異世界転生者殺し 改良版   作:青色のラピス

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第七話

魔女の魔法が炸裂し、凄まじい衝撃が吹き荒ぶ。

当然俺は吹き飛ばされ、全身を何度も地面に打ち付けられる。

 

何とか立ち上がり周囲を見ると草原は見るも無残な狼の屍と血で彩られた荒れ地を化している。

 

「お前……! 幾ら何でも殺す気か!」

 

魔女に文句を言うが、奴はどこ吹く風だ。

 

「おいおい、私がお前を殺すつもりだって? そんな訳ないだろう。そもそも広範囲攻撃魔法を使えと言ったのは英雄殿だろう?」

 

確かにそう指示したがそっちでも考えて動いてほしい……!

()()()生き残れたが、絶対に次はないぞ。何なら今までの幸運を全部使い果たした気がするくらいだ。

 

「何時までも気にするな。男らしくない。それに魔狼の死骸は残っている。報酬は貰えそうだな。」

 

良く残せたな……。

これだけの威力なら纏めて消滅していても不思議じゃないのに。

胡散臭くともその『魔法』の腕は矢張り一流なのだろう。

 

そういえば死骸が残っているって言っていたな。

流石にそのままじゃあ無理だから解体なりして運ぶとするか……。

 

「確かに残ってるけど……本当に残骸でしかねえじゃねえか!」

 

そこにあったのは最早区別のつかない挽肉(ミンチ)の塊だった。

 

……これ、どうすれば良いんだ?

 

 △▼△

 

何とか残っている牙だか爪だか骨なのかも分からない何かを取り出し、帰路に着く。

想定していた程、時間はかからなかったがそれ以上の疲労を感じている。

 

魔狼との戦闘。想定外の劣勢。魔女の大魔法。

そのどれもが俺を襲い、肉体的にも、精神的にも打ちのめしたせいだ。

 

……何で原因の大半が味方由来なのか?

 

「……大した消耗がないのがせめての救いだな。」

 

薬品は勿論、武具の類も大した消耗がない。

収支は間違いなくプラス。

 

「悪く考えすぎるのは……――――――何だ?」

 

ヒヤリと嫌な予感が過る。

ふと空を見れば太陽が地平線に沈み、茜色を輝かせている。つまりは夕暮れだ。

 

夕暮れ。

夕暮れは夜の前に訪れる。つまりは夜の前触れ。

夜とは魔性の時。

俺達人類が抱く太陽とは真逆の月が輝く闇。

 

だから――――――!

 

「ウォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

一際大きい獣の咆哮。

思わず硬直し、動きが止まる。止めてしまう。

 

恐る恐る音が響いた方を振り向く。

 

少し距離の離れた場所にて獣達が群れている。

その中でも一匹、毛並の違う巨狼(おおかみ)がいる。

 

漆黒の毛並みに、此処からでも分かる真紅の瞳。

異常としか形容できない巨躯に、短剣の如き爪牙。

極めつけはさっき遭遇した個体と比べ物にならない威圧感。

 

―――駄目だ。勝てない。

 

そんな思考が頭を過る。

当然だ。論ずることすら馬鹿馬鹿しい。

 

魔女の魔法を完成させることなく俺達二人は奴等の腸行きだ。

 

「……しまったな、油断した。魔狼がもう一匹いるとは。」

 

どこかあっけらかんとした魔女の声。

ここまでくれば逆に落ち着いて来る。

 

しかしそれでも俺達の未来を変えることは叶わない。

奴等に蹂躙され、晩飯になるのが関の山だ。

 

―――だけど。

 

「……英雄殿、何故剣を構える?」

 

「俺は死にたくない。だから、戦う。」

 

「意味なんて無いのにか?」

 

「ああ、意味なんて無くても戦うんだ。」

 

俺は俺の『意思』で剣を抜き、構える。

『結果』は多分変わらない。

 

苦しみを増し、後悔するだけの選択かもしれない。

 

―――でも戦うんだ。

 

俺は戦いから逃げてはいけない、そんな気がするから。

 

「―――そうかい。じゃあ悪いな。コイツ等は俺の獲物なんだ。」

 

ふと、声が聞こえる。

どこから発せられたのか分からない声。

声質からして男であることは明白。それだけは分かった。

 

しかし、探す必要はなかった。

 

何故なら、深緑に身を包む傭兵が全てを斬り裂いていたんだから。

 

―――《逆襲者》シーザー。

 

世に名高き『神の反逆者』。

その最高幹部たる彼が、俺の前にいる。

 

 ▼△▼

 

「災難だったな。最近は魔物の動きが活発なんだ。特にここらは、な。」

 

黒剣に着いた血を拭いながら男、シーザーは言った。

英雄譚で伝えられるとおりの風貌をしている。

深緑の軍服に眼帯。振るうのは漆黒の剣。

あらゆる英雄譚で語られる伝説が目の前で動いている。

 

しかし、その言葉遣いはどうにも荒々しく……まるで、いや傭兵そのままだった。

俺が夢見た彼の姿とは、真反対だった。

 

「……おい、英雄殿。何を固まっている? ……いや待て、まさか……死んでいる?」

 

「―――はっ!?」

 

「……蘇ったか。」

 

魔女の呆れた目線が俺に突き刺さる。

こんな感情を向けられたことは初めてだが、そんなことよりも俺は理想が崩れたことで精一杯だった。

 

「あー……。少年、俺が何かしちまったかね……?」

 

「……さあ?」

 

だって、だって……!

 

《逆襲者》シーザーは英雄だ。

紛れもない英雄だ。

 

とある寒村で生まれた彼は生まれながらの才能と知識を活かし、軍人となり、多くの功績を上げた。魔竜退治に始まり、黄金龍退治に終わる彼の偉業の数々は語ればキリがない。その中でも俺が一番好きなのは最初と最後だ。一番初めの英雄譚(エピソード)は敢えて題名を付けるのならば『赤き山の巨王』だろう。火山に住まう魔竜退治。それも竜の中で最も凶暴かつ強力と言われる『タイラント・レックス』が魔物化したものだった。魔物化により変質したかの怪物は本来なら寄りもしない火山地帯で力を増し、周辺の集落を荒らしまわった。その被害者には『技工の民(ドワーフ)』までいたのだから驚きだ。数多の英傑や戦士たちでも敵わぬ暴君を僅か一撃。剣の一振りで両断して見せたのだ。上位魔族ですら食い散らかした怪物退治が始まりとは誰も信じないだろう。味方はおらず、単騎で駆け抜けたこの戦いは彼の後の栄光を予感させるのに十分なものだ。そして年月が経ち、最後の英雄譚(エピソード)である黄金龍との決戦だ。魔王軍の『将軍』である大魔族相手に僅かな手勢で決戦に挑んだのだ。これは特攻ではなかった。誰しもが特攻の犬死だと思う中、彼とその仲間達だけは勝利を確信していた。魔王軍序列第二位《不疵龍(ふしりゅう)》アルマース。決して傷つくことのない黄金。万の魔龍(ドラゴン)を従える魔界の大公爵。戦端が開かれ、世界の終わりかと見紛う炎の雨。しかし、彼は騎馬をもって駆け抜ける。空を往く龍には意味のない突撃。愚者への嘲笑代わりに吹き荒れるのは龍の砲哮(ブレス)。炎に雷、氷に水……多種多様な属性を宿した魔力光線が大地を蹂躙する。精鋭の軍団であっても消し飛ぶ破壊の具現。しかしそれでも彼等の突撃は止まらない。軍馬が大地を蹴り上げ、空を上る。空を蹴り上げ、更なる高みへ至る。そして黒閃が走る。あっさり落ちるのは龍の首。一つ落ちたのを皮切りに多くの龍が打倒されていく。一匹、また一匹と落される龍。しかし相手は龍。されど敵は龍。脆弱な人間の反攻は許さぬとその暴威を爆発させる。哀れなものはその爪に。悲しきものはその顎に。一匹殺せば報復に十を殺した。殺戮と殺戮がぶつかり、戦場が静寂で支配された時、一つの音が鳴った。音のなる地にいたのは一人と一匹。深緑の英雄と黄金の魔龍。英雄の片眼は眼窩から零れ、全身は打ちのめされている。しかし、だがしかし。龍の首は、既に落ちていた。驚く程の血を零して、死んだのだ。《不疵龍》アルマースは一刀の下に、打倒されたのだ。

 

「……とりあえず、助かった。礼を言う。」

 

「あ、ああ。……なあ、少年の方は大丈夫か?」

 

「コイツなら問題ない。私が責任をもってどうにかしよう。だから行ってくれて構わない。」

 

―――俺が魔女にしばきまわされて意識が戻る頃にはすっかり月が大地を照らしており、帰り路に苦労したのは言うまでもないだろう。

 

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