【完結】Les Amants d'un Jour / 2016年12月、フランスにて 作:山口 遼
夢を見ている。
あまりにも生臭い肉体を持て余し、湧き上がる激情を発散することもできず、捌け口を求めた。選択肢はなかった。後がないところまで、追いつめられていたから。
この選択を、いつか後悔する日が来るだろうと思った。けれども、こうすることでしか肉体を保てなかった。
そう、求めたのはこのカラダが無事であること。
だって、ココロはもう、とっくに砕けてしまっていたから。
ハリガネが全身に通ったようだった。楽しかった、と言っていいのかもしれない。許された気がした。認められた気がした。悪鬼を征討するときだけ、自分の存在を肯定できた。自分がここにいる理由を確認できた。
その味が甘美で、その喜びが麻薬で、だから引き返せなくなった。
続ければ続けるほど、砕けたはずのココロが、さらに擦り切れていった。何もかもが摩耗して、どうしてここに在るのかもわからなくなった。
ただただ負の感情が器を満たしていく。
ワタシという人格がおぼれていく。
息もできないほどだった。苦しかった。だから、また捌け口を求めた。
新しく見つけたごみ箱は、とても大きく、とても虚しかった。だから、いくらだってゴミを捨てられた。だって仕方がない。そうする権利が、ワタシにはあったのだから。
えい、えい、えい、と。
斬りつけるように、ワタシは苛立ちを投げ続けた。
――夢を見ている。自分ではない、誰かの夢。
でももう気づいている。これは夢じゃない。
これは余熱。
ここに残された誰かの、置き忘れてしまった激情の名残。
DAY 4
Le Rouge et le Noir / 赤と黒
「あ、起きた? よかったよかった、やっぱり夜を越えると違うねー! だてに死徒化してないって感じ? オッケーオッケー最高じゃん!」
寝起きに聞くにはいささか高すぎる声が、鼓膜から脳を震わせる。網膜を刺す光が、ちくちくと痛い。
ああ、そうか。もう、朝が来たのか。
「ここは……?」
記憶が飛んでいる。手元に置かれていた眼鏡をかけて、頭を振る。上体を起こすとまだ腹は少し痛んだが、無視できる程度の傷みに収まってくれていた。
あたりを見回す。野外ではない。ベッドに寝かされている。
「ここはねー、民泊だよ。見覚えあるでしょ? 昨日だって泊ってたんでしょ?」
ぐぐっと顔を寄せてくる女性。部屋にはたしかに見覚えがあったが、こちらの顔には見覚えはない。
「あの……あなたは?」
「私? 私はね、ウィルヘルミナ。教会の代行者よ。気軽にウィラって呼んでね?」
名前にも聞き覚えはない。というか、代行者? いま、代行者って言ったか?
記憶が戻ってくる。そういえば俺たちは修道院から逃げ出した雪原で、死者の群れに襲われたのだった。朦朧とした意識で戦っていたからはっきりとは覚えていないが、たしか俺はその戦闘中に倒れて――。
「ルオシー! ルオシーはどうしたんだ!?」
「ここにいるわ。そんなに大声を出すと、体に響くわよ」
思いがけず、隣のベッドから声が返ってきた。あおむけに寝ている。誰にされた手当か、全身のいたるところに包帯が巻かれていた。
まあ、控えめに見ても、俺よりは重傷だろう。
「残念ながら、シエルとはまだ合流できていないわ。彼女については昨日から情報の更新はないから、これ以上は聞かないで」
「あ――そうか。わかった」
俺がいちばんに何を気にするかを、さすがにルオシーはわかってくれている。不機嫌そうなのは、状況を進展させられなかった自分に対する苛立ちに起因するものだろう。
ルオシーはいつも通りのルオシーだった。
無論、先輩のことは気になる。気になりすぎるくらいだが、ルオシーを困らせることは本意ではない。とにかく、俺は足を引っ張ったのだ。まずは情報を整理して、今後の戦略を立てねばならない。
気づかれないように拳を握り締める。
冷静な頭とは裏腹に、いますぐにでも駆けだしたくなっている身体を、強引にねじ伏せて、深呼吸をした。
「とにかく、せめてルオシーが無事でよかった。先輩のことは、信じるしかない。でも、それじゃあ、俺たちを襲ってきたあの死者たちは、全部ルオシーが?」
「九割はね。残りの一割のところで、そっちのウィラに助けられたわ。感謝しておいた方がいいわよ。あの時、彼女が来てくれなかったら、アタシたちは全滅してた」
「そうか……危ないところを助けてもらったのか」
向き直って、改めて頭を下げる。
「助かりました、ありがとうございました」
「ぜんぜん気にしないでー。あ、それでも、どうしてもお礼がしたいって言うなら、そのカワイイお顔と身体で支払ってもらうっていうのもー」
「すみません売約済みです」
「あちゃー!」
これは参ったー、などと自分の額に手を当てている。初対面だが、なんだかあまりにもユカイな気配がする。これはあれか、アッチ側の住人か?
なるほど、よく見るとウィルヘルミナ――ウィラは、自分なりに魔改造したカソックを着ている。これでヴァチカンを訪れたら、短パンにサンダルよりも怒られそうな、なかなかに刺激的で冒涜的な改造である。具体的には胸倉が開きまくってて、ミニスカの上に大胆なスリットが入っていて、背中は派手な花柄である。無茶苦茶だ。そこまでしてカソックを着る必要があるのだろうか。
年齢は、見る限りルオシーと変わらないくらいだろう。もしかしたら顔見知りだろうか。
「アタシも面識はないわ。そもそも、ウィラがここにいるのは任務でも増援でもなく、ただの単独行だそうよ」
「そーそー。増援を期待してたらごめんねー。今回はただの独断だから、バディだって連れてきてないのよぅ。ウィラちゃんひとり旅なのだ。あ、傷心旅行ってわけじゃないよ? 私の恋心はアイアンハートだから、ちょっとやそっとじゃ傷つかないものー!」
「そりゃ結構ね」
ため息交じりのルオシーである。助けてもらった手前邪険には扱えないが、苦手な部類なのだろう。まあ、わかる。わかるが、俺はこの手の人間になぜか耐性がある。
「じゃあ、志貴ちゃんのために、ちょこっとだけ説明してあげるわね!」
「お願いします」
それから寄り道三昧のウィラの話が始まったのだが、残念ながら膝を揃えて改めて聞くほどの内容はなかった。
驚くべきことはひとつで、ウィラはあの修道院で暮らしていたことがあるらしい。代行者としての仕事をひとつ終えて報告に上がったヴァチカンで、彼女は故郷が死徒に襲われたという報せを耳にした。そこで報奨休暇を利用して、教会に無断でこの地を訪れたのだという。
とはいえ、修道院はあの有様である。単独での突入、介入は不可能と判断し、方針を索敵と情報収集に切り替えたところ、俺たちの襲撃とバッティングした。命からがら脱出したルオシーの後を追い、窮地に立たされた俺たちに遭遇し、間一髪ところで合流した、ということだった。
ちなみに、代行者としての実力は、本人曰く「中の下」。先輩はおろかルオシーの足元にもはるか及ばないから、戦力としては期待しないでくれと笑顔で釘を刺されてしまった。
「そう、そうですか」
「あれ、志貴ちゃん、なんか元気ない? まだ傷が痛むの?」
「いえ、そうじゃなくて」
昨日垣間見た、修道院の様子を思い出す。魔城に作り替えられてしまった石の家。内部には血と臓物の匂いが充満し、暗がりには魔の気配が濃かった。天窓を含むすべての窓には戸が閉てられ、大気はどろりと淀んでいた。
なにより、あそこには、無事に生きている人間の気配が、毛ほどもなかった。
在りし日のことはわからない。しかし、もともとは燦々と陽の降り注ぐ、白く美しい場所だったはずだ。
少なくとも、ウィラがそこで暮らしていたころは。
「ウィラ。残念だけど、修道院は、もう……」
目を伏せる。あの惨状を言葉にして伝えるのは、難しいことだった。察してもらおうとする己の浅ましさに嫌気がさしながらも、俺は言葉を探せない。
「え、あ、あー。そういうこと?」
でもウィラは明るい。こちらが気に病んでいることなどどこ吹く風で、笑顔を崩さない。
それが強がりにも演技にも思えないのが不思議だった。
「志貴ちゃんは優しいねえ。でも気にしないで。私、別にあの修道院のこと好きじゃなかったから、ショックじゃないよ?」
「――え?」
「志貴ちゃんは育ちがいいのねえ。誰もが誰も、故郷を愛しているわけじゃないのよ? そこが嫌で逃げ出した人間なんて、世界中に五万といるでしょうに」
「それは、そうかもしれないけど」
にしても、多少のつらさはあるはずだ。だって、でなければなぜ、わざわざ休暇を返上して、ウィラは戻ってきたというのか。
「んー、それは興味本位ってやつ? あの場所が終わったって聞いてね、どんな末路を迎えたのか興味があったっていうか。感謝してないわけじゃないけど、それ以上に恨んでもいたからねー。実のところー、乙女心ってのはフクザツなわけ! 志貴ちゃんにはまだわかんないかナー?」
だって、そうでもなければ代行者になんてならないでしょ、とウィラは笑う。あそこから逃げ出したくて、これ以上腐っていく身体を見ていたくなくて、それで代行者を志願したんだから、と。
ケラケラと声高く笑って、それからウィラは俺の頭に手を載せた。
「でも、気遣ってくれてありがとう。志貴ちゃんはいい子だわ!」
「ちょ、やめてください、俺はそんなんじゃない!」
慌てて手を振り払う。トーンを落として目を細めたウィラの素顔が、思いがけずに優し気で儚げだったから、不意打ち気味に動揺してしまう。
「ううん。君はいい子だよ。志貴ちゃんは、誰よりも損なわれたはずなのに、それでも誰かの傷を思いやることができる。忘れちゃいけない。君のその
食べちゃいたいくらいにね、とウインクをする。それで、一瞬だけ張りつめた空気は窓から流れ出ていってしまった。
……間合いの独特な人だ。距離感が分からない。
いや、でも昔、高校に通っていたころ、ほんの二週間くらいの記憶。
こうやって子供をからかって、楽しんでいた大人を俺は知っている。不安定で、不誠実で、不幸だった仮初の教師――。
「私は面識がないけど、そんな君がゾッコンなんだから、シエルちゃんっていうのも、きっと素敵な人なんだろうね。ノエルからも、ちょこっとは聞いてたけどー」
……ちょっと待て。
いま、この人、何か妙な名前を口にしなかったか?
「ノエル……? ノエルって、あの……」
「あ、そうそう。言うの忘れてた。これ、結構大事な情報だったかも」
「ウィラって、もしかしてノエル先生の……」
「うん、同郷なのよねー。私はね、代行者になる前、あの子と一緒に育ったの。そんで、一緒に逃げ出そうと誓って、一緒に代行者になった。言ってみればオトモダチ? まー、私たちの場合、そんな清らかな関係でもなかったけどねー!」
夜はくんずほぐれつ慰め合ったものよー、おっと冗談冗談、青少年には業の深い話だったかナ、などとワケのわからないことを言っているウィラの言葉は、もう耳に入らない。
一緒に育った? ノエル先生と?
それはつまり、あの修道院は――。
「そだよ。あそこは14歳から代行者として認められるまでの間、ノエルが住んでいた修道院。彼女にとっては地獄にも等しかった、人並みの生活を課された最後の牢獄なのでしたー!」
何が楽しいのか、ウィラはそう言ってケラケラ笑う。
いや、まったく、本当に。
何が楽しいのだろう?
***
上着を羽織って外に出る。今日も晴れて、雪の気配はない。色の濃い、欧州の空が頭上に広がっている。
空の青。その色が、不在の彼女を想起させる。
「街は今日も異常なし。一昨夜の死者狩りが奏功したのか、死者の気配は少し薄くなっているようね」
「そう、だな」
「なにか?」
「いや、今日に始まったことじゃないんだけど、やっぱり、ちょっと違和感がある」
眼鏡をずらして街並みを眺める。禍々しく線がのたうつ以外には、やはり異常は見当たらない。
「気のせいかな」
「違和感、ね。シキ君の肌感覚は無視したくないけれども、アタシには何も感じられないわね」
手足に包帯を巻いて、ルオシーはつぶやく。もう少し宿で休んでいるべきだと忠告したら、監視対象を放って寝ていられるわけないでしょう、と軽蔑のまなざしを返された。そういえば俺たちはそういう関係だった。すっかり忘れていた。
街に異変が及んでいないとすれば、まだ敵は修道院に籠っている可能性が高い。先輩が無事に脱出していたらここに降りてくるはずだから、山の中に身を潜めているのかもしれない。
「くそ……」
闇雲に救出に向かったら、それこそ昨日の二の舞だ。これ以上の無様は晒せない。かといって、選べる道は多くない。どうすればいいかと悩んでいるうちに、太陽はすでに中天にかかろうとしていた。
死徒化しつつある俺は、本来であれば日光を浴びればダメージを受ける。しかし、その問題は二年も前に解決済みだ。
一方、修道院に巣食う死徒にとっては、相変わらず太陽は大敵だろう。やはり、殲滅を目論むならば太陽のある昼間に攻め込むのが望ましいところだが。
爪を噛んで思案していると、いつの間にか街のはずれ、ライン川の傍までやってきてしまっていた。陽光を反射する川面に目を奪われた瞬間、隣から突然声が上がった。能天気すぎる、甲高い声だ。
「あー、ここ懐かしいー!」
ウィラである。昼間から開いているバルを指さして、ぴょんぴょん飛び跳ねている。くねくねと体を曲げ、なんだかしなを作っている。どこに媚びを売っているのか。この辺、たしかにノエル先生を彷彿とさせるところがある。
女に嫌われそうなところとか。
「ここね、よくノエルと飲みに来てたのよ。私たち、代行者になっても休暇を合わせてね、この辺をブラブラしてたの」
ルオシーが不思議そうに首をかしげる。
「わざわざ、こんなところまで? 失礼だけど、交通の便がいいわけじゃないでしょう?」
故郷にはいい思い出がないっていう話だったと思うけど、と続ける。
「うんうん。嫌な思い出しかなかったんだけど、なんでかな、私たちが浴びるほど飲むのは、決まってこの辺の街だったのよ。見えないんだけどね、ラインの向こうを睨んで、二度とあんなところに戻るものかって誓いながら、ふたりで朝までくだ巻いてさ」
楽しかったなあ、と目を閉じる。追悼と呼ぶには、さわやかすぎる微笑が浮かんだ。
「代行者になったはいいけどさ、私もノエルも別に才能があったわけじゃないから、いろいろ大変だったのよ。生き残るだけで精一杯っていうか、むしろ生き残れていることが奇跡、みたいな? やっべー、生きてたよ。まだ生きてるよ、マジ死にかけた、今回ばっかりはダメかと思った、でもやっぱ生きてる、生きてるわ、ウケるわーってね、泣きながらふたりで杯を干したものよ」
街中を練り歩きながら、ウィラは語る。
語ることが目的なのか、聞かせることが目的なのか。
「命からがら任務を終えて帰還すると、もう一週間くらいはまともに起き上がれないわけ。生命力っていうのかな、生きていこうとする気持ち? そういうものが根こそぎカラッカラになっちゃうの。そんな時、私たちはこの街に戻ってくるのよ。そんで、昔の悪口を言って、いかに今がマシかを確認するの。だから、ここは私たちにとってのオアシスだった」
冗談めかして、横顔によぎるあらゆる感情に気づかないふりをして、ウィラは続ける。
「オアシスっていうのも笑えると思わない? あれ、知らない? 志貴ちゃん、不良っぽいのにロックは聞かないわけ? よくないなー、いいのよ、ロック。特にUKロック。笑えるくらい最高なんだから。あの子がノエルでしょ。で、私がウィルヘルミナ。日本人の志貴ちゃんと中国系のルオシーちゃんにはピンと来ないかもしれないけど、これってウィリアムの女性名なの。もちろんウィリアムの愛称はリアム。ほら、ノエルでリアムでギャラガーじゃん。オアシスだって、超面白い!」
もはや後半は何を言っているのか意味不明だった。ぱちぱちと手を叩き合わせているウィラに、かける言葉は見つからなかった。
「――でも、驚いちゃった」
「……なにが?」
急にテンションを落としたウィラに、相槌を打つ。それを、求められているような気がしたから。
「だって、こんなところにわざわざ手を挙げて、討伐に来る代行者がいるとは思わないじゃん。私だって心の底から意外っていうか。いろんな理由はあったんだろうけど、それでも」
にっこりと、ウィラは笑った。背筋が冷たくなるほどに、美しい笑顔だった。
「シエルちゃんの中で、ノエルの影は、まだ生きてるのね」
――そうか。
それで、ピースがはまった。
だから先輩は、ここに来たのだ。
ルオシーが言っていた、もうひとつの理由。
あの修道院に、かつてノエルが在籍していたことを、きっと先輩は知っていたのだろう。
故郷が近かったからだけではない。その故郷近くの修道院に預けられたノエルのことを、先輩は思っていたに違いない。
だから、焦った。あんなに、前のめりだったのだ。
そのことに、俺はかけらも気づけなかった――。
「シキ君?」
ルオシーに顔をのぞき込まれる。いま、俺は情けない顔をしている。それを見られたくなくて、顔をそむけた。
遠く、修道院の方を見る。今も先輩がいるかもしれない、その方角。ラインを挟んで、フランスの地。
――そこから、冗談のように、真っ赤な雲が湧いた。
「……え?」
違う。それは雲の色ではない。空の青が、ラインの色を吸って染まる。
「ルオシー、ウィラ、あれ!」
街の周囲を流れる大河、ライン。その色がくすむ。くすんでいく。そして、川底からあふれ出す穢れ。
「――赤」
血のような赤が膨れ上がる。川底を真っ赤に染めて、空までを染め上げて、ライン川が染まっていく。
「なんだこれ、なにが起こっている――?」
ルージュの色に染まる川。水は変わらずに悠々と流れ。
その底から。
ざばりと。
――異形の影が現れた。
うじゃうじゃうじゃうじゃうじゃうじゃと次々と川から上がってくる異形、異形、異形。死者ですらない。それは改造された魔だ。手足が増え、背中が丸まり、瞳は瞼を失いむき出しになり、口元には醜い牙。
「蜘蛛――」
怪異が牙を剥く。その異変を目撃した住人たちが悲鳴を上げる。死の予感が、風に乗ってひどく匂う。
「戦闘態勢を取れ。迎撃するぞ――!」
叫びはルオシーのものだ。言われるまでもない。眼鏡を外し、ナイフを構え、川へ向けて走り出す。先んじて街に入り込んできた怪物の一体を、悲鳴も上げさせないまま解体する。
ついで飛んでくる黒鍵。ルオシーの誓言が響く。ハルバードを振り上げて、ウィラも戦場に加わった。
「真昼間に、見たこともない、新種の吸血種の大群って? この街はいったい、どうなってるの?」
わからない。わからないことだらけだが、やるべきことは明白だ。
ここを、斬り抜ける。
そして必ず、先輩のもとへ合流する。
決意だけを胸に秘め、再びナイフを線に通す。
赤黒い空の下、三人きりの戦争がはじまった。