あなたはウマ娘である。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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千代のために、サクラサク

 

 

 

「なぁ、ゴルちゃん。」

 

 

「ん~? どうしたんだ師匠? そろそろチヨ之介の奴が皐月賞走るし応援するならそろそろ出発しないとまずいぞ? だから服着ろ。」

 

 

 

ここはあなたちゃんの自室。前世がお馬さんであるあなたちゃんの根城であり、ベットの代わりにふかふかの寝藁が敷かれている部屋をいえばご理解いただけるであろう。

 

このあなたちゃんだけの部屋(一応同室は去年度割り振られたのだがその子が泣いて『部"屋"を"変"え"て"く"だ"さ"い"!!!』と言ったのでこれまでずっと1人部屋)であなたちゃんは生まれたままの姿。つまりすっぽんぽんであった。……まぁ前世ウマだしウマに服を着る習慣なんて存在しないから仕方ないね!

 

 

「え~~~!!!」

 

 

「いやそんな不満言われても……、コンプラ違反で消されるのは私らだぞ?」

 

 

「あなたちゃんならコンプラなんて怖く……、いや怖いな。服着るわ。」

 

 

さすがのあなたちゃんでも天下のサイゲームズが決めたコンプライアンスにはかないません。これが漫画やアニメならば謎の光さんか黒い棒さんが大活躍でしたがようやくお役御免なようです。お疲れ様でした。

 

 

「んでチヨの応援行くんだろ? 走っていくにしても車かバス使うとしてもそろそろだけど……」

 

 

「あぁ、それなら大丈夫。ワープで時間はかかりません! あげません!」

 

 

「あ、そっか。忘れてたぜ。」

 

 

「んでんでゴルゴル。このあなたちゃんに最近悩みがあるんだ、聞いて?」

 

 

「……正直ろくなものじゃない気がするけどまぁ聞くぜ?」

 

 

「だいぶ前から作者に『あなたちゃんをマーベル世界、MCUとかに持って行けば絶対面白い! 連れていけ!』って三千回提案してるんだけどいつまでたっても首を縦に振らないんだ!!!」

 

 

「……なるほど?」

 

 

いやだってね、あなたちゃん。たしかにあなたちゃんスーパーパワーたくさん持ってるよ?

 

 

「師匠ができるのは……、空飛ぶ、爆発する、ビーム打つ、無から爆弾を作る、狂気を使ったマインドコントロール、分裂する、巨大化縮小化自由。……なんでもありだな、スーパーマンか?」

 

 

そうなんですよ。持って行ってもあなたちゃんが強すぎるるのとどう考えてもご迷惑しかおかけしない上に、あなたの性格上絶対にヴィラン側でしょ? 駄目じゃん。狂気とカオスとパロディの塊であるあなたを持って行くとか正気の沙汰じゃないでしょう。まぁこの小説書いてる時点で正気かどうか怪しいですけど!

 

 

「え~~~!!! あなたちゃんだって活躍したいぃ! 正確には新しい遊び場ほしぃ! こっちの世界チヨとオグリのお話になったせいであなたちゃんの出番が徐々に減ってるんだもん! もっと出番よこせ! “あなたちゃんマン”になってアメリカを恐怖のズンドコに陥れてやるのだ!!!」

 

 

「あなたちゃんマンって、アンパンマンに出てくるキャラかよ……」

 

 

それにあなたちゃん、別に言ってもいいですけど言葉はどうするんです? あなた英語できないでしょ?

 

 

「うッ!」

 

 

第一シーズンと第二シーズンのseasonって単語、あなたちゃん間違えてるのこの前指摘されてましたからね? seazonってなんですかseazonって。あなたちゃん一応高校一年生なんですからこのスペルぐらい合わせてくださいよ……。

 

 

「うぅ……、でもウマ娘時空に学年とかあってないようあモノだもん! それにフランス語はできるようにあったもん! だから何とかなるもん!」

 

 

「いやなんでフランス語できて英語できないの……?」

 

 

「なんか凱旋門壊してパリ燃やしたらできるようになった。」

 

 

まぁあなたちゃんですし。彼女のことを常識で計ろうとすること自体が間違ってますしね。……あとゴルシちゃん。あなたさっきから常識人面してますけど、君も大概ですよ? なんでチヨちゃんの応援にミッ〇ーマウスの着ぐるみで行こうとしてるんですか? D社に喧嘩売ってます?

 

 

「クソ、バレたか……。」

 

 

あなたちゃんも『なるほど、その手があったか!』みたいな顔してピカ〇ュウの着ぐるみ着始めないでください! N社もダメです! あの会社の法務部はヤベェんですから!

 

 

「え~~~! あ、そうだ!」

 

 

…………嫌な予感するけど一応聞きましょう。

 

 

「パリ燃やしてフランス語できるようになるんだったらさ! ニューヨークかワシントン燃やせば英語できるようになるんじゃね!」

 

 

 

 

その後アメリカのワシントンが火の海になり、それでも英語を覚えられなかったあなたちゃんによって米国各地が徐々に火に呑まれていった……、もちろんゲートと名前が付く建造物は軒並み破壊された。

 

以前三百億まで増えたあなたちゃんを別次元になんとか送りだして疲労困憊だった三女神の姉貴たちは『よ、ようやく休める』というところでその悲報を聞いた。泣いた。

 

 

 三女神様! アメリカ修復の残業確定!

 

 

……この世界の三女神様何も悪いことしてないのになんでこんなひどい目に合うんでしょう?

 

 

 

「う~ん? アメリカ全部火の海にしたけど英語覚えられなかった…………。あ! そういえば英語って元々イギリスの言葉だって聞いたことがあるぞ! 英国って言うしな! ならイギリスも燃やせば覚えられるかも!」

 

 

 

やめてあげようね、あなたちゃん。

 

 

 

 

※毎度のことですがあなたちゃんの出した被害のすべては三女神様が修復、および記憶処理を施しております。あとフランスがよく燃えているような気がしますがあなたちゃんのことです。日本はそれ以上燃えていることでしょう。だってね、日本にどれだけ“門”の名がつく建造物や地名があるとお思いで? 毎日火祭りばかりでとっても楽しくなるでしょうね、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月賞、中距離2000mの旅路。クラシック三冠の初めであり、『最も速いウマ娘が勝つ』と呼ばれるレース。二年前は我らがあなたちゃんがGⅠ二勝目を上げ、その物語を加速させた。去年は中央とは遠く離れたカサマツの地でオグリキャップの恩師ともいえる“彼”の心を熱くさせた日本ダービー、そのレースに出走していた者たちが鎬を削ったであろうレース。

 

 

 

言ってしまえば皐月賞は物語の始まりだろう。

 

 

 

凱旋門への道を歩みだした彼女の物語が始まり、灰かぶりのシンデレラが始まるその前を形作った。

 

 

 

 

 

そして、今年。1988年。

 

 

また、新たな物語が始まる。

 

 

速さの血統か、地方からやってきた怪物か、それとも遅れてきた稲妻か。

 

 

三者ともに始まりの場は違えども、意識するのは皆同じ。

 

 

 

 

本当はありえなかった物語。

 

 

世界のバグによって本来その肩に乗るはずのなかった重圧を受けた彼女の物語を綴るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ最終コーナーを回って、現在サクラチヨノオー先頭! サクラチヨノオー先頭! ここで内から内からヤエノムテキ! ヤエノムテキが上がってきている! 先頭が入れ替わってヤエノムテキ!!』

 

 

 

毎日杯、私はあのオグリキャップに敗北を喫した。

 

彼女が走りにくい戦法を取った、必勝の法と考えていた。

 

 

 

だが負けた。

 

対応され、外から刺されて、負けた。

 

文句のつけようがない私の敗北だった。

 

 

 

 

そして、今。

 

皐月賞。

 

 

急遽クラシック登録に関する規定が変化したため、あのオグリキャップも参加できるようになったクラシックレース。彼女はダービーに専念することから出走を回避したこのレース。

 

数少ない抽選枠に天が微笑んでくれたのか選ばれたこのレース。

 

彼女に今度こそ勝利するためにも。

 

ダービーで彼女を打ち負かすためにも。

 

 

 

 

このレース。

 

 

「負けられません!!」

 

 

 

最後の直線、残りほんの数秒。

 

 

最後の力を振り絞ってスパートを掛けようとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!!!!」

 

 

 

(この感覚! この恐怖にも似た肌を付き刺す視線!!)

 

 

ヤエノムテキ、彼女が思い出すのは前走の毎日杯。オグリキャップに追い抜かれたときと同じ感覚。

 

 

(お、オグリキャップ!? いや彼女はそもそも皐月賞には出走していない! ならば……ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

「私も負けられないんだ。」

 

 

 

背後から迫る黒い影、彼女はそう言った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

皐月賞から一月前、マルゼンスキー先輩から『領域』をまだ早いと言われてしまった後。

 

 

私はテレビの虜になっていた。

 

 

 

 

 

 

と、言っても心が折れてもう全部どうでもよくなって私もニートの仲間入り、というわけではない。まぁ確かに精神的にかなりのダメージを受けたことは否定しないけど。

 

 

『領域』、私が心から欲する個性を手に入れるにはとにかく『領域』を目に刻んで私が理解できるぐらいまでにならないといけない、そう思ったからだ。

 

画面越しに見る映像はすべてレース、いろんな雑誌や記事で『領域』に至ったとされている人たちの映像全部資料室から借りてコピーして全部見た。何度も何度も繰り返して見た。

 

数人の例外を除き自身の内部及びその周辺、同じターフを走っている者にしか感知できない『領域』、映像からその超常的な現象を確認することはできないけど、速度の上昇という形でなら私も理解できる。

 

 

母(最近もうマルゼンスキー先輩を母親呼びすることに疑問を抱かなくなってしまった)にも言われた通り、母や姉と違って私は感覚派ではなく理論派。出来るならば『きゅっとしてドカーン』とか、『えっとね、魔力を暴走させるの』ではなくちゃんとした数値で教えてくれる方がありがたい。

 

まぁ血の、というか魂のつながりのせいか私に色々天然が入っているため、他人に理論派であることを白状するとすごい驚かれるのだが……、まぁそれは置いておくとしよう。

 

 

とにかくこの画面越しで見る速度だけが上がっているように見えるこの状況は私にとってとても都合がいいということだ。

 

 

 

 

度重なる観察の結果、私が前から思っていた通りのことが分かった。

 

 

マルゼンスキー先輩とあなた先輩のおそらく『領域』による加速が非常に似かよっている、と言うことだ。

 

 

マルゼンスキー先輩は最終コーナーで加速する。そして最終直線でその加速そのままに二の矢、もう一度スパートを掛ける余裕がある。

 

あなた先輩は色々とおかしいが同じく最終コーナーで加速するし、最終直線でスパートを掛けることができる。あの伝説的な凱旋門賞と去年の有馬記念を見る限り複数回のスパートという化け物じみたことも可能。(正確に言うとまともに判別できたのがその二つしかなかった。それ以外はゲートが爆発したり色々ひどかった。)

 

 

 

先輩に教えてもらった、というかいつの間にそんな感じになっていた私たちの“家族設定”。マルゼンスキー先輩が母で、あなた先輩が超常……、じゃなくて長女。それで私が次女。

 

あなた先輩のことだし、マルゼン先輩も絡んでいることだからおそらくこの関係性には理由があり、根拠がある。私たちには全く血のつながりはないがおそらく“家族”と呼べるその理由がある。

 

 

 

ここで思い出すのがあなた先輩が言っていた『私前世ウマだから服なんて着たくないもん! 下着とかいらないもん! 締め付けるのいやだもん!』という言葉である。これは寮のお風呂場付近にて、一糸も纏わぬ姿で先輩が発見されたときに聞いた言葉である。なおその後マルゼンママとルドルフ新会長に捕まって服を着させられていた。

 

 

前世。もし私たちに前世というモノが存在していて、その時に私たち三人が家族と呼ばれる関係であった、とすれば……、うん。あなた先輩が言うことも解る。“ウマ”という種族は知らないが、名前的におそらく“ウマ娘”と同じようなものだろう。たぶん前世で私たちは血のつながりがあったんだ。

 

 

そして、前世があったとすればマルゼンスキー先輩とあなた先輩が同じ効果に近い『領域』を持っていると考えられる。

 

 

 

……と、言うことは。

 

 

 

 

 

 

うん、何となくだけど方向性は掴めた気がする。

 

 

 

 

皐月賞までに『領域』が見えることはなかったけど、それに至るための練習のさなか、得られた技術はしっかりと残っている。

 

 

まだ母や姉のようには成れないけど……

 

 

 

 

『サクラチヨノオー上がってくる! チヨノオー差すか! 差すか! 差し返した! 差し返して、距離を離す! 離した! サクラチヨノオー抜けた! チヨノオーそのまま抜き去ってゴールイン!!!』

 

 

『サクラチヨノオー、見事な走りを見せました! 二着にはヤエノムテキです!』

 

 

『いや~、一度抜かれてから再スパートを掛けて抜き返す。いいレースでしたねぇ!!』

 

 

 

 

 

試行錯誤の末に手に入れた技術、最終コーナーあたりで加速しながらも脚はまだ全開放しないスキル。

直線中ごろである程度速度が乗った後に加速するスキル。

 

 

 

 

まだ、二人に並び立てるような“個性”じゃないけど……

 

 

 

 

 

ほんの少しだけ、桜の花びらが見えた気がした。

 

 




あなた

結局ゴルシちゃんと一緒に版権キャラの着ぐるみを着て応援に行った。まぁそのせいでゴルシちゃんもあなたちゃんもチヨノオーに発見されることはなかった。悲しいねぇ……


サクラチヨノオー

決められた路線を変えて皐月賞制覇! おめでとう! 実は着ぐるみを着た二人組に気が付いてはいたし、中身もうすうす感づいていたけど間違っていた時恥ずかしいので声をかけなかった。


マルゼンスキー

レース場の関係者席でルドルフ会長と一緒に観戦していた。チヨノオーがゴール板をかけぬいた時はあなたちゃんが勝った時よりも喜んだし、隣で一緒に見ていたルドルフを狸になるまでゆさゆさ振りまくった。めっちゃうれしい


シンボリルドルフ

たぬき(疲れた)、あとちょっとチヨノオーがあなたちゃんに汚染されてないかすごい気にしてる。むちゃ心配している。でももう手遅れ




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