あ、皆さんどうも初めまして。スペシャルウィークって言います。
少し前に行われたトレセン学園の転入試験、緊張しながらもなんとか合格できなんと今日から私もトレセン学園生!
お母ちゃんに見送られながら電車や飛行機を乗り継ぎやってきたのは大都会東京。
初めての都会にたくさんの建物、人も信じられないぐらい沢山だし地元じゃ私だけだったウマ娘さんもたくさん! 地元の日高から札幌、東京と少しはしゃぎ過ぎたみたいで「時間あるしちょっとだけ……」ということでトレセン学園の最寄り駅までの車中、襲い掛かる睡魔に身を任せることに。
……それがいけなかったんでしょうか。
「う、うぅん? ……ふぇ! ここどこ!?」
目が覚めればさっきまで乗っていたはずの列車は消え去り、私が寝ていたのはボロボロの止まった列車。埃まみれだし、すごく列車自体も古くなっている。かといって私が乗っていた列車よりも過去の列車というわけではない。現代のものだ。
外を見てみればさっきまでいたはずの東京のビル街は廃墟に。ガラスは割れ、ツタが絡み合い、コンクリートはひび割れている。車はさびてオブジェになってるし、たくさんいたはずの人は誰もいない。同じ車両に乗っていたはずの人もいない。
「ここは……。」
元々扉がなかったかのようにそこにある出入り口から外に出る。混乱して気が付かなかったけど列車は少し傾いていたらしく、高さがあった。
「地面も瓦礫だらけでレールもなくなってる。」
思い当たるのは昔アニメで見た世界、遠い遠い未来。崩壊した東京、ディストピア。文明が全部なくなってしまった世界。
「と、とりあえず人を探さな、きゃ……!」
ここで泣き叫んでも仕方がない、とりあえず世界がどうなてしまったのかを確かめるために人を探そうとしたその時、急に私の世界が真っ暗になる。いや私だけじゃない、もっと大きな範囲が暗くなってる。
気絶? 違う、これは……影だ。
ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り返る。
振動、青く大きな、泥だらけの靴。
白い肌の脚。
水色のフリルのあるワンピース。
大きく開かれた口。
理性の感じられない見開いた目。
荒れているが艶のある金髪。
そしてウマ娘の象徴である耳。
廃墟と化したビルの陰から出てきたのは、そのビルと同じくらい大きなウマ娘の怪物。ウマ娘と言うには等身が違いすぎており、頭の大きさが体の半分を占めている。また横幅も大きい。手には何故か真っ赤なタワーを槍のように持っている。
そしてそいつは、さらに大きく口を開け。
叫んだ。
「AaaaaaNAAAaaaaaTAaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
「ひ、ひぇ~~~~~!!!!!」
たまらず全速力で逃げる私。後ろからは体の芯まで響き渡る足音、しかもすごく早い。脚幅の問題もあるけどこの化け物すごく早いぞ! 困るッ!!!
「ッ!」
上から悪寒を感じ思いっきり前に転がりこむ、うまく受け身を取れて一回転。さっきまで自分がいた地点を見るとあの怪物がその手を使って私を捕まえようとしていた。
顔から血が引いていく感覚、あんな大きい化け物に捕まったら何されるかわからない。見た感じウマ娘みたいだけど最悪捕まったらそのままお口に強制ダイブである。
そして……
「ヒィッ! 目が合った!」
捕まえられなかったことが気に入らなかったのか彼女に向けて恨めしそうな瞳を向けてくる怪物。もう片方の手をすでに伸ばそうとしている辺り、完全に標的はスペシャルウィークのようだ。
「ご勘弁ですッ!」
たまらず全速力で逃げ出すスぺ。後ろからは轟音に等しい足音と耳をふさぎたくなる風を切る音。少しでも速度を落としてしまえば踏みつぶされるか捕まる。
「な、なんで私ばっかり不幸何ですか! この作者が書く私って大体不憫! このコンプライアンス違反! やるならオリウマでやってくださいよぉ!!!」
なんかとんでもないことを言いながら逃げ回るスペシャルウィーク。若干涙目になりながらもさすが未来の総大将、うまく瓦礫や曲がり角を使いながら逃げます。
しかしながら未だデビュー前のウマ娘、的確なトレーニングを積んでいたとしても難しい化け物との追いかけっこをまだ雛鳥のスペシャルウィークが長時間続けられるはずもなく。
(くぅぅう! スタミナがッ!)
足音の大きさ、振動。化け物の手が巻き起こす風が徐々に、徐々にその身に近づいていき……。
これまで感じたことのない悪寒、足元に大きな影。
(あ、足も限界。さっきみたいに飛んで避けるのも出来そうにない。どうすれば……。)
もう、どうしようもない。目を閉じ最後の時を待とうと諦めかけたその時。
体が、浮く感覚。
痛みも、何も感じない。目を開ければそこには銀髪のウマ娘さんがいた。
「へへ、危ないところだったな。あいつらは路地裏なんかの隙間には入れないから、そこに入って諦めるまで待った方が賢いぜ。」
銀髪、葦毛の人に助けてくれてお礼を言おうにもさっきまで全力で走っていたせいで呼吸が整わない。声を出すよりも肺に空気を入れることを体が求めている。
「えっと、水~水~っと! ほれ。息整えながらのみな。」
「あ、あり、がとう、ご。」
「いいっていいって、お互い様ってこった! ……あ、そういえば名乗ってなかったな。わたしゃぁゴールドシップって言うんだ。見た感じかなりきれいなおべべ来てるしお前さんどっかのトップ?」
首を振り、否定を表す。何とか息を整えながら自分の名前と、こうなった経緯を話す。元々この崩壊した世界じゃない元々の世界にいたはず、だけど気が付いたらここにいた。なんでこうなっているのか解らない、と。
「へ~、文明崩壊前の世界からねぇ……。まぁそういうこともあっか。んじゃまとりあえずなんで世界がこうなったかを説明しといたほうがいいな!」
ゴールドシップさんの話、それによるとこの世界は人類文明が崩壊してから10年後の世界らしい。
きっかけはとあるウマ娘が原因。
そのウマ娘はゲートが大嫌い仕方がなかったそうで毎日ゲートを壊して回っていたらしい。しかもそのウマ娘は分裂することも出来たらしく酷いときは世界中が彼女で埋まることもあったみたい。
そんなウマ娘がゲートを毎日たくさん壊していればどんなに頑張ってもゲートの数は減り続ける。消費と生産が合わなくなてしまったのだ。そして世界に存在するゲートがどんどん減っていき……。
最終的に、“ゲート”はこの世から消え。その代替品として壊されていた“ゲート”、“門”と名前の付く物質も全部破壊されたみたい。
この段階でその暴れ回ったウマ娘がやっと静かになればよかったんだけど、世界はそこまでやさしくなかったらしい。彼女に取ってすでにゲートを破壊するということは彼女自身の存在に直結していたらしい。ゲートが存在しないということは“ゲートが破壊できないということ”。彼女自身の存在が崩壊した結果彼女は化け物に成り下がってしまったらしい。
「その結果、生まれたのがさっきまでスぺが追われていた化け物、ANATAってわけだ。アイツ一体だけじゃなくて世界中に何万体といるんだ。まぁ文明も崩壊するわな。」
今は大人しくなっているけど昔は大変だったらしい、そのゲートへの殺意を人類文明に向けてしまった彼女は世界を破壊しつくした。人間たちも武器や兵器を取って戦ったけど誰一人として傷をつけることはできなかった。
無限に増殖し、倒すこともできない無敵の怪物。この世界の人間たちはただ生き残るためにそれまでの社会を放棄するしかなかったという。
「ま、でも住めば都って言うしな。シェルター生活も悪くないもんだぜ? ちょうど元トレセン学園の場所にあるしスぺも学園生活の雰囲気楽しめるんじゃないか?」
この世界に飛ばされたってことは帰る方法があるかも知れない、でも自分にはそれが解らないしその方法を知っていそうな人も知らない。とりあえず自分たちのシェルターで生活してみれば? ということで彼女に連れられて私はトレセン学園の跡地に向かうことに。
こうして、私の終末世界が始まった。
「うぅ……! ゴルシさん、それは食べ物じゃないですぅ!」
「ねぇ、お母さん。このウマ娘さん、うなされてるけど大丈夫かな?」
「なにか怖い夢でも見てるのかしら? ……寝過ごしちゃったら可哀そうだしとりあえず東府中に付く前に起こしてあげましょうか。」
◇◆◇◆◇
ところ変わってトレセン学園生徒会室、スぺが悪夢にうなされている時。生徒会メンバーは仲良くおしごとをしていました。シンボリルドルフ会長が書類整理、エアグルーヴ副会長がそのお手伝い。ナリタブライアンがサボりという完璧な布陣です。かの最強不滅と謳われたインペリアルクロスですら対処が難しいだろう。
「会長。」
「ん? あぁエアグルーヴか。どうかしたかい?」
「業務連絡と確認です。先日破壊されたゲートの補充作業が完了しました。輸送時に対象の襲撃がありましたが認可していただいた九四式改造軽装甲車部隊、“九四組”が防衛に成功。こちら側の被害は極めて軽微だったとのことです。」
「???」
会長の頭の中にはまたハテナ。え? 何それ。私そんなの知らないんだけど。心の中ではどんなに混乱しても前シンザン会長から受け継いだ鋼の意思(顔)のおかげで外面は極めて冷静。
グルーヴから受け取った資料で何とか現状の把握に努める。
(えっと……、最近発明された強化プラスチックとカーボンによってウマ娘が発するビームなどの完全耐性を得た戦車? 警察の機動ウマ娘部隊と協力して育成した学園内戦車道部?? なお例のあいつに実弾で発砲してもちょっと痛かったで済んだ模様???)
「この成果は部長の私としても大変誇らしいことで……、おっとすいません、つい。」
「い、いやいいとも。良い結果に喜ぶのは当然だとも。うん、そうだとも。うん。」
(そもなんで学園に戦車? 私が許可したのか? いや生徒会の印がある時点で許可したのは私以外ありえん。なぜ? いつ? 過去の私は何をしていたのだ???)
混乱しながらもパズルを完成させるために脳内からピースを探し続ける会長。自分の判断能力や作業効率が著しく落ちていた時を思い出せばこのアホみたいな計画に許可印を押してしまった時のことがわかるはず……!
が、ダメ!!!
(く、くそう! 生徒会長に就任してから何かしらの業務と例のあいつのあとしまつでいっぱいいっぱいだったから普通にこの計画が紛れ込んで許可印を押してしまう可能性があるぞ! どのタイミングでもありうる! 生徒会室に奴が忍び込んだ時とか、学園にスギ花粉の爆弾を持ち込んだ時とか、カプコン製のヘリコプターで空中レース勝手に開催した時とか! どのタイミングでもありうる!!!)
「いやしかし戦車がこれほどまでに有能だとは思いもしませんでした。最初は大変申し訳ないのですが会長が血迷ったのか!? と思ってしまいましたが……、私が間違っていたようです。危険物ということで監督に私が付きましたが如何せん戦車道というモノは奥が深く……。」
「あ、あぁ。いや、そうだね? 君にとって新しい趣味が増えたことはいいことだ。」
(私だって血迷ってると思うよぉ!? なんでグルーヴ納得しちゃってるのぉ! なんで!? 君この学園の数少ないツッコミで真面目でまともだったよね!? 私安心したんだからね! まともの人が学園に増えてしかも生徒会に入ってくれたからってすごく安心したんだからね! なんで! なんで君までおかしくなっちゃったの! 女帝どこ行った!? もうやだルナお家帰る!!!)
脳内ではこんなに叫んでいてもさすがは会長。眉一つ動きません。ただ彼女の予定に「テイオーとツヨシで癒される」が割り込まれたのは間違いないでしょう。体は安らぎを求める。
「あぁ、それと連絡ですが本日転入生の初登校日になります。学園につき次第報告させていただきますので生徒会室での面談よろしくお願いいたします。」
「あぁ、わかった。」
ルナちゃん、思います。今度の転入生がとってもいい子であることを。出来たらとっても真面目で、ツッコミが出来て自身と同じ胃痛を分かち合ってくれる後輩を。とっても切望します。
「た、大変ですグルーヴ部長!」
「たわけが! ノックぐらいしろと何度言わせる!」
「いや、いいとも。それでどうしたんだい君? 軍服で走ってきたということは何かあるのだろう。」
「は! ご報告します! 国際指名手配犯であるコードネーム:YOUが超重戦車マウスで学園ターフに侵入してきました!」
「な、何ィ!」
エアグルーヴの驚きの声にかき消されたおかげで聞こえませんでしたが会長のお腹に大量の胃酸が発生、なんだかとってもイヤな壁が敗れる音がしました。
「すぐさま私のティーガーⅠの準備をしろ! そしてブライアンにも通達! 敵戦車の無力化を行う! では会長、失礼いたします。」
「あ、あぁ。気を付けたまえ。……い、胃薬どこしまったけ。」
なお、戦闘は学園の戦車道チームが絶えず劣勢であなたちゃんが駆る空中機動型マウスにかなり苦戦していたようです。被害としては理事長の愛車とかマルゼンママのたっちゃんとか学園理事の高級外車とかがあなたちゃんのマウスに踏みつぶされたり、戦闘の余波でターフの芝がダートになったりしました。
最終的にブチギレたたづなさんによって素手で破壊されたそうです。
……うん! 今日も平和で何より!!!
あ、それと会長はお薬と娘とのふれあいセラピーで何とか元に戻ったらしいけど肝心の転入生が指定された時間になってもこなかったせいで「あ、完全に理解した。そういうことね。」と言いながらすごく遠い目をしていたそうです。
スぺちゃん、スズカさんのライブ見るのはいいけどちゃんと遅れるときは連絡するんだぞ!
空中機動型マウス
なんと、あの超巨大なマウスが空を自由に飛ぶぞ! あなたちゃん専用機だ! しかもあなたちゃんは分裂できるから実質一人乗りだぞ! すごい!