異世界転生者殺し 改良版   作:青色のラピス

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第四話

ヴァイスが大地を蹴り、俺に向かって剣を振るう。

凄まじいスピードであり、普段の俺なら対応することすらできずに両断されていただろう。

そう、()()()()ならば。

 

「ほう、やるな……!」

 

「お前こそ……!」

 

ヴァイスの剣を受け止め、強く睨みつける。

しかし、ヴァイスには俺のなけなしの威圧など効くわけがなく次々と変幻自在の剣技を放つ。流石は英雄と讃えられるだけはある。毒に侵され満足に動くことができないはずなのに常人では到達できない頂を見せつけてくる。

 

――だが、俺にだって意地がある。それにあの胡散臭い魔女に頭を下げる羽目になったのだ。

 

「負ける訳には……、いかないんだッ!!」

 

自分が出しうる最大限の力を籠めて、ヴァイスの剣を振りはらう。

そして力を籠めてヴァイスの肩目掛けて切りかかる。

 

「うおおおおっ!」

 

「フン……!」

 

しかし、俺の渾身の一撃はヒラリと躱される。

クソ……。本当に毒が効いているのか…?

 

(おい、焦るのは分かるが少し落ち着け。毒は効いているさ。)

 

頭の中で魔女の声が響く。こちらを煽るような腹立たしい声であるが、冷静さが含まれていた。

 

……ムカつくが冷静になることはできた。魔女のいう通り毒は効いているのだろう。奴の顔を見ると、脂汗を滲ませ、今にも倒れそうな顔色で剣を構えている。得意の炎魔法を使わないことも毒の影響だろう。

 

だとしたら焦って決着をつける必要はない。俺の目的はこいつ等を殺すことだ。

過程はどうでも良く、結果さえ伴えば良いのだ。

――そう俺が油断し、距離を取ろうとした瞬間のことだった。

 

「しッ!」

 

ヴァイスが一瞬の隙をつき、肉薄する。

剣には奴の象徴ともいえる蒼い炎を纏っていた。

クソ……! 詠唱なんて何時したんだ!?

 

「クソがあっ!」

 

全力で地面を蹴り上げ、受け身も考えずに横へ飛ぶ。当然、受け身なぞとることができず無様に地面を転がることになった。

そして、ヴァイスはこれを好機と見て、猛攻を始める。

 

スピード、パワーは先程と大して変わらないが炎を纏ったことにより凄まじいまでの破壊力を含んでいる。事実、剣と剣をぶつけるたびに俺の剣は少しずつ()()()()()

今は問題なく使用できるが後二、三合ぶつければ完全に役に立たなくなる。

守っていれば剣を破壊され、攻めに回っても巧みな防御で剣を破壊される。

剣を破壊されれば俺の攻撃手段と防御手段を失うこととなり、ヴァイスに切り捨てられて終わりだ。

 

魔女からの援護が欲しい所だが、俺が熱望してこの状況を作ってもらったのだ。これ以上頼ることはできない。……胡散臭い女にこれ以上借りを作りたくないということも勿論あるが。

上手く剣戟を躱し、剣のダメージを減らしているが代わりに俺自身へダメージが蓄積するようになっている。

 

これ以上守るのは無理だな……。今はまだ薄肌や服の端だが、奴の剣はゆっくりとしかし確実に急所へ近づいている。

ずっと今にも死にそうな顔をしているため、顔を見ただけでは分からないが、一気に攻めに回ってきたということは死が近づいているんじゃないか?

 

仕方ない。勝負にでるしかない。

そもそもの話ここまで来れたことが、命をかけるだけで済むことが奇跡なのだ。相手は英雄。英雄とは常人にとって全てを費やしても地に落とすことのできない天上の星。それに対しこちらは唯人一人と胡散臭い魔法使いが一人。

ああ、そうだ。ここまで来たんだ。臆してどうする。

 

命を懸けるくらい安いものじゃないか! 

 

 △▼△

 

魔女はこの戦い、いやリュートについて全く()()()()()()()()()

残念なことに、いや幸運なことにリュートは普通に人間だ。特別な才覚があるわけでもなく、運命に選ばれてもおらず、神に愛されたこともない。

何処にでもいる普通の少年だった。故に魔女が彼を選んだことに意味はない。

誰でも良かったのだ。

 

――英雄と呼ばれる者達に全てを奪われた者なら、誰でも良かったのだ。

 

そもそもの話、この計画(プラン)はサブの中のサブであり、失敗しようが成功しようが本命には何も関係がない。というか失敗する可能性が高すぎて余興と捉えていたくらいだ。

 

――だが、今魔女は大きく目を見開き、目の前で起こった現実を凝視している。

 

絶対強者である英雄ヴァイスが剣で貫かれているのだ。

貫いたのはリュートだ。魔法による強化と毒による弱体化というお膳立てをしたがそれでもヴァイスという壁は分厚く、そして高く聳え立つ。

 

――なのに彼は壁を踏破した。

 

やったことは単純にして明快。

まずヴァイスの斬撃を受けた。当然剣はヴァイスの斬撃の破壊力に耐え切れず、溶断された。その勢いのままヴァイスはリュートを両断しようと振り下ろした剣を再び振り上げ、袈裟に切り捨てようとする。しかし、正面に彼はいなかった。ヴァイスの斬撃を受けた瞬間、剣を手放し、横へずれていた。ヴァイスが彼を探そうと顔を横に向けたときだ。

 

リュートの固く握った拳がヴァイスの頬骨を砕いた。フルスイングの渾身の一撃だった。

今の状態のヴァイスでは相当に堪えたのか踏ん張ることもできず、吹き飛ばされる。そして剣を手放すというミスを犯した。リュートは当然そのようなミスを見逃すはずがなく剣を拾い、ヴァイスの胸に突き刺した。

 

 ▼△▼

 

最後に見たものは殺意と復讐心を抱えた少年の顔だった。

俺達が至らぬばかりに全てを奪われた少年だった。

恥ずべきことに俺は何も分からない。()()がすっぽり抜け落ちているのだ。

 

……結局、俺は何もできなかった。

ロイに勝つことも、何かを残すことも、何もできなかった。かつての前世と同じように。

 

……いや、他人に迷惑をかけなかった分前世の方がマシだ。

挙句に一人の少年を過酷な運命のレールに乗せることになった。

資格無き者にとって英雄とは裁きを受ける咎人と変わらない。常に苦しみに苛まれ、無駄に高い理想に心を蝕まれ、魂を擦り減らす。

 

気が付けば中身が空っぽの手だけがどす黒くなった殺戮者(キリングマシーン)の完成だ。

彼は間違いない、ただの人間だ。俺と同じ資格無き者だ。

 

だが、彼は俺を殺した。

英雄を殺すのはいつでも英雄だ。

故に彼は今、英雄と成った。

 

……これから彼は一体何になるのだろう? 彼は復讐者だ。

多くの英雄を殺してゆく。俺のような出来損ないではなく、無数の本物を殺してゆくのだろう。そうなれば彼は本当にどうなっていくのだろうか?

きっとそこは誰も到達することのない孤独の頂。

絶対に唯の英雄ではいられなくなる。

 

だから、どうか、誰でも良い。誰か彼の傍にいてやってはくれないか? 導いてはくれないだろうか?

都合が良いとは分かっている。だが、俺はもう無理なのだ。指先一つ動かせず、得意の炎魔法一つすら使えない。

 

何もできないのだ。

……結局、前世と同じく情けないのは変わらないままか…。

人は簡単には変われない。

誰が言ったかは分からないが、人間の本質を突いた鋭いものだと今更ながら感心する。

……もう時間がない。いや、時間があっても変わらない。

 

今となっては彼のこれからに細やかな祈りを捧げるのみが俺の出来ることなのだから……。

 

 △▼△

 

ヴァイスに突き刺した剣を引き抜く。支えを失ったヴァイスはそのまま地面に倒れ、大地を赤で染めていく。

瞳に光はなく、全身に回る力も微塵とも感じることができない。

そう、彼は死んだのだ。俺の手で、殺せたのだ。

 

「あまり、喜んでいないようだな。リュート。」

 

ヴァイスの殺害を達成したことの余韻に浸っていると魔女が声をかけてくる。

声色はこちらを見透かしたような腹立たしいものではなく、驚きを含んだものだった。

 

「そう見えるのか?」

 

「そう見えるからこうやって声をかけたのだがな。」

 

……そうだろうか。

確かに喜びよりも驚きの方が大きいが、全く喜んでいない訳ではない。

何せこれで仇を取ることができたのだ。英雄殺しなぞ唯人では到底成すことのできないこと――奇跡と呼んでも過言ではないのだ。

だからこそ現実味がない。俺のような人間がそんな奇跡を起こせたことが。

 

「なあ、魔女。一つ聞いていいか?」

 

「何だ?」

 

「『神の反逆者』は皆コイツ等みたいな屑なのか?」

 

俺の質問に魔女はニヤリと嗤い、そうだと言葉を紡いだ。

 

「……」

 

「ああ、そうだリュート。私もお前に聞いておきたいことがあるんだ。おいおい、そんなに身構えなくていいさ。大したことじゃあない。――なあ、ヴァイス達を殺す時、どうだった? ワクワク、しただろう?」

 

「ああ確かに、ワクワクした。していたよ。」

 

「そうか。では聞こう。私と一緒に『神の反逆者』を殺していく気はないか?」

 

魔女がわざとらしい仕草で俺を誘う。

……真正面で真面に魔女を見たのは始めてかもしれない。

胡散臭い笑みを浮かべた絶世の美女。言っていることは頭の可笑しい奴そのものだが、奴には実績がある。

まあ、とっくに賽は投げられているのだ。今さら宗旨替えをするつもりはない。

 

「魔女。」

 

「何だ?」

 

何が楽しいのかコイツはずっと笑みを浮かべている。

俺には理解できない。理解する気もないが。

それにしても性格の悪い女だ。答えなど分かり切っているだろうに。

 

「答えは決まっている。お前と一緒に、行くよ。」

 

「そうか。」

 

魔女は満足そうに頷く。

……ああ、そうだ。忘れていたことがあった。

 

「魔女、すまない。一つやりたいことがある。手伝ってはくれないか?」

 

「ん? 何だ?」

 

「ああ、それは―――」

 

 ▼△▼

 

「……そろそろ、時間。」

 

「おおい! やっとか!!」

 

「……あなた、うるさい。少しは、静かに、したら?」

 

「ああ!? テメェの声が小せえだけだろうが!!」

 

「……魔女様、言ってた。あなた、うるさいって。」

 

「あ!? マジかよ! じゃあ少しは小さくしねえとな!」

 

「……あんまり、変わっていない。」

 

「ああああ!! 楽しみだぜ!! 英雄は! 『神の反逆者』は一体全体どんな味がするんだろうなあ!!」

 

「……また、うるさくなった。でも、いい。私、仇を殺すだけ、だから」

 

 △▼△

 

情報なし。魔女の監視と調査をしていた《名無し》のロロは自分の導き出した結果に嘆息した。

 

しかし、残念なことにこの結果は変えようがない。

だが、魔女の連れていた少年については分かった。何の変哲もない少年。たまたま滅ぼされた村にいただけの唯人。

 

天上の星との競い合うことなどない。いや、すべきではない大地の星

だが、どのような導きか彼は天へ昇った。昇ってしまった。

 

「考えることが増えたな……。しかし、無駄だ。お前たちの全ては俺達には届かない。覚悟しろよ、阿婆擦れ…!」

 

《名無し》のロロ―――《最強の魔王》ローランド・ローレルハイツは静かにそこから消えた。

全ては彼らの願いのために。そして世界の平和のため。

 

 ▼△▼

 

月が出ていた。

月の光は平等に全てを照らす。

例え粗末な仮の墓といえども月の光は柔らかく照らす。

 

――誰かが願った。彼の傍にいてくれ、と。

 

――誰かが祈った。静かな眠りを、と。

 

――誰かが祝った。せめて来世は、と。

 

ぼこり、と土が盛り上がる。何かが蠢いているのかもぞもぞという擬音が聞こえそうでもあった。

長い時間の格闘を制し、大地のそこから一体の肉塊が現れる。

黒く焼けていた。ミンチになっていた。腐食してグズグズになっていた。切り刻まれてバラバラになっていた。

そんな()()はゆっくりと体を上げて天を見上げる。

 

「…りゅー……ト。……ど…こ……?」

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