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今、フランスは大混乱に陥っていた、それも特にパリ。
ウマ娘のレースの比重がとっても大きいこの世界。世界最高の芝レースである凱旋門賞が始まるとなれば世界中が目を向ける。もちろんフランスもパリも目を向ける。
言ってみれば毎年やってくるウマ娘のオリンピック、日本の高校球児たちの甲子園、その世界版みたいなものだ。そりゃ注目されますわな。
んで、皆さん出走者のチェックを普通にやるんですよ。やれ前走のセレクトステークス(英GⅢ)で10バ身差をつけたダンシングブレーヴが注目だ、とか。ベーリングちゃんがむちゃ強そう、だとか。よくよく見渡してみれば出走する16人の内12人がGⅠレースに勝利しているではないか! 超豪華メンバーだな! などとみんな噂するんです。
それで自然と日本から二人も来ていることにちょっと注目し始めるんですよね。あら、シリウスシンボリって子は日本のダービーに勝ってる子なのね、油断できないわ。それにもう一人……、“あなた”? “you”? なんだか面白いお名前ね……って! この子GⅠ4勝もしてるじゃない! 今年の凱旋門賞で一番人気のダンシングブレーヴちゃんでもGⅠ3勝よ! いったいどんな子かしら……。
『あなたちゃん! ゲート前でダダヲコネル! 地面に寝転がって徹底抗戦の構え!』
………ん?
『YOUの日常風景、ゲートを粉々に破壊するのが朝のルーティーン。』
……あー。
『衝撃のダービー! 危うく全裸か!』
……え、ちょ。
『外宇宙の邪神さんと握手! タコのおじさんと仲良しなあなた。』
……これ大丈夫? 日本大丈夫?
『凱旋門(賞)を、ぶっ壊す!!!』
……ダメじゃん! これ呼んだらダメなやつじゃん!
一般のレースファンがあなたちゃんの異常性に気が付き始めたころ……、フランスのお偉いさん。特に国防省の皆様も頭を抱えていた。特に国防大臣さんが頭を抱えてうんうん言ってた。何故かと言いますとこんなことがありまして……
日本のURA
『今年こんな子凱旋門に出してもらいたいんですけど……、いいっすかね?』
フランスギャロ(レース運営)
『ちょっと経歴見せて……、お! 強そうな子やん。ええで。気を付けておいでまし。』
日本のURA
『あ! ほんとですか。じゃあ登録お願いしますね!』
フランスギャロ(レース運営)
『おkおk……。うっしゃ、登録と発表し終わったで。』
日本のURA
『ありがとうございます。……あ、そうだ。これあなたちゃんのプロフィール、参考までに送らせていただきますね!』
フランスギャロ(レース運営)
『ん? あぁわざわざありがとう。別に送ってもらわんでもええのに……。ん~、一応目ぇだけ通しとこか。…………なんじゃァこりゃあぁ!!!』
登録、発表後に発覚するあなたちゃんの悪評。悪魔的なクセ、そして積み上がる被害額。フランスギャロの皆様は思いました、これはとんでもない奴を出走登録させてしまったぞ……、にしてもコイツゲート嫌いなのか。ちゃんとゲート入ってくれるかなぁ……。
ん? ゲート? ……門?
凱旋“門”?
…………やっっっっっっっっばっっっっっぁぁああああああ!!!!! マズいマズいマズい! 過去のデータから鑑みるとコイツ素手で鉄製のゲート破壊できるぞ! しかもなんか変な技使って爆弾とか持って来るぞコイツ! ど、どうする!?!?!? この子絶対凱旋門の方にやってくるぞ! ど、どうすればいいんだ!!! ……せや! ウチらではどうにもならんからもっとお偉いさんに任してしまおう! 現実逃避だ! こんなの止めるには軍隊しかないじゃろ! 国防省さ~ん!!!
まぁそんな感じで国防省までお話が回ってきたわけですが……、調べれば調べるほどどうしようもない凶悪さ。日本にいるフランス大使館の皆様に調べてもらうと目を疑いそうになる化け物。空は飛ぶわ、ゲートは壊すわ、爆弾をどこからともなく召喚するわ。挙句の果てにはほぼ生身で大気圏を突破して何事もなかったように帰ってくる。日本のアタマオカシイ技術力で作成されたスーパーロボットの装甲に使えそうなほどの合金(例:超合金Z)をふんだんに使った耐久力のおかしいゲートを口や目からビームを吐いて消滅させるなんて序の口です。
どんなに考えても考えても、こいつを止められそうな方法は何も思いつかなくて困っちゃう国家最高の暴力装置であるはずの国防省。軍隊を出撃させても多分勝てないし、戦車もビームでやられる。戦闘機を出しても謎のアヒルさんボートで突破されて大事な大事な凱旋門が破壊されてしまうであろう。
「……仕方あるまい。もうこうなったらあの子が滞在している間投入できる予備戦力すべてで凱旋門を警護するしかあるまい。というかもうそれぐらいしか思いつかない……、よく日本今まで何も起こさずにできたな……。」
いえいえ、全く制御できてませんよ?
と、あなたちゃんが来仏するということで皆さん大慌て。フランス国防軍の皆様は凱旋門が存在するエトワール広場から放射線状に広がる12本の道全てに『あなたちゃん立ち入り禁止』の立て札と、たくさんの軍人さんを警備に当ててあなたちゃんに備えます。
もちろんエトワール広場、凱旋門が存在する場所でも厳戒態勢が敷かれており、どこからともなくあなたちゃんが出現する可能性に備えています。空からあなたちゃんが最近手に入れたアヒルさんボートで侵入してくる可能性に備え、フランス空軍の皆様も目を皿のようにしてレーダーを見張っていることから本気度が伺えますね。
んでまぁそんな毎日軍隊が出張っていればパリの皆様も不思議に思うわけでして、自分たちで調べてみるとあら大変。日本から化け物がやってくるぞと大騒ぎです。レースで暴れてもらうのは一ファンとして楽しいからいいんだけど、建物とか壊されるのは勘弁な皆さんは自分たちでも見回りを始めるようになりました。『あなたちゃんを見つけたら近場の軍人さんへ』です。ま、ただの軍人ならあなたちゃんを止められませんけどね☆
さぁ、あなたちゃん。どうやって突破するんでしょう?
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あなたはウマ娘である。
エジプトにいた吸血鬼さんがあなたちゃんに勝負を仕掛けた瞬間に『領域』が誤作動してミホの固有スキルが発動、吸血鬼さんの目の前に疑似太陽が出現したとしても、アメリカの製薬会社さんが『あなT-ウイルス』なる大変危険なものを現在誠意製作中だったとしてもあなたはやっぱりウマ娘である。
さて、前回あなたちゃんは無事乗っていた飛行機を墜落させ(搭乗者全員何故か無傷)、仕方なく陸路で電車に揺られながらおフランス、それもパリにやってきたわけであるが……。
なんかむっちゃ見られているのである。
これが日本であれば言葉が解るし、向けられた視線も珍生物へ向けられるぐらいの物なのだが……、なんかめっちゃ警戒されている気がするのだ。いつもなら視線を感じたらその方角に勝手に寄っていき、どこから取り出したかサイン色紙に『あなた』と書いてプレゼントしてあげるぐらいにファンサービスが過多なあなたちゃんなのであるのだが……。やはりこの視線は初めてのものである。
ちょっとだけ居心地が悪いなぁ、というぐらいなのだがやっぱりなんだか危険物を見る目ばっかりなのだ。あなたちゃん、不思議だなぁ、という感情を胸に宿泊するホテルの方に向かいます。あ、もちろんマルゼンお母さんにお手手つながれてですよ?
そんな形でてくてくホテルまで歩くあなたちゃんとお母ちゃん。無事に宿泊するホテルに着いたのですが……、なんだか黄色と黒の張り紙がされています。それに興味を持ったあなたちゃんは常識など残念ながら持ち合わせていないので、マルゼンお母さんがチェックインの手続きをしている間にパッと傍を離れ、目的の張り紙をホテルの壁から破り取り、まじまじと見つめます。
あなたちゃんにおフランス語などという高等な語学が備わっているはずもありませんので、全く以ってチラシにかかれている文字は読めません。しかしながら凱旋門賞に出走登録するために撮った証明写真、あなたの舌を鼻のてっぺんに当てようとしている変顔の写真から矢印が伸び、凱旋門に続いているイラスト。その上から真っ赤なバッテンが付いていれば何となくわかります。
『なるほど、自分が凱旋門に突撃することをパリのみんなが望んでいる』と。
パリに在住の皆さんが『違う、そうじゃない』と叫びたいでしょうが、残念ながらあなたちゃんは自分の脳内だけで完結してしまいました。これがマルゼンママとかにお話ししていれば何か変わったんでしょうが、そんなに現実はやさしくありません。あなたちゃんは嬉しい招待状を丁寧に畳んでポケットにしまいました。
「あ、おチビちゃん~、ここにいたのね。チェックインできたからお部屋を見に行きましょう?」
「は~い!」
フランスの皆さまに呼ばれているのならば今すぐ向かいたいあなたちゃんでしたが、今回の旅行にはお母さんも一緒についてきています。わざわざ保護者として来てくれたわけですし、史実パパなので今勝手に遊びに行って心配させてしまうのはさすがのあなたちゃんでも憚られました。
もし凱旋門に遊びに行くとすれば自分の自由時間の時に行こうと決めたあなたちゃん。
お手元の手帳からスケジュールを確認。おフランスの芝の対応のための練習や、シリウスと再会する時間。新しい勝負服を今回使用するのでそれの調整とかもあるので……、纏まった時間が取れそうなのは、凱旋門賞が終わった後の様子。
あなたちゃんは凱旋門賞が終わった次の日に大きく丸を付け、爆弾の絵を描いたのでした。
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「ふむ。13戦7勝でGⅠ級4勝ね……。芝の適性や時差、食事の違いなどで欧州では力が出し切れない極東のウマ娘。けれども単なる挑戦者として切り捨てるのは危険か……。ふふ、こっちの暮らしが長くなったせいかジョンブルかぶれになってしまったかな? もう母国のコーヒーは似合わないかもしれん。」
1986年度、今年の凱旋門賞に出走するライバルたちのデータを片手に紅茶を嗜むウマ娘。彼女の母国である開拓者たちの国の雰囲気は鳴りを潜め、白磁の茶器片手に纏められたレポート達を読むウマ耳の彼女。その醸し出す雰囲気は紳士淑女の国に相応しくなっている。
「こっちがお上品過ぎるせいかコーラ片手に馬鹿でかいバーガーにかぶりつくなど人前ではできんからな……、帰ったら『なにお上品になっているんだ』などと同期に笑われそうだ……。そういえば母国のあの赤いお方は過去に“ハチェット”と呼ばれる日本ウマ娘と非公式ながらも対戦したことがあったんだったか。かなりの接戦で適性の差でなんとか勝ったらしいが……。ま、極東の小さな島国として侮れば喰われるということだな。……ん? イギリスも小さな島国か?」
そんな軽口を叩きながら、日本からの刺客である“あなた”のデータを読み込む彼女。もうすでに他の出走者たちのデータは読み尽くしてしまったのか、机には数多くの書き込みがなされた紙束が奇麗に纏められている。何も書かれていないのは彼女が今手に取っている分だけだ。
「非常に愉快な性格をしているな。まぁパフォーマンスの一つとしてとらえてもよいだろう。自身の滑稽さを前面に押し出すことで油断させるという策ならば加点でもしてやりたいところだが……、ま、ありえんだろう。これは真に狂っている者の動きだ。となるとレース時の動きだが……。」
使用する策は、逃げか追込。両極端の二つ。逃げを用いるときは有り余るスタミナに身を任せて最初から最後までほぼ策なしの逃げ。最終コーナーに入ったところで速度を一時的に緩めて二の矢。策を用いない走り方のため、こちらの策略を押し付けやすいという点があるが後方からの追い上げを得意とする私からすれば距離を稼がれると少々難しいことになるだろう。
対して追い込みの場合。こちらもあえて策を練るぐらいならば何も考えずに済む大外からの勝負を好む傾向がある。調べさせたデータの中に国内でのチームで同じような追込策を好む後輩がおり、その者に対して簡単な策を教えている場面があったと記入されていることから策の取れない脳なしというわけではないのだろうが……、まぁこれまでは単なる本能で戦えばある程度勝負になったのだろう。
「以上の事柄とこれまでのレースを鑑みると……、おそらく一番得意なのは逃げ。追込もできるが最初から最後まで先頭を走りたい口だろう。ゲート難が見られることから仕方なく追込ができるようになったという形だろうな。」
あとはその速度とスタミナがありながらも何故か勝負根性というか、セリ勝つ気がないという点もあったのだが……、前走のタカラヅカでおそらくそれを克服している。
「まぁ他の出走者もそうだったのだが、最終的に全て平らにする。圧倒的な実力を以って喰らい尽くせばよい、ということだな。」
「楽しみだよ、“you”。君が私の新たな首級の一つになってくれるのが……。」
その名はダンシングブレーヴ。
史上最強に名が挙げられ、世界から渇望される真なる勇者。
彼女の喉元に食いつくのは、誰だ。
「あなたちゃんでっす! にゃハハハハハ!!!」
「ん? 今なんだか寒気が……。暖房でも付けるか……。」
誰かが言った、『癖がある奴ほど強い』
その言葉は“化け物”のために存在した
逃げて、勝つ。追い込んで勝つ
芝も砂も、中央も地方も
そして世界へ
常識とはすべて凡人が作り上げた虚構だ
作られた栄光の門を、破壊せよ
変えられない伝説は、ここだ。
「and “YOU”」
凱旋門賞が、来る。