『今、ゴールイン! 勝ち時計は2:19:92! 2:19:92! とんでもない! とんでもない記録です! ここ凱旋門で芝2400の記録を大幅に縮めたぁ!!!』
……そっか、負けたのか私は。
最後まで全力で食らいついたけど追いつけなかった、ホープフルでも見せつけられたあの逃げ、あの背中。それの焼き直しをやられた。
自身の走り方、追い込みが出来なかった。自分のやり方を押し付けられなかった、負けた理由は色々思い当たる。けど!
(一番の原因は私の精神、見るべきものが違ったはず。)
私が見ていたのはアイツじゃなくて、ダンシングブレーヴだった。前走の敗戦を引きずってしまって始まるまでずっとブレーヴのことを見てた。
でも始まってからはずっと“あなた”のことを見てた。いや見せつけられた。
「はぁ……、もうあんな勝ち方されたらなんも言えないわ。結果は3着だったけど一応私もレコードだし、今はこれで良しとするか。」
私が25:02で二着のグレーヴが24:81。二人ともレコードなんだ、今日のところは胸を張っていこう。だが、次は……、ゴール板だけを。
「さて、同じ日本勢として賞賛の言葉ぐらいは送ってやるか。」
そう言いながら観客席に向かって手を振っているアイツの下へ向かう。今日のヒーローさんはいつも通りファンサービスが過多なようで自分の靴を観客席に向かって投げだしてるが……、あれ蹄鉄付きだから危なくねぇか?
「お? シリウスじゃん。おめーも靴投げる?」
「いや、危なくねぇか?」
「でも、ファンの人喜んでるよ? 頭からぶつかった人鼻血出しながら喜んでるけど?」
そう言われて視線を移せばマジで鼻血と喜びの涙を流しながら歓声を上げているファンの人がいるし、私が投げ入れることを日本から来た人たちは望んでいるようだ。目が爛々だし。
「はぁ……、ならいくよ~!」
そうやってシューズを投げるシリウス。それに釣られて隣の“あなた”ちゃんが次々と勝負服の帽子やら装飾品を投げ始め、その上下着が見えるまで勝負服を投げ始めたのでさすがに止める。
負けたことは悔しいけどある程度自分の中で折り合いがついてる。負けた理由も見当がつくし、私が次コイツとやり合うまでに仕上げなければいけないことも解ってる。だがまぁこいつとバカをやるのは悪くない。
「おいおい、それまで投げたら下着だけだぞお前! やめとけって!」
「え~? いいじゃん!」
「少し、いいだろうか?」
私たち二人に掛かる影。振り返ってみればそこにいたのはダンシングブレーヴだった。それも、テレビ越しや共に走ったときに浮かべていた、自信たっぷりで余裕のある表情じゃなくてもっと張り詰めた、思いつめたような厳しい顔。
「まずは勝利おめでとう、“YOU”。レコードを大幅に縮める快挙、賞賛に値する。」
「La_victoire_est_à_moi!」
……ふぇ? フランス語? 今英語で話しかけられたのに? ……いやコイツのことだからフランス語修めててもおかしくない、のか? いや私も簡単な単語レベルなら解るけど……、なんて言ったんだろ?
「……あぁ、確かにその通りだろう。だが、次はその口を開けなくしてやろう。」
「La_victoire_est_à_moi!!!」
「……次走のBCターフの後。こちらから挑みに行こう。“YOU”、その脚ジャパンCまで衰えさせないことだな。」
「La_victoire_est_à_moi!!!」
「……そうか。確かに今の私は敗者だ。その言葉に反論することはできない。ここは大人しく帰らせてもらうことにするよ。ではな。」
「La_victoire_est_à_moi」
「…………あの、シリウス? もしかしてこの子それしかしゃべれないの?」
コクコク頷くあなたちゃん。残念ながらあなたちゃんの脳みそにはそれしかインプットされてないのである。ちなみにLa_victoire_est_à_moiは直訳すると『勝利は私のもの』スぺちゃんが言うと『調子乗んな!』である。
「……そ、そうか。まぁとりあえずジャパンカップで会おう。」
なんだか悲しそうに去ってくダンシングブレーヴでした。
ーーーーーーーーー
時間は過ぎ、ライブが終わる時間まで進む。
ちなみに凱旋門のライブは多国籍と言うこともあってあなたちゃんのソロライブがメインでした。
ライブでたくさんのファンサービスを終わらせたあなたちゃん。さすがの彼女も凱旋門全力疾走にライブとまでなるとスタミナが限界らしく、珍しく汗をかき、体から白い蒸気のようなものが出ている。
「おチビちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
ちと疲れたなぁ、と思いながらライブ会場の裏手に戻ると感極まったマルゼンスキーが涙ぐみながら彼女に飛びつく。レース後やライブ前はファンの方々への対応やライブの打ち合わせなどで忙しいだろうと我慢していたが、終わってしまえばもう縛るものは何もない。
「よく、よく頑張ったわね! あなたちゃん!」
「ママ……。」
もう最近お母さん呼び、ママ呼びしても本人ですら違和感を覚えなくなってきたマルゼンスキーの“ママ”呼びだが、自分の娘が自分でもたどり着けなかった栄光を手にしたときにする母親の反応を彼女がしてるせいで他人ですら違和感を覚えない。
「マルゼンスキー、お前さんがゴール板を駆け抜けた時からずっとこんな感じで涙ぐんでたんだぞ。」
そう言いながら後ろから声をかけるのは感想欄で“お、お父さん?”と一時期呼ばれていた沖野氏。彼も若干涙ぐんでいます。二人とも“あなた”ちゃんが夏合宿辺りからかなり本気で頑張っていたことを知ってますから喜びもひとしおでしょう。まぁガラの悪いヤンキーが車に轢かれそうなネコを助けた時に『おぉ!』となる感じと同じでしょうか。
「………? あなたちゃん? なんだかあなたの体から『シュー』って音がするんだけど、どうしたの?」
おっと、言われてみれば確かに変な音。あなたちゃんの全身からパンパンに膨れた風船に針で穴をあけ、空気が漏れ出す音が聞こえます。
「それになんだか徐々に小さくなっていく……、え! えぇ!?」
誰かに気が付かれたせいか空気が出ていく音はどんどん大きくなり、それに比例してあなたちゃんもどんどん小さくなります。まるで高校生探偵工藤〇一に謎のお薬を飲ませた時のように、あなたちゃんを抱き締めていたマルゼンスキーの腕からは重さがなくなり、彼女の勝負服だけが残ります。
「…………あなたちゃん?」
「ダァ!」
最後に残ったのは全長30㎝程の小さいウマ娘らしき存在。お洋服なんかサイズがあってないのでもちろん全裸のあなたちゃんがそこに居ました。
「「ち、ちっちゃくなっちゃったぁ!!!!!!」」
そうです、あなたちゃんは固有を使うと小さくなってしまうのです。
さぁ今から名探偵アナタちゃんが始まりますよ! ネクストコナンズヒント!
ーーーーーーーーー
「ダメだぁ! もう我慢できねぇ!」
この言葉は“あなた”ちゃん。今年の凱旋門勝利ウマ娘が叫んだ心の叫びである。
日本で初めての快挙、凱旋門勝利と言うこともありあなたちゃんはフランスのライブで自身の持ち曲を披露した後からずっと引っ張りだこ。マスコミやらURAのお偉いさんやら、いつの間にか来てた日本の総理大臣さんやらフランスのお偉いさんやらとずっとお話しなければならなかったのである。
しかも全部カメラが回ってるし、お目付け役&保護者のマルゼンスキー先輩のお膝の上に乗せられてのお話だったのでほんとに何もできない。凱旋門賞で“あなたちゃんパワー”を使い切ってしまったため体は二頭身のままなのをいいことにマルゼンママに両手を握られてお膝の上に置かれている状況である。
いつもならお偉いさんとのお話、対談やインタビューなどで様々な公共の放送で流してはいけないものを召喚したり、対談者の頭で反射光の確認をしたり、首相のお洋服を全部ひん剥いたりするのだが……、それができない。
せめてもの抵抗として放送禁止ワードを連発しようとすれば、最近扱いが少々雑でも大丈夫だと気が付いたママによっておしゃぶりを咥えさせられたり、お手製のクッキーなどをお口に放り込んでくれるのでそれもできない。
お馬さんだった時、自身の父親であるマルゼンスキーとは会ったことが無かったため前世の分まで親に甘えるというあなたちゃんにとっては悪くはない時間だったのだが……
「凱旋門爆破してやらぁ!!!」
残念ながら彼女の頭は連載40話を経たことで獣性も狂気度も行くところまで行ってしまっている。
前々から凱旋門に対して並々ならぬ興味を示していたあなたちゃんを警戒したURA&フランス政府によって『こ、このまま帰国の時までインタビューや対談で時間を使わせるんだ! 凱旋門に行く自由時間全てを使い切らせてやる!』という作戦は無事に無に帰した。
しかも悪いことにあなたちゃんがこの言葉を放ったのはフランス大統領との対談時である。スーツに身を包んだ大統領のお顔が引きつり、お膝に乗せていたお母さんの顔が一瞬で真っ青に。
肝心のあなたちゃんはママのお膝の上で立ち上がって、先ほどまで飲んでいた幼児用りんごジュースの箱をそこらへんに投げ捨てている。……もうこいつを止められそうなのはサイゲぐらいしかいねぇ!
「あぁ! 奴が逃げ出したぞ!」
滑り台からぴょいっと飛び降りるように、ママのお膝から飛び降りるあなたちゃん。そのままウマ娘の脚力と、何故か30㎝ぐらいまで縮まった身長をうまく使い撮影のスタッフさんや追いかけてくるSPさんの股下を通り抜けて逃げ出すぐらいわけないのだ!
そうやって撮影スタジオを抜け出すあなた。目指すはもちろん凱旋門。
この時のためにあなたちゃんの脳みそにはパリ市街の地図はインストール済み。でもあなたちゃんはルールに縛られない女なので地図に頼らず直線距離を進むのです。
さぁ今から市街地を直線距離で進むために手ごろなお家の壁をぶちぬこうとおもった瞬間! あなたちゃんの脳内に過去の記憶が浮かび上がります!
『おチビちゃん? あんまりよそ様に迷惑かけるのは駄目よぉ?』
…………?
ちょっとだけ考えたあなたちゃんでしたが、思い起こしてみればもう自身の存在自体が迷惑を掛けている気がします。それに最近三女神様が頑張ってくれているのでたぶん今からこの街を火の海にしても次の回では全部スッキリもとに戻っているでしょう。
よく他作品では三女神サマが黒幕なお話がたくさんありますし、あなたちゃんが代わりにお仕置きしてあげれば困ってる人たちも助かって大団円なはずです。つまりいいことしてるわけですね♪ ……まぁこの世界の三女神様は単なる被害担当なわけですが。
「よし! やるなら徹底的にやるぞ!」
そう考えているうちに後ろからキャリキャリというキャタピラの音。フランスを守る戦車大隊の到着です! さぁヒーローの登場だ!
『そこのYOU! 今すぐ歩行を停止し、両手を上げなさい! こちらは発砲許可も出ているぞ!』
フランス国防軍が誇る120㎜砲が積まれた戦車の砲塔、そのすべてが全部あなたちゃんに向かいます。これはたまらずあなたちゃんも降参! なんてことはありません。むしろ新しいおもちゃが増えたと大喜びです。にったりとした笑みを浮かばせながら両手を上げるあなたちゃん。戦車のインカムから安心のため息がもれますがしかし! あなたちゃんの両手に集まる謎の光! なんかドラゴンボールとかでよく聞いたことのある気が集まる音ォ!
『た、たいひぃ!!!』
「あげま閃光ハアァァァァァァあああああ!!!!!!」
あなたちゃんのイメージカラーは赤と青、両手から放たれる赤と青の閃光がしめやかに戦車大隊に直撃! そして爆発! あなたちゃんの勝利である!
(※国防軍の皆様は特殊な訓練を積んでいるだけなので頭がアフロになったぐらいで無事です。)
ヨシ! あなたちゃん! そのまま凱旋門まで出陣だ!
ん……、そうだ! 私一人だけじゃ手が足りないから分裂するぞ!
そう思い至ったが吉日。二頭身キャラになっていたあなたちゃんは自身の頭を強く両手で持ちます。そして避けるチーズをキレイに割くように、自分を二等分しちゃいました。普通ならあたりに血の海が広がるところですが、そこはあなたちゃん。いつの間にかに身体をプラナリア化してたおかげで二人に増えちゃいますね。しかも質量保存の法則は適応されていないという重大なバグのせいで体積も重さも全く同じ二人が生まれてしまいました。
そして二人に増えたあなたちゃん、先ほどと同じ行為をもう一度繰り返します。一人から二人、二人から四人に分裂、そのまま道を埋め尽くすほどに分裂するあなたちゃん、百人はくだらないことでしょう。うん! もうどうにでもなれ!
「「「「「よし! パリを燃やすぞ!!!!!」」」」」」
<被害報告書>
(注:時系列順)
スタジオにてSPが三名程気絶
(股下を通ったときにゲート判定がなされ、頭上にタライが落ちてきて気絶)
国防軍戦車大隊壊滅
(全搭乗者軽傷・戦車全壊)
建物■■■棟半壊
(対象の人型がくっきりと残っている。また30㎝態だったことから被害軽)
建物■■■■棟全壊
(あなたちゃんの行進によって破壊、途中どこからか引火)
国防軍特殊警備歩兵連隊壊滅
(数名が頭から腰までかじられた。飲み込まれたはずなのだが何故か元に戻っている?)
国防軍ヘリコプター特殊作戦小隊
(浮遊した対象によって撃墜)
国防軍空軍戦闘機中隊
(同じく浮遊した対象によって撃墜)
凱旋門
(対象が破壊の限りを尽くしたので塵すら残ってない。)
三女神様
「うん! 世界巻き戻すね! これもうどうにもできない!!!!!!」
三女神様によって全部元通りになったパリ。そして女神サマによって強制的に日本に送られたあなたちゃん。一応女神様によってフランスの皆様の記憶は処理されたはずなのですが……、何故か“YOU”の単語を聞くと震えだしたり、失禁したりすることが増えたそうです。
不思議ですね!
あなたちゃん
「あ! そういえば次はJWCだ!」
シリウス
「……え? ジャパンカップは!?」
あなたちゃん
「? 出ないけど?」
【天まで届け、私の凱旋パレード】
あなたちゃんの本気全力を出すのに必要な固有スキル。
ロンシャン競馬場で凱旋門賞が開かれ、それに出走するときにだけ発動するスキル。タイミングはゲートが開いた瞬間。芝・逃げ・距離適性を最大にし、スピード、スタミナ、パワーをかなり上昇させることができるがその代償として何か色々起きる。ついでにあなたちゃんが無意識下で『凱旋門頑張ったしええか……』と思い出すので次走以降レース中に走る気がなくなることが多発する。
なお、SSランク勢のルドルフ、マルゼン、シービーたちとこの状態で戦った時の勝率は大体5~6割ぐらい。彼女たちが調子悪かったりすると勝てる。なおシンザン会長にはどうあがいても勝てない模様。