あなたはウマ娘である。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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ハッピーあなたちゃん二周年イヤー! Woohooooo!!!!!

ということで勝手に記念で書き始めます。

全7話の予定です、完成しだい順次投稿していきます。

それでは、あなたちゃんユニバースを。






あなたちゃんユニバース
1:崩れる日常。


 

 

 

 

 

 

 

「ふんふん、ふ。ふ~ん!」

 

 

鼻歌を歌いながら針を動かす彼女。首元あたりで整えられた金髪に、右耳で揺れる青い飾り。見る者によってその目の色が違うという特徴をもった不思議なウマ娘が針仕事をしている。その手元を見るにどうやら着ぐるみを作っている様子だ。

 

空き教室を借り、机を全て後ろに下げたあと教壇に座りながら作業を進める彼女。近くに落ちているチラシを見るにどうやら秋祭りに向けての用意をしているようだ。この子が加入しているチームはスピカ、いつの間にか最終学年になっていたが故に先輩として後輩を引っ張るために。また最後の祭りを皆と楽しむために一つ一つの作業を惜しみながらやっているのだろう。普段の彼女と比べれば針の進みが格段に遅い。

 

そんな時、教室のドアが勢いよく開けられる。

 

 

「師匠ー、ジュース狩って来たぞー!」

 

「んー? あ、ゴルシ。」

 

 

金髪の彼女を"師匠"と言いながらビニール袋に入ったジュースたちを片手に、麻袋に入った未だもがき続けている人物を背負いながら乱入してくるゴールドシップ。すこし後ろに目を向ければ彼女以外のスピカメンバーも見えてくる。ゴールドシップと同学年であり、彼女の"妹"とも呼べるサクラチヨノオー。シニア級の秋競馬に向けて調整を進めているサイレンススズカにスペシャルウィーク、デビューが遅かったこともあり秋からようやくクラシックレースに参加しようとしているメジロマックイーンとそのライバルで先にクラシックに参加していたトウカイテイオー、そして今年入ったばかりのダイワスカーレットとウオッカだ。

 

癖ウマ娘の巣窟と呼ばれるスピカだけあり、ゴルシが誰かを拉致してきても誰も突っ込まないし『またかぁ』という雰囲気になっている。入室時の挨拶も購入の買う、ではなくハンティングの方の狩るになっていたのを誰も突っ込まないあたり、もう色々終わっているのかもしれない。

 

 

「お疲れ、代金そこに置いてある財布から取っといて。あ、みんなの分払うから。」

 

「お~、いいのか!?」

 

「いいって、センパイだしねぇ。」

 

 

未だにもがき続ける麻袋の中身にめをくれず、ゴールドシップに支払いの話を振る彼女。まぁそれもそのはずだ、ゴルシがこういったイタズラをする際は基本どこまで殴ってもいいサンドバック人材か、これからスピカにぶち込まれる癖ウマ娘予備軍ぐらいである。秋という時期を考えると新規加入は考えにくいということ、そして袋の中の暴れ方と外からみた体格を考えるに中にぶち込まれているのはトレーナーの沖野。

 

昨日スぺの足を勝手に触った分の私刑をしていなかったし、放置でいいだろうという判断だ。

 

 

「いいんすか! ゴチになります!」

 

「ありがとうございます、先輩!」

 

「おーう。」

 

 

ウオッカにダスカ、それ以外のメンバーから礼を言われた彼女は軽く声を返していく。その間もずっと手元は作業を続けている。そんな中、おごってもらったジュースや勝手にスぺが買い物かごにぶち込んだお菓子やお惣菜を開け始めた彼女たちの間を抜け、チヨノオーが彼女の隣に腰を下ろす。過去に抱えていた闇はすでに落ち、彼女自身の格を一段階上げた姿がそこにあった。

 

 

「……ほーんと、ねぇさん丸くなりましたよね。昔なら絶対払わなかったでしょ。」

 

「チヨ……。あ~、そうだね。去年だったら『全部私の』とかいってたかも。」

 

「別に、私ら慣れてるからいいんですよ? 普段通りしてもらっても。」

 

 

チヨノオーのいう通り、彼女は元々もっと破天荒な性格であった。ゴールドシップのもっとひどいバージョンと言ってもいいかもしれない。黄金船と同じように人が本気で嫌がるような事や、誰かの尊厳を辱めるようなことは一切やらなかったが彼女に比べると規模がとてつもなく大きく、また被害が恐ろしかったのが彼女である。

 

ゲートをこよなく憎んで嫌っていた彼女故に、学園内のゲートを全て破壊したり爆破したり、凱旋門を粉砕するのは序の口。ふざけてパドックで大邪神を召喚したり、地面を掘り抜いてブラジルにいこうとしたら地球の核を貫いたりと、地球滅亡の危機みたいなのもいくつか起こしていた。

 

しかし時間が経過するにつれて彼女の先輩だったウマ娘達は卒業していき、いつの間にか自身が最高学年に。スピカに在籍していたみんなの母親と言ってもいいマルゼンスキーもすでに卒業して大学生活を送っている。

 

 

「ま、マルゼンスキー。母さんの代わりに成ろうとしてくれてるのは解りますし、それが結構助かってるってのもありますから何も言えないですけど。……昔付き合わされてた身からすれば退屈ですよ?」

 

「そっか。」

 

 

愚痴る様にそう呟くチヨ。彼女も、聞いている方も、変わってしまった生き方が変わるとは思っていないし、変える気もあまりない。自分がマルゼンスキーに甘えていたように、今度は自分が甘えられる側なのだと理解し、それを実行した。最初は周りにかなり戸惑われたのも確かだが、今は受け入れてもらっている。

 

 

(……張り合いが無くなっちゃった。ってのもあるのかなぁ。)

 

 

昔は、自分の中にもっと熱いものがあった。自分が何かすれば上から叱ってくれる人がいた、だからこそふざけて、周りを巻き込んで、自分の同期たちと笑い合って楽しむことが出来た。けれど、学年が進むごとに叱ってくれる人は減っていき、今度は自分たちがそちら側に回る必要が出てきた。彼女の同期であるミホシンザンも、シリウスシンボリも気が付いた時にはすでにそちら側。

 

それでも後輩たちを撒き込んで色々してきた彼女であったが、少しずつ張り合いが無くなって来たのも確かだった。

 

 

(寂しい、のかもね。……ま、それが今を楽しまない理由にはならないんだけど。)

 

「……というかスぺ、お前どれだけ買ってきた。」

 

「ふぇ? えっと、おにぎりでしょ、焼きそばでしょ、お弁当でしょ……。」

 

「……あ~、もういい! それも払うから後でレシート渡しな!」

 

 

気が付けば後ろに下げていた机の上に購買のレジ袋の山が出来上がっている。明らかに弁当などのお腹に溜まるものが入っているのがスぺの分で、隣に置かれている小さめの山がマックイーンのスイーツだろう。この後明らかにトレーナーから絞られる案件ではあるがもう知らん。食いたいだけ食え。あとマックイーンはノリで買ってしまって食べてもいいか悩むんだったら食べてから後悔しろ。どうせ深夜帯に寝ぼけてかき込むのが落ちなんだから。

 

 

「はぁ……、まぁいい。おいゴルシ、着ぐるみできたから着てみな。確認するから。」

 

「OK!」

 

 

そう言いながらゴルシに着ぐるみを着せていく。

 

秋祭り、と言っても単なるお祭りではない。春の感謝祭ほど外部から人が来るわけではないが、十二分に人がやって来る。それに合わせて各チームごとに役割が課され、準備していかなければならない。スピカもスピカで色々と面倒事を頼まれているのだが、ただ引き受けるだけではスピカの名折れ。やるならば全部引っ掻き回しながらやってやろうということでその下準備として着ぐるみを用意していたのだ。

 

顔がバレないし、中に誰が入っているのかも不明。そして傍から見れば何かのイベントをしているように見える。やらかすには最適の装備だった。

 

 

(と、いっても私は完全に裏方。後輩たちが色々するのをちょっと眺めるだけで、運営の方にも顔出さないといけないからなぁ。)

 

 

最高学年ということもあり、彼女も彼女で結構な役割を任されている。すでにドリームシリーズも引退してしまった身ではあるが、現役時代の成績も相まって祭り当日のスケジュールは結構キツキツ、去年までずっと弾けていたせいか参加要請をすべて断っていたこともあり、分刻みで予定が詰まってしまっている。これまでの負債だと解りながらも、ちょっとだけ後悔している部分でもあった。

 

 

(ま、その分準備を楽しまないとね。)

 

 

「師匠ー! これ結構胸キツイわ!」

 

「あ、そう? じゃあそこのスペース開けないとね。」

 

 

そんなことを後輩たちと話ながら、時間は進んでいく。

 

気が付けばもう下校しなければいけない時間であり、後片付けを引き受けた彼女以外は続々と自分たちの寮へと帰っていく。なんでもない一日で、何も刺激のない一日、けれどどこか尊くて、ずっと過ごしていたいような時間。自分のことを叱ってくれていたような先輩たちもこんな時間を過ごしたのかと思いながら、彼女は空き教室の鍵を閉める。

 

 

「とりあえず全員に一回来てもらったし、明日はその調整を進めていこうか。ま、今週中には出来そうだよね~。」

 

 

暗くなった校舎を歩きながら、そんなことを言いながら歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ。」

 

 

自分の寮に帰ったはずなのだが、何故か気が付いたらスピカの部室にいる。さっきまであんなに暗かったはずなのに部室の窓から見える外の景色には温かい日が差し込んでいて、明らかに今の時間が昼だということを教えてくれる。

 

ほんの数分前までは寮に向かう道を歩いていたはずだし、遅くまで練習に励む後輩たちに『もう帰りなよ』と声を掛けていたはずだ。自身の脳には確実にその情報が書き込まれ記憶として残っているはずなのに、この現状に何故か"違和感を覚えない"。

 

 

「どうかされましたか、先輩。お気分がすぐれぬようですが……。」

 

「え? あ、うん。いや大丈夫大丈夫。ちょっと考え事してただけだからマックイーン。んで? なんの話してたっけ?」

 

「秋祭りに向けての出し物の件についてですわ。それぞれ各クラスでの仕事の割り振りなどありますが、折角の機会ですからチームでも何か行うとご自身で発言なされていたのですが……、本当に大丈夫ですか?」

 

 

あぁ、"そうだった"。秋祭りについての話をしてたよね。うん。

 

ついさっきまで、いや昨日まで? その出し物に使う着ぐるみを私は作っていたはずなのだけど……、"気のせい"だろうか。と、とりあえず意見を募らないと。今のスピカにいる高校三年生は私だけだし、年齢的にも立場的にも色々回していかないといけない。過去に私がしてもらったことを、この子たちにもしてあげないと……。

 

 

「大丈夫だって、この通りピンピンしてるから。じゃあ早速意見出ししていこう……。」

 

「ごっめーん! おくれちゃった!」

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

部室のドアを勢いよく開けながら、中に入って来る女性。茶色の長い髪に青い透き通った目、自分たちと同じトレセン学園の制服に身を包んだ彼女の名は、マルゼンスキー。自分と、妹分ともいえるサクラチヨノオーが"母"と慕う彼女。そして、すでに学園から卒業しているはずの人物。

 

…………おかしい。

 

彼女は確かにサプライズなども十二分に楽しむ人間であったが、急に脱ぎ捨てたはずの制服にもう一度袖を通し急に学園に戻ってくるほど非常識ではない。むしろそれをするのは自身の役割だった。そしておかしなことに、彼女がここにいるという異変に対し、表情を変えているのは私だけ。妹であるチヨノオーも、ゴルシも、スぺもスズカもテイオーもマックイーンもダスカもウォッカも。誰一人"そのまま"受け入れている。

 

 

「あ、母さん。遅れるなんて珍しいですね。」

 

「チヨちゃんもみんなもごめんね~! たっちゃんでかっ飛ばして来たんだけど渋滞に捕まっちゃって。…………あれ? どうしたの"あなたちゃん"? 顔色が悪いけど。」

 

 

母の問いかけに答えずに、スカートのポケットの中にある財布を取り出し、その中に収めてあった自身の学生証を取り出す。

 

そこに書かれていた自身の学年は、"高校二年生"。

 

 

 

 

…………一年、巻き戻っている?

 

 

 

 

 








ひとりじゃ無理でも、"あなた"となら。






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