ワールドボーダー ー彼女は国境を無くしたいー 作:朝昼夜の王
2話目、参ります。
彼女は故郷へ飛び立つ
彼女と戦った男曰く、機械のような人。
話したことがある人曰く、平凡を感じさせる女性。
殺されかけたバトラー曰く、憎悪の権化。
彼女曰く、ただのバトラー。
※
アンフィーサは多重人格者である。
冷静に敵を屠れば、残酷なまでの地獄絵図を描き出す性格になれる。
かと思えば、普通に其処らにいる女性と変わりない何処にでもいる性格でもある。
性格故に、人付き合いに苦労が多いかもしれないが、アンフィーサ自身そのことにあまり気にかけていない。
「ねぇ」
〔何ですか?〕
格納庫にて、何時ものようにAI“プラヴィーチリ“に語りかける。
「私って、性格きっちりはっきりさせとくべきかしら?」
〔…どうしました?そのことについては貴女は気にすることはありませんでしたよね?〕
「んー、まぁ最近ちょっと、ね…」
〔珍しい。悩み事ですか?〕
「違うわよ。本当の私ってなんだろ、って」
〔貴女は貴女でしかありません。数多くの性格があったとしても、貴女です〕
機械的(機械なのだが)にそう言われ、アンフィーサは溜め息を吐く。
今考えたら、何時から多重人格者になってしまったのだろうか。気がついたらそうなった、ぐらいの認識。コロコロコロコロ変わる性格には特に違和感を感じることら無い。
らしくない。
アンフィーサは思考をやめて冷たい珈琲を飲む。
〔そういえば〕
「?」
〔今朝の偵察に関する報告なんですが〕
「あー、何かなかった?」
〔ゴートリプス部隊、ご存知ですか?〕
「ゴートリプス…」
ゴートリプス部隊。
南の国境に展開されている部隊で、最近勢力を拡大し、国境の拡大に貢献している。
その部隊を率いているのがゴートリプス・フォーゲン中将。
チャリオットではなく、戦闘機や戦車、兵士等を戦力とし、古典的戦略ながらも数多くの戦いで生き残ってきたのは彼の指揮のお蔭さまなのか、運によるものかは彼女には関係ない話だが。
「そのゴートリプスがどうしたのよ?」
〔貴女にとって、馴染み深いところへゴートリプス部隊が進撃を開始しております〕
「馴染み深いところ…?」
一つ間が空いて、理解した彼女は慌ててもう一度尋ねる。
「馴染み深いところって…!ヴァスカレンじゃないでしょうね!?」
〔その通りです〕
「…」
アンフィーサはマグカップを放り捨て、急ぎ故郷ヴァスカレンへ飛び立った。
※
ヴァスカレン。
南に大きな砂漠に行き場を無くした人達が集まり、開拓して生まれた村である。アンフィーサにとっては小さい頃、孤児院があるこの村で育った故郷である。
過去に戦火に巻き込まれるも、年を経て復興した。
プラヴィーチリで村に到着したアンフィーサは、廃家に入り、プラヴィーチリを解除。飛行形態で待機させ、アンフィーサはバトラースーツの上に私服を着込む。
「元気ね、皆」
廃家を出て久しぶりの故郷。そして風景を眺める。
決して豊かではない。だが村の人達には関係の無い話。
共に生きて、皆と笑いあっていればそれでいいのだ。
「…世界がここの村のように平和なら、私は戦う必要が無いのにね」
そう呟き、村の市役所へ向かう。
※
「あら、アンフィーサ」
「久しぶり、エルマ婆さん」
市役所の奥の部屋、村長であり孤児院でお世話になったエルマとの久しぶりの再会を果たしたアンフィーサ。
「元気?」
「うん、元気よ」
「バトラーになったあの日から戦い続けてるけど、大丈夫なの?無茶はしてない?」
「大丈夫よ、心配しないで」
アンフィーサは笑ってそう言った。
世話話を少々交わし、本題へ。
「ねぇ、ゴートリプス部隊。知ってる?」
「えぇ、知ってるわ…」
エルマの話によると、一昨日軍服を来た兵隊が何人かここに訪れたとのこと。
何処の軍か聞いてみると、ゴートリプス部隊と名乗り帰っていった。
次の日、異変が起きた。
村の何人かが、村の外へ行ったきり帰って来なかった。
今も行方不明で、もしかしたらあの部隊が関わっているのかもしれない。捜しに行こうも部隊が関わってるとなると、怖くて捜しに行けない。
「遅かったかしら…」
「お願い、アンフィーサ。彼らを捜してきて」
そう懇願するエルマ。バトラーである彼女にしか頼めない事だった。
「分かったわ。捜してくる」
※
「捜しても見つからないわね」
『収容所は確認出来ませんし…』
ヴァスカレンから南に進み、ゴートリプス部隊のテント地を見つけた。
その上空。
空に滞空しながらテント地の様子を窺うが、村の人物らしき人影は見つからない。
砂漠中を飛び回って捜したものの、見つからなかった。
「あっつい…」
『オアシスがありますよ。…ん?』
「どうしたの?」
『ゴートリプス部隊のテント地を中心に東へ500メートル。赤いオアシスがあります』
「へっ?それって…」
『行きましょう』
言われるがまま赤いオアシスへ向かう。
近づく度に異臭が濃く漂う。
その臭い。
「血じゃない…」
オアシスに降り立ち、アンフィーサは顔を顰める。
「…酷いわね」
オアシスには死体が放り込まれていた。ヴァスカレンの村の衣装。恐らく行方不明になった人達だろう。
『裂傷に銃創、体内も数多くの傷。恐らく訓練目的に誘拐かと』
一つの死体を引き摺りあげ、傷の状態を見たプラヴィーチリはそう鑑識した。
「もしかしてこのオアシスに沈んでる人達…」
『…ヴァスカレンの人達でしょう。目視だけで10人はいます』
知らず知らず、アンフィーサは握り拳を固める。
「…この人達が何をしたっていうの」
村で平和に過ごして、家族と楽しく過ごして、仕事仲間と一緒に働いたり。
こうも無惨に殺されなくてはならない。
何故だ、何故。
『アンフィーサ?』
「一回戻って袋貰いましょう。このままここに放ったらかしは可哀想でしょ」
『…そうですね』
ブースターを吹かし、空へ。
「…」
チラリとテント地を見る。
憎むべき相手は、あそこにいる。
「殺してやる。村の人達にした事全部丸めて惨たらしく殺してやる」
変な終わり方になった気がする…