基本的に雰囲気で生きてます
あなたはウマ娘である。
先日素晴らしいことに、トレセン学園に入学することができた。もちろん中央である。
昨年はミスターシービーのクラシック三冠達成、シンボリルドルフがホープフルSの圧勝とレース界隈が非常に盛り上がった。今年はその両者が上のグレードでどのような活躍をするのか楽しみであり、今年の新入生はそれに続こうと闘志を燃え上がらせている。
もちろんあなたもその一人だ。
あなたには今のところ明確な目標は持っていないが、レース業界で活躍しその名を世界にとどろかせようという意思はある。いまからどんなレースに出走し、勝利するかを考えると少々楽しい。
なお、今現在は入学式翌日の授業説明や各施設の利用の仕方などのこまごまとした事項が担任によって説明されている。あなたは勿論聞いていない。今は脳内であなたが勝利する瞬間を思い浮かべるので忙しいのだ。
ちなみに、説明に用いられている書類は昨日配られており、あなたはそのすべてを読了している。ゆえに書類を見ながら話を聞く姿勢を保っているのにもかかわらず、妄想できるのだ。
配布されたこの書類群、結構な厚さがあり先日まで小学生であったあなたには少々手が出にくい物であったが、することが無かったため昨日の夜にすべて読み込んでしまった。寮生活なのに同室の仲間、先輩がいなかった独り者の悲しい性である。
なお、今日行われる授業範囲の予習もすでに終わらせている。
今日のあなたの授業時間は、脳内で世界中のレースを駆け巡る妄想だけで終わった。
ちゃんと授業を受けてほしいものである。
時間は過ぎ、昼食後のレース場である。
ちなみにあなたは昼食時も妄想に耽っていたため一人で食事を終わらせた。クラスにはあなたに声を掛けてくれるような存在はいなかったようである。アニメでは大天使ウララがいらっしゃったが彼女が入学するのはもう少し後、あなたは一人である。
今日の授業としては午前中は通常授業、午後からは全クラスでの模擬レースが開催されることになっていた。この模擬レースは単純に自分の力量を確かめよう、という理由だけでなく、中央トレセン学園に所属しているトレーナーたちのスカウトの場でもある。
入学したばかりのひよっこなあなたたちだが、トレーナーからすれば素敵な鉱山。金銀財宝である一粒を青田買いしようとギラギラしている。
あなたの周りもその空気に乗せられたか、いささかやる気に満ち溢れすぎているようだ。
ちなみに、トレーナー側から見て注目されているのは
〇数少ない推薦枠を勝ち取ったミホシンザン
〇入学試験で優秀な成績を収め、なんだか運のよさそうなシリウスシンボリ
〇あなた
の三人である。ちなみにあなたは周りの目線を気にしない、というか気づかないタイプなので注目されようが関係がない。
あなた方ウマ娘から見て注目されているチームは
〇現在生徒会長であるシンザンの所属するチーム
〇昨年三冠ウマ娘になったミスターシービーが所属するチーム
〇去年設立し、シンボリルドルフの所属するチームリギル
の三つである。ちなみに何故リギル以外ちゃんとした名前がないかというと、チーム名が基本的に担当トレーナーの名字がそれにあたるからである。『〇〇さんとこのチーム』というふうに呼ばれているため、基本的にチーム名とか必要ないのだ。
あなたは知らない話ではあるが、何故リギルにチーム名が付いているのかというと、担当トレーナーである東条ハナが登録書類にある、これまでなら単に名字を書けばいいところの『チーム名』欄を勘違いし、良い名前を付けねばならないと思い至り、同期のトレーナーと徹夜して考えたからである。
後日おハナさんは非常に赤面した。
あなたとしては、注目しているのはチームスピカである。あなたはこれからバクシンしていくであろうリギルよりも、同じく変なチーム名であるスピカに非常に興味を持った。資料を見たところ誰も所属していなそうなので入った瞬間にチームエースである。あなたはエースという言葉に非常にひかれた。
これまたあなたが知らないことであるが、チームスピカは地雷であるという噂が学園内で広がっていた。スピカもリギルと同じように昨年設立され、何人かのメンバーが参加していたようだが、そのすべてが参加した昨年の内に脱退しているのである。理由としては『ちゃんと指導してくれない』『セクハラされた!』だ。このうわさが同室の先輩などからあなたの学年にすでに広まっており、地雷チームとして避けられていたのだが……、あなたは入学以降簡単なあいさつぐらいしかしていない、同室もいないボッチである。噂の知りようがなかった。
そんなこんなで、あなたの番が巡ってきた。
あなたが出走するのは芝2000の右回りである。先ほど述べた注目株はあなたしかいない。
あなたは担任に急かされながら、ゲートに向かった。
あなたはゲートというせまっ苦しいあの空間が大嫌いである。しかしながら模擬レースで入りたくないと暴れてもいいことは何もない。最悪『じゃあ走らなくてもいいよね』で飛ばされてしまう可能性もあったため嫌々ゲートに入った。
逃げを得意とするあなたからすればゲートに閉じ込められてストレスが貯まるのは「出遅れ」につながるため望むところではない。
『嫌だなぁ~、ゲート狭いなぁ~、嫌だなぁ~』と悪態を脳内で呟いていると、すでにゲートが開いていた。盛大な出遅れである。
あなたは仕方なく『ワタシ、サイショカラオイコミデスワヨ』という顔で最後方に位置した。さすがにスカウトの場で『集中できてません! スカウトしてあげません!』となるのは勘弁である。致し方あるまいなのだ。
結果としては中盤から溜めていた足を全解放し、ぶっちぎったあなたが勝利した。圧勝というほどではないが、まぁ勝てたからヨシとするところ。にしても中盤に差し掛かったときに見えたあの葦毛の亡霊は何だろうか? 黄金の錨を振り回していたのだが……?
そんなこんなで本日の模擬レース終了。注目株であったミホシンザン、シリウスシンボリ、あなたはすべて一着で終わった。
授業終了の合図とともに、レース場から少し離れたところで観戦していたトレーナーたちがスカウトするために突撃してくる。あなたたちからすれば『私を選べ!』という感じである。
多くのトレーナーが未来の愛バに向かって突撃するなか、その比重はミホシンザン>シリウスシンボリ>あなたとなった。おそらくであるが、あなたの出遅れがあまりよく見られなかったのであろう。ミホシンザンの方には数十人のトレーナーが向かっているが、あなたのまわりには両手で数えるぐらいしか来ていない。
普通に考えれば両手で数えられるぐらいのトレーナーからスカウトされるのは非常にすごいことであるのだが、あなたの目にはそれ以上にすごいミホシンザンが映っていたためそうは思わなかった。
さて、あなたとしてはこのスカウトしてくれたトレーナーの中から誰かを選ぶ、もしくは丁寧に断る必要がある。
一般的に考えた場合、この場で行うべきことは自身の夢について語る、各トレーナーが提示する条件を吟味するなどがあると思う。あなたも、このどちらか、もしくはそれ以外のことをするために思考を回さなければならないのだが……
あなたは全く違うことを考えていた。幼少期、近所の子たちと遊んだ時によくした『〇〇したい子この指とーまれ!』にこの状況が酷似しているなぁ、と考えていたのである。自身が中央におり、周りに大人たちが群がっている。
あなたは、なんだかやりたくなって、この指とーまれ!のポーズをした。
大きく足を広げて仁王立ち、手を腰に当ててがっしりと構え、指を高らかに一本掲げるのだ。
『私と走るのこの指とーまれ!』だ。
あなたは、とても、いい笑顔である。
あなたは、全くもって気にしていなかったが周りの大人たちは大混乱である。
この子!、と決めた子に対し、自分の育成方針や先ほどのレースの感想、目の前のあなたの気が引けるように、隣のライバルに取られないように一生懸命にアピールしていたところ、急にポーズを取り始めたのである。
しかも、傍から見たら一着のポーズ。
トレーナーから見れば『何故に今更勝利ポーズ?』というわけである。
そんなトレーナー大混乱の中、特徴的な髪型と、お口にアメちゃん咥えた男性がズイっと前に出てきて、あなたの指を握った。
「オレが、一番乗り……、でいいのか?」
あなたは、トレーナーを見上げ、とてもいい笑顔で高らかに宣言する。
『あなたに決~めた!』だ。
あなた
あなたは金髪銀眼小さめのウマ娘である。活発天然リトルココンといった方がいいかもしれない。お胸はぴったんこである。成長する予定はない。