最終回、最後まで、お付き合いください。
さぁ、区切りを付けようか。
『さぁ、ジャパンカップ最後の直線! 最後のスパート! やっぱり出てきたのはこの三人だ! 一番人気ダンシングブレーヴが内側を縫うように上がってきている! 二番人気ミホシンザンはそれに追いつかれまいとこちらも加速! 三番人気シリウスシンボリは大外から上がる!』
『バ群など無視すればいいと、一等星が回る回る! そして先頭はミホシンザンに入れ替わる! 勝負服の赤が舞う! 国際交流レースを神に捧げられるか!』
『そして西洋の勇者ダンシングブレーヴも負けじと上がっている! あなたちゃんがいなければ余裕と言っていたが日本は彼女だけではないぞ!』
『さぁ残り200m! 先頭は依然ミホシンザン! しかし苦しいか!』
考えてみれば、私がライバルとしたやつらと共に走ったレースはそんなに多くない。まぁ有馬前には帰ってくるだろうが行方不明のアイツとは三戦しかしてないし、ミホとはこれが二戦目。凱旋門まで親の仇みたいに見ていたダンシングブレーヴでもこれが三戦目だ。まぁトゥインクルに所属している間に走るレースは多くても20戦ぐらいだ。これが多いか少ないかは人の感性に寄るだろうが……、長い時を一緒に走って、競い合っていたような奴らだ。とても少なく感じる。
領域【Σείριος】
そう言えばまだちゃんと見せたことなかったよね、ミホ。私の『領域』。練習ですら見せたことなかったよね。早いうちから世界に飛び立って、走り続けるうちに研磨され、鍛え上げられた私の一等星。あなたが太陽ならば、私は星。アイツは……、いやこの順番で行ったら月なんだろうけど、似合わないね。いや狂気の月だったらいけるか?
まぁいい。私の星は、もう勇者すら眩ませるってこと。解らせてやる。
―展開。
入り込む精神世界はただ広いだけの草原。地平線までただ青い空と芝が続く世界。
さぁ、日よ沈め。この世界はもう私の時間だ。
青い空から暗い世界へ。さぁ真っ黒で何もない世界だ。
輝け! 輝け!
夜は私の時間だ! 輝け! 一番早く! 一番強く! 一番明るく!
輝け! 私だけの! 【Σείριος】!
『おぉっと! ここでシリウスが上がってくる! 上がってくる! 大外からシリウスシンボリ上がってきた!』
さぁ! 勇者は眠れ! 太陽は沈め! 世界は夜! 私だけの時間だ!
私は! 一番輝く! Σείριοςだ!!!
『差した! 差した! シリウス差しました! そのまま差し切ってゴールイン!』
『シリウスシンボリ一着! シリウスシンボリ一着です! 国際交流のジャパンカップ! 巫女も勇者も切り捨てて! 勝ったのは一等星のシリウスだ!』
「ほへ~~、こんな感じになったんですねぇ。シリウスも覚醒しちゃったなぁ。」
「まぁ確かに次の有馬では強敵になりそうなんだが……、というかお前さんどこ行ってたんだ? 一緒に行方不明になっていたチヨノオーが『ワタシ、ノウミソ、キライ』って言って療養のために温泉に行かされてたんだけど……。お前さん後輩には色々やさしくしてやれよ?」
まぁ目の前でコールタールの黒いお化けが人間をむしゃむしゃしていたら怖いですよね。あ、でも今はちゃんと復活してるそうですよ? 逆に『今度あの化け物が出たら私が食べてやる!』という感じに意気込んでました。
「ん? チヨノオーは後輩じゃなくて妹だぞ、トレーナー?」
「そ、そうか……。さ、映像は見てもらったし早速練習するぞ、おチビさん。ゴルシもさっきからフェルマーの最終定理といてないで練習やるぞ~!」
「え~、今いいとこなのに~!」
「そうだそうだ! 今から私もお昼寝する時間だから練習、ヤ!」
「はいはい、あとでな。終わったらラーメンでも奢ってやるからやるぞ~。」
「「うぃ~~~。」」
さ、これから真面目に練習して有馬に備えましょうね。あなたちゃん。
ミホシンザンも花嫁修業の最終段階に移行しているシンザン先輩とガチ練習を頑張ってるそうですし、シリウスシンボリも、ケガから復帰してドリームシリーズに向けて調整するのを一時やめて彼女の調整に尽くしているシンボリルドルフと頑張ってるみたいです。
これは楽しいことになりそうですね。
ーーーーーーーーー
有馬記念当日。
今日は珍しくあなたちゃんは静かに控室で一人、レース前の瞑想を行っていた。……偽物か?
彼女の頭の中に描かれる景色はこの三年間走りぬいた情景たち。そして前世の最期のレースだったあの有馬記念。今日と全く同じ日付、天気、出走メンバーの有馬記念。
今日が、彼女にとっての最期になるのかもしれない。そう思ってしまうほどに彼女の顔は穏やかだった。
「あぁ、そういえば去年はクソ強いチーター三人と勝負して、けちょんけちょんにされたんだっけ。」
たしかに去年の有馬記念はファンから見ればシンボリルドルフ、マルゼンスキー、ミスターシービーの三強がぶつかり合いますし、あなたちゃんたち御三家も出てましたからとっても楽しいレースになりましたよね。まぁ走る側からすればタイムオーバーにならないように必死に走るレースになってましたけど。
「まぁしゃあないよね。だってあの人らSSランクですもん。」
でもあなたちゃんも似たようなことしてるでしょ? 凱旋門で。あれだけのレコード残して化け物呼ばわりされてますもん。欧州の人たちあの記録で向こう数十年は苦しむんじゃないですかね? ……まぁほんとに恐れられている理由はパリを“ひらちにした”からでしょうけど。
「女神サマが仕事してくれて記憶なくなってるはずなのにね。魂に焼き付いてんのかな? おもしろ。」
面白くはないんですけど……、まぁ何を言ってもあなたは変わりませんもんね。苦言をいうカロリーがもったいないですからやめときましょう。さ、ラストアリマですし、頑張っていきましょう。有終の美って奴です。
「もちろん本気ではやりまするぞ! ラストランですしね! 抜錨じゃぁ~い!!!」
あ、そういえば今日のパフォーマンスは何をするんですか? ほらパドックの奴。
「にしし、秘密。」
『さぁ、年末最後の大一番! 有馬記念! ファン投票で選び抜かれた英雄たちがしのぎを削る大レースが、今! 始まろうとしています!』
『今年は去年の有馬であまり活躍できなかった御三家世代が全員集まるレースとなりますからとても素晴らしいレースになりそうですね! 去年の雪辱を誰が果たすか! そして御三家世代で一番強いのは誰なのか! アナタ、ミホシンザン、シリウスシンボリの誰が勝つのか!』
『他出走者の皆さんも侮れない実力者ですが、やはりこの三人の実力が飛び出ていると言えるでしょう。凱旋門賞を含めたGⅠ級5勝のアナタは勿論ですが、天皇賞を完全制覇したミホシンザン。前走のジャパンカップでは西洋の勇者、ダンシングブレーヴに雪辱を果たしたシリウスシンボリとまさに三強と呼べるでしょう!』
『クラシックの皐月、ダービー、菊花を三人で分け合ってますしこの有馬は見ものですよぉ!』
『さぁ一番初めにパドックに出てきましたのは一番人気アナタ! 凱旋門賞での勝利のおかげかつい先日まで行方不明だったのに一番人気です!』
『なんでも別世界のレースに参加しようとして失敗したとのことですが……、何したんですかね?』
『さて、出てきましたが……。今日は何するんでしょう? 前走の凱旋門では終末のラッパ吹いてましたけど。』
パドックに登場したあなたちゃん。
服装はいつもの水色スモックの勝負服。
そして彼女の手にはいつの間にか水晶のようなものが握られていた。
「傾注! そして見よ!」
「わが手に握られるのは、私が色々やらかしたせいで激務になって最近ロクに眠れていない三女神の邸宅から盗み出した“世界の種”である!」
「これを使用すれば私たちが存在しているこの世界とはまた違った世界が生まれ! 使用した者はその世界の神となる! つまり新世界の神ダァ!」
「そこにすむすべての生物が神を称え! 神のために尽くす! まさぁにあなただけの世界! 喉から手が出るほどほしいだろう!」
「今日の有馬記念で一番初めにゴール板を駆け抜けた者にこれをプレゼントしてやる! 私からのクリスマスプレゼントだ!」
「さぁ競い合え、神の候補者たちよ! 競い合うがいい! そして私に打ち勝ち新世界の神にでもなってみせろ!」
「まぁ簡単に負けてやるほど私は優しくないがナァ! 捻り潰してくれるわ!!!」
ーーーーーーーーー
『えぇ~と? なんか勝手にあなたちゃんが優勝賞品を増やしましたがまぁ別に問題はないとのことで有馬記念を始めるようです。はい。……URAこれでいいのか?』
「はぁ、まぁ~た変なことやってるよアイツ。何が新世界の神だよ、ホント……。」
「まぁまぁシリウス、いつもの事じゃない。」
「そうだけどさぁ……。」
「……何となく、わかってるんだよね。シリウスも。」
彼女に触発されたせいか、私たちが持つ『領域』は他の人のものとかなり違う。ルドルフ先輩やシービー先輩と比べれば、私たちが辿り着いたものはウマ娘というモノを形成する魂に直結しすぎている。
故に解るのが私たちのレースの終わり。そして肉体の衰退。
「ミホが太陽で、私が星。……まぁ両方とも上から見下ろして色々見る天体。だがまぁ信じたくはないよな。それに過去の私に比べたら成績が良すぎる。当てにならんだろ。」
「そう、ね。変えようとして、色々頑張ってみたけど正しかったのかなぁって。不安になっちゃった。……それに呑まれかけてたし。」
「おいおい、狂うのはアイツ一人だけにしてくれよ。私一人に狂人二人は荷が重すぎる。それになんだ、一回変えられたのなら何回でもできるだろ? 今日が終わりとかそういう話じゃねぇよ。」
「ふふ、そうね。レース前だって言うのに弱気になっちゃった。ジャパンカップで負けたからなんとしてでもやり返してやろうと思ってたのに。」
「おっと。なら私も軽口叩いてる場合じゃないな。気合入れないと。」
向かい合いながら笑い合う二人。戦った回数は少ないけれど、軽口を言い合える貴重な仲。
口では笑い、目では相手を逃さんとし、頭は極めて冷静に。心は太陽/星より熱く輝く。
「「それに。」」
「宝塚記念の」
「凱旋門賞の」
「「借りをまだ返していない。」」
「さ、やろうか。」
「さ、やろうぜ。」
「「あなた?」」
「アハ! 望むところだよ!」
ーーーーーーーーー
私の領域、【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】……。私は気に入ってるんだけど“理性”の奴は『他になにか名前なかったの……?』って言ってる固有スキル。これの醍醐味はそのランダム性。
ガチャガチャと同じようにカプセルを開けるその瞬間までその中身は解らないし、私がレースで使える能力も解らない。
でもね? ガチャガチャ、という区切りである限り出てくるカプセルには限りがある。そして何が入ってるのかもわかる。箱の中にそれだけ残った最後の、一個。
今日は破壊するのには良い天気だ。……まぁ雪降ってるけど。
精神世界にてコインを消費し、最後のカプセルを開ける。
入っているのはファンにあげちゃった勝負服を着た私の人形。
さ、もう一度だけ再現しよう。
私だけの、凱旋門。
【ガチャガチャぽんぽんゲート!?!?!?!?】
改め
【天まで届け、私の凱旋パレード】
―領域、展開
『全員きれいに収まりまして……、今! スタートです! キレイに飛び出したのは一番人気アナタ! ゲート難はどこに行ったのか!』
(凱旋門は勿論チェックしてるからね……、だろうと思った。)
(はッ! だよなぁ! オマエならそうする! だから私も!)
(追いつけない大逃げに対抗するには……)
(作戦なんか捨てた大逃げ! 誰のスタミナが先に尽きるかの勝負!)
「「考えるよりもまず、走れ!!!」」
『少し遅れてミホシンザン、シリウスシンボリ両者もそれを追いかける! 戦法も何もない大逃げ勝負が始まったァ!!! 他のウマ娘も追いつくために加速開始です!』
(お、やっぱ来たか。よぉ~し、じゃあ最後まで狂気のスタミナ大逃げ勝負と行きますかね。)
「差を詰め、並び、突き放す! あの人のように!」
天に仰ぐは、我らが太陽。神の名“シンザン”に恥じぬように。超えられるように。
【神のまにまに、手向けの錦】 発動
レース場に上がるは彼女が掲げる小さくも大きな灼熱。
「私は! 一等星だ! 輝け!」
強制的に天を夜に、ターフを広げ草原に。夜空に輝くのは一番明るい私だけでいい。
【Σείριος】 発動
ターフの空を真っ黒に、しかし空には唯一輝くシリウスに。
(さぁ、“アナタ”。ガチの本気でマジの出しどころですよ。)
元々、私はこの世界にそこまで興味はなかった。
前世で馬として生きた人生と同じ繰り返し、デビュー含めた最初の三戦で昔走った奴らといっしょの名前、魂。そして結果も全部同じ。『あぁ、あの時と同じなんだな。』そう早合点するのは仕方なかった。
人間として生まれて、馬の時にできなかったこと、人間としてやってみたかったことはトレセンに入学するまでに全部やってしまった。そして、やることが無くなって馬としての仕事でもあるレースも同じだった。
『じゃあ、私は何を楽しめばいいの?』
元々、私はなんにでも楽しさを求めていた。馬の時も人の時もそう。楽しさしか求めていなかった。
昔からある程度体は仕上がってたし、馬の時の経験を含めた経験値がある。でも相手はヒトだ。絶対に私を軽々と越えてくれる、楽しませてくれる、競ってくれる、そんな奴らがいると思ってた。
なのに、全部一緒だった。
そんなの面白くない。何も面白くない。つまらないだけの世界。
急に世界から色が消えたみたいだった。
そんな時、変えてくれたのがみんなだった。
レースの結果が変わる。
引退したはずの人がまだ走ってる。
彼女が出たはずのないレースを走っている。
ケガをした彼女がしなかった、そして勝った。
前世とは違う世界、今この時を生きる世界と私が馬として過ごした世界は違うって。
時計の針のように同じことを繰り返すものじゃないって。
教えてくれた。
なら、恩返ししないと。
つまらなくて私が無理やり色を付けないといけない世界を。
私の色なんか味気ないくらいに塗り替えてくれたみんなに。
私が出せる全力を以って、そして胸を張って。
視界の端にはいつの間にか並んでいる二人が映る。
内側にはミホ。外側にはシリウス。
そして、終わりまであと一分もない。
残った脚を全部開放。
「さぁ! 勝負だ!」
『御三家の三人が超ハイペースで引っ張る大逃げ展開! 速度を落とさずにそのまま最終コーナーに入るが速度が落ちない! 落ちない! いやさらに加速している! アナタ、ミホシンザン、シリウスシンボリが固まって先頭争い!!』
「負けない!!!」
「まだまだァ!!!」
『若干、アナタが外側か! 後ろには何バ身離れているか解らないほどだ! 先頭はミホシンザンに変わったところでここから直線へ! 中山の直線は短いぞ! ここからどう決めるか!!!』
「最期を決めるのは!」
「お前じゃない!」
…………、ま。その通りかな。この一勝だけで恩返しなんかほど遠いだろうし。
んじゃ、電撃引退宣言やめる引き換えにぃ!
「この勝負! もらったァ!!!」
『ここでアナタ、さらにスパート! さらなる加速! しかしッ!!!』
「宝塚はくれてやったんだ!」
「二つとも持って行かせるかァァァあああああ!!!!!」
「凱旋門で満足しとけよ!」
「有馬は私のモンだァァァあああああ!!!!!」
『ミホシンザン、シリウスシンボリ喰らいつく! 残り200m! ほぼ並んでいる! 一直線だ!!!』
「あああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」
「はぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」
もう一度………、起爆ッ!
「ッつっしゃぁぁぁああああああああああ!!!!!」
並び、並ばず、突き放す。
三人がほぼ一列に並びゴール坂へ。
しかしあなたの目には影は無し。
『アナタが飛び出た! 飛び出た! そのままゴールイン! 勝ったのはアナタだァ!!!!!』
ーーーーーーーーー
ゴール板を駆け抜け、三人とも速度を落とさずにそのまま芝の上へ転がる。何度も転がりながら徐々に速度を落としていき、止まる頃には息を切らして空を見る。……約一人縦に転がっていたが。
ハァ、ハァ、ハァ
「あぁもう! 負け負け! 何回スパートするんだよ! なにあの足!」
「あはははははは! やっぱお前人間じゃねぇーだろ! ここまで食らいつけたから上出来上出来!」
「え、えぇ……。あなたちゃん珍しく真面目に頑張ったのに、悲しいでんな。」
息も絶え絶えに、笑いながらそう言い合う三人。
ジュニア級から競い合ってきたライバルたちだ。負けに悔しさはあるけれども、それ以上に吹っ切れたすっきりとした感情が彼女たちの胸に広がる。
これ以上ない全力を出し合って負けたんだ。あとはもう笑うだけだと。
「よい、しょっと! ふぅ~~~。ま、あなたが規格外なのはいつもの話だし。今日はこれぐらいで勘弁してあげるとしましょうか!」
「ほ、っと! そうそう! 次は私たちが完膚なきまでに磨り潰してやるから覚悟しとけ! だから今日で引退とか変なこと言うなよな!」
飛び上がり、立ちながら未だ寝転がったままのあなたに手を差し伸べる二人。その顔は今まで見たことが無いほどに美しく、清々しい笑みだった。
「へへ、ありがと。……じゃ、引退するのやめておくか! 今度もギッタンメッタンにやっつけてあげないといけないからね」
「「あぁ、言ったなコイツぅ!!!」」
そうやってもみくちゃにされるあなた。
「や、ヤメロー! シニタクナーイ! ………あ、そういえばこれどうしよ。」
そうやって懐から取り出すのは、先ほどパドックでお披露目していた“世界の種”。三女神様のお家から勝手にもらってきた世界を作っちゃうモトである。当初の計画ではあなたちゃんは新たな世界を作り、そこを引退後の別荘にするつもりだったのだが……、同期の二人の挑戦を受け入れないといけないので引退延長。いらないゴミになっちゃたわけである。
かといってこれまで邪知暴虐の限りを尽くし、あの教科書に乗ってるクズ人間ベスト3にランクインできるメロスさんが成敗しに来て逆に食べられるあなたちゃんでもさすがに丸々世界一個をそこらへんにポイすることはできない。
………………うん。こっちに呼ばれた時ぐらいに帰ってきたらええか。その時に勝負すればいいし。
そう思いながら“世界の種”を起動するあなたちゃん。水晶のように透き通っていた青い玉が生命を包み込むような温かい光を発し始める。この球体の中に新たな世界が生まれようとしているのだ。
その光と共に背中から三対の白き羽を生み出し、ゆっくりと空に向かって浮上し始めるあなた。なぜか彼女も体から慈愛の光と呼べるようなものを出しながら、雰囲気もいつものクソガキから聖母のようなものに変わっている。
「再戦の時。また私の名前を呼んでください。」
「それまで私は、新たな世界の神として。この世界を眺めていることにします。」
「ミホシンザンさん。シリウスシンボリさん。…………私と競い合ってくれて、ありがとう。」
やさしく脳に響く声は、生きとし生きるものすべての心に届き。あなたは手の上で稼働し始めた世界をゆっくりと抱き締める。
「この素晴らしい世界に、やさしく幻想のようで、しかしながらちゃんとある世界に。……祝福を!」
祝福は、心を凍らせる冬の寒さをあたたかな光に変え。彼女は天に昇って行った。
彼女の言葉を信じるならば新世界の神にでもなったのだろう。
いつの間にか学園に増えていた三女神の像と対になるとある凱旋門ウマ娘によく似た女神像がその理由だ。
ーーーーーーーーー
あの有馬から数ヵ月後。季節は雪が降り積もるものから、桜が舞い踊るものへと変化した。
「お~い、おチビ~、練習……。」
いつものように開けられる扉。いつものように練習場に行っても見えない影、まぁ例のごとく部室で遊んでるんだろうなと向かってみれば誰もいない。
普段ならあなたが床いっぱいにおもちゃを転がし、床の隙間が無いなら『じゃあゴルシちゃん天井な』と言うことで天井にもおもちゃが転がっているのだが今日は変にキレイだ。
床には何一つ私物は置いてないし、ゴミすらない。ロッカーもすべて扉が閉まっていて新品かと聞かれれば全員が肯定するようなものばかり。
「あぁ、そっか。アイツはもういないのか………」
あの有馬以降。彼女は消えてしまった。その言葉を信じるならばどこかで楽しく神様でもやってるんだろう。まぁ人間じゃ計れないようなことばかりしていたし、どちらかと言うと悪魔とか邪神とかそういう類だろうが……。まぁいまここにいないことには変わりない。
あれから毎日あんなに楽しそうにしていたゴールドシップも静かになってしまい、毎日来ていた部室にも全く顔を見せてくれなくなった。師匠なんて呼びながらかなり慕ってたもんなぁ……、無理もない。
アイツと初めて会ってから三年近くたって苦労の絶えない時間だったが、つまらなさというモノは全く感じなかった。後始末やらいろんなところに謝りに行ったりだとかで、暇を見つけることすら難しかったからな。
「そう思えば、寂しいのかもな……。」
目を閉じれば聞こえてくる声。
初めてのころは、いろんなところで暴れ回って、それを何とかとどめようとする俺。時間が今に近づくごとに、そこにやさしく微笑みながら嗜めようとするマルゼンスキーが加わり。後ろからついてって同じことをしようとするゴールドシップが加わり。その後ろを色々と心配そうにしながらついていくサクラチヨノオーが加わり。
気が付けば部室には写真だらけ、笑顔と笑い声が絶えない場所に。
たしかに問題こそ多かったが、そこに笑いがあったように思える。楽しさがあったように思える。
「あぁ、耳を澄ませば聞こえてくるな。あいつらの笑い声が……」
(それでさ、世界作ったのはいいけどなんか反乱起こされて追い出されちゃった、なんでだろ?)
(師匠! それはたぶん鉛筆畑を作らなかったせいじゃないか? だって鉛筆ないと朝飯に困っちまうだろ?)
(いや普通に暴虐が過ぎたのでは? 絶対先輩色々やらかして、あの羽ペンキで白く塗ったってバレたんでしょ。)
(お? チヨ、やんのか? 真実しか言わない口にヴェノムけしかけるぞ?)
(は? 今度はこっちが食べてやりますが? こいや!)
(…………ゴルシちゃんが言えたことじゃないけど、チヨ之助の奴、結構染まったな。)
(はいはい、姉妹で喧嘩しちゃだめよ~。あなたちゃんもお姉ちゃんだからいい子にしましょうね。)
((は~い。))
(まぁ一番ヤバいのはそれを母親として許容しているマルゼン先輩なんだけどな。このゴルシちゃんをツッコミにさせるとはさすが師匠ファミリーだぜ……。)
(あら、ゴルシちゃんも家族よ~?)
(ま、マルゼンママ………!)
「……………ん???」
あれ、ついに俺の耳がおかしくなりましたかね? なぜかこの世界にいないはずの声が聞こえてくるんですが?
「あ! 沖野~~~!!! ただいま~~~!!!!!」
「え、お前さん……。」
「色々と退屈だっただろ沖野! あなたちゃんが帰ってきてやったぞ!」
そう言いながら差し出される手。
初めて会った時と同じように、高く。人差し指が挙げられている。
「さ! もっと世界を楽しくしようよ! 沖野!」
「……ったく! ほんと何なんだよお前さんは……。ゲート壊すし、変なの呼び出すし、服は脱ぐし。急に消えたと思ったらまた急に現れるしさぁ……。」
なぜか、目頭が熱くなる。あの時と同じように、差し出されたその指を握る。
「へへへ! ほら! 笑った笑った! それに! 私が何なのかはトレーナーがよく知ってるでしょ?」
『あなたはウマ娘である。』って、さ!
はい。ということで「あなたはウマ娘である」はこれまでとなります。
最初は拙作の無個性アーマーと一族三世代三冠の奴と三つ一緒に出した作品でしたが、ここまで人気になって生き長らえるとは思っていませんでした。これも皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。頂いたものすべてがこのとち狂った作品を書き続ける原動力となりました。正直私の狂気によく皆さんついてきてくれたなぁ、という考えが抜けない昨今ですがとっても感謝してます。
次は、ですか。……とりあえず今カクヨム様の方でやらせていただいているオリジナルの方をひと段落させまして、途中でやめてしまったものを何とか区切りを付けれるようにしたいなぁと思っております。もちろん“アルティメットスぺちゃん”もです。他は途中でやめるかもしれませんがアルスぺちゃんは私が天に召されない限りは必ず終わらせるつもりです。
ま、長々と失礼しました。ではではまた機会がございましたら、お会いできるのを楽しみにしております。
あなた
「ちょっとまて作者。」
あら、どうしましたあなたちゃん。もうこの作品はおしまいですよ? ほら、ついさっき完結済みってかき込んで…………、あれ? まだ連載小説のまま? なんで???
あなた
「二期やるぞ?」
………ふぇ?
あなた
「本家のウマ娘がSeazon2をやったんだ。あなたちゃんがやらなければどうする?」
あの、えっとですね?
あなた
「それにまだあなたちゃんは遊び足りないのである! ゆえに! 作者を監禁して続きを書かせるぞ! 他の作品書くよりもあなたちゃんを書く方が幸せだろ? な? 『あなたはウマ娘である。Seazon2』を、書く方が幸せだと言え、作者!」
『あなたはウマ娘である。Seazon2』来月同URLにて公開予定。
さぁ、来年も“あなた”はウマ娘だ。