キノコ狩りの男!
少年の愛にむせび泣く男!
格闘技世界チャンピオン!
鉄十字キラー!
スパイダーマッ!
あなたはウマ娘である。
……毎回こういった入りからさせてもらっているが、正直あなたが本当にウマ娘かどうかわからなくなってきている私がいる。ハジケリストとかいう新種の生物じゃないのか? という疑念で夜しか眠れないので今回はその生態を詳しく観察することにする。
あなたの一日を事細かに観察・検証・考察することでこの疑問を解消することが可能だろう。
ま、今回はそういう回です。
あ~さ!
あなたの一日は一般的なウマ娘と違い、かなり早い。
正確に言うとちょうど日の出とともに起床し、行動を開始しているようだ。ちょうど今、日が昇りだした時刻であるが、カーテンから洩れた日光で目が覚めたようである。まぁ日光と言ってもまだ空は暗く、深夜組ならそろそろ就寝を考え始める時間であろう。
目が覚めたあなたは寝藁から飛び起き、ゆっくりと伸びをしているようである。もちろん彼女は全裸だ。一糸も纏わない年頃の娘であれば結構問題な姿をしている。
一応彼女のために助け舟を出すとすれば、彼女という生物を形作るときに人とウマの部分を対比するとウマの方が大きいため仕方ないと言えよう。ウマは服なんか着ないし、ふかふかのベッドで寝ない。厩舎によって違うだろうが彼女のお気に入りは自身のベッドに山になるまで積み上げた藁。これが前世の寝床に近く、安心できるようである。
親御さんが知れば『まだやってるよコイツ』、友人やトレーナーが見れば『やっぱコイツあたまおかしい』、最近弟子入りした例の葦毛は『それ痛くないんすか師匠?』というような就寝関係だがあなたは気にしない。寝てる時に髪についたようである藁を取り除きふんすふんすしている。どうやら身だしなみの確認が終わったようである。
さて、朝起きてあなたが次にするのは朝食である。トレセン学園に所属する生徒は無償で食堂を使用でき、他の生徒はそこで朝食を取るのだがさすがに明朝の時間帯は使用できない。
あなたもそれを理解しているようで慣れた手つきで部屋の中にある冷蔵庫の前まで移動するようである。
彼女の初勝利の賞金で入手したらしい冷蔵庫の中には、あなたが大好きである甘味の数々やその原材料が収められているようだが……、今日の朝食はそれらではない様子。上の段から1Lの牛乳パックを一本、野菜室からニンジンを3本ほど取り出したみたいです。
よくよく冷蔵庫の中を見てみると牛乳のパックとニンジンが大量に用意されているみたいですので、この朝食は“いつもの”なんでしょうね。糖度が高めのニンジンが野菜室一杯に入っているみたいなので当分ニンジンの買い出しは大丈夫そうです。
で、そのご機嫌な朝食を持って……、あら意外。勉強机に座りました。それで教科書を読みながらのお食事みたいです。てっきりその食料を持って寮から脱出し、屋根に上って朝日を見ながら食べると思ってました。そこまで野生児じゃないのですね、少しだけ安心できそうです。まぁまだこの人全裸なんですが……。
そうだ。正直疑問なんで本人にちょっと聞いてみましょう。
Q:勉強するようなタイプに見えませんがなんでしてるの?
A:ママがこわいの……。
あ~。なるほど。真面目に授業受ける気はさらさらないけど試験で悪い点とってしまったらとっても怖い母君にブチ転がされてしまう。だけど真面目に授業受けるのは嫌。そしたら元々時間の空いてたこの早朝にお勉強するしかない、というわけですか……。
うん、効率悪いね。
ちなみに授業中何してるかと言うと、消しゴムで大規模ドミノ作ったり、折り紙して遊んだり、鉄道模型作ったり、お絵かきしたり、カブラヤオー姉貴の着ぐるみ作ったりしてるみたいです。自由人ですね。
おっと、そろそろいい時間のようです。教科書を読み進めるとともに食べていたニンジンのかけらを口に放り込み、牛乳も全部飲み切りました。教科書も全部片づけてカバンに入れたみたいです。偉いですね。
では早速教室に向かいましょう……、ってあれ? 自室の出入り口のところに何か張り紙がしてありますね。
『部屋から出るときは必ず服を着ること! 寮長』
あら、そういえばあなた、全裸でしたね。ほらほらそんな嫌そうな顔しないでちゃんと服着て登校しましょう。学園内ならまだ生徒会出動で済みますけど、学園から出たら最悪ブタ箱行きですからね、あなた。気を付けてくださいよホント。
では彼女が着替えてくるまで少々お待ちください。
お~ひりゅ?
さぁ、無事お着替えも出来たようですので教室に向かったのはいいですか……、おっと。今日は全校集会の日でしたか。朝礼終わりに皆さん移動していますね。あなたもクラスメイトの皆さんと一緒に行くようです。
まぁ待ち時間とか校長先生のお話なんか皆様聞いても仕方ないでしょうし、生徒会の皆様が出るまで飛ばしましょうか。
『……え~、では次は生徒会からのお知らせです。』
お、来ましたね。出てきたのは……、ありゃ? シンザン会長じゃなくてカブラヤオー副会長。しかも着ぐるみVer.のようです。
「はい、副会長のカブラヤオーです。」
あなたが前学期のはじめ、写真撮影の時期にプレゼントした着ぐるみとは違い彼女の髪色にあった布地の着ぐるみを着たカブラヤオー先輩が出てきました。最初はみんな『どうしよう、副会長までおかしくなっちゃった!』という感じでしたが、さすがはトレセン学園。半年もあればもう適応しているみたいで別に驚いている子たちはいません。
「本来なら生徒会長であるシンザンがこの場で挨拶をさせていただく予定でしたが、昨日謎の腹痛に倒れ緊急入院なされたので私が代わりを務めさせていただきます。……あ! そこまで大事ないそうなので心配しなくていいみたいですよ! 明日退院みたいなので! では連絡の方させていただきますね……」
……あなた? 今度は何やらかしたんですか?
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「そういえば、ゆっくりするのは久しぶりだなぁ……。」
トレセン近くの大病院、その病室。中央トレセン学園にて生徒会長を務めるシンザンはベッドに腰掛けながら窓の外を眺めるというゆったりとした時間を過ごしていた。
生徒会自体の通常業務、またトレセン全体で起こる揉め事や問題の調整解決、各委員会との仕事は勿論自身が参加しているドリームシリーズに向けての準備、マスコミ関連の対応などなど。シンザンが抱える仕事はとても多い。
レースでは全くの別人、神と崇められるにふさわしい人格になってしまうが日常生活では普通の女の子。でも頑張り屋さんな彼女は弱音を吐きながらとっても頑張ってきました。レース成績・人格的に問題のなかったカブラヤオーさんを副会長にすることは成功しましたが、カブラヤオーの「他人怖い」の性格を忘れていたので仕事は全く減りません。逆に増えたかもしれません。
やっと何とか一人で回せるようになってきたとき、彼女に受難が訪れました。
そう、あなたの入学です。
最初は比較的おとなしかった彼女ですが、時間が進むごとに親御さんが必死に貼った化けの皮がはがれていきます。問題は起こすし、ゲートは壊すし、でもレース成績はトップと言って相応しい上にファンへの対応、ライブなどは普通にこなす。下手に人気が出てしまったものだからもうどうしようもない。
彼女が淡い恋心を抱いているトレーナーさんと一緒に頑張り、そしてたまにレースで思い切り走ることで何とか乗り越えてきましたが、シンザン会長の胃はもう限界でした。
今回は単に運がありませんでした。いえあなたにとっては運が良かったのかもしれません。今回の事件の直接的な原因はあなたではないのです。まぁ蓄積ダメージのほとんどはあなたですが……。
会長の胃が悲鳴を上げていた時、たまたま会計の方が『予算が合わないので確認したいんですけど……』と訪ねて来た。それまでの蓄積がかなりあったであろう会長の胃はほんの少しのストレスによって決壊。胃酸によって胃に穴、ストレス性胃潰瘍が悪化してしまったのです。
お腹に襲い掛かる急な激痛にやられてしまった会長は気絶、慌てふためく会計の子をよそに『お腹痛いにょお……』というお言葉を最後にバタンきゅ、です。急いで救急車が呼ばれ、搬送されたわけなんですね。
「にしても一日ゆっくり寝ただけで穴がふさがるとは……、いつの間にか、鍛えられていたんだね私の胃。……全く以て嬉しくないが。」
搬送されて翌日、朝起きたのちにもう一度検査してもらうと何故かふさがっている胃。しかも塞がってるだけじゃなくてまるで新品のように生き生きしている胃腸。担当のお医者様も『なんでもう塞がっているのか意味わかんない。神ウマ娘シンザンの胃も神様だった……? ま、まぁ一応様子見でもう一日入院していただきます。明日も検査しまして何もなかったら通院に切り替えても大丈夫なんでしょうか?』と困惑。
先日までボロボロだったお腹が何故か超回復して万全な状態なんだからあら不思議。ウマ娘の神秘というやつでござろうか?
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なるほど、そんな理由で入院なさってたんですね……。
あ、あなた。そんなに自分は関係なくて安心したっていう顔したら駄目ですよ? ほとんどあなたのせいなんですからちゃんとお見舞いとお詫びに行きなさいよね。
……ん? お詫びにケーキを作る?
なるほど、最近お菓子作りにハマっているそうですしちょうどいいかもしれませんね。普通なら胃をやっている人に食べ物、それもケーキを贈るのは外道と言われそうですが何故か回復していいるみたいですのでまぁよろしいかと。
今日、放課後に行うことが決まったようですね。
ほーかご!
さて、全校集会も終わりいつもより早めに放課後になったようでございます。普通の子であればここから練習したりするのでしょうが、あなたは違いますね。
一応あなたのトレーナーさんからトレーニングメニューなどは頂いているようなのですが、最近全然練習してないようです。遊びと称した練習は少しぐらいやってるようですが、最近は周りにイタズラしたり忍び込んだりと走るより面白いこと見つけてしまったようで……。ほらもらったメニュー表を裏紙にしてお絵描きしてるんですよコイツ。
ま、そんな不真面目な生徒。あなたの今日のご予定はケーキ作り。
現在入院中のシンザン会長のお見舞いに行くためにウエディングケーキを作成し持っていくんですよね。なんでウエディングケーキかと言うと先日カブラヤオー先輩のために制作したおニューの着ぐるみを卸しに行ったとき雑談で『あ、そうそう。最近会長さん彼女のトレーナーさんといい感じなんだって。この前お忍びで遊園地行ったんだって!』という話を聞いてしまったのである。
年頃の女の子がそういった恋バナに興味津々、あなたも例外ではなく(まぁ実際は面白そうというだけだが)たくさんお話してしまい、カブラヤオー先輩もあなたへの印象が『学園の問題児』から『着ぐるみくれるいい子』にランクアップしていたので聞いてもないことまで教えてしまったのである。
今回のあなたは善意100%、多分これすれば喜ぶだろうと思ってやっている。『会長はトレーナーさん好きで、そのトレーナーさんもカブ先輩から聞いた感じまんざらでもない。ならもうヤっちゃえば?』という感じである。両想いなら結婚しちゃえば?という感じ。親切心から背中押してやろ!、だ。
本人からすれば災難もいいところであろうが本人はノリノリで作業を進めていき……、そろそろ日が沈むかなぁってところで三段式の大型ウエディングケーキが完成したようである。
いつの間にそんな技能を手に入れたのかという感じですべての段が可食部であり、段ごとに味が違う。てっぺんにはシンザン会長とその思い人である彼女のトレーナーさんが象られた砂糖人形が置かれている傑作、ちゃんとウエディング衣装なのはポイント高いですね! 作り上げた本人はそろそろ日の入り、就寝時間が近づいているのでおねむであるが無事完成しました!
あとは届けるだけですが……、大丈夫ですか貴方? 無茶苦茶眠そうでフラフラしてますけど……。あ、我慢して持っていくんですね? 落としたり崩したりしないように頑張ってくださいね?
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「それで、無理はしてないのかい?」
病室、そろそろ日が沈むかという頃に私のトレーナーさんが見舞いに来てくれた。スカウトされた当初は良き相棒、という感じだったが生徒会長という大役を任されるようになり、少々危なっかしい私を支え続けてくれていた彼。気が付いた時にはもう彼のことを思っていた。
本来、というか学び舎であるトレセン学園の性質上そういった恋愛事。特にトレーナーとの恋は禁止されていないにしてもあまり褒められたものではない。元々昔の気質が残っている学園、それだけが問題ではなく単純に世間体がまずくなるのを避けるためだ。
だってマスコミとかに熱愛報道、とかすっぱ抜かれると大変だろ? 最近は少なくなったが悪質な輩も多くいることだし……。私は言ってみれば学園の顔。一番外に見られる立場だ。そんな私が自身のトレーナーに懸想しているなど知られれば大変なことになる。それにたぶん彼は私の感情を良く思わないだろう。
元々私たちは相棒という関係だった、おそらく彼はそれを逸脱することは嫌うはずだ。
だから周りにばれないよう、本人にばれないよう、どうしても彼の姿を目で追ってしまうのを隠しながら毎日過ごしてきた。
そんな私にとって病室という個室で面と向かって彼に話しかけられる、心配されると言うのは少々、いやかなり恥ずかしい。レースが絡むとスイッチを入れなおして気にならなくなるんだけど……。
「どうかしたか? シンザン? まだ痛むのか?」
「……いや、大丈夫。」
あぁ、なんて話せばいいんだろう。私の顔赤くなってない? 声上ずってない? ダイジョブ? ちゃんといつも通り出来てるのかな? おかしく見られてないのかな?
コンコン!
あれ? ノックの音。この時間に見舞いに来てくれるのはトレーナーだけだったんだけど……?
「シンザンさんすみません。学校の後輩の方がお見舞いに来られたんですけど入っても大丈夫ですか~!」
確か私の担当だったナースさんがドア越しに声を掛けてくれる。トレーナーの顔を窺うと別に問題がないらしい。私もこの気まずいというか恥ずかしい時間を過ごすのも少しばかりきつかったので入室してもらうよう声を上げた。しかし後輩か、ミホが来てくれたのだろうか? しかし今日は外せない用事があると言っていたはずだが……?
ゆっくりと病室のドアが開けられ、そこにいたのはとても眠そう、というか半分ぐらい寝ているウチの問題児だった。しかもかなり大き目のケーキと一緒に入ってきた。
……え。てっぺんに乗ってる砂糖人形……! 私とトレーナーさんじゃないか! しかもドレス着てる!
「あわ! あわあわあわ!」
え! えぇ! どうしよう! え! いや嬉しんんだけどまだ早いっていうか! まだ学生だからもうちょっと待ってほしいというか! でも嬉しいというか! 私顔大丈夫! すっごく顔熱い!
「むにゃ……、ねむ……。あ、かいちょー。ごけっこんおめでとうございます……。おやすみなさい……。」
「え、いやちが!」
そう言って眠るようにその場に倒れる彼女。硬直する私たち。
「あら! あらあらあらあら! 大変! お祝いしなくちゃ! みんな来て~~!」
すっごいいい笑顔でニコニコしながらナースセンターに応援を呼ぼうとするナースさん。
あ、どうしよ。またお腹痛くなってきた……。
あなた
ケーキ作り上げてからほぼ記憶がない。もうくっついちゃえと思っていたせいか無意識に爆弾を投下して睡眠した。なにかいいことをしたようなすごく気持ちよさそうな寝顔でした。
シンザン
その後、悪乗りしたナースさんたちに連れられウエディングドレスを着せられトレーナーさんと写真撮影。途中から吹っ切れて楽しみまくった。良かったね!
カブラヤオー
後日裏ルートからシンザン会長のウエディング写真を頂いた。卒業と共にこいつら籍入れそう、なんて考えてる。