あなたちゃん禁断症状の方には大変ご迷惑をおかけいたします。
皆さんは知っているだろうか。
『あなた』を。
25戦9勝、主な勝鞍として凱旋門賞、有馬記念、宝塚記念、皐月賞が挙げられるお化け競走馬である。
彼女は現在前世の馬としての記憶と自我を引き継ぎながらウマ娘としての生を謳歌しているのであるが、もちろん彼が競走馬であったという事実はなくならない。
日本産駒で日本調教馬が凱旋門賞をとって日本に帰ってきたのである。繁殖がえらいことになるのはお察しの通りであり、当時の繁殖としては異例のなんとお相手は1500頭。『あなた』が長生きで的中率も良かったこともあり、皆さんこぞって繁殖しに来たのである。
『あなた』としても競走馬の仕事が終わったらこの仕事、と解っていたようで別に何の問題もなく進行。競走馬名として“ゲート”が付く牝馬は『あなた』がブチギレしたため近づくことすらできなかったが、まぁたくさん子供が産まれたわけである。
そして、子供がたくさん生まれればその分ウマ娘世界にやってくるわけで……
『第一回あなた産駒交流会のお知らせ』
「どうしたのココン。そんなひどい顔して……、あぁ。」
この世に神様はいないのかと、世界を呪ってしまいそうな顔をしているリトルココンのところにまでこんなお知らせが来てしまうのである。しかも封筒も便箋も触ったことがないぐらいの品質であり、会場もみんな知ってる高級ホテルでウマ娘向けの料理がたくさん出るらしい。なんとそれが無料である。
変なところで真面目なココンは『お呼ばれしたんだし、一食分無料になるのなら……』ということで会場に向かうのであった。
なお彼女が行った最大の理由としてあなた産駒たちのお父さんである“あなたちゃん”が出席しないというモノがある。やはり彼女の娘たちなので、自分の魂の父親がいると呑気に食事なんかできないというのが解っているようだ。
と、言うことで一人やってきたウマ娘が一人、“リトルココン”。
あまりにも顔があなたちゃんと似かよっているためあなたちゃんの子供たちに『あの子も私らと同じ産駒じゃね?』と勘違いされた悲しきウマ娘である彼女は制服でとあるホテルにやってきていた。
シンボリ、メジロ、アグネス、サトノなどなど。日本で生活していたら一度は聞いたことがある財閥グループのほとんどがこのホテルに関わっているというお金持ち専用のホテル。
トレセン学園生は制服で来てね☆と書いてあったので制服で来たのだが入り口に近づく前から場違い感を感じるココン。しかしトレセン学園や地方の制服を着たウマ娘が何人も談笑しながらホテルに入っている。
(正直もう帰りたいけど……、いや。ここまで来て帰るのもあれだし行くしかない!)
覚悟を決めて前に進むココン。ホテル前に貼られている『本日のご会場』で何階かを確認してできる限りスピーディに会場まで進もうとする。
古風なくるくる回るドアや豪華絢爛の言葉がぴったりなロビーに精神ががりがり削られながらもなんとかエレベーターまで辿り着くことができた。
(す、住む世界が違う……! 空気すら価値があるような感覚に陥るのナンデ!)
リトルココンだって良家の出である。お嬢様ではないけどええ所の娘さんなのだがそれを上に行くのがウマ娘世界財閥クオリティ。
(しかも会場最上階だし……、はぁ、こない方が良かったかもしれない。)
そして辿りついた最上階。エレベーターの電子音が響き、ドアが開けられる。
そこには数百を超えるウマ娘たち、その大半が大体栗毛。
そう! ここにいるみんな全部あなたちゃん産駒である!
「あ、リトルココンさんですね! 初めまして!」
「え、あ、はい。初めまして?」
急に話しかけられて驚き、声の方を向くココン。そしてもう一度驚いてしまう。なんてったって顔のパーツがかなり私と似かよってるんだもん。双子って言われたら信じちゃうぐらいに似てるんだもん。というかここにいる人たちかなり顔が似てる! コワイ!
「私、子世代の“アナタスキー”って言います。学園では確かお話したことなかったですよね?」
顔に目が行ってしまったが、よくよく見ると自分と同じトレセン学園の制服。どうやら同じ学生のようだ。彼女のことは知らなかったので学年は違うのだろうが。
「えっと、“子世代”って……」
目の前の彼女が先輩か後輩か分からないのでとりあえず出来るだけ丁寧な口調で。でもまだ混乱が収まらないせいか疑問がすぐ口から出てしまう。マズい、こいつら絶対例のアイツの関係者だぞ! 何がトリガーになるか分からないんだぞ!
「あ~、なるほど。解らない感じなんですね。じゃあ曾孫世代か、それ以降ですかね? 結構後の世代の方だったんですね。」
「? は、はい。」
とりあえず一番の懸念だった堪忍袋の緒が切れてしまうことはなかったようだが……、また分からない単語が出て来たぞ?
「私は92年世代だったんですけど、ココンさんはどの世代だったんでしょうね? 世代が進むごとに忘れちゃう人が多いみたいで……、ココンさんも呼ばれてるってことは多分前のお母さんかお父さんが呼んでくれたんだと思うですけど誰でしょう?」
「???」
ま、前のお母さんってなに!? 前のお父さんってなに!?
脳内で自分のルーツに対して盛大な勘違いと混乱が引き起こされるココン。しかし“アナタスキー”のお話は止まりません。どうやら話すのが好きなウマ娘だったようですね。
「あ、曾孫世代でしたら他の方全然わかりませんよね。ご紹介します。」
「あそこでドレス着て話している三人が右から“シンボリアナタ”“メジロアナタ”“アグネスアナタ”ですね。今回の費用とか持ってくださってる方たちで私と同じ子世代の人です。」
指をさす方向に目を向けると、ルドルフ会長とあなたちゃん、マックイーンとあなたちゃん、アグネスタキオンとあなたちゃんをミックスしたようなウマ娘たちがいる。なんというか脳が考えるのを拒否し始めて来た。
「三人とも重賞は勝てなかった方々なんですけど卒業後に起業したらしくて今ではすごいお金持ちさんみたいですよ? なんで“我らが父”よりも先に産まれてるのかはわかりませんけど、まぁこの世界時間軸の歪みとかあるみたいですから仕方ないですよね。まったく三女神は頑張ってほしいものです。」
なんか世界の秘密について無茶苦茶世間話のように降られたけど気にしない、気にしちゃいけない。
「あ、“アナタスキー”か。そっちは……“リトルココン”だな。慣れないかもしれないが楽しんでくれたまえ。」
「ココンさんは確かアオハル杯で活躍していらしたのですよね? 私たちレースでの勝利にはこっちでも運がないようで……。応援させていただきますね。」
「ふぅん? やっぱり“我らが父”と似ているねぇ。隔世遺伝って奴かな? ま、気が向いたらウチに来てくれ。製薬会社をやっているからね。」
「ア、ドウモ。」
なんかトレセン学園で見たことある気がするけど考えるのをやめたココンにはもう大丈夫! “シンボリアナタ”から手渡されたおいしいお料理を口に運ぶ機械と化しました。もちろん味はよくわかりません、味覚まで混乱してしまいました。
「で、あっちが私たち子世代で唯一GⅠを勝った“アナタツヨイノ”でそのライバルだった“ヨワイノアナタ”さんね。たしか菊花賞勝ったんだっけ?」
「あの端でカサマツの制服着てるのが“バクアナタシン”と“サクラアナタ”。たしか籍はカサマツだけど地方を色々巡ったんだっけ? 今世も旅行好きみたい。」
「それであっちでカウガールの恰好してるのが“ゲートダイスキ”だね。名前に反して“我らが父”よりもゲートが駄目だったみたいでそのまま乗馬になったんだって。人間に慣れてなかったらお肉にされてたって笑ってたよ。」
「ソウナンダ。」
リトルココン、食べます。もりもり食べます。相変わらずウマ娘のSAN値をゴリゴリ削りそうな内容ばっかりですが頑張って無の境地に至ることで聞き流します。今なら悟りを開いて新たな宗派を開けそうです。
「やっほ~! “アナタツヨイノ”と!」
「“ヨワイノアナタ”で~す! 卒業してからは漫才師してまっす!」
「ふたり合わせてヨワイノツヨイノ! まさにプリキュアマックスハート!」
「“バクアナタシン”です! あなたも一緒にバクシンしませんか! と言っても私はバクシンオーとはいとこ関係なんですけどね! 子供じゃなくてすまーん!」
「“サクラアナタ”です。一応サクラ家の出身ですよ~。」
「ども! お肉一歩手前の“ゲートダイスキ”だぜ! こっちに生れ落ちてから知ったけどマジで馬肉一歩手前だったの私だけだったらしいな……。ま、よろしっく!」
「と、まぁ今来ている子世代はこれぐらいかな?」
「ソウナンデスネ。」
キャラの大洪水で精神が涅槃に入ってしまったリトルココン。曼荼羅に新たな彼女の場所が出来たが、あなたちゃんたちは涅槃ですら遍在するのだ。残念ながら逃げられない。
というかこんなに新キャラみたいなよくわからないのたくさん出して大丈夫?
「あとは孫世代に“アナタダイスケ”、“アナタネコデス”、“ブロリーアナタ”、“ニャルアナタ”、“サトノアナタ”、“トウカイアナタ”、“アナタターボ”とか色々いるけど……、ココンちゃんのお母さん誰だかわかる?」
「ワ、ワカリマセン……。」
その後、“アナタスキー”による善意の『リトルココンの前世母親求めて三千里』が始まったが、その影響でリトルココンの精神が大変になったことだけはここに記しておく。
なお後に本人は、
「なんかステータス的に賢さが40、スピード20くらい上がった気がするけど体力が50は減らされたと思う。やる気も下がったし、もう二度とあのイベント踏みたくない。」
と語った模様。
最初、“アナタハココンパパ”と“アナタハココンママ”という謎の競走馬を出してリトルココンの脳を破壊する予定でしたが、かわいそうなのでやめました。