あなたはセレブで勝ち組ウマ娘である。
前年度のホープフルステークスに続き、皐月賞。税金や学園取り分、トレーナーの取り分などで手に入れた賞金をそのまま手に入れることはできなかったが、それでも口から変な笑い声が出るぐらいの額である。あなたとしては楽しむために走ってるので、遊びながらお金がもらえるなんてウハウハなのだ。ハムタロなのだ。
まぁもとお馬さんのあなたにとって貨幣や紙幣などの文化は全く理解できず、トレセンに入ってようやく自分だけでものを購入できるようになったレベルである。お金を管理する能力なんて持ってないし、お金よりも砂糖をもらった方が嬉しいまであるので、賞金の管理はトレーナーに一任しているのだが……。
ま、地頭が変にいいせいで自身が砂糖と交換できる紙切れを沢山持っていることは理解できる。簡単に言うとあなた、調子に乗ってます。
ちょっと様子を見に行ってみましょうか……。
所移しましてスピカ部室。未だに沖野氏がスカウトに成功していないためメンバーはあなただけであるが、あなたも言われた練習なんてめったにしないので変にキレイな部室。今日は珍しく彼女が遊びに来ているようです。
『スプリングドリームカップ! シンザン衝撃の20馬身差! 本人は「ちょっとストレスで……、やり過ぎてしまったかな?」とコメント!』
『シンボリルドルフが春の天皇賞を制覇! これが皇帝だ!』
『シリウスシンボリ復帰! 若葉賞を難なく勝利! ダービーに向けて調整中!』
『奇怪! 一夜にして崩壊した屋敷! 現場には何故か壊れたゲートが……。』
なんか高そうなバスローブを身にまとい。シンザン会長が遠征中なのをいいことに勝手に借りて来たセレブで真っ赤な会長専用椅子に体を預けるウマ娘。
先ほどまで読んでいたレース新聞を軽くたたみ、口を付けるのはコーヒーとミルクの対比が1:99のカフェオレ。角砂糖30個入りの飲み物。ホッと息をつきながら口を開く。
「麦茶だこれ!」
うん。
とりあえずコイツ病院に叩き込んだ方がええんとちゃいますか? ま、あなたですね。あとそのネタはビールでやるもんですから間違ってますよ。あとそんなに苦いもの嫌いなんだったら最初から牛乳飲んだ方がいいのでは?
「だってコーヒーってカッコよくない?」
言いたいことは解りますが、やるならブラックで……、あ、苦いの駄目なんですね。……まぁご友人のミホシンザンちゃんもちゃんと復帰できそうですし、シリウスシンボリちゃんは籍をシンボリ本家の方に移して頑張っているようですし、ちょっと休憩が必要なのも確か。あなたもダービー出るのでしょうし、少しぐらい休んでも構いませんね。
「あ~、楽しんでるとこ悪いがちょっといいか?」
お! トレーナー! いつからそこに?
「お前さんがカフェオレ? と指人形使って寸劇始めたとこから。まぁ最初からだな。………ま、そんなことはどうでもいい。色々と伝えなきゃならないことあるからちゃんと聞いてくれ。逃げ出すなよ?」
うむ、致し方なし。……あ、その前にこれ飲み切るから待って。
「よく飲めるなそんな見るからにゲロアマなの……。じゃあ最初に賞金の件から。」
お! 皐月賞のか!?
「あぁ、正確にはこれまでの賞金全部。……先日お前さんが仕出かしたシリウス分家の屋敷襲撃。ミホシンザンとお前さんのイメージを保つため、あと学園側もURAもあそこには色々思うことがあってな。一応表向きには建物の老朽化と局地的な地震で崩壊した、ってことになる。」
ほへー
「シンボリ分家の方も解体されて本家に吸収。シリウスシンボリの方も本家に移籍となった。」
うん、ここまでは知ってる話だね。
「んで、問題なのはこれから。表向きは事故だが実際は違う。難しいことは省くがまぁ賠償金を払わなきゃならない。よそ様のお家壊したから当たり前だ。」
うん?
「それでお前さんがこれまでストレス発散というかゲートが嫌すぎて壊しまくったゲート修理代と新品の購入費。一応保険があったんだが誰かさんのおかげで全部保険金も使い切ってしまったんだと。」
………あれ?
「そうなるとまぁ支払先は壊した奴のところに行く訳で……、ほい。管理させてもらってたお前さんの通帳。」
あ、あの~~~、ゼロしか書いてないんですけど?
「おう! 賠償金とゲート関連費合わせてキレイサッパリ賞金ゼロだ! あ、あとこれ俺の通帳な?」
お、沖野氏のもゼロですね……。
「元から0に近いのが指導者責任って奴で俺もないなった。つまり二人とも一文無し、ってわけだ。ま、二人とも寮住まいだし、食堂あるから生きるのには困らんね。……財布にはな~んにも入ってないけど。」
え、じゃあこんどマルゼン姉貴に『皐月賞の賞金でおごってあげる!』ってのスイーツバイキングは?
「なしだな。」
ミホのお見舞いに病室に入らないぐらいのパウンドケーキ持っていくのは?
「金ないもんな。」
ゲートを壊すのも?
「当然。」
……じゃあ私はどうやって生きていけば? ゲートを壊すことができないなんて! 死ぬしかないじゃない!
「そ、そこまでか? ……ま、今日はとりあえず真面目に練習してこい! お前さん最近スイーツバイキング週5で行ってたそうだな?」
ギ、ギク! なぜそれを!
「腹が出てきてんぞ? ほらダービー近いし、賞金も欲しいんだろ? ほらとっとと走った走った!」
うぅ~~~~~~!! なんか納得いかない!!
ーーーーーーーーー
「ヤ"ダ"ヤ"ダ"ヤ"ダ"~~~!!! た"べ"る"の"ヤ"ダ"~~~~!!!!!」
「も~。だめよおチビちゃん。好き嫌いするとおっきくなれないわよ。それにあなたのトレーナーちゃんに食生活見張っててほしいって言われたんだもの。」
トレセン学園、食堂。食欲魔人一号が笠松。食欲魔人二号が北海道にいる現在。食堂を騒がすようなフードファイターは存在しないはずであるが、まぁそこはトレセンクオリティ。時代が違えばその時代にあった問題児が存在しているわけで。
悪いことすると悪魔のウマ娘が空からゲートを降らしてくる、という噂(実話)が学園に広まり始めた時代。そんな時代、食堂で起きた一幕でござい。
比較的大きめのプレートにちょこんと残した小松菜の山。それの前に明らかに幼児用のフォーク持ちながら泣き叫んでいるグズりウマ娘が一人。対面にはのちの時代ではお母ちゃんからお婆ちゃんにランクアップ? するスーパーカー。感想欄で前世の血縁関係が疑われているお二人でございます。
「う"ぐ"ぅ"、に"が"い"の"や"だ"ぁ"……。」
「ほら! 食堂の人たちが一生懸命作ってくれたんだから、ね? ちゃんと食べよ?」
苦手な苦いお野菜を前に泣き叫ぶ娘、それを何とか食べさせようとする母親。これをまだ入学していないサクラチヨノオー(来年度入学予定)が見れば『くっ! 私もマルゼン先輩にかまってほしい!』と思うのか、『な、なるほど! そんな方法があったなんて! さすが姉さん!』と勝手に家族関係を構築しようとするのかは誰も解らない。わからぬ……。しらぬ……。あかせぬ……。
「あぁ、何かと思えばマルゼンスキーにこいつか。……うっ! 条件反射でストレスが胃に……」
「あ! シンザン会長じゃない。はろはろ~。この前のドリームカップおめでと。とんでもない勝ち方だったわね! ぞくぞくしちゃった。」
そこにやってきたのは生きる伝説、身近な神様、で有名なシンザン様。トレセン学園の生徒会長を務めていて強すぎて存在がチートみたいな人だよ! 彼女はもうトゥインクルシリーズからドリームシリーズに移行してるんだけど、それでも生涯連対率100%なのさ! ちなみに前走のスプリングドリームカップはお野菜の前で泣き叫んでる子のせいで溜まったストレスを発散させようと頑張りすぎてしまったよ!
「はは、いじめないでくれ。まだまだ精神が出来上がってないと思わされたよ。……でもトレーニングで胃は強くならないんだよなぁ……」
「うぅ……、なんで食べ物全部甘くないの! 苦いの嫌い! 小松菜嫌い!」
「あぁ、騒いでる理由はそれか。まったくなんでこんなに幼いんだか……、ほら。鼻でもつまんで食べるといい。飲み込めば変わらんだろう。」
「や!」
勢いよく拒絶するあなた。若干ショックで固まるシンザン。苦笑いするマルゼンスキー。パパの言うこと絶対聞かないスイープトウショウを思い出したのは私だけかな?
「……はは、ミホはあんなにいい子なのに……。」
「ま、まぁ人それぞれだし、ね? そんなに落ち込まないでも……。あ! そうそうミホちゃんはどうだったの? 確か今日お見舞いに行ってきたんでしょ、会長?」
「……慰めないでマルゼン、なんか惨めになるから……、あぁ、ミホか。とても元気そうにしていたよ。『皐月賞に勝ったあいつと出られないダービー勝った誰か! まとめて倒してしまえば実質私が三冠! 見ててくださいねシンザン先輩!』だそうだ。ショックは大きいだろうが心は折れていない。強い子だよ。」
「そっか。……ほら~、おチビちゃん~。黙ってないでさっさとおたべ? そろそろ食堂しまっちゃうよ?」
「え~! いや!」
「ほら、あ~んしてあげるから! 食べる?」
「……食べる。」
あ~んしてもらいながら嫌々食べるあなた。一応コイツ中学生です。……色々と大丈夫かな?
あなた
お金ないなった。ダ、ダービーは絶対掲示板に入らなくちゃ! それとゲートを壊すことが経済的に不可能になったためストレスゲージが増大中。苦いの嫌い! 小松菜はウマ娘の食べ物じゃないの!
シンザン
あなたのせいで溜まりに溜まったストレスを開放したらヤバイことなっちゃった。神様の名前は伊達じゃない。マルゼンの言うことはちゃんと聞いてるのでちょっとショックを受けた。
マルゼンスキー
お母ちゃん?、史実ではマルゼンの子供たちはたくさんいますし、お孫さんもたくさんいます。もしかしたら……、かもしれませんね? あとあの後シンザン会長から『あなた担当』に任命されました。
お前ら! ハロウィンだぞ!
ガチャの結果はどうだった!
俺は何の成果も得られませんでした!
書けば出る! 来るんだクリーク!
【数年後(番外編の3 バブバブパンデミック)】
マズいスぺ! 助けてくれぇ!
「ふぇ!? 急にどうしたんですか!? 急ぎ過ぎて部室のドア叩き壊してますし……、後で治してくださいよ。この前もエアグルーヴ閣下に怒られちゃいましたし。」
そ、そんな悠長なことしてる場合じゃないんだ! し、師匠が!
「また何かやらかしたんですか、あの人。前みたいにココンさんが『とばっちりを受けた!』って怒ってきますよ……。まぁ正当な要求ですし私たちとしては縄で縛ってお渡しするしかできないですけど。」
そんな日常風景じゃねぇ! もっとヤバいんだ! ほら、最近ハロウィンパーティーでカボチャ沢山飾りに使ったろ!? それをクリークがカボチャパイとかのスイーツに調理したんだが……
「わぁ! カボチャスイーツですか! おいしそうですね!」
その匂いに連れられて師匠! あとマックイーンもクリークに捕まっちまった! 二人とも涎掛けとおしゃぶり装着されてベビーカーに拘束されていやがる! ど、どうにかして助けに行かないと!
「あー、師匠さんはとにかくマックイーンさんは助けに行かないとですね。寮まで走りながらいきましょう。……でもいつもなら嫌がったりしたらすぐやめてくれますよね? この前捕まっちゃったときも嫌がったらやめてくれましたよ?」
スぺ、お前……。一回捕まったのか……。いや、それよりな! 被害者担当のタマモのアネキが地方遠征。クリークのトレーナーはURAに出張だとかでこの一か月だれも被害にあってないんだ! 今のクリークはボトルが破裂する寸前まで振ったコーラ! そんな時にメントスみたいな、元から精神年齢が低くてバブ耐性が恐ろしく低い師匠がクリークの部屋なんかに行ってしまったら……。
『ほら~、おチビちゃ~ん。クリークママですよ~。いっぱい甘いもの食べましょうね~。』
『きゃっきゃっ! たべさせて~! ばぶ。』
『た、助けてくださいまし! わたくしは関係ありませんの! このままだと呑まれてしまいます! だ、誰でもいいから助けてくださいまし!』
『あら~~~。おいたはだめですよ~~~~~。』
『ばぶばぶ。』
「よ、容易に想像できる……。」
と、とにかくスぺはクリークのところに行って大量に焼かれたパイを食べつくしてくれ! 私はオグリも呼んでくるから! スイーツなくなれば師匠は元に戻るし、吞まれかけたマックイーンも戻ってくる! いそげ! スぺ!
その後、クリークがサティスファクションし始めたころに、食欲魔人二人によって大量に焼かれたカボチャスイーツ群は跡形もなく処理された。長時間に及ぶでちゅね攻撃によってマックイーンは疲労困憊だったが、あなたは別にそうでもなかったようである。『食べさせてくれたからラクチンで良かった。甘くておいしかったし。』とか思ってそうである。
なお、ゴルシが急いで助けようとした理由はクリークとあなたの相性が良すぎるからである。行くとこまで行ってしまい、二人とも帰ってこれなくなりそうなので……。