あなたはウマ娘である。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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そういえば前回のあなたちゃんがどこにいるか皆さんお気づきになられました? シリウスのシンボリ家騒動の時みたいに勇者さんの宿泊地にあなたちゃん潜伏してたんです。透明文字にしてるので探してみてね。


越えられないレコード

 

 

『さぁ、始まります! 芝レースの世界最高! そう、凱旋門賞! 世界中のウマ娘が憧れるこのレースに日本から二人の強者が挑みます。』

 

『1番の内枠といういい枠番を手に入れたシリウスシンボリとは対照的に、あなたちゃんは16番の大外枠、まぁ彼女ならそんなこと気にしないでも大丈夫な気がしますがやはり不利になってくるでしょうか?』

 

『そうですね。フランス側の放送席では、『大外枠という不運もありますが、彼女の場合前走が宝塚記念。あまりここロンシャンの芝に適応できていないのではないかという不安、それとそれ以上にあなたちゃんの性格がパリの皆様に知れ渡ってしまい、まったく歓迎されていないのが彼女に影響するのではないか』と指摘されていますが……、まぁ彼女なら何とかするでしょうと言うのが私の考えです。それよりもゲート前でまた変なことしないかがとっても心配です。』

 

『レース結果とかよりもどうにかしてちゃんと走ってくれないか、それが私たち日本サイドの心からの願いですね。あと凱旋門には近づかないでください。……さて、問題児の方は置いておいてシリウスシンボリはどうでしょうか。』

 

『やはりかなり仕上げて来たな、と言うのが感想でしょうか。7月末のKGVI&QESで国内からとてつもない期待を背に受けての敗戦でしたから彼女にとってかなりの挫折であったことが伺えます。それを経たおかげかどこか危うさを感じますがとてつもない仕上がりと言えるでしょう。一番人気に推されているダンシングブレーヴといい勝負を繰り広げてくれたらな、と思います。』

 

『なるほど、やはりあのレースは我々にとってもショックが大きいものでしたから当事者の彼女にとってはなおさら、というわけですね。して、一番人気のダンシングブレーヴ、彼女はどうでしょうか?』

 

『彼女は史上最強を決めなければならない時に、いまだ現役ながらその名が上がる猛者ですね。彼女が唯一敗戦した英ダービー、欧州三冠のはじめのレースの時に見せた直線に入ったときにバランスを崩してしまう、という若さはどこにもみえません。その敗戦したレースですら普通のウマ娘なら掲示板すら入れないであろう失敗をちゃっかり二着まで持って来るんですから勇者と称えられるのも解ります。それにシリウスシンボリと対戦したKGVI&QESでまだ余裕があったように見受けられました。こりゃとんでもねぇレースになるぞ、オラワクワクすっゾ! です。』

 

 

『はい、解説さんの心のサイヤ人が出てきたところでパドックのお時間です。そっちを見ていきましょうねぇ~。』

 

 

 

 

 

 

「~♪ マーベラス☆★」

 

 

 

……ど、どうしたんですかあなたちゃん。そんなに目をキラキラさせて……。そんなに新しい勝負服が気に入ったんですか? あとその言葉は後輩ちゃんのものなので使わないであげてくださいね。

 

 

「うん☆ とってもいいでしょ!」

 

 

たしかに、赤い帽子には白いつばと金の蹄鉄の飾り、お洋服の方も赤を基調とした上着に中央に白いライン。肩のは驀進王さまが付けてるやつと同じですね。ボタンも金色ですし、スカートの方は端に白ラインが入っている赤のミニスカート。……これで黙ってじっとしてたら美少女なんですけどねぇ? あ、腰につけてるラッパはパドックでしか使ったら駄目ですよ? それ申請下りなかった装備品だからちゃんとゲート前には置いといてくださいな。

 

 

「は~い!」

 

 

じゃ、そろそろパドックのために職員さんが呼びに来てくれそうですし、行きましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、最後に16番“あなた”が出てきました。先日の抽選会と同じ新しい勝負服に身を包んでの登場です。さぁ、海外の地で何をやるのか。』

 

『わざわざ凱旋門賞のために勝負服を新調してくるあたり、意気込みを窺えるのですが……、お願いだから比較的まともなのをお願いします。』

 

 

 

さぁあなたちゃんがパドックに出てきました。今日はお上手に指先までピシッと伸ばして行進しています。鼓笛隊がモチーフになった勝負服のお腰にはキンキラリンのラッパが装備されていますね。

 

おっと、あなたちゃんがパドックの中央に立って……、ラッパを取り出しましたね。それと『領域』でも使ったのか空からホワイトボードも落ちてきました。どうやらポケットから油性ペンを取り出したので何か書くつもりのようです。

 

 

 

【終末のラッパ】

 

【Trompette du Jugement dernier】

 

 

そうちゃんと日本語とフランス語でホワイトボードに書き終わったあなたちゃんはしめやかに7人に分裂。トランペットももちろん分裂。思いっきり息を吸い込み高らかに音を鳴らそうと準備し始めます。

 

 

『終末のラッパ…………ッ! ま、マズいですよ!』

 

『あいつこの世界を終わらせる気か! 誰か止めて~~!!!』

 

 

 

一体どこからそのラッパを手に入れたのか、というかそれ勝負服の装飾品として持ってきてたやつと違うやつじゃないか! いったいどこでそれを手に入れたの! ポイッてしなさいポイッて! というかそれマジモンの終末ラッパじゃないか! 七つ全部吹いたら世界終わる奴! あなたちゃんがそれもって息を吹き込もうとしてる時点でなんか地面揺れてるし、ターフの芝がチリチリ燃え始めてるんですけど! それ吹くのやめなさい早く!

 

 

 

「すぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅぅぅうぅぅ!!!!!!!」

 

 

 

口いっぱいに美味しいフランスの空気を吸い込むあなたちゃん。大慌てで逃げ出す観客たちや、祈っても効果があるか解らない最近あなたちゃんのせいで激務続きの三女神様たちに祈りを捧げる人。『あぁ、いつものか』と、どうでも良さそうにあなたちゃんを眺めるシリウスに『え、マジでアレなの? 終末なの???』と場外戦術がバッチリ決まっているダンシングブレーヴを含めた出走者の皆さん。

 

 

そんなことを全く気にしないあなたちゃんはやはり美食の国だけあって空気も美味しい、なんてことを考えています。こいつほんとにブレねぇなぁ……。とそこであなたの視界の端に移る物々しい影!

 

URAあなた対策本部! inフランス出張隊だ! 来ったぞ~、我ら~の! URAあなた対策本部だ! サスマタとシーツに対あなたちゃん専用のスタンガンに対ビーム防御スーツまで用意している日本の治安を守る特別チームだ!

 

 

 

 

 

 

その後、無事あなたちゃんが制圧され問題のラッパも回収されて事なきを得ました。ちなみにラッパは本物だったらしく、バチカン市国の方まで輸送されるようです。ほんとどこからあなたちゃんラッパ持って来たんでしょうねぇ……。

 

え? 凱旋門賞? もちろん定刻通り始まりますよ?

 

だって出走者の皆さん『びっくりしたけどレースに影響は出ないですよ。というか問題の“YOU”が七人とも黒焦げでプスプス言ってますけど大丈夫なんですか?』という感じでしたもの。それにあなたちゃんは次のページをめくったらいつも通りに復活してるから大丈夫だね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ定刻となりましたのでこれからゲートインが始まります。逃げ出してしまった観客の方々も戻ってきましたし、出走者の皆さんもなんともなかったようなので一安心ですね。』

 

『いつも通り、と言ったらあれですがあなたちゃん今後国際レースお呼ばれできるんですかね? 正直出走停止されてないだけ驚きなんですけど……、まぁ気にしても仕方ないですね。例の場外戦術でしたが一番被害が少なかったのはなんやかんや慣れているシリウスシンボリ。一番ダメージを受けているのが仕掛けた側の“あなた”というまぁ面白い結果となりました。先ほどかなり強力なスタンガンによって丸焦げにされましたけど普通に歩いてるところはなんというかすごいですよね。』

 

『まぁ彼女ですからね。っと、ゲート入りが順調に進んで最後に大外の“あなた”が……、おっと地面に寝転がって抵抗しようとしましたが……、後ろから先ほどの対策本部の皆様がスタンガンをちらつかせています。諦めてしぶしぶゲートに入りまして……。』

 

 

『いま、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

こんな格言を知っているだろうか。

 

 

『大魔王からは逃げられない』

 

 

これは単にゲームでの設定の都合上だったりするのだが、今はもしこれが現実だったとして話を進めよう。仮に君が今、大魔王と対峙していると仮定して。

 

 

モチロン君は恐怖するだろう、足が竦み、体が石のように動かない。しかしながら何とか立ち上がり、背を向けて逃げようとする。

 

 

だが、『大魔王からは逃げられない』。君の一歩は彼にとって亀よりも遅い一歩。君が逃げようとした進行方向に回り込むなど簡単なことだろう。

 

つまり、大魔王と君には絶望的な“速度差”があるということなんだ。

 

君が“英雄”だろうと“勇者”だろうと絶対に『大魔王からは逃げられない』。

 

 

 

 

 

さて、話を戻そう。

 

 

 

この凱旋門に出走している中で、“大魔王”たる資格を持つ者は“あなた”である。

 

そして“勇者”として戦いに挑む側は“ダンシングブレーヴ”である。

 

 

 

“勇者”である彼女は“あなた”のことを単なる“化け物”として自分が狩るべき対象として考えているようであるが……。残念ながら世界はそんなにやさしくない。

 

 

 

君が狩るべき対象として見ている“化け物”は……

 

 

 

“太陽の巫女”である神に続く”ミホシンザン”を下し、

 

 

“星の体現者”である一等星“シリウスシンボリ”すら飲み込み、

 

 

 

圧倒的速度差によって『逃げられない』“大魔王”ですらおもちゃにする“化け物”である。

 

 

 

 

 

 

そんな“化け物”が最初から全力で“逃げ”たらどうなると思う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは簡単、『化け物にはどうあがいても、追いつけない』。

 

 

 

 

2:19:92 もう二度と塗り替えられない伝説が、

 

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

ゲートが開いた瞬間、広がる精神世界。

 

 

 

明ける扉は私の前世に繋がる扉でもなく、ガチャガチャの扉でもない。

 

 

 

理性が眠る、真理の扉。

 

本能である私と、理性であるもう一人の私。

 

私が全力を出して、私がその力の使い方を指示する。

 

 

思い浮べる世界は私が最強である世界。

 

 

真っ暗な世界に火が灯る。

 

 

 

ただの暗闇から急激に光が灯り、目がくらむ。白んでいた視界が光になれてくると、広がるはフランスのまだ見ぬ凱旋門。いたるところで紙吹雪が舞い、花が咲き乱れ、人の笑い声が絶えない場所。そこで皆が口々に誰かを称える。

 

 

始まるは様々な楽器で広場をめぐる鼓笛隊たち。美しく、壮大な音楽を鳴らす。

 

 

そしてパレードの最後に現れるは心の奥底で眠っていた化け物に乗る“あなた”。

 

 

誰も倒せない化け物にまたがり、凱旋しよう! ま、それ自分なんですけどね☆

 

 

さぁ、始めようか。

 

 

誰のためでもない、ただ私だけの。

 

 

 

 

 

 

領域【天まで届け、私の凱旋パレード】。

 

 

 

さ、ついておいでよ“勇者”さん♪

 

 

まぁついてこれないと思うけどなぁ!

 

 

 

『うまくスタートしたのは16番あなた、かなり速度を上げていきます。……いやこれはかなり速いぞ! スプリントレベルで加速していきます!』

 

 

 

知ってるかい出走者のみんな! レモン一個分に含まれるビタミンⅭはレモン一個分なんだぜ! 果汁だけだけどな! つまり私の理性と本能が融合することによって完成する私、

 

 

パーフェクトあなたちゃんに勝てる者など!

 

 

「いないのだぁ!」

 

 

『あなたちゃんさらに加速! 後続に影すら踏ませない独走! いや暴走だ!』

 

 

 

 

 

 

(ッ! 暴走……、いやアイツのスタミナならやり切るかもしれない! いやしれないんじゃなくてやるんだ! ダンシングブレーヴに気を取られ過ぎてたわけじゃないけどアイツへの注目が少し薄れていたのは事実! ホープフルの時みたいに逃げられるのは勘弁! もう追い込み位置とかそんなもん知るか! 根性勝負だ!)

 

 

「はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

(……“YOU”が大逃げして、シリウスシンボリがデータとは違う動き。追い込みから逃げに変更? まだレースが始まったばかりだぞ!? ……いや彼女たちは同郷で公式の対戦回数が少ないとしても手の内を知っていると考えるべき! つまりここは私もついてかなければ間に合わない可能性がある!? まだ400も走ってないのに!? ……あぁもう考えるのは無しだ! 私にはそもそもそんなもの似合わん! 走り終わってから考える!)

 

 

「ッ! ハァア!!!」

 

 

 

『あなたちゃん暴走に釣られてシリウスシンボリ、ダンシングブレーヴ! 最後方から速度を上げる』

 

 

 

 

 

お? このまま全部突っ切ってエクリプスと同じ100馬身差してやろうと思ったのについてきちゃったかぁ。せっかく生徒会室とかに置いてある「Eclipse first, the rest nowhere.」を「You first, the rest nowhere.」にして学園混乱させてやろうと思ったのに……、ま! いっか!

 

 

理性ちゃん! やるぞやるぞやるぞ!

 

 

《ほいほい! んじゃまルート選択、ポジション選択、モーション選択……、おっしゃイクゾー!》

 

 

 

「デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!」

 

 

 

『ここでさらに“あなた”が速度を上げる! 後方の二人も追い上げるが……!』

 

 

 

(くそッ! ここまで強くなってるなんて! 私だって死に物ぐるいでやってたのに!)

 

 

(……何故だ! 何故追いつけん! 何故速度が上がる! 何故落ちてこない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃハハハハハ!!! それは私が“あなたちゃん”だからダァ!!!」

 

 

 

 

『最終コーナーを回って……、まだ後方上がってきていません! しかし“あなた”依然先頭! 速い! 速い! 影すら踏ませません!』

 

 

 

あぁ、そういえば昔ここを走ったときもこんな感じだったっけ。あの時とは違って年代は同じだけど科学とか文化とかの発展具合はこっちの方が上。だってあの時スマホなんてなかったし、そもそもあの時のレースではシリウスはここまで追い上げてこなかったし力量も高くなった気がする。いままで、どこかで一度体験したから、って本気になれてなかったけどここ違う世界なんだよねぇ……。ま、私が人型になっててウマ娘とかいう珍妙な生物になってる時点で今更か。

 

 

ま、この最後の直線、ホームストレッチの高揚感は何も変わらないよね。

 

 

 

 

だって、世界最高峰のレース、凱旋門賞のゴール板を誰よりも早く。そしてこれ以後誰も塗り替えられないような記録で塗り替えるんだ。こんなに楽しいことなんて他にないでしょ!

 

 

 

 2:19:92

 

 

 

さ、私に続く“勇者”さんたち?

 

“化け物”の記録、塗り替えられるかな?

 

 

 

 

『今、ゴールイン! 勝ち時計は2:19:92! 2:19:92! とんでもない! とんでもない記録です! ここ凱旋門で芝2400の記録を大幅に縮めたぁ!!!』

 

 

 

 

 

ま、無理だと思うけどね♪ 二シシ。

 

 

 

 

 

 

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