無個性でアーマー纏ってヒーローしてもいいですか? 作:サイリウム(夕宙リウム)
まぁ、とりあえず。現状を把握しよう。
何か行動を起こすのはそれからだ。
まぁ早速になるがカミングアウト。私、転生者です。
正直このご時世。アニメやら小説やらで皆様過食気味であろう単語だが、今の私を表現できる単語がそれしか思い至らなかったのでご容赦していただきたい。
ちなみに前世の記憶は前世の個人情報をきれいさっぱり抜かれた状態。所謂神様転生をしたのだろうか? 神を名乗る存在に会わなかったため詳細は解らないが……、というか今、この時点で記憶を取り戻したのでしっかりとした判別がつかないのが問題である。まぁとりあえず前世の私の名前だとか、家族構成だとかはさっぱり覚えていない。記憶として残っているのは趣味としていたであろう漫画、アニメ、映画などの情報や前世の私が生きたであろう時代の記憶などの前世の私に関連しない記憶ばかり。その時代を生きたであろう記憶が20年以上あるため、前世の私は成人はしていたのであろうが……、まぁ今の私に必要そうなのは趣味の方の記憶にあるため不満はないのだが。
それで、皆さまが今一番気になっているであろう、この私が転生した世界。
喜びたまえ、『ヒロアカ』だ。
れっきとした個性社会である。過去に光るゲーミング赤ちゃんが生まれて以後、人々に超常的能力、”個性”が発現しヒーローとヴィランという社会構造が現実化してしまった社会。一般人に厳しすぎる社会ともいう。
それでまぁ、今の私が置かれた状況というと……
「その……、大変言いにくいことなのですが……」
「娘さんは無個性だと思われます。」
改めて自己紹介させていただく。
重威イスズ、漢字では五十鈴。性別は女で、齢は五つ。
ほとんど個性によって社会的カーストが決定するこの世界において、人生に一度だけの個性ガチャという人生をベットするガチャに、ハズレである無個性20%の方に振り分けられてしまった幼女だ。
つまり敗北者である。
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まぁ、なんだ。つい病院の中で「乗るなハイエース!」なんて叫びそうになった今日この頃であるが、私は冷静ではある、多分。
あ、ちなみに個性の有り無しを判別したのは例のAFO関係者のハゲ医者ではなく普通の医者、近所で個性判別をしてくれる医者(個性:個性判別)として有名な方だった。
私の個性の発現が周りの子に対して遅かったため両親と共にこの医者の世話になったわけだが、まぁ結果は結果である。私含めて(内心は記憶が戻ったことに対する動揺)お通夜みたいな雰囲気であり、おそらくだが“無個性”というこの世界においてとんでもないショックが私の眠っていた記憶を呼び覚ましたのだろう。
私のショックが大きかったこと、また両親や判別してくださった医者の雰囲気が終わっていることは、この個性社会においてはまぁ仕方ないことなのかもしれない。前世の私のオタク趣味が高じてか、この『ヒロアカ』世界についてはコミックである程度予習済みであるため理解できるが、無個性とは社会的弱者、である。前世で問題視されていた差別問題よりもひどいかもしれない。
原作であった主人公緑谷に対するストーリー序盤にあったいじめや、昨今公開された劇場版を見ていただければ何となく理解していただけると思う。大人は対処せず、無個性をいじめ、また無個性は自身がそうであることを隠し、その行き過ぎた社会による排除は一部であるが犯罪者に繋がってしまう。それがすべてではないだろうが実際として例が上がってしまっている。
まぁ簡単に言ってしまえばお先真っ暗なわけだ。しかも……
父:重威 工事
個性:機械化
職業:ヒーロー
母:重威 あかり
個性:光線
職業:元ヒーロー(現在専業主婦)
というヒーロー一家に生まれた落ちこぼれ。まだよかったのは兄弟姉妹などの問題を考えずにすむ一人っ子であったことだろか……。
「そう……ですか。……いや大丈夫だイスズ! 無個性だったとしても世界には色々な選択肢がある! 大丈夫だイスズ! 父さんが付いているとも!」
父が私を何とかして元気づける声をかけ、母がやさしく抱きしめてくれる。この時点でちょうどそちらに向かって語り掛け始めた冒頭に時間が戻ってくる。ヒロアカ二次作品によくある“豹変する親”とかではなく、愛情をもって面倒をみてくれる親で心底よかった。
でもまぁ、残念ながら私は自身が“無個性”である事よりも“転生者”であることの方に思考が割かれており、現在脳内で処理しているのはそちらである。全部が全部“無個性”であることに呆然としてしまっているわけではないため、罪悪感がありまする。かといってもこのタイミングで「前世の記憶が戻りました!」などと言うのは違うだろうし……。
でも、“無個性”か。
正直前世の記憶が戻った以上。個性社会で個性を使ったヒーローになれないことは少し口惜しいことではある。その上これから私が置かれる社会的弱者の椅子に対して思わないことが無い、と言ったら嘘になる。立ち回り次第で色々変わってくるのだろうが如何せん今の親に迷惑をかけてしまうのは必然であるし、いじめなどの被害に逢うのは単純に嫌だ。
…………仕方あるまい。“転生者”というよりも5歳の上でこれまでの思考ができている異常性を使う。
診察室でありながらこれまでの家族の時間を邪魔せず、先ほど私たちに告げた言葉の選択から目の前にいる医師の性格がかなりの善よりであることが伺える。今後の私の人生のためにも利用させてもらおう。
「せんせい、ちのうしすうてすとを、こちらでうけることはかのうですか?」
私がその場で思いつけた、唯一の抜け道が、これだった。
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結果として、私の賭けは成功した。
子供の体に成人した人間の思考能力、所謂名探偵コナン状態。所謂その異常性が超常的であると判断され、医師の「個性:個性判別」では“無個性”と診断されたが、客観的に見て何らかの個性を持っているのは明らかであるということから私の個性は「個性:思考強化」として登録されることになった。医師である彼は私が無個性であることを解ってはいたが、無個性で生きることの難しさ、また両親がプロヒーローであることも考えて私を個性アリとしてくださった。本当に感謝である。
「本来ならこういった個性は成長と共に本人が扱い方を理解していくので、それに合わせて届け出の変更などをしていくのですが……」なんて言っているのだ。解ってて言ってくださっている。
と、いうわけでほとんどイカサマで「個性:思考強化」として正式に届け出を提出した。
あれからというものの、無個性診断以来、両親は私が『本当は無個性である』ということを理解しているため非常にやさしく、『何か欲しい物はないか?』『何かしてほしいことはないか?』などと話しかけて思いっきり甘やかしに来ているのが少々気恥ずかしいところではあるが、両親の性格が今のように善でなかった場合『~~家の面汚し!』ってな風に処分されていた可能性も無きにしも非ずなので我慢である。というか感謝である。
それで齢五つによるほんとは無個性ライフが始まったわけであるが……、やっぱり「ヒロアカ」の世界でわざわざ生きるのであれば、やっぱりヒーローになってみたいと思うのはオタクの性であるし、雄英に入って刺激的なスクールライフを送ってみたいと思うのは否定されることではないだろう。しかもヒーローになることが出来れば、この社会における一番いい職であるし、将来は安泰。ならなるしかないヨネ! まぁ原作で起きた事件群のことを考えないようにする、という前提があるが。
幸い父母共にヒーロー、環境は整っている。
やれるところまでやってみようと思う。無個性(届け出上は個性アリ)ヒーローってやつを。
それで、私が目指すべきヒーロー像であるが……、
無個性で個性面で期待できないのならやっぱり“アレ”であろう。
前世の私が大好きだったのか何度も見た記憶、異様なほど鮮明に残るあの映画作品。
彼自体には周りに比べて特殊な能力はなかった。
だが、彼は最後まで戦い抜いた。
彼の武器はその頭脳と精神性。
名を、トニー・スターク。
ヒーローとしての名は、アイアンマン。
私が目指すものは、これだ。
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【母、重威 あかりの視点】
私たちの娘は、とても賢い子だった。
私が子煩悩なせいでそう思っているだけかもしれないけど、周りに比べて、突出して賢い子だった。
言葉を覚えるのも早かった気がするし、私たちが彼女に求めていたものをずっと前から把握していた気がする。トイレだとかご飯だとかそういったものをすぐに主張してくれた子だったし、幼稚園の先生からもすごく大人びている子供だって言われてたから、やっぱり賢いのだと思う。あとやっぱりかわいい。
夫は個性の影響か、体が機械機械しているけどとってもきれいな白い目。それと私の白髪を受け継いでくれた愛しい我が娘。白眼に白髪、整った容姿。どこに出しても恥ずかしくない愛娘。あ、でもやっぱり他の人に見せるのはちょっとかわいすぎるからダメかも。変な虫が付いちゃいそうだし。
そんな愛娘、イスズの個性発現が遅くそのことを調べてもらおうと思い、夫と病院に行ったとき。
イスズが無個性だと診断された。
ヒーローとして生きていたからではない。この社会で生きている限り身に染みて解ってしまうことがある。
この社会は無個性に異様なほど、厳しい。
学生生活を送る中で、いじめられるのはしょっちゅう。しかも教師たちはそれを自分のキャリアを守るために取り上げない。社会に出たとしても、無個性というものは付きまとう。私は一般の就職活動をしなかったが、耳に挟んだだけでも個性、個性、個性。どこでも、その職種が何であっても付きまとう。
そんな個性社会の中で、私たちの子供が無個性。
夫はイスズのために、必死に声を掛けたが私にはただ抱き締めることしかできなかった。
そんな時、イスズは、親である私たちが聞いたことのないようなはっきりとした声で
「せんせい、ちのうしすうてすとを、こちらでうけることはかのうですか?」
と、言った。
最初、イスズが何を言っているか解らなかった。
彼女が、まだ5歳の彼女が知能指数なんて言葉を使っているなんて夢にも思わなかったし、何故そんなことを思いつけたのかも、時間を置いた今ですら解らない。
何故か、イスズの言いたいことが解ったのであろう担当医の方は、すぐにテストに必要なものを用意してくださった。私は何が起きているかよく解らなかったが、ただ、イスズの未来が明るくなることを祈るしかなかった。今思い返せば何故親である私がイスズの思いをくみ取れなかったのかと悔しいし、夫はその時イスズがしようとしていたのを気が付いていたというからもっと悔しい。イスズへの愛じゃ負けてないんだから。
結果。すべてがイスズの思い通りに進んだらしい。
私はイスズのことが心配で頭が一杯だったので詳しい話はちゃんと聞けてないが、なんでもとんでもなくいい数値をたたき出したらしく、それを個性とすることで公共の機関に届け出をちゃんと出せるということだった。
その個性が何であってもあるのとないのではとんでもなく違う。私たちはその話に飛びついた。
それからというもの、私たちのイスズに対する溺愛はすごいものだったらしい。イスズ本人から指摘されて最近は我慢しているが、今でも出来たらあのプニプニなお顔を触りたいし、抱きしめたい。やりすぎると嫌われるといまだ現役の後輩に言われたので我慢するが。
そんなさなか、昼食後の片づけをしている時、イスズに話しかけられた。
「ははさま、こちらのほんをかっていただきたいのですが…… 、よろしいでしょうか?」
先月の誕生日で彼女が欲しがったタブレットの購入画面を見せながら上目づかいで私におねだりしてきてくれた!
買います! 買いますとも! 私が現役時代に貯め込んだへそくりで全部買っちゃう!
その後、届いたたくさんの本。買った当時は絵本か何かと思っていたが、偉い学者さんたちが読みそうな専門書ばかりでとっても驚いた。愛娘が私が思っていた以上に賢いみたいでママ大歓喜!
「っていう話をされてねぇ。」
「いや工事さん……、今仕事中ですしご家族自慢は後にしていただけると……。それに愛妻家なところは俺じゃなくてマスコミ相手にやってください。」
「アハハ、すまんすまん!」
あとがき
主人公:重威イスズ(戸籍では五十鈴だが画数が多いため本人や家族ですらカタカナで書きがち)
白眼白髪の誰かさんの性癖を詰め込んでそうな見た目の幼女。現在ごちゃい。前世の記憶持ちであり、なんだか作者が思っている以上にスペックが高そう。『作者以上に賢いキャラは書けない』という壁に早くもぶち当たっているが何とかなるだろう。目指せ!アイアンマンで専門書を親の金で買いあさった。ちなみに前世を思い出す以前の記憶も保持している、思い出す前から非常に賢い子であった様子。
実はIQテストで300をたたき出していた。個性関係なしでこれなのでただの化け物。
母:重威あかり
白髪黒目のお母さん。イメージはボイロの絆星あかり。愛娘溺愛中にてヒーロー現役時に貯めていたへそくりを使ってしまう。専門書って結構高いけど大丈夫か?