異世界転生者殺し 改良版   作:青色のラピス

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第三話

ヴァイス達が滞在している宿は見るからに高級そうな場所だった。

俺がいる町は村から近いということもあり過去に何回か来たことがあるが今いる場所は貴族や富豪向けの区画なため来たことがない。

 

……周りの人間の目線が痛い。周囲にいる人間は見るからに上質な生地を使った服を着ておりどう見ても上流階級の人間だと分かる。それに比べて俺はみすぼらしいボロ布でできた服と腰に一本の剣を佩いているだけだ。どう考えても駆け出しの傭兵や探索者としか見られないだろう。

 

「よし……、行くか。」

 

息を整えて宿屋の扉を開ける。

 

――この瞬間俺の人生は大きく変わることになる。どこにでもいる英雄に憧れる少年から憧れていた英雄そのものへとる一歩を踏み出した。

 

 △▼△

 

「ヴァイス様達は今お部屋におられます。滞在しているお部屋は205号室となります。」

 

俺がヴァイス達に会いたいと宿屋の人に伝えるとあっさりと滞在している部屋を教えてもらった。因みに武器の預かりでもあると思ったがなかった。これだけの宿屋でも結構雑なところがあるんだな……。

 

205号室は二階にあるらしい。受付の近くにある階段を上り二階へ上がる。

魔女はヴァイス達を町の外へ連れ出せと言った。

曰く町の中では魔法を使えないが、町の外なら使えると。

……しかし、どうやって連れ出せばいいものか…。

おっと、どうやら部屋についたようだ。

 

「……! …?」

 

「…!!!」

 

「「「……!!!」」」

 

どうやら部屋の中で駄弁っているようだ。

一体何を話しているんだ…?

 

「なあ、次はどうする?」

 

「そうだなあ……、もう村を襲うのは飽きたなあ。女も金も無いし。」

 

「飽きたって……早すぎるだろ…。……確かに村は何もなかったからな。いっそのことこの町でも襲うか?」

 

「いいねえ。さっき襲ったところはしけてたからなぁ……。」

 

……何?

 

「そうだな…。やっぱりこれくらいの町なら何かあるだろう。」

 

「そうだな…。よし、明日にでもやるか?」

 

「ハハハハ! 了解だ。いいねえ。この町はどうなのかねえ?」

 

なるほど、どうやら魔女の言っていたことは本当だったみたいだな。

信じたくないが、本当のようだ。

失望した。本当に失望した。様々な感情で心がぐちゃぐちゃだ。

 

しかし、吹っ切れた。

そうかお前たちはそんなクズなんだな。なら良心は痛まない。

存分に復讐をさせてもらうとしよう。

 

息を整える。涙を流していなかったため、身繕いをする必要がないのは幸運だ。

扉へ向かい、叩く。

 

「すみません。『神の反逆者』のヴァイス様達でしょうか?」

 

声は震えていない。緊張感は一切なかった。

おかしな話だ。相手は英雄、なのにこっちは剣を多少かじっただけの素人と胡散臭い女。

どう考えても正気ではない。

 

なのにどうしてか俺は冷静だった。いや、むしろワクワクしている。

可笑しくて笑みが漏れてしまいそうになる。

 

「おい、誰か来たぞ? というかよく俺達が『神の反逆者』だと分かったな……。」

 

「そうだな。自分たちでいうのもなんだが相当マイナーだぞ俺達。まあ、入れてやろうぜ?」

 

「せっかく来てくれたんだ。おい、入っていいぞ。」

 

入室の許可を与えられる。

失礼しますと言って扉を開けて部屋に入る。

部屋の中にヴァイス達(獲物等)は存在していた。

一本の剣を持つ軽装の剣士、杖を持った魔術師らしき男、豪華な装飾の施された剣と鎧を持つ騎士の三人だ。おそらく順番にヴァイス、バルギス・テミス、李政だろう。

 

「やあ、わざわざ来てくれてありがとう。君の名は何ていうんだい?」

 

「俺はリュートと言います。」

 

「リュート君だね…。一体なんで俺達の所に来たんだ? 俺達は特に有名というわけでもないんだけど……。」

 

「いえ、実はかつてあなた達に村を助けてもらったことがあるんです。……それで何かお礼をしたいと考えてここに来ました。」

 

勿論全部嘘だ。こいつ等に助けられたことなんてないし、お礼なんてするつもりはない。

 

「そうか……! いやあ、こんなことは初めてだよ。でもお礼はいらないよ。」

 

「そうだぜ、それは自分の為に使いな。冒険者なんだろ? なら蓄えは多い方がいいぞ。」

 

チッ、善人の振りしやがって……。

 

「いえ、是非ともさせて下さい。俺はそのためにここまで来たんです。お願いします!」

 

その後も彼らは断っていたが俺の熱意に押されたのかついに了承した。

俺は魔女に言われた通りどこかへ彼らを連れ出すことに決めた。場所は決めてある。

この町にあるとある酒場だ。

 

……しかし、魔女はどうやってコイツ等を殺すのだろうか?

行先の指定もなかった。ただどこかへ連れて行けとしか言われていない。

……おっと、もう着いたか。考え事をしていたら直ぐに到着したようだ。

そのまま酒場の中に入り、カウンター席に着く。カウンター席とテーブル席の二つがあるが、まだ早い時間だったためそのままカウンター席に座った。

マスターに人数分の葡萄酒とつまみを頼み、少しの間雑談をしているときだった。

 

(ふう、すまんな。少し時間がかかってしまった。)

 

突然魔女の声が頭の中に響く。

びっくりして変な表情になりそうになるが魔女に釘を刺される。

 

(ああ、気をつけろ。ここで何か感づかれたら台無しだぞ。すまないがまだ回路(パス)が完全に繋がっていないからお前から私へは無理だ。……よし、では今から作戦を伝える。聞き返しや質問ができないから一回で聞き取れよ?)

 

そう言って魔女は俺に作戦を伝える。

……不安要素は多いが、今は魔女を信じるしかない。

後戻りはもう…できない。あいつらを殺すと決めたから。

 

「お待たせしました。ご注文の品々です。……ごゆっくりどうぞ。」

 

そうこうしているうちに注文していた品がやって来る。

 

……? なんで女性が?

まあ、裏にいた従業員か何かだろう。気にする必要はない。

 

「この揚げ物美味いな。リュート君も食べろよ。」

 

「いや、大丈夫ですよ。」

 

「さっきからあまり食べていないじゃないか。」

 

「そうだぜ、冒険者ならもっとガタイ良くした方がいいぞ。」

 

そう言って《黄金剣》の李政が腕をまくり筋肉を見せる。

……正直かなり鬱陶しい。早く死ねば良いのに……。

そんな感じの宴を続け、やがて飲み物も食べ物もなくなりそろそろ解散しようかというときだった。急に彼等三人が蹲り、口から泡と血を吹きだしたのだ。

 

「なんだ…? 一体…ガフッ…。」

 

「ゴホッ、なんで血が……? ガハッ……。」

 

「………」

 

彼等は何が何か分からず混乱しているが、少し考えれば分かるはずだ。

毒を盛られた、と。

 

しかし、彼らは歴戦の猛者だ。生半可な毒など効かないだろう。だから彼らには特殊な毒を盛った。因みに用意したのは魔女だ。

っていうか英雄三人が倒れるってどんな毒を盛ったんだよ……。

 

「やあっと効いたか。やれやれ、一時はどうなるかと思ったぞ。」

 

声をした方へ顔を向けるとさっきの従業員が厭らしい笑みを浮かべて立っていた。

声と表情で直ぐに判断できた。魔女だ。

 

「お前の言う通りうまくいったな。」

 

「ああ、コイツ等だってお前と同じ人間だ。油断しているところを突けばこうもなる。しかし、まだ三人とも生きているとは……。さっさと止めを刺しておこうか。」

 

「魔女、待ってくれ。」

 

「どうしたんだ? 何だ、もしかして情でも湧いたか?」

 

魔女がそう嗤いながら、俺を揶揄う。

分かっていて言っているのだろう。本当にコイツは性格が悪いと思う。

 

「違う。情なんか湧くはずがない。……けじめをつけたいんだ。」

 

「ほう、けじめとは。何のために?」

 

「……決別の為だ。こいつ等はもう俺の憧れじゃあない。敵だ。でもそう思えない自分がいる。その自分との決別するためだ。」

 

魔女はニヤリと厭らしい笑みを浮かべて、倒れた三人から離れる。

倒れた三人に近づき、腰に佩いてあった剣を抜く。

剣を構え、首へ向けて、下ろす。

人型の生き物を絞めたことは何度かあったが人を切るという体験は初めてということもあり、少し苦戦したが切り落とすことができた。

首が地面に落ちたと同時に、断面から血が溢れる。溢れ出した血は、床を赤く染めていく。

 

次はすんなりといった。元々剣の扱いには自信があったから。そして二人目も一人目と同じく床を赤く染めて絶命する。

さて、次が最後の三人目だ。剣を構え、下ろす。しかし、先程と同じ感覚はない。

それどころか三人目すらいない。

 

「!? 魔女ッ!」

 

「落ち着け。転移魔法だ。……まさか、魔法が使えるとはな…。腐っても一角の英雄ということか。」

 

「呑気に解析している場合か…! どうするんだよ! 逃げられたんだぞ!」

 

「おいおい、最後の所で逃げれられて焦るのは分かるが少し落ち着け。……逃げたのはヴァイスか。あれだけ消耗していればいくら名の知れた魔導師といえども転移できる距離は限られる。ならば……。」

 

そう言うと魔女はブツブツと何かを呟き始めた。

どうやら呪文を唱えているのだろう。聞きなれない言葉を使い、凄まじい魔力の波動を放つ姿はまさに魔女と言うべきだった。

 

「……よし、見つけたぞ。距離はそこまでだが時間が惜しい。私達も転移する。リュート、こっちに来い。……おいおい、そんな顔をするな。別に取って食おうなんて思ってもないさ。」

 

 

 ▼△▼

 

《蒼炎》のヴァイスは森の中にいた。

一瞬の隙をつき、転移を行うことは例え死にかけの状態であっても彼にとって容易いことだった。

彼は逃げたが別に生き延びるつもりは毛頭なかった。

 

(ああ、クソが。最悪だ。マジで最悪だ。俺達が死ぬのは当然だ。……だが、あのド腐れにいいようにされるのは不味い…!)

 

しかしいくら英雄とはいえ追い詰められ混乱した頭では妙案を思いつくなぞ不可能な話だった。

それを証明するかのようにリュートと魔女がやって来る。

 

「思っていたよりも早いな……。」

 

「当たり前だ。あの程度の転移魔法を追跡することは私にとって造作もない。」

 

そうかい、とヴァイスは答え、剣を構える。

生き残るつもりなど彼には一欠片ほどもないのだ。

犯した罪、死した友人たち。彼が退かぬ理由は次々と出てくる。

 

(俺が、最後にできることは一つ……! あの女とリュート君の手札を少しでも暴くことだ!)

 

ヴァイスが大地を踏み、駆ける。

リュートがそれに合わせて剣を抜き、構える。

魔女は怪しい笑みの浮かべたまま、動かない。構えをしようともせず自然体だ。

 

―――戦いが始まった。歯車が、回った。

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