宝塚記念、国内における上半期レースの締めくくり。寒さよりも暑さの方が苦手なウマ娘にとってこの夏に入る前の宝塚記念は、長い休養前のレース。夏の間、どれだけ成長できるか。それを考えるとこのレースに出走する者たちは気持ちよく合宿に行くため、もしくは上との差を肌で感じ自分がどれだけ成長すればいいかを実感する場なのかもしれない。
ファンにとってもGⅠクラスのレース、特に芝は夏が開けて9月まで待たないと大舞台のレースは見ることができない。ゆえにこの空白期間を乗り切るためにみんな全力で応援に向かうのです。
そんな大レースである宝塚記念。それに出走するあなたちゃんはいつも通り控室でパドックを待っています。クラシック級まではあなたの担当トレーナーである沖野氏が傍について一応サポート的なことをしていましたが、今年からスピカにゴールドシップという新人が入ってきたためそっちについていくことになってます。まぁいくらゴルシでもまだ中学一年生だから監督者がいないとだめだよね? って感じです。まぁゴルシなら何が起きても勝手に対処して予想外の結果をもってきそうですけど世間体って言うやつです。……ん? あなたちゃんが存在している時点でそういうの破壊されてる? ごもっともです。
『ま、こっちは一人二役だから大丈夫なんだけどね。そう思わないかい、相棒。』
鏡の前でいつもの水色のスモック。勝負服のしわなどがないかを確認しているとあなたと瓜二つの存在。正確にはあなたちゃんの理性が幽霊のようにあなたの体からスッと出てきました。着ている服は同じですが等身は半透明になってでてきた理性ちゃんの方が大きいですし、お胸もそうです。
ちなみにあなたちゃん(本能・いつもの)の姿かたちが胸を除いて瓜二つなのは有名な話ですが理性ちゃんはそれよりも頭一つほど身長が高いので見分けがつきやすいです。ありがたいですねぇ。
「うん。……でももう一人の私? 控室静かなのはちょっと寂しくない?」
『はは、確かに。』
まぁいつもあなたちゃんが騒いで、沖野氏が突っ込んでくれるのが形式美のようになっていましたからね。仕方ないのかもしれません。
『にしても、赤い方の勝負服は使わなくていいのかい? あれまだ一回も袖通してないけど。』
「ぬぅ! 解ってて言ってるでしょ理性! あれ使うの次だってことぐらい。」
『はは、ごめんごめん。いやGⅠ勝ってる私たちにしたらちょっと今の勝負服は地味かな、って思ってね。ほら新しい方の勝負服金の飾りたくさんついてるじゃん。今着てるのは大人しい感じで纏まってて無茶苦茶いいけどね。……あ、ほら! もっと腕にシルバー巻くとかさ!』
「……それ言いたかっただけだろ。」
『バレたか!』
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『さぁ始まります春の締めくくり、宝塚記念。ファンによる投票によって決められた猛者たちが出走します。シニア級に入ってからはやけに大人しくなった彼女のおかげで今日のパドックは何も起きずに無事終わりました。』
『ホントに今日何もなく終わりましたね……。他の子がやるように普通に勝負服を披露して簡単なアピールで終わっちゃいましたね。なんだか物足りなかった気もしますが何もないのはとてもいいことなのでここから先は何も考えないようにしましょう。』
『はい、解説さんは一度発狂してから何かおかしくなってしまったのでおいておきまして各選手の紹介に行きましょう。一番人気を抑えましたのはクラシック後半から覚醒したミホシンザン。彼女が入学した時は三年連続三冠に一番近いウマ娘と噂されていましたが、ケガなどのアクシデントで不調。それを乗り越え一回り以上に大きくなったと言えるでしょう。前走快勝した春の天皇賞から新しく身に着け始めた真っ赤な振袖の勝負服で今日も挑みます。』
『後方からの追い込みが持ち味のウマ娘。偉大なるシンザンと同じ名を持つ彼女ですがそれが重圧にならないだろうかと前々から不安に思っていましたが、天皇賞を勝利してからはその重みを強さに変えられた様子。さらに大きくなるウマ娘ですよ。』
『お次は二番人気。言わずと知れた“あなた”。昨年のジャパンダートダービーから勝ち星に恵まれていませんが、前々走のフェブラリーステークスではゲートで何かしらのハプニングが起きたのか4秒ほどスタートが遅れました。しかしながら信じられないほどの猛追で掲示板に収まるというとんでもない強さを見せています。ミホシンザンとのライバル関係も長い彼女。今日こそゴールを先に潜れるか。』
『彼女の潜在能力は正直底知れません。天皇賞の敗戦からようやく真面目に練習し始めたそうですが、それはつまりこれまでただ単に自分そのままの能力で走り続けていたということ。正直このレースがどうなるのか解りません。人気こそミホシンザンに一番を許しましたが、恐ろしさは今まで見た中で最高かと思います。』
ふふ、初めて戦ったホープフルS。そこから一年半ちょっと、やっと彼女の本気が見られる。あの時魅せられた届かない背中、そして届かず顔を下げてしまった時の足元の景色。そこから何とか追いついて抜かしたはずの背中。
でも、何故かまだ勝った気になれなかったんだよね。肌で感じる末恐ろしさ。全容が見えないせいでアイツが何なのか解らなかった。ま、『領域』で見たおかげで少しは解ったけどね。
「さぁ、やろうか。私のライバル。あんたの記憶じゃこのレースの勝者はあなたなんだって? うん。じゃあそれも全部塗り替えてあげないとね。……本気で掛かってこないと、全部飲み込んじゃうよ?」
さぁ、やろうよ私の太陽。あの化け物の本気を炙りだして、飲み込んでやれ。
(だってさ、私。…………もう火はついた。お目覚めの時間かもよ?)
「うん。わかってる。」
ゲート前。
一度、目を閉じ足を止める。
向かうは精神世界、その深奥。
血が抜かれ、鎖で全身を封じられた『化け物』の眼前。
『化け物』に手を当て、その冷たさに徐々指先から体が凍っていく。
「起きろ、私。」
心臓から手の先へ流れる赤き血潮のライン。心臓から送り出される熱。
既に肩まで凍りかかっていた腕が徐々に溶けていき、指先まで熱がこもる。
そして、一気に送り出される生命。真っ赤な血。暖かい太陽の血。
ゆっくりと、しかしはっきりと聞こえる鼓動。
それまで聞こえなかった心の脈動。
「さ、準備体操にでもいこっか。」
ーーーーーーーーー
『さぁ、スタートで、って15番“あなた”が驚異的なスピードでスタート! 頭一つ飛び出ました!』
(ふふ、今手持ちの『領域』は遊びが入ってしまうからね。“理性”を持ってタイミングさえ理解してしまえば完全なスタートなど朝飯前ってところ。ま、本能側が反応してくれないと意味ないんだけどね。)
「……うるさい。」
(はは、そういうなよ。私だって久しぶりに全力で走るんだ。少し舞い上がってしまうというモノ。許してくれたまえよ本能。……さて、今回は次走に向けた調整の意味合いが強いがそれでも今できる全力で走るのが大前提。本番の2400には200ほど短い宝塚記念だが気を引き締めるように。)
「了解。」
『速い速い! かなりのハイペース! 短距離かと勘違いしてしまうような速度で先頭を進みます15番。これは掛かっている……のか?』
『いえ、もしかしたら作戦なのかもしれませんし、彼女にとってはこれが一番いいペースなのかもしれません。正直スタミナがどれだけ備わっているかが解らないため結論は出せませんが、精神的焦りややけくそになって走っているようには思えません。』
「…………。」
「あは。」
「あはは。」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「そうだよ。それを待ってたんだよ。」
「やっと、やっと挑める。あっと勝負だぁ……。あは。」
「たのしい、たのしいねぇ、あなた。やっと全力でぶつかり合えるねぇ。」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
『ああー!!! 後方位置でレースを窺っていたミホシンザンが猛スピードへ先頭に向かって走りだしました! 未だ中盤にすらなってないのに!』
『これは……、このまま速度を保ったまま15番が前に出過ぎると追いつけなくなると考えたからでしょうか。確かに彼女たちの初戦であるホープフルSと同じような負け方をしてしまう可能性があります。それを避けたのでしょうが……、二人ともスタミナは大丈夫なのでしょうか?』
「ふふ、来いよミホ。」
「あはは! やっとだ! やっとだ! あの記憶で見た君と勝負できる!」
ミホの背中にうっすらと赤い日輪が浮かび始める。足音が、二足から四足へ。
あふれ出す闘志と零れ落ちる獣性。
そしてはっきりとわかる背中に突き刺さる勝利への欲望。
(ありゃりゃ。前世と同期しすぎて混合しかけてる? あれ? ……ま、手強いのは変わらんね。油断せず行けよ、本能。)
「あぁ。……いくよ、ミホォ!」
「見ろ! 私/俺の全力!」
『さぁ最終コーナーを回って先頭は15番“あなた”と5番ミホシンザンが後方に大きく差を広げてデッドヒート! ほぼ逃げ勝負となったこのレースは一体どうなるのか!』
あぁ、負けたくない。勝ちたい。でもこの楽しい時間が終わることを本能が拒否している。スタミナなんかもう考えてない。ただ心のままに力を出し切る。
私/俺 が初めて 彼女/彼 を見た時、感じたのは恐怖。そして歓喜。シリウス以外にも私と競い合える好敵手がいたこと。そして 彼女/彼 の記憶を見て思ったこと。この記憶のように私/俺もコイツともっと競い合いたい。勝負したい。本気で戦ってほしい。
本能がもっと楽しめと、もっと競い合えと叫ぶ。
生まれた後に手に入れた欲望や、欲求。あのシンザン先輩と並び立つことはいったん忘れろ。
今はこの勝負を勝つために全力で。
「勝負だ! 私のライバル!」
「……、あぁ。望むところ!」
『激しい先頭争い! ミホシンザンが抜いた! あなた抜き返す! しかしまたミホシンザン抜いた! 激しい叩き合い! 両者ともに伸びる! 伸びる! 後続は追いつけない! 二人の独壇場だ! そしてそのまま固まってゴールイン! 審議確定! どっちだ! どっちだ! どっちだぁー!!!』
『7,2,1,…………15! 15! 確定のランプ! 15番あなた一着! 一着です! ハナ差であなた一着! 二着はミホシンザンとなりました! 宝塚記念を勝利したのはあなた!』
「まけ、か。……………楽しかったよ。次は負けないからね。」
「ふふ、なら今度も負かしてあげる。」
ーーーーーーーーー
(ッ! このままじゃ間に合わない!)
イギリスのアスコット競馬場。日本から唯一の出走馬であるシリウスシンボリは焦っていた。
(芝の適性うんぬんよりも先頭のアイツにこれ以上差を付けられると間に合うか解らない! スタミナの問題があるけど、足りなくなったら気合で補う!)
―領域展開
一瞬で塗り替えられる世界。
見上げるのは誰もいない草原で、何もない真っ暗な夜空。
「さぁ、輝け。」
この夜空は、この星のどこから見ても、変わらない。
“シリウス”
地球から見える中で一番キレイに輝く一等星。
私の名と同じ。
私の強さも、輝きも、どこでどう走ろうが何も変わらない。
【Σείριος】 発動。
『さぁ上がってきた上がってきた! 後方からシリウスシンボリ上がってきた! シンボリの! 中央の! 日本の思いにその背を押されて今、輝き始めます! すごいスピードだ! 先頭に食らいつく!』
ルドルフ先輩と二度目の外征。彼女はケガですぐに戻ってしまったけど私は走り続けた。何とか重賞で勝ち星を上げられた。……まぁそのせいで色々と騒がれたがまだ日本ウマ娘としても、私としても目標である海外GⅠの勝利にはたどり着けていない。
そして今日のレース。シンボリ家のトレーナーにも太鼓判を押された。私としてもこれ以上にないと思えるぐらいの仕上がり。そしてケガで本気で走れなかったルドルフ先輩につきっきりで教えてもらた私の領域、私だけの『領域』。
私の身近な人だけじゃない。ここまで応援に来てくれたファンの人たち。URAの職員の人たち。そして日本で応援してくれているおハナさんとルドルフ先輩。他にも多くの人たちが私の勝利を疑ってない。私が絶対に一番になって帰ってくる。初めての欧州GⅠを勝って帰ってくるって信じてる!
勝てる。あぁ、勝てるって確信が私の中にある、みんなの心にあるんだ!
さぁ、前へ! さらに前へ! 輝け! シリウス!
「私が! みんなの望んだ一番に!」
「……足りない、かな?」
『シリウスシンボリ伸びる! 伸びる! 伸びますが……、届きません! ダンシングブレーヴがさらに速度を上げた! 強い! 強い! シンボリ詰めたはずの差がさらに広がります! そのままダンシングブレーヴが先頭を保ったままゴールイン! 2バ身程遅れてシリウスシンボリ今ゴール! 日本、惜しくも欧州に届きませんでした! KGVI&QESを制覇したのはダンシングブレーヴです!』
あなた
あなたちゃんが何も問題を起こしていない……? 嘘よ! こんなのあなたちゃんじゃないわ! きっと偽物か何かよ! はやく本物を出しなさい!
ミホシンザン
シニア級での初敗戦。でもまだまだ大きくなります。日輪を背負ったものは強いのだ。でもウッマが出てきてるから収めるのだ。
シリウスシンボリ
画面外で海外重賞勝ってた子。描写できなくてごめんね。アニメ・エルコンドルパサーの感覚。
書いてて思ってたこと。
『疑問』みんなキャラが行方不明。
『理由』シリウスの一件とあなたちゃんの性質上ちゃんとしたキャラ付けを行っていなかった
『結果』みんなだれぇ?
『設定』ミホちゃんの防壁が崩れて前世の獣性出ちゃった。