時間はあなたちゃんたち御三家世代がトゥインクルシリーズで核実験がごとき暴挙を繰り広げている時間よりも少し後。あなたちゃんのおもちゃ箱よりも多様性があると言われるここトレセン学園の校舎には理事長が『勢いで作ったけど理由忘れた』な施設がたくさんある。
その一つであるなんか中華風の装飾がたくさんされた廊下。そこでタマモクロスは壁を背に力なく床に腰掛けていた。
それもそのはず、彼女は先ほどまで死闘に身を置いていたのだ!
クリスマスシーズンも近いことから平成最強世代でたこ焼きパーティ。いわゆるタコパを開催した彼女たち。案の上オグリキャップの秘められた食欲が暴走、母性に火が付いたスーパークリークですら食材を買いに走りださねばならないほどの勢い。たこ焼きを焼かねば熱々に熱されたたこ焼きプレートに噛り付きそのまま飲み込んでしまいそうな勢いだった。
ただ、まだそれだけならいいのだ。同室と言うこともあり鍛えられているタマモクロスの強靭な肉体と精神はそんなことではへこたれない。暴走したオグリの腹をたこ焼きで満たすぐらいは屁でもないのだが……、その日は運が悪かった。
暴走したオグリの熱気とタマモの意地でも目の前のこいつを満腹にしてやるという熱意。冬だというのに真夏がごとき室内に少々汗ばんだイナリワンがあろうことか換気を始めてしまったのである!
もちろん彼女を責めてはいけない。その行いは極めて正常で普通だからである。
しかしながら本当に運が悪かった。
換気のために開けた窓から漂ってくるたこ焼きソースの甘く香ばしいにおいがあたり一面を包み込む。その匂いに釣られてしまったのか練習終わりで腹ペコ青虫のもう一人の大食らい、スペシャルウィークまで引き寄せてしまったのである! あとおまけにあなたちゃんまでついてきた!
対ブロワイエと言うことで練習を開始したスペシャルウィークは、同じスピカに所属しており海外の猛者たちと戦ったことのあるあなたちゃんを練習相手に指定! 背に腹は代えられないと併走相手に指定していたというめぐり合わせ! 『今日はこれぐらいにしておいて晩御飯でも食べに行こう』というちょっとだけ成熟したあなたちゃんのお言葉によって早めに練習を切り上げたらたこ焼き! たこ焼きである!
もちろんスぺは食いついた。あなたちゃんも面白そうだから顔を見せた。
天然であるオグリキャップですら顔を引き締める(まぁ彼女の場合は自分の食べる分が少なくなるかもという危機感による引き締めかもしれないが)ほどの出来事である。タマモクロスの顔がどうなっていたかなどは語らるに及ばないだろう。
スーパークリークだけでなくあまり慣れていないイナリワンですら調理に駆り出される緊急事態である。オグリキャップは『あぁ、スペシャルウィークじゃないか。いまタマにたこ焼きを作ってもらってるんだ。一緒に食べないか? ……あ、タマ。いいだろうか?』と言い始めるし、やってきたスペシャルウィークも来たるジャパンカップなんか忘れて『いいんですか! ぜひ!』という始末。
なおあなたちゃんはどこから手に入れたのか業務用の小麦粉と天かすとソースが入ったレジ袋片手にもう着席済みである。これをやるから食わせろと言うことだろうか? まぁ凱旋門を文字通り塵芥にした彼女からすればとんでもないほど人間性が成長したと言えるだろうが。
思わず『やってやる! やってやろうじゃねぇか! クリーク! イナリ! 手伝ってくれ!』と啖呵を切ってしまったタマモクロスであるが、残念ながら相手は“暴食の権化”と“胃の中ブラックホール”と“目があったら諦めろ”である。
タマモクロスは戦った。戦ったのだ。
おやつ感覚でニンジンハンバーグ(ウマ娘用)を平らげるウマ娘や、“太り気味”を解消するためにラーメンを食うウマ娘や、満腹になったら頭から裂けて分裂し初期状態に戻してくるUMA娘を相手に戦い抜いたのである!
稲妻と恐れられた彼女のすべてを注ぎ込み、この化け物三体の胃をどうにかして埋めきったのだ!
しかしながらその代償として払ったものは大きすぎた!
実質的にオグリキャップ三人分の胃を満たした代償として、彼女の体はやせこけ、顔からは生気が見て取れないほどに衰弱している!
なんとか化け物をさばききった後、自室に戻って休もうとしたのに足が進まず、その場に座り込んでしまうほどの疲労! オグリキャップとの激戦であった有馬記念を走り切った後の数倍の疲労!
「そういえばウチ、朝から何も食ってへんわ……、準備で忙しかったからなぁ……。」
年に一度の大イベントとして大張り切りであったタマモクロスは朝から準備で大忙しであった。そのせいか空腹も感じず、そのまま今の時間まで過ごしてしまった。腹が何かよこせと騒いでいるが、たこ焼きの酷使によって体はピクリとも動かない。
(あぁ、ウチ。ここで終わるんか……? このままガチャで実装されずに作画崩壊したウチのまま一生を過ごすんか……?)
「ふむ、やはりここにいたのか。」
俯き、疲労のせいか思考が良くない方向に進んでいたタマモクロスの顔にかかる影。何かと思い顔を上げる彼女。そこには……
身長176㎝! 体重106㎏!
決して大きいとは言えない身長だが、特筆すべきはその肉体! 鋼! そう鋼と言い表すしかない肉体!
己の拳足のみで巨大な黒曜石を真球に作り上げ! 約1.8トンの釣鐘を叩き壊す功夫をその身に宿す男性!
そう! 強敵宮本武蔵に敗れたと思ったら何故かウマ娘世界に異世界転生していた烈海王トレーナーである!
「おそらくこうなるだろうと思っていた。ゆえに用意してある。」
そう言いながら引いてきたカートからたくさんの料理を床に並べてあげる烈トレーナー。どれもタマモクロスにとってはあまり馴染みのない中華料理であるが、そのすべてが輝いている。彼女の記憶では食堂にこれほどの料理たちを作れる料理人は存在しなかったはず! つまり烈トレーナーの手作りである!
「ほわぁ~~。」
「さぁ、食うんだ。」
「え、ええんか。ウチなんかのために……。」
「モチロンだ。そのために用意したのだからな。」
「ほへ~~、いや、ものごっつ嬉しいなぁ。……前から思ってたんやけどやっぱ烈トレーナー。顔に見合わずやさしいなぁ。」
「ッ!」
タマモクロスの顔に浮かぶ無邪気な笑み、そしてその言葉。いかに中国4000年の歴史を誇る功夫を修めた海王、烈海王ですら赤面は免れないだろう。
「食うんだッ」
顔を真っ赤にし、恥ずかしさから少し顔を横に向ける烈トレーナーに少々可愛らしさを覚えながら料理に手を付け始めるタマモクロス。とりあえず目についた春巻きから……
「………ッ! うんまぁ! これほんとうまいな!」
もう箸は止まらない。
朝から何も食べていないせいか体がもっと食えと叫んでいる。小籠包にチンジャオロース、卵スープに大きい肉の塊。並べられたメニューをことごとく腹に収めていく。いくら小柄の女性と言えど彼女もウマ娘。空腹と疲労の中では大量に並べられた料理を食べることなど容易い。
「あぁ~~~、食べた食べた。うん! 美味しかったでトレーナー!」
そうやって、腹を膨らませながら礼を言うタマ。しかしながらその対象は何故か背を向けて何かを準備している。
「片付いたようだな……」
「デザートだ。」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべて振り返る烈トレーナー。
「おぉ! デザート! すまへんなぁ、わざわざそこまで用意してもろて。いただきます。」
そう答えながら視線はトレーナーの手元に。そこには何故か大きなバケツが抱えられていた。
「これだ。」
「? なんや、それ? 見た感じ新品やけど?」
そのままバケツを床に置くトレーナー。
「これは……」
「水だ。」
「?」
「10リットルある。今の君に最低限必要な水分だ。」
「……え、これウチ飲むの? もう腹いっぱいなんやけど……。」
「そのままでは無理だろう。そこで……」
そう言いながら懐から大きな壺を取り出す彼。そこには大きく『果糖』の文字。
「こいつを混ぜる。果実を製錬した純粋な甘味料だ。」
「約四キロ。」
「量は多いが吸収率は無類だ。」
バケツの中に注がれる大量の果糖。
「食事で疲労が取れたとはいえ、君はまだまだ。まるで完全じゃない。」
前世素手でやってバキに「汚ねぇよ」と言われたことを覚えていたのだろうか、それともいくらウマ娘と言っても彼女は女性である事を配慮したのだろうか。あらかじめ用意してあったお玉らしき調理器具でバケツの中をかき混ぜる烈海王。
「本来はたんぱく質やでんぷんが好ましいが……、調べたところウマ娘の君にはこちらの方が善いと判断した。」
かき混ぜる工程が終わり、ゆっくりと最後のデザートを手渡されるタマ。
「14キロの……、砂糖水。」
「奇跡が起こる。」
「い、いただきます。」
バケツに口を付け、そのままゆっくりと流し込まれる砂糖水。
度重なる実装騒ぎ、コラ画像の作成、何故か大欅や桜の木の下に埋められる。極限まで披露しきった彼女の肉体。そこへ、オグリとスぺとあなたが参戦した“たこパ”によってさらなる負担が加わり、人体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓のグリコーゲンですら底を突いた。
「んっんっんっ!」
発表されるガチャ実装画像に雑に張り付けられる自分の顔。回を重ねるごとに無駄にうまくなるコラ画像師の腕前。そしてハロウィンでの『サポカは嬉しいけどそうじゃない』事件。もはや、破壊され尽くしたタマモクロス実装への希望たち。
彼らは、実装を誓っていた。
次こそはと思う淡い期待への願望、彼女のラストランである有馬こそはという願い。
こんど、もし。次なる実装の機会があったならば。必ず!
必ず育成キャラとして実装されてやるという誓い!
「おぉ!」
人ならぬ、神の作り上げたその勝負服!
神に誓いしその実装に、虚構などありえない!
「こ、これは……!」
いま、ウマ娘という歴史の中に。一つの伝説が生まれようとしていた。
「まさに、この瞬間ッッ!!! 待ち望んだこの瞬間ッッ!!!」
「実ッッ装ッッ!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
「タマモクロス実装ッッ!!!!!!」
あなたちゃん
「…………あれ? 私の出番は?」
(いつもやり過ぎているので今日はほんのちょっとだけなので)ないです。