『有馬記念
年末の中山で行われる夢のレース。
他のGⅠレースと違い、ファンによる人気投票にて出走者が決まる特殊なレース。またクラシックレース最後の菊花賞から二か月という期間であるためそれまで同世代としか競い合っていなかった若人が上の世代に挑み始める訣別のレースにもなっている。
今年、現クラシック世代からは三人。
一人目、ミホシンザン。
先々月の菊花賞制覇者。ダービーはケガのため出走できなかったがジュニア級の王者決定戦であるホープフルS、クラシック初めの皐月賞でともに二着と悔しい思いをした彼女はケガを乗り越え、覚醒して帰ってきた。2000という中距離では負け、3000という長距離では勝った彼女、ファンの間では『2000は彼女にとって短すぎたのではないか?』と噂されており、長距離レースに分類される有馬記念でも一押しの走者である。その身に神を宿せるか。
二人目、シリウスシンボリ。
クラシック期の春は運悪く出走することができなかった彼女。その悔しさを燃料とし、一生に一度だけの日本ダービーを制した彼女。本人の強い意向とシンボリ家の方針から世界に飛び立った彼女であるが、この有馬に出走するためだけに帰ってきた。海外での成績は何とか掲示板入りという世界の壁を強く感じさせるものだったが、強き者たちと戦ってきた彼女はさらに強くなった。押しも押されぬ一等星、いざ参る。
三人目、あなた。
皐月賞制覇者であり、ダービー・菊花賞ともに二着。あとホープフルSと何故かジャパンダートダービーまで勝っている実力者。そしてなぜか公式記録に存在しないはずのレース、ジャパンワールドカップ2着という記録がある彼女。存在自体が規格外であり、様々な問題行為を引き起こす彼女であるが一部のファンからの人気がすさまじく何故か競走停止&退学にならないウマ娘ランキング一位を晴れて達成した。この有馬も彼女の色に染められてしまうのだろうか……。』
控室でビール(こどもビール、りんご100%)を呑みながらレース新聞を確認するウマ娘、
そう! “あなた”だよ!
最近別次元との行き来が可能になったので過去のウッマの自分をトレセンに連れてきたせいで、目撃した生徒のウマソウルが原始回帰して大問題になった事件の元凶ちゃんだよ! とってもかわいいね!
生徒の約8割が道草を食べだす、服を脱ぐ、四つ足で歩くなどの問題行動を引き起こしたせいでトレセンが文字通り崩壊しそうになったけど“あなた”ちゃんは別に何とも思ってないよ! だって“あなた”ちゃんから見たらそれがあるべき姿だもんね!
なお、三女神サマが気を使ってくれたのか原始回帰した子たちの記憶はきれいさっぱり抜けちゃってるみたい。よかったね!
と、いうわけでトレーナー! 今日有馬記念だよ! 知ってた!?
「いやさすがに知ってるわ。というか自分の担当が出走するレース把握してないなんて……、いやこれは忘れてくれ。……ジャパンワールドカップってマジで何のレースだ? ……」
JWCかぁ……、正直クソ重かったけどあのカオスな感じ楽しかったし来年も出ようかなぁ? ……あ! そういえばゴルシ太郎が来年入ってくるし、一緒に出ようかな! うん、そうしよう!
「あ~、あんまり新入生に迷惑かけるんじゃないぞ。あとさすがに出走するレースはこっち側に申告してもらわないと困る。今度からはちゃんとするように。」
は~い!
コンコン!
あ、誰か来たみたい。トレーナー! 私ジュース呑むので忙しいから開けたげて!
「……はぁ。いいけどレースに支障出るまで飲むなよ~。」
まぁ言われたことを守らないのがあなた。さっきまではトレーナーがあなたのことを呆れながら見ていたが、今はドアを開けるために目線がそれている。あなたちゃんは『この隙に!』とこどもビールをラッパ飲みし始めた。こいつほんと舐め腐ってるな……。
なお、沖野トレーナーが強く言わないのは、お小言を言った瞬間にあなたちゃんが暴走列車に大変身して手が付けられなくなるからです。アイツのことだから今度はガチのアルコール飲料持って来るかレース開始前にゲート破壊ショーを実施するかもしれないとか思われてます。しかもURAからちゃんと見張っとけと言われてるのでなおさらですね。彼は泣いていい。
一気飲みしたこどもビールの空になった瓶を『ゴル斗!
「何やってんのお前さん……。お客さんだぞ。」
「ハァ……、そんな技術というかヤバイ技どこで仕入れてきたんだか……。」
「うん、まぁ。この意味わからなさに懐かしさを覚えてる私もおかしくなっちゃったのかな?」
おぉ! もう最近関西弁で話すことを諦めた“ミホ”にいつの間にか帰ってきて本家と性格が違う“シリウス”じゃないか! いらっしゃいませ! 二名様ですね! おタバコはお吸いになれらますか!
「いや、吸うわけないでしょ! てかいつの間にここ店になったんだ! というかやめないといけなくなったのはほぼ毎日あんたが揶揄ってきたからでしょうが!」
「あはは……、相変わらずだね。あと『天性のタラシ』っていう公式設定この私に適応とか無理だから諦めて?」
そもタマモちゃんが来たせいで属性被っちゃったし……、いやあの子自体すごくいい子だし、元々あの子のアイデンティティだから横取りなんてできないし……、とブツブツ言い始めたミホを置いといて、シリウスはいつ帰ってきたの? 有馬出るとは知らなかったぜぃ!(忘れてる)
「あれ? 言ってなかったけ? せっかくの年末だし帰ってきたんだよ。ファン投票で出走できるまで応援してもらった身でもあるしね。……それに、私たち三人そろってのレースは去年のホープフル以来だからちょうど一年ぶり。」
さっきまでブツブツ言っていたミホはいつの間にかに真面目モードに突入。今話してるシリウスも目がギラついている。なるほど、宣戦布告に来たわけですか。
「そゆこと。私とミホは去年以来勝負してないし、あんたとの勝負もあのダービーだけで終わらせるつもりはない。……勝たせてもらうよ。」
「私も。私もシリウスとは早く勝負したかった。コイツに取られた皐月賞も菊花賞で取り返した。あとはシリウスの持つダービーの冠だけ。……ここで勝って私は三冠に追いつく。伝説に並び立つんだ。」
……ふ~ん。そっか。
正直今日はそこまでやる気出てなかったけどみんなそんな感じなのね。
じゃ、私がうだうだ言ってたら失礼だし、仲間外れも嫌。
面倒だけど、ちょっとだけ。
ガチでやっちゃおう、かな?
「ほう? 面白そうなことをしてるじゃないか。私も混ぜてもらおうか。」
一瞬で無理やり塗り替えられる空気。
雷雲の気配。
無視できない、強烈に訴えてくる存在。
「せっかく二連覇がかかっているんだ。私も呼んでくれないと拗ねてしまうよ。」
史上4人目の三冠ウマ娘。
クラシック期で常勝を貫き、生涯で敗北したのはたった三度。
シンザンの五冠ウマ娘を超え、六冠、そして七冠目へ。
誰かがこう零した。
『レースには絶対はない、だが彼女には絶対がある。』
絶対なる皇帝、シンボリルドルフ
「おっと、また抜かされちゃったかな。 調子はどうだい? 若人たち。」
その白い勝負服に落ちる影、背後に幻視する巨大な龍。
感じるは背後より迫り来る生命の危機。
「面白そうだし私も入れてよ。」
シンザン以来、長く現れなかった三冠ウマ娘。
史上三人目に名前を並べる彼女。
主流である先行を捨て、好むのは背後よりすべてを喰らい尽くす追込のみ。
タブーなど、ルールなど、常識など、
ただ矮小な人間が決めた脆く小さな枷でしかない。
龍の体現者、ミスターシービー
「あら、やる気いっぱいね。おチビちゃんたち。」
どこかから聞こえるエンジン音。
自分の流した血と錯覚してしまう視界一杯の赤。
「みんなやる気いっぱい元気いっぱい! 私も気合入っちゃうわね!」
ただ、速すぎた。ただ、勝てなかった。
その速度はもはや生物の枠に収まらず、後続は小さくなる背中しか見ることができない。
レコードを積み上げ、URAからレースを守るために出走を阻まれた。
もし彼女が自由にターフを駆けたなら、どれだけの記録が残ったのだろうか。
スーパーカー、マルゼンスキー
「も~! ダメじゃないルドルフ! おチビちゃんたちの邪魔したら~!」
「いやはや、すまない。ドアが開いていたものだからつい入ってしまってね。それに、あれだけ仲間内で楽しくやられたら私が忘れられているような気がしてね。」
「あはは! やっぱルドルフレース前になると負けず嫌いになるもんね! みんな自分のこと見てくれないと気に入らないもん!って感じ!」
「ふふっ! やめてくれないかシービー。恥ずかしいじゃないか。」
「あ! ごめんねおチビちゃんたち勝手に部屋入っちゃって!」
「「「イ、イエ。オキニナサラズ。」」」
き、緊急招集! 作戦会議だマイフレンズ!
そう小声で叫びながら隅で化け物たちの機嫌を損ねないように円陣を組むあなた&ミホ&シリウス。
(ちょっとまって! ちょっとまって! アタマ追いつかないんですけど!)
(なんで! なんであの人たちいんの! なんで!?)
(聞いてない! 聞いてないよぉ!)
「あぁ、そうそう! いいサプライズになると思って黙ってたんだよ。びっくりしただろう?」
(びっくりした! びっくりしたけども!)
(私一瞬心臓止まったんですけど! 先輩方出てくるたびに心臓止まったんですけど!)
(先輩方がナンバーワンでいいから金輪際しないでぇ!)
「そうだ! 言い忘れてた! いいレースにしようね、若人たち?」
「楽しみましょうね! おチビちゃんも頑張るのよ~!」
(無理無理無理無理! 絶対私たちじゃ勝負になんない! あいつら存在がチートだよチート!)
(勝てないぃ! 勝てないよぉ!)
(みんなお口笑ってるのに目が全く笑ってないんですよね! 獲物を仕留めようとする狩人の目ですね!)
「では、私たちは先にパドックに向かおうか。君たちも遅れないようにな。」
(えっと。遺書、書き方……)
(あはは……、お骨は海にぱぁっと撒いてもらおうかなぁ……。)
(最後の晩餐がこどもビールとか……、もっとおいしい物食べとけばよかった……。)
ミホシンザンはミスターシービーと同じチーム。シリウスシンボリはシンボリルドルフと同じチームで家系が同じであることから幼少期からの知り合い。あなたとマルゼンスキーは放課後ほとんど一緒にいる仲。
そんな関係性だからわかってしまう実力差。今の自分たちがどれだけ頑張ろうとも、どんな小手先の策や技を弄そうとも、絶対に勝てないと確信できてしまう。
普段の練習で、幼き頃からの記憶で、ともに過ごすほんの些細な一瞬で、その差を叩き込まれていた彼女たちは口から魂と深いため息を吐きながらトボトボとパドックに向かうのだった。
「あの、また俺忘れられてない?」
なお、結果としてはルドルフが一着、ハナ差でマルゼンが二着。アタマ差でシービーが三着でした。あなた組はそこから大差を付けられてミホ四着、シリウス五着、あなた六着でした。
…………もしかして、有馬記念の詳しい描写。やっちゃいます?
次回に続く。
あなた
敗因としてはレース前にこどもビール飲んだせいでお腹ちゃぷちゃぷだったのと今まで自身が散々やってきた盤外戦術を思いっきり食らったこと。それと普段練習全くしてないので勝てるものも勝てないから順当なのだ。シニア期は真面目にたくさん練習しようね!(なお例のお船が襲来予定。)
ミホシンザン
クラシック三冠レースに勝った子達に有馬で勝てば実質三冠だよね! これでシンザン先輩と並べるよ! っと思っていたら先輩方に全部搔っ攫われた悲しい子。しばらくあの三人とはレースしたくないです。
シリウスシンボリ
海外でしっかり掲示板入りできる勝負を繰り広げて成長して帰ってきたけど生きる伝説相手には勝てないです。無理です。助けてください。こんな魑魅魍魎がいる場所(日本)に居られるか! 私は海外に引きこもらせていただく! なお海外も……。
シンボリルドルフ
無事七冠達成。後輩たちをビックリさせたかったので関係者の皆さんに頼んで自分たちの名前を彼女たちに伝わらないようにしてもらったお茶目さん。なお三人とも心臓が止まりかけた模様。
ミスターシービー
実はもうドリームシリーズに行く準備を始めていたがルドルフが面白いことをしていたので混ぜてもらった。まぁそのせいで調整不足。負けた理由は解ってるけど悔しいのでルドルフにリベンジしてやろうと気合十分。
マルゼンスキー
『迷惑じゃないかな?』と思ったけど全身全霊のレースでしか出せない自分の本気逃げをあなたちゃんに見せて何かつかんでもらおうと善意100%で参加。なお本人。ちなみに史実は持ち込み海外馬だったせいで出走できませんでしたがウチの設定では『若干海外ウマ娘の規制緩めてきたけどマルちゃん出したら日本のレース壊れちゃ~う!』ということで止められたという設定です。
沖野氏
チームを存続させて、GⅠウマ娘が所属しているという名誉の代わりに現在学園一の問題児の被害担当艦。生徒からの印象も『足触ってくる変態!』から『苦労してますね……』に変わりつつある。なお来年(ピスピース!)
控室にいるのに誰にも相手にされなかったのでちょっとだけショック。
有馬記念のレース描写は次回なのだ。ちょっと書いてて息切れしちゃったので気長に待って欲しいのだ。ちなみに先輩三人衆は大体SSランク、あなたちゃんズはBに片足突っ込んだレベルで考えてます。勝てにゃい…