実力が足りなかったので、トレーナー辞めた 作:俺が!俺が悪いんだよ!
有馬記念を終えて・・・俺は彼女に1枚の手紙だけ残してトレーナーを辞めた。
それから誰にもなにも言わず、ふらりと世界を放浪した。
行方不明ということになっていただろうから、学園にはかなり心配をかけた。
あの時は自分の無能さをわからされ、絶望していた。
俺がトレーナーでなければ、彼女は無敗で7冠、いやもっと勝てただろう。
自分自身が許せなかった。
ふらりふらりと世界を歩いた。
色んな文化があった。
色んな物があった。
色んな人がいて、ウマ娘がいた。
その度に心が苦しかった。
そんな時、俺は
自分でもバカだったと思う。
でもそんな実験に参加してしまうぐらいには、自暴自棄になっていた。
結果的に俺はその実験で死ねず、適合してしまった。
それから怪しい奴らに様々なデータを取られ、気づいたら研究所?から放り出されていた。
俺より上手く適合した子人が出たらしいからそちらに集中したいのだろう。
いわゆる用済み、というやつだ。
それから新しくなった自分の体に悪戦苦闘しながらも日本に戻り、トレセン学園に帰ってきた。
---
春
新入生のウマ娘にとってのスタートライン。
この時期にトレーナーがつくことによって、ようやくメイクデビュー戦に挑める。
そんなウマ娘にとって、トレーナーにとっても大事な時期。
当然、俺も忙しい。
荷物運びはもちろんのこと、色々な届出の確認、トレーニングルームの備品確認、などなど。
機械でできること以外全てである。
俺の仕事はトレセン学園のあらゆる業務の補佐。
雑用のようなものだ。
俺にとってはこれぐらい忙しい方がちょうどいい。
すると通信機を通じて次の仕事が入ってきた。
『来てくれモルモット君』
仕事ではなかったようだ。
通信機を切ろう。
『待ってくれモルモット君!呼んでみただけじゃないか!』
「仕事中だ。後にしてくれ」
『君が仕事をしていない時なんてなかったじゃないか!深夜も働いているんだろう?』
「あぁ、だから諦めてくれ。君のモルモットにはなれない」
『ぐぬぬ・・・ならその帽子の下だけでもみせてk
ブツッ
通信を切る。
この荷物はあのチームへのお届けものだったな。急がなくては。
段ボール内に入った蹄鉄が金属音を鳴らした。
『いきなり切らないでくれ!ひどいじゃないか!』
「仕事中だと言っただろう」
また同じ人物から通信がかかってきた。
『いや、シンプルに運び出して欲しいものがあるんだ。頼まれてくれるかい?』
「なんだ仕事か。わかったすぐに向かう」
最初からそういえばいい物を。
通信を切って走る。
全力では走れない。
もしそうしたらせっかく整備された道に俺の足跡ができてしまう。
だからそこそこの力で走る。
「蹄鉄のお届けです」
その程度の力でもなかなか速度が出るようだ。
もう目的地についた。
荷物を慎重に渡す。
「ありがとっておっも!!」
「人が持つのは難しいでしょうから、だれかウマ娘に渡してください。それでは」
「ちょ、腰がっ!」
次はあいつの所か。
また妙な薬を飲まされないといいが。
なんて考えていると、ふとトラックを走るウマ娘を見つけた。
もうすぐトレーナーの前で走る模擬戦が始まるからそれのために準備しているのだろう。
その中に1人、輝く子がいた。
彼女と同じように、キラキラと輝く走り。
彼女と同じ、髪に月のような模様が付いていた。
俺は深く帽子を被った。
ーーー
「遅かったじゃないか、モルモット君」
「君のモルモットになるつもりはないと言っただろう」
珍しくマスクをつけたアグネスタキオンが座っていた。
不思議な雰囲気を持つ部屋だ。
以前ここにきた時は睡眠薬だと言われ妙な薬を飲まされてしばらく指先が光っていた。睡眠とは?
「君の帽子の中はとても気になるが・・・今回も遠慮しておくよ」
「今回もその次も、見せるつもりは無い。それで、仕事はなんだ?」
「やれやれ、随分と尖った性格になったものだねぇ」
そう悪態をつきながら、後ろをむいてガチャガチャと何か試験管をいじっていた。
何がしたいんだ?
「君の体について、私はとても興味がある」
そんなことを言ってきた。
なんとも艶かしい言い回しだが、こいつが言っているのはそういうことではない。
ため息混じりに返す。
「至って普通の体だろ」
「ほう?」
すると急にこちらに何かを放り投げた。
慌てて受け取る。これは・・・
「なんだ、普通の蹄鉄じゃないか」
「あぁ、普通の蹄鉄さ。普通のそれより数倍重たいけれどね」
確かに、少し重たい。
「なぜ君はそれを片手で持てるんだい?人間である、君が」
「鍛えていればこれぐらい大したことないだろ」
現に片手で重たい蹄鉄を持つトレーナーをこの前見かけた。
鍛えていればダンベル感覚で持てるだろう。
「ふぅん?あくまでも自身のことに関しては言わないつもりかい?」
「だから、普通の体だって」
「そうかい」
そう言ってまた俺に背を向けた。
こちらが何も話す気がないことをわかってくれたのだろう。
そこまで徹底して隠すつもりは無いが、好き好んでこの帽子の下を見せるつもりはなかった。
見せたら厄介事のひとつやふたつあるだろう。
会話が止まってしまった。
そういえばと口を開く。
「飯はちゃんと取れているのか?」
「君が配達してくれているからね。助かっているよ。欲を言えば、暖かいものが食べたいけどねぇ」
なら良かった。以前ここに来た時は顔色も悪かったが今は落ち着いているように見える。綺麗なピンク色の頬が見えて安心した。
なんて考えていると、再び彼女が振り返った。
また何か投げられるのでは、と構えたが、そんなことはなく。
こちらに封筒を手渡してきた。
「モルモット君、お仕事だよ」
「モルモットにはならない。それで、内容は?」
「この封筒を生徒会室前のポストに入れて置いてくれないかい?」
まったくこいつは・・・
「何故?」
「なぁに。私の薬がないと生きていけない娘に少しお手紙を、ね」
「自分で行けば・・・待て、そんな子がいるのか?それも生徒会室に?」
タキオンの薬がないと生きていけない・・・?
それは大問題じゃないか?
「アハハッ、半分冗談さ、最近克服してもう薬はいらなくなった。ようやく彼女の中で
「なら良かった・・・中身は手紙か?なら自分でいった方がいいだろ」
「最近ようやく私の研究が大幅に進みそうなんだ。ここから出る時間も惜しいよ」
そういう彼女の目は至って真剣な目で、嘘をついていないことが分かる。
「・・・わかった。ポストだな」
「速達の手紙ではないからね。ついでに生徒会室にお邪魔してもいいんじゃないかい?」
フフッとからかうように笑うタキオンに背を向け歩く。
出入口の扉を開けて、廊下に出る。
振り返ると、彼女がじっとこちらを見ていた。
俺はその視線に合わせられなかった。
「・・・俺にその資格はない」
扉を閉めた。