五月のとある祝日、スピカに所属するウオッカは珍しく帰省をしていた。
本来ならゴールデンウィーク、いやゴルシウィークでも練習はあるし、自身の少し上の世代は天皇賞やらダービーやらオークスやらと大事なレースが控えている時期だ。学園に所属するウマ娘にゴールデンウィークというお休みの日というのは存在しないのが一般的だ。
しかしながら珍しくスピカはお休み、春の天皇賞を控えるウマ娘もいるにはいたが最近色々やり過ぎて謹慎中である“あなた”氏が謹慎期間の短縮を条件に分裂してサポートすることになったという。
ま、色々言ったが単に『長期休みが出来たから実家帰るべ』ということだ。
「にしてもあなた先輩何仕出かしたんだろ、ギリギリあすかばん? 行きを回避できたって言ってたけど……。まぁいっか。久しぶりの実家だしゆっくりしよっと。」
あなたちゃんが何を仕出かしたとしても、同じチームとはいえウオッカには何の関係もない話。彼女は普通に休みになったことを喜び、電車やバスを乗り継いで実家に到着。頭の中はこの休みの期間中に父ちゃんのバイクの後ろに乗せてもらってどこに行くかだとか、母ちゃんの飯が楽しみだとか。そういった学生らしいものである。
「ただいまー!」
その口調や趣味から粗暴なイメージを抱かれやすいが普通に育ちがいい彼女。事前にメッセージアプリで母親から『ちょっと今外出てるから自分で開けて家入っといて。』と言われ家に誰もいないのを知っていたとしてもちゃんとただいまの挨拶。お靴もそろえてるしえらい!
「……そこまで離れてないのにすっごく懐かしい気がするな。」
そんなことを口ずさみながら自室に行き、荷物を降ろすウオッカ。服装も制服から家用のラフな格好に。両親が帰ってくるまでテレビでも見てゆっくりしてようかなと思いながらリビングに戻り、電源を付ける。お昼のよく解らない情報番組だ。
まぁそんなこんなで時間をつぶしているっと……。
「ただいま~! ウオッカ帰ってきてる~!?」
自身の母親らしい元気な声だ。どうやら帰ってきたようだ。
出迎えるために移動を始めるウオッカ。
「あ、母ちゃんお帰り。どこ行ってたんだ?」
「ん~? 普通に父ちゃんと一緒にツーリングしに行ってたのよ。あんたの好きな洋菓子を買うついでにね? ほら。」
手渡されるちょいといいところの菓子が入った箱。何かのお祝い事があったと気にしか買ってもらえない特別なやつだ。喜びのせいか口だけでなく耳も反応してる気がするがここは実家。何を気にすることがあろうか。
「おぉ~! ありがと! ……あ、そういえば父ちゃんは?」
「父ちゃんならさっき車庫にバイク置きに……、お。噂をすれば。父ちゃん~! ウオッカ帰ってきてたよ~!」
「ん、今行く。」
自身のいる玄関口からも聞こえる父の声、彼のお気に入りである愛車を収めに言ったのだろうが……、何か違和感。ヘルメットをかぶってるせいか声が変に聞こえた。というか高い?
「お、帰ってたのか。お帰り。」
つかつかといい音を鳴らす皮の靴の音、そこにはヘルメットをかぶったままの父がいた。……いや確かに服装や小物、ヘルメットは確かに自身の父のものだがなんというか骨格が違う。なんか身長も縮んでる気がするしそもこんなに声高かったけ? え、というかそれよりもマイファザーのお尻あたりに見えるそのふさふさしたものなんですか???
そんな混乱している愛娘をよそに、ゆっくりとヘルメットが外される。
娘に似た髪色、綺麗なお顔。そして何よりも頭にぴんっと立った二つのお耳。右目に付けられた黒い眼帯。
「ん? どうしたんだウオッカ。そんな変な顔して。」
「と、父ちゃんがウマ娘になってるぅぅぅぅぅううううううううう!!!???」
――タニノギムレット、参戦!
そして玄関先からつかつかと足音! そこにはトレセン制服のウマ娘!
「あ、すみません。横失礼します。」
――たまたま通りがかったシンボリクリスエス、参戦!
玄関の壁に謎の黒い空間が開き、現れるのは名前を言ったらいけないあの奴!
「あなたちゃんもいるぞ!」
――国際指名手配テロリスト・あなたちゃん、出禁!
【はい、〇ラの桜〇です。いや~、ス〇ブラにウマ娘が参戦とは私もびっくりです。】
◇◆◇◆◇
はい、ということでタニノギムレットちゃんというかギム様があなたちゃんワールドにも出走されたわけですが……、どうしたんですかあなたちゃん。なんというかとんでもない落ち込み方してますけど。
ターフに寝転がりながら虚空を見つめるあなたちゃん。お顔もなんというかもう虚無です。
「いや、ね。あなたちゃん理不尽な破壊神と邪神で滅茶苦茶にするスタンスでやってきたじゃん今まで。」
まぁ、そうですね。壊したゲートの数は数え切れず、挙句の果てには三女神様が直してくれることに味を占めて凱旋門を爆破したり、パリを火の海にしたり、国会議事堂の地下に秘密基地を作ってウルトラマンごっこ(地下で巨大化して地上のものを破壊する)をしたり、自身の数を無駄に増やしてアメリカ大統領に就任したりと好き勝手してましたよね。
「うん、やり過ぎな感じはあるけど楽しかった。」
『そりゃそうでしょうね!』とブチギレ三女神様のお声が聞こえた気がしますがまぁあなたちゃんですし無視です。他の世界で好き勝手ウマ娘をいじめてる彼女たちですからこの世界ぐらい逆に困らせられる立場ってのも乙ってもんでしょう。……違う? そりゃぁすみません。
「んでさ、話し戻すけど公式のHP。そこのタニノギムレットの紹介文見てよ。」
えっと、何々?
【独特の美学を持ち、それに従ってのみ行動する。マイルを統べる“疾さ”と中距離を制する“強さ”に対して非常に強いこだわりを持っており、同時に圧倒的な素質も兼ね備えている。ウオッカはいつも目を輝かせて彼女のことを見ているようだ。なお、アピールとしてよく柵を蹴り壊す破壊神でもある。】
お~、なるほど。つまり破壊神仲間が出来たわけじゃないですか。よかったですねあなたちゃん。
「よくないのぉ!」
あれ? そうなんですか? ちゃんとゲートと柵で住み分けできてません? ほら西の○○東の○○みたいな感じで『門のあなたと柵のギムレット』みたいな感じで。
「うぅ……公式設定には私たちみたいな二次ウマ娘じゃ勝てないのぉ……、もっと優しくして? あとできたらあなたちゃんの実装待ってます。いつまでも。」
ホントに実装したら世も末ですからね? あとまぁ公式と二次の差とかそういうのはまぁありますが……。これ考えようによってはすごくよくないですか?
「……どういうことだってばよ。」
だって公式様が『ウマ娘という神聖な彼女たちでもアピールの一環として柵を壊す、それすなわち器物損害罪が適応されない』ってことなんじゃないですか? つまりあなたちゃんがゲートを破壊するのが公式のお墨付きを得たってことでは……?
「…………!」
それまでのしょんぼりしていた顔はどこへやら。何か気が付いたようなヒラメキの音、そして信じられないほどいいお顔。所謂『ドヤ顔』って奴ですね。どうやらいらぬ入れ知恵をしてしまったみたいです。
「つまり…………、ゲートを破壊してもそれがあなたちゃんのアピール方法だったら罪に問われないってこと!?!?!?」
………まぁそうなりますかね?
「こ、こうしちゃいられねぇ! 落ち込んでる場合じゃない! ゲート破壊の旅、世界一周編、タニノギムレットを連れてシリーズの開幕だ! 凱旋門を壊してそっから世界中を破壊して回るぞ!!! 善は急げだ!!!!!」
そ決まればすぐに動きだすあなたちゃん、パスポートの用意に自己の複製。ゲートを破壊するために使う爆薬の用意や、ウマ娘のソウルパワーを元に放つビームの修練。などたくさん頑張った。
そう! あなたちゃんにしては珍しくたくさん頑張ったのである!
ガチャン
「ふぇ?」
あなたちゃんのお手手にハマる銀色のわっか。トレセンのポリスウーメンこと、たわけトレーナーのせいでコスプレにハマってしまったエアグルーヴに掛けられた罪の証、すなわち手錠である。
あなたちゃん! 逮捕ォ!
「にゃ、にゃんで……???」
「いや普通に犯罪だからな。」
ギム様のご指摘があたりに響くのでした……。
「……あとさ、エアグルーヴ。なんで俺も手錠掛けられてるの?」
「決まってるだろう、貴様も器物損害罪だ。学園の柵を至る所で破壊しおって。会長が『またヤバいの増えた。しかも公式じゃん、おにゃかいたい』と嘆いていたぞ。」
タニノギムレットちゃん! 逮捕ォ!
二人で仲良くお仕置きですね! 楽しそうです!
タニノギムレット(アプリに早く来てほしい子)
公式によって送り込まれた柵の破壊神。今後あなたちゃんとどちらが最強の破壊神であるか競走する運命が彼女にある。どっちがより多くの柵かゲートを破壊できるか、勝負!
……君たちウマ娘なら走ったらどうです?
評価く~ださいっ!