることです」

「…呆れたわ。ふふっ」

 

本当に年上かと疑う程に真っ直ぐな台詞に、心の底から呆れ、何故か笑いが込み上げる。倍ぐらい人生を経験しているのに、あまりに声帯が無垢な彼も、釣られて笑った。

 

「…なら、願いを聞いてくれる?」

 

皮を脱いで発した本来の声に、foolは何も語らず、頷いた気配だけを感じた。

それがあまりに早かったものだから、私はつい口を緩ませながら、命じる。

 

「…エントランスに転送されるまで、このままでいなさい」

「…仰せのままに」

 

了承の返事に更に口を緩ませた私は、何をするでもなく、ただ家臣と一緒に、陽光を浴びて安息の時間を過ごした。





これにて戦闘は終了。エピローグと、気が向いたらfoolのリアルを書いて、完結となります。
自己満足で書いた拙作ですが、面白かったと思っていただけたら嬉しい限りです。それでは。
御来場、誠にありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。
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