マンハッタンカフェ?「よぉ、タキオン。俺だよ俺俺。マンハッタンカフェだよ」   作:にゃす

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 例のヤツ。


何を間違えた!?

 少し、灰暗い、薬品の匂いがツンと鼻を突く部屋にて。私は焦げ跡や溶けた跡の付いた頑丈そうな机を挟んで、パイプ椅子に座り………学園きっての変人、アグネスタキオンと対面していた。

 

 

 ……この人に呼ばれる時は、大体ろくでもない実験に突き合わせられるに決まっているのだが………。……後は、たまにだが、コーヒーやお茶の飲み会へ誘われる位か。

 

 

 研究室に、少し狂気を孕んだ明るい声が響く。

 

 

「やぁ〜、カフェ。ようこそ。やっぱり君なら来てくれると思っていたよぉ」

 

 

「……今回は、何ですか。また、変な実験に突き合わせるつもりなら………私は、これで失礼しますが……」

 

 

「まぁまぁ待ってくれたまえよ、カフェ。君の予想通りじっけ」

 

 

「失礼、します…」

 

 

 ガタン、と話しは終わりだと立ち上がる。

 

 

「あーあーあーあー!!最後まで話を聞いておくれ!今回作った飲み薬はモルモ………トレーナー君とこの私で既に実験済だ!副作用も何も無かった!」

 

 

 ……再びパイプ椅子に座る。

 

 

「………実験が無事に終わっているなら、私を呼ばなくてもいいじゃないですか」

 

 

「いやぁ、ね。カフェ。今回の薬はね、実験の副産物なんだが、本当の自分を曝け出す事のできる効果を持っているんだ」

 

 

「……はあ」

 

 

 …本当の、自分、ですか。………興味はそそられる効能だ。

 

 

「それで、この効果がわかったから個人的に各々のウマ娘の秘めたる内面を見てしまいたくなってねぇ」

 

 

「……それで、私を?」

 

 

「そういうことさ。君は私が出会ってきたウマ娘の中でも飛び切り掴めない子でね。興味が湧いてしまったのさ。とても、ね」

 

 

 タキオンさんは右手で頬杖を付きながら、ピッ、と私を指差した。それに対しては私は…。

 

 

「………はぁ…」

 

 

 溜息で返す。

 

 

「……なんだい、その溜息は」

 

 

「いえ、何でもないです」

 

 

「………少し、興味があります」

 

 

「おっ。飲んでくれるのかい!?」

 

 

 身を乗り出すタキオンさん。…目がキラキラしている。本当、実験に対して盲目な人だ…。

 

 

「…そのお薬はどこに?」

 

 

「ふふん、こんな事もあろうかと……」

 

 

 タキオンさんの手が机の下に伸び、ガタガタと音が鳴る。

 

 

「よい、しょ……」

 

 

 そして、鉄製の試験管立てを取り出し、机にゴトンと乗せる。……立てられた試験管の数は4つ。内2つは空っぽであった。

 ………空っぽでない試験管は…内容物の青色がよく目立った。

 

 

「これさ。味はミント味にしてあるから美味しく飲めるよ」

 

 

「……私、ミント嫌いです」

 

 

「おっと。それは知らなかった。いやぁ悪いねぇ」

 

 

 全く悪びれる声色ではない。……言っていなかった私にも非はあるが。

 

 

 カチャン、と試験管立てから試験管を一本抜き取る。そして、縁を掴んで軽く回してみる。

 

 

「そのままぐいっと行っておくれ。即効性で効果時間は大体20分だ」

 

 

「意外と短いんですね…」

 

 

「……タキオンさんはこれを飲んでどうでしたか」

 

 

「え”。……は、はは。私の事なんて今はどうでもいいじゃないか!さ、飲んだ飲んだ!」

 

 

 …人には言えないらしい。まぁ、この人の本当の自分、内面なんて人には言えないだろう。素でこれなんだから。

 

 

「…いただきます。こぷっ」

 

 

 これ以上聞くこともないので、私は思い切り口に内容物を流し込んだ。……味は……まぁミントの味だった。ミント独特の、スーッと口が冷えるような味わいも再現されている。……もっとこういう方面に努力すればいいのに。

 

 

「…………………」

 

 

「……………カフェ?」

 

 

 「どうだ?」と言う風に私の顔を覗き込むタキオンさん。別に……何も………………。

 

 

 ……………………?

 

 

「……………?何だか、体が、あつ……………………!?」

 

 

 体が熱い………!?焼ける、焼ける……?焼けるような……いや、お腹が、いた………違う、とにかく熱い!!!

 

 

「ぅっ、ぁっ……!けふっ……!?」

 

 

「か、カフェ!?」

 

 

 急激な吐き気と頭痛。バン、と試験管ごと自分の体を、机に叩き付けるように倒れてしまう。

 

 

「タキオ…さ……!?嘘……つき…ぃ……!!!」

 

 

「そんなバカな…!?私とトレーナー君が飲んだ時はこんな……!ああちょっとカフェ!!しっかりしてくれ!!すまないカフェぇぇぇ…!!」

 

 

 タキオンさんの声が遠のく。涙が溢れる。段々と視界が真っ白になって行き、やがてキーーーンと言う耳鳴りに音が掻き消されて……。

 

 

「たすけ………たすけ……………て…」

 

 

 私が最後に絞り出せた声はそれだけだった。……体の感覚も、タキオンさんの声も、しない。

 ……意識まで、ボンヤリとしだした。……う…そ。…私、これで………………死…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _________________い。

 

 

 …………体が浮いているような感覚がする。

 

 

 _________________おい。

 

 

 ここは………どこ………?地獄……?天国……?

 

 

 ________________おい、ガキ。

 

 

 ……私は………どうなったの……?

 

 

 __________おいクソガキ、しばくぞ。

 

 

 ………私は、また意識をてばな

 

 

「おい!!!てめぇこのクソ野郎。耳クソ詰まってんのかクソガキャア!!!」

 

 

「……はっ!?」

 

 

 何かに思いっきり体を揺さぶられて私の意識は引き戻された。

 

 

 ガバッと起き上がり、周りをキョロキョロと確認する。

 

 

 ……夢?

 

 

 …私の周りは……真っ白だった。………私はあのまま……。あれ…?じゃあ、私はどうしてこうやって思考することができるの…?

 ……色々と…おかしい事が起こり過ぎて頭がパンクしそうになる。

 そもそもこれは今私が見ている幻覚という可能性も…。

 

 

「おいテメェ。さすがにそろそろ本気でキレるぞ」

 

 

「……………あれ…?」

 

 

 …目の前に私がいる。

 

 

 何で……。

 

 

「テメェ…この俺とクリソツな見た目しやがって」

 

 

「ぁぅ」

 

 

 がし、と私が私の頬を片手で掴んで引き寄せた。

 

 

「スンスン…………………あー」

 

 

 何か匂いを嗅いだ後、乱暴に投げ捨てられるように手を離された。……痛い。両手で頬を擦る。

 

 

「テメェがか………」

 

 

「…私が…?」

 

 

「…なんでもねぇよボケ」

 

 

「……………」

 

 

 ……この私は随分と口が悪い…。

 

 

「……つか、都合がいいな」

 

 

「……はい…?」

 

 

「テメェさ、ちょっと体貸してくんね?つーかこんな似てるなら実質もう貸してくれてるようなもんだろ」

 

 

 そう言えば目の前この私、首から下が何か白い靄に隠されてる………たまに晴れる靄から見える物は肌色なため…………つまりそういうことか。

 ……よく見ると何だか目もギラギラしていて、その上幾分も鋭いし怖い…。

 

 

「沈黙は肯定だな。んじゃ遠慮なく」

 

 

 目の前の私は、徐に私の肩を両手で掴み、引き寄せ……私の目を睨み付けるように見つめる。

 

 

「……ぁ………?」

 

 

 …見つめられて数秒。急激な眠気が私を襲う。これは……?

 

 

「……あな……たは……?」

 

 

 ここに…きて……ようやく、理解…し、た。この私は……この私は………。

 

 

「あん?そっか、名前がまだだったな。俺ァなぁ………」

 

 

 この私は、私のようで私じゃない。全く別の人。…………もしかして…………あの子………?

 

 

「■■■■■■■■■だ」

 

 

 ……上手く、聞き取れない。………どんどん、自分の体からコントロールが離れていく。まるで、何かに内側から操られるような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は意識をまた手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………よし。しばらく借りるぜ。クソガキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、私の頭はこれ以上無く混乱していた。…目の前でカフェが倒れてしまったのである。私の作った薬が原因で。

 あぁ、クソ、クソ。今までこんな事無かったのに…!!自分とモルモット君で既に試したのに……!カフェにだけピンポイントでアレルギーか何かの拒絶反応が出てしまうとは…!

 こういう時に限って、無駄に知識を詰め込んだ頭は機能しなかった。…この、役立たずが…!!

 幸い、カフェは息をしているし、心臓もしっかりと動いている。

 

 

「おぉい、カフェ、起きてくれよぅ…!ごめんよカフェェェ……」

 

 

 カフェの体を擦りながら、ポケットからスマホを取り出す。救急車、救急車だ……まずは救急車……。

 

 

「…………ん…………ぅ………うぅ……」

 

 

「カフェ!?」

 

 

 カフェが呻いた。スマホをその辺に放り投げて必死に体を擦る。……ここまで頭が真っ白になったことは無かった。

 

 

「う………ぐ…………きもっちわりぃ………何だこりゃぁ………?」

 

 

 凄い恨めしそうな声を漏らしながらカフェが上体を持ち上げた。

 よ、良かった……?

 

 

「か、カフェェェ…!!大丈夫かい…!?すまない私のせいで…!!」

 

 

「チッ…………………うるっせぇな…………ガキが……。誰だァ……?テメェ………」

 

 

「………………あれ?カフェ?」

 

 

 ………おかしい。何かハンマーで頭をフルスイングされたような感覚に陥る。………カフェってこんな雰囲気だったか……?

 

 

「……ぃっつ…………………。……はぁん。なるほど。記憶は共有されるらしいな……」

 

 

「か、カフェ?何を言って……」

 

 

 カフェは一体何を言っているんだ……?記憶……?ま、まさか薬の副作用!?

 

 

 椅子からカフェが覚束ない足取りで立ち上がる。

 

 

「あぁ、カフェ、無理するな!今君はここで座って助け」

 

 

「いらねぇよんなもん」

 

 

 ………カフェ、当たりが強くないかい?……いや、薬のせいでめちゃめちゃ怒って………いやでもこんな雰囲気が変わるものなのか……?

 

 

「あーー……………テメェがアグネスタキオンか。生意気な面ぁしやがって」

 

 

「むぐっ!?」

 

 

 突然カフェの右手が伸び、私の顔を掴む。

 

 

「や、やめ、カフェ!?」

 

 

「うるせぇ黙れ」

 

 

 そのままあり得ない力で引き寄せられる。……カフェってこんなにパワーあったっけ…!?

 

 

「スンスン……………………へぇ。テメェもか。悪かったな」

 

 

「かふっ…!?」

 

 

 何か匂いを嗅いだ所で………カフェは私を開放してくれた。い、痛い…。

 

 

 …………目の前にいるカフェは………本当にあのマンハッタンカフェか……?……何か……やけに目がギラギラしてる……。

 

 

「……な、なぁ、カフェ」

 

 

「あん?」

 

 

「君………本当にマンハッタンカフェかい……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんだタキオン。俺だよ。マンハッタンカフェだよ」




 次回、めちゃくちゃする例のヤツ。


 カフェの意識が消滅した訳ではありません。
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