あなたはウマ娘である。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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最近寒暖差が激しく、普通に寒い時もございますので皆様体調にお気を付けて。


1986 天皇賞(春) IF

皆さんは『沖野』という人物を知っているだろうか。

 

 

中央トレセン学園にてトレーナーとして在籍している所謂エリートであり、ウマ娘世界では子供のなりたい職業ランキング一位、だったり高給取りの名前として挙げられるがウマ娘の独占力の強さから男女ともに身体的危険が伴うので合コンなどでは人気のない職業として有名な『トレーナー』に就いている人物である。

 

彼の正確な年齢は解らないが、若く見えるため20~30代ぐらいであろう。その若さで自身の城でもあるチームを結成して運営しているのだからその腕が確かであることが伺える。

 

今の私たちにとっては知りようのないことだが、彼の運営するチームである『スピカ』は平均GⅠ勝利率がヤベェことになるチームであり『スピカ』一強とまで言われるようになる。そんな英雄たちであるチームメンバーらを育てあげたのだから彼の優秀さは相当なものだろう。

 

高給取りである意味将来の不安もないトレーナーという職業につき、さらに中央というエリート集団に所属している中でもとりわけ優秀な沖野氏。また身体的防御力も格段に高くお顔もイケメンであるため普通に人気が出そうな彼。

 

 

 

しかしながら、そして残念ながら。彼の評価は全く違う。

 

たぶん今この時代で絶対になりたくない人物として真っ先に挙げられる。お前がいてくれるから俺らは平穏に暮らせてるんだ。致し方ない犠牲なのだ、と思われている。周りに彼の担当がいなければみんな慰めてくれるが、いた場合は少し距離を取られる可哀そうな感じ。

 

 

え? なんでそう思われてるかって? それはね?

 

 

 

「ども~! 師匠に誘われて今日から(勝手に)スピカに所属しまっす! ゴールドシップことゴルシちゃんでっ~~す!!! 趣味は一個のスイカに何個の種が入ってるか調べることで~~~、特技はシャーペン使ってる時に残りの芯の長さがわかることで~す!!!」

 

 

目の前に恥ずかしそうに体をくねくねしながら(実際は全くそんな感情はない)自己紹介をする問題児二号、ゴールドシップが目の前に存在しているからである。(+すべての元凶)

 

そして肝心の沖野氏の手に握られるスマホ、そこには……

 

『通達! チーム:スピカにゴールドシップが正式に加入登録できたことを通達するぞ! 頑張るように!』

 

『沖野さんおめでとうございます! 前々から悩んでいらっしゃった新規メンバーの勧誘がようやく実を結びましたね! 必要な書類もこちらの方でちゃんと受け取りましたので正式に加入出来てますよ! にしてもこの二年間かなり苦労してらっしゃったのにいきなり新入生を新学期初日にスカウトなさるとはやはり侮れませんね! また今度おハナさんと一緒に呑みに行きましょう! 今度はツケなしですよ~! 駿川たづなより。』

 

 

自分が提出した覚えのない加入申請がもう通っていたことに対する理事長からのメールと、たづなさんからのお祝いのメールが届いていた。

 

 

「?????」

 

 

脳内に収まらず、現実世界にもあふれる沖野氏の『?』。

 

 

「お! なんでゴルシちゃんがもう加入出来てるか解らないって顔してるな! 実は昨日師匠と協力して必要な書類用意してもう提出しておいたんだぜ! いや~、ゴルシちゃんトレーナーの仕事減らしてエライ!」

 

 

そこににゅっと現れるあなた。最近物理法則が対応しなくなってきたウマ娘です。実は前々よりひそかに実行していた今月4月から赴任している新理事長、秋川やよい氏と仲良くなる計画、通称『おいしいお菓子を投げつけ遊びに誘うことで悪友ポジションに収まってしまおう計画』が無事に実を結び、普通なら面会するのに時間がかかるところをスキップ、ゴルシちゃんとあなたで肩を組みながら一緒に書類を提出してきたのである!

 

ちなみに新学期初日にチヨノオーちゃんとラーメン食べに行った後で提出しに行ってるのでこいつらの仕事の早さは侮れない。というかあなたちゃんは小難しい書類の作成なんてできないので、ほとんどゴルシちゃんがやっているのを考えると彼女のスペックの高さに驚くのである。さすが元お嬢様!

 

 

「と! 言うことで! 今日からゴルシちゃんもスピカなんだけど何の練習すんの? やっぱ宇宙からやってくるインベーダーでホットケーキでも焼くのか!」

 

 

そんなことを言いながら早速謎のダークマターと市販のホットケーキミックスをボウルにぶち込み、泡だて器で混ぜ始めるゴルシ。どこから取り出したのかって? そんなの解るわけないでしょ、ゴルシだし。

 

なおあなたちゃんはすでに真っ白でキレイなテーブルクロスが引かれたオシャンティーな机をご用意。三人分のお皿と食器も出して準備万端。首に涎掛けをかけて右手にフォーク、左手にナイフを持って待機シャトルしております。

 

 

「……えっと、じゃあ練習すっか?」

 

 

何とか現状を受け入れて再起動し、言葉を紡ぎだした沖野氏でしたが、『練習前の軽いおやつ』として出されたゴルシちゃん特製『カラーコード#000000のホットケーキ』を口に入れた瞬間、脳内に広がってはいけないような何かが広がり、気絶してしまったので今日の練習はお休みです。

 

ちなみにあなたちゃんも一口で一枚食べた後に気絶しましたし、作った本人のゴルシちゃんも一口口に入れた後、気絶しました。

 

 

 

皆で仲良くお昼寝、微笑ましいですね。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ! マルゼンスキー先輩!」

 

 

「ん? あぁチヨノオーちゃん。はろはろ~。あなたも見に来たのね。」

 

 

京都レース場。シニア級の中でも別格である春の天皇賞が行われる今日。何万人という観客の中にマルゼンスキーとサクラチヨノオーの姿があった。

 

 

「はい! なんやかんやすごい人ですけど一応仲良くしてもらってる先輩なので……、それに先輩とはマルゼンスキー先輩と同じような縁も感じるので、何か私の糧にできるかなって!」

 

 

「あら、勉強熱心でグーよ! にしてもあの子ちゃんと後輩のお友達出来てたのね……、お姉さん嬉しいわ。」

 

 

そんなことを口にしながら、大レースの雰囲気に目をキラキラさせているチヨノオーをやさしく見守るマルゼン。彼女の魂がそうさせるのか、その目はゆっくりと成長を始める娘を見守る目である。“あなた”を見るときのような『私がいないとこの子ほんとに大丈夫かしら』の目とは大違いだ。

 

 

「……そうだ。この前の学園のレース見せてもらったけどチヨノオーちゃんは先行策で行くのよね?」

 

 

「あ、はい! 先輩みたいな大逃げに憧れてたんですけど、私にはできなくて……、先行策で頑張ろうと思ってます!」

 

 

「いいじゃない! ルドルフとか参考にしたらいいんじゃない? 『領域』あたりは難しいだろうけどレース運びはさすが皇帝ちゃん、ってところだし。…………あぁ、それと今日はあの子じゃなくてミホシンザンを良く見ておけばいいわ。逃げとか先行とかの作戦に関わらず、ね。実際に肉眼で見ないとわからないことなんてざらにあるから……、ちゃんと目に焼き付けておくのよ?」

 

 

それまでの母のような雰囲気が一変し、その顔に浮かぶのは“怪物”としての顔。

 

 

「え……、あの先輩の方は……?」

 

 

「……あんまり厳しいことは言いたくないのだけど私やあの子、そしてチヨノオーちゃんはみんながみんな違うウマ娘。それは解るわよね?」

 

 

それまでのレース場に興奮していた表情を治め、先人から少しでも経験を、教えを受け取れるように真剣な顔つきになるチヨノオー。その言葉にゆっくり頷く。

 

 

「私は速かった。自分では先行策で挑んだはずが周りに誰もついてこれずに大逃げになった。そのせいで逃げが身についたのが私。それとは違い、あの子が得意とする逃げや追い込みは私のように身体能力の差からああなっているわけじゃなくて単に彼女が本能で走っているが故の策。」

 

 

「理性を極限まで落とすが故に策など取れない。ただ自分の実力だけで走りぬく。彼女がやってるのはそういうモノ。単純な身体能力ですべてを磨り潰そうとするモノ。……ま、少しは作戦を勉強してた私よりもヒドイってことね! そもそも彼女に理性なんてあるか解らないし! ふふっ!」

 

 

「チヨノオーちゃんがしようとしている先行策ってのは嫌でもレース展開を考えないといけない。どこで仕掛けるか、どこまで脚を溜めるか、周りのライバルとか考えること一杯。もうたいへ~ん! って感じね! だから参考にできないのよ、私たちは。」

 

 

急に“怪物”からいつものマルゼンに戻る様子に目を白黒させるチヨノオー。頭のどこかで『そういえばあの先輩もこういう落差で驚かすの好きだよね』という雑念が湧くがマルゼンの話が続くためすぐに振り払う。というか『磨り潰す』って言ってた時のマルゼン先輩こわぃ。

 

 

「ミホシンザンはあのシンザン、レースの神様に人の身でどうやれば並び立てるかをずっと考えていた子。人間の身では神のような力は発揮できない、すべてを塗り替えるような力もない。ならばせめて成績だけでも彼女と並び立てるように、神を孤高から引きずり落とすことをずっと考えていた子。作戦はチヨノオーちゃんと違って差しだけど、あの子は勝つためにはどんな作戦でも張り巡らせちゃうタイプ。だから彼女を見る方が経験になる、ってわけね。」

 

 

「な、なるほど~。」

 

 

 

そう言いながら視線をチヨノオーからレース場に向けるマルゼン、気が付けばターフではゲート入りが始まっており、観客席のボルテージも高まってきている。チヨノオーも先ほどの話から『絶対に何か持ち帰ってやろう!』と気合を新たにしたらしく目をそちらに向けている。

 

 

 

 

 

 

そして、こぼれるように落ちる怪物の言葉。

 

 

 

「ま。もう一人の怪物……、怪物二世。いえ、彼女の場合は“化け物”が似合うかしらね。まだ成長もしていない、火すら灯っていない化け物を見ても参考になることなんてないって意味もあるけどね。神に手を伸ばす人間と戦ってもどこまでやれるのか……。少しでも火を分けてもらえるといいわね、おチビちゃん。」

 

 

 

速過ぎた怪物は脚を休め、バトンはもう手放している。彼女から生まれた化け物はすでに渡されたバトンを取らず、ただそこで眠り続けている。十数年間そこにあり続けた怪異は冷たく、その鼓動は感じられない。

 

 

 

 

燃え尽きた燭台に、もう一度火が灯るのはいつだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

天皇賞、春。国内のGⅠレースの中で最長のレース。

 

でも、それだけじゃない。

 

このレースはGⅠの中でも最上級のレース。文字通り格が違う。

 

 

 

「行けそうか、ミホ。」

 

 

 

トレーナーさんの声にゆっくりと頷く。余計な言葉なんていらない。

 

去年は何もできなかった。ケガ、心の弱さ、上げれば問題点は何でも上がる。皐月賞に負けた理由。私の三冠の夢が最初から潰された悪夢。だからこそ桜が舞う季節のレースは嫌なものがよぎる。

 

 

 

 

だが、それだけ。それだけだ。

 

 

無意識のうちに春のレース自体に苦手意識を持っていたとしても何も変わらない。ターフにあるのは私の体だけ。後は全部喰らい潰すだけのライバル。全部差し切れば何も変わらない。やることは同じ。

 

有馬の敗戦から約4か月、上の世代の三人にこっぴどくやられた私はこのままじゃ勝てないと現実を見せられた。このままシニアで戦って成長しても覆すことができない差。単なる身体能力や作戦だけでは何も変わらない差。

 

元々私たち三人のスタートラインも、成長速度もほとんど同じ。策を巡らせたとしてもシリウスには見抜かれるし、アイツには通用しない。単純な速さで勝負するために鍛えてもシリウスも合わせてくるし、アイツは練習してないのに調子を上げてくる。たまに抜かしてくることもあるから本当に存在がおかしい。

 

上の世代には手が届かないし、同じ世代でも完全に勝ち切る確信が持てない。

 

 

 

ゆえに、求めるのは新しい力、『領域』。

 

 

 

血反吐を吐く思いで何とか掴み取った一つの到達点。すべてを見てもらったシンザン先輩からすれば児戯にもならない力だけど、それでも私にとっては新しい力。

 

 

『領域』に至れたお祝いとしてシンザン先輩から頂いた赤い振袖。私が超えるべき春の象徴である桜があしらわれた赤い着物。それを、新しい勝負服に仕立て直してもらった。帯はもともとの勝負服から緑と黄色。

 

 

 

『春を、越えろ。』

 

 

 

えぇ、解ってます。

 

だから、ちゃんと、見ておいてくださいよ。私の神様。

 

すぐに隣に立ってみせますから。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なーなートレーナー。この前見してもらった師匠の赤い勝負服、今日着てないけどなんでだ?」

 

 

レース前のパドック。これまでならスピカはあなた一人に対して沖野氏一人のマンツーマン体制だったが、今はゴールドシップも参加済み。あなたちゃんに『あっしは別にいいでさ。ゴルゴルを優先してあげるのだ。なんてったって私はできる師匠だからな!』と言いながら控室を追い出されたので、沖野氏はまだ中一のゴルシちゃんと一緒にパドックに来ている。

 

 

「ん? あぁ。なんでも勝負服の方に弾かれるんだとよ。何言ってるか解んねぇが……、多分まだ自分には早いとかそんな理由じゃねぇか? 服に意識があるとかありえんし……。」

 

 

最後の方『でもあいつだからなぁ……』という思考がよぎり声が小さくなってきているがそういうことらしい。現に今パドックで遊んでいるあなたちゃん、深夜にやってる怪しい商品の紹介番組のノリであなたちゃんが壊したゲートの破片を販売している彼女の服装はいつも通りの水色スモックだ。

 

 

「あ! ゴルシちゃん和歌っちゃった! 『このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに』だ! ミホシンザン先輩の勝負服も赤いから避けたんだな! なるへそなるへそ。」

 

 

言われてみれば、あなたのライバル的存在であるミホシンザンの勝負服はこれまでのものと違いキレイな赤が映える着物タイプのものになっている。

 

 

「ん~、師匠の見てビビってきてたけどミホシンザン先輩のもいいなぁ……。やっぱ時代は赤かぁ?」

 

 

持ってきていたルービックキューブのすべての面を赤で染めながらそんなことを言うゴルシ。もうそれは遊べないのでは……?

 

 

「そういえばお前さんの勝負服も考えないとな。帰ったらパンフ渡すから目を通しておいてくれ。」

 

 

「うぃー。」

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ唯一無二の天皇賞の盾をかけた国内最長GⅠの幕が切って落とされようとしています。』

 

 

『去年の有馬を経て、頂点と称えられた三人がトゥインクルシリーズを引退したことにより強者がいなくなった。という発言をなさる方がいますが全くそんなことはありません。今年の天皇賞も熱き戦いが繰り広げられることでしょう。』

 

 

『一番人気はミホシンザン。去年度の勝負服と違い、赤い振袖を基調とした勝負服と共にシニア級へ戦いを挑みます。去年度はケガの影響もありGⅠは菊花賞のみとなりましたが彼女の実力はそんなところで終わらない、まだまだ勝ち続けるウマ娘。菊花賞勝者であることから長距離では有利なのではと人気です。』

 

 

『続きまして二番人気。前走のフェブラリーステークスでは持ち前の、と言っていいのかは解りませんがゲート難が尾を引き4着。しかしながらかなりのタイムロスをしながら掲示板入りできるその実力は侮れません。何も起きなければ勝つだろう、しかし何も起きないはずがない。そんな怖さが彼女にあります。きょうはパドックで火星の氷を販売しておりました。NASAに行け。』

 

 

 

パドックも終わり、ゆっくりとゲートまで移動し始める。去年の有馬まで、正確には『領域』を習得し始めるまでなら、この時間にあいつに挨拶ぐらいはしただろう。

 

でも、今の精神状態なら私の口から何が出るか解らない。それに日常ならまだしも精神が高ぶっているレース場でなれ合うのは違う。覚悟を新たにした私にとっても、敗北した私にとっても、何か話すのであればレース後でいい。私が勝った後でいい。

 

 

 

 

『さぁ、珍しく今日は大人しくゲートに入った11番。さすがに前走で反省……、はしなさそうですね。たまたまでしょう。』

 

 

『全ウマ娘、キレイに収まりまして……、今、スタートです。』

 

 

 

 

いつも通り収まって、いつも通りスタートする。差しの私はそこまでここに勝負をかけなくてもいい。なおさら今日は3200mの長旅だ。いらない焦りは敗北への第一歩。

 

私の作戦としての本番も『領域』の本番も最後の直線。わざわざ必要のない動作をしてスタミナを使う必要はない。流す程度でいい。アイツは……、前にはいないな。今日は追い込みか、ちょうどいい。

 

ちょっと言いたいことがあったんだよ。

 

あえて速度を落とし、追い込み位置まで下がってアイツの横にまで下りる。

 

 

 

 

 

【ねぇ、いっつも思ってたんだけどさ。】

 

 

【お前、どこ見てんの】

 

 

【あの皐月賞の時、お前。なんか申し訳なさそうな顔してたよな】

 

 

【あれは私がケガで全力出せなかったこと、それで勝ったことに対してか】

 

 

【そのあと、シリウスや私に負けてもお前はなにも変わらなかったよな】

 

 

【何もなかったようにいつも通りふざけて、負けたことに対しては何もなし】

 

 

【悔しがりもしないし、そのあと練習量を増やしたとかも聞いてない】

 

 

【そもそも入学してからまともな練習したことすら聞いてない】

 

 

【お前さ、どこ見てんの】

 

 

 

 

 

【お前のこと疑問に思ったおかげで解ったんだよ】

 

 

【もう一つの視点】

 

 

【今私たちがしてることは全部焼き直しだってことは】

 

 

【お前だけその視点を持ってる、その記憶を持ったままこっちに来た】

 

 

【そのせいでお前からしたら全部既知なんだろうな】

 

 

【これまで全部用意された道、通ってきたんだよな。私も、お前も】

 

 

【そのせいで全部つまんなく思えてるんだろ】

 

 

【レースに対する熱意】

 

 

【お前からは全く感じられないもんな】

 

 

 

 

 

 

【もう一度、見せてやるよ】

 

 

【お前にとっては既知だろうが】

 

 

【それでも焼き付けてやる】

 

 

【私/俺の意地、シンザンを継ぐものの意地】

 

 

【だから】

 

 

【こっちを見ろ】

 

 

 

 

視界を埋め尽くす精神世界。引き込まれるのは私だけ。

 

 

 

振袖振って、神楽を舞えば

 

天におわすは我らが神よ

 

賜り給うその錦

 

それに恥じぬ、戦いを

 

 

領域展開、【神のまにまに、手向けの錦】。

 

 

 

 

私が神から受け継げたのは、その視点だけ。

 

だからこそ疑問に思えた。なぜ彼女にあれほどまで熱意がないのか。

 

なぜあれほどまでに自由気ままなのか。

 

 

 

彼女の生はもう終わっている。私たちの祖、その一生を終えたままこちらに来た。

 

ゆえに祖としての記憶を持ち得ている。

 

 

彼女からすればもう引退した身の延長上であり、所謂天国のようなもの。

 

一度走ったレースで結果が同じであればもう何もやることはない。

 

全部が全部焼き直し、ただつまらない児戯。

 

 

 

だからこそ彼女は道化に成り下がる。退屈な日々を嫌う彼女はレースを好まない。

 

決まり切った道を歩くのを好まない。

 

 

 

 

でも、あの有馬で因果は崩れた。本来出走しなかったミスターシービー、引退して種牡馬になっていたマルゼンスキー。そして帰ってこなかったはずのシリウス。彼女たちが出走してくれたおかげで道がブレた。決まり決まった計画に狂いがでた。

 

おかげで本来私が出られないはずの天皇賞に出られてる。もっと続くはずだった脚の不安も取り除けている。

 

 

彼女と付き合いの長いマルゼン先輩は薄々気付いている。彼女の火がもう燃え尽きた後だということを。あの人は優しいし、彼女は血縁。一度やりぬいた記憶を持っている人間にもう一度やりぬけと言える厳しさは持っていない。無意識的にその話題を出すのを避けている。

 

だが、私/俺は違う。この視点のおかげで同期した“祖”と私。同じ魂。叫ぶのは同じ。出来なかったこと、出来るはずのなかったこと。それを実現させたい。魂の発露。

 

 

聞け、私のライバル。

 

 

 

 

「『もっと私と競い合え』」

 

 

 

 

『さぁ最終コーナー、二度目のホームストレッチに入るところで……、ミホシンザン上がってきた! ミホシンザン上がってきた! 最後方に下がっていたミホシンザン起動! そしてそれにつられて11番も同じく加速!』

 

 

 

 

「『見ろ! 私/俺を見ろ! 私たちを見ろ!』」

 

 

 

 

今まで自分の出せるもん出し切ってない奴に負け続けたんだ!

 

一度勝ったぐらいでお前の心に火を付けられるとは思ってない!

 

 

私は何度でも! お前が本気を出すまで何度でも勝ち続けてやる!

 

だからそろそろ!

 

 

 

その本能を見せてみろよ!

 

 

 

 

『11番上がる! 上がるが! ……届かない! 届きません! ミホシンザン加速! ミホシンザンだ! ミホシンザンだ!』

 

 

『ミホシンザン抜け出した! ミホシンザン抜け出した! 並びません! 並ばせません! 影すら踏ませない! 追いつけない! 追いつけない11番! そのまま寄せ付けずゴールイン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………ふ~ん。」

 

 

 

鍵の、外れる音。

 

 

 

 

 

 

 

 








【神のまにまに、手向けの錦】

〇スキル説明
最終コーナーから神の視点を持って加速、抜かした人数だけ効果上昇。

〇スキル効果(アプリ)
最終コーナーから抜かした人数が増えた分だけ加速する。理論上15人を抜けば会長の固有と同等の加速率を誇るが、追い込み位置で発動させないとそこまで強化されないので注意が必要。


〇スキル効果
シンザン会長の『領域』を見たことで神の視点、俯瞰することを覚えた。
『領域』を展開することで大神を祭る神社を精神世界に展開、神前で神楽を舞うことで頭上に太陽を発現、その太陽の視点と自身の視点を合わせることで俯瞰することができるようになった。
レース時に加速出来ているのは抜き去った相手を『見て』『理解』して一時的に『自身のもの』にしたから。

彼女はこの視点を持って自身の根源に繋がり、過去の馬としての自分と同期したことで“あなた”の状況を理解した。ウマ娘の自分としては『前世の私が競い合ったあの本気を見せてほしい』、馬としての彼女は『なんで本気でやってないのお前』ということで感情が発露。


あなた

やっとですね。


ミホシンザン

菊花賞、天皇賞(春)を勝利。次走は宝塚記念の予定。



カラーコード#000000のホットケーキ

ふんわりと焼けたホットケーキ。ナイフを押し込むと程よい弾力が帰ってき、その柔らかさの中に弾力があるのが感じられる。ほんのりと香るにおいはゴルシちゃんが隠し味として入れたはちみつ甘い香りを醸し出しており、非常に食欲がわく。しかしながら謎のダークマターを入れたせいで色が原色の黒になってしまった。また口に含んだ瞬間通常の人間では耐えられないほどの情報が脳内を駆け巡るという欠点がある。口に入れた瞬間デメリットが発動するので舌が受け取った反応を脳が受け取れないせいで味が解らないが、聞いた話によると非常に美味であるらしい。
常人なら頭がザクロになってしまってもおかしくないが、あなたちゃんは存在がおかしいため気絶で済んだ。ゴルシちゃんはゴルシちゃんなので気絶で済んだ。沖野氏は人類を超えた耐久力で気絶で済んだ。スピカには常人が存在していないのだ。


シンザン

え、神の視点? ……私そんなのもってないんだけど……、こわ。

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