ジャックの名前繋がりは最初はジャックグループの方でやろうと思っていたのですが勢いでジュウの方に行ってしまいました。ジャック達の方の悪魔どうしましょうね。
後から冷静になって考えれば、その日の血式少女達は浮かれていたのかもしれない。
監獄塔の探索が始まってすぐに見つけた彼女たちが身に着ける道具である「リストPC」。それを見つけた赤ずきんが「ジュウも付けたらちょっとくらいはメルヒェンの攻撃から身を守れるんじゃないの?」などと言い出したものだから他の血式少女達も提案に乗り、あれよあれよという間に取り付けられてしまった。
あるいは──腕に付けるのならば確かに致命傷を防げるかもしれない。などと思ってしまった自分自身もまた浮かれていたのかもしれない。
だからこそだろう。らしくもない、こんな状況に陥ってしまったのは。
「ッ! ジュウ! 避けて!」
目の前に迫る、今にもその腕を振り下ろさんとするメルヒェン。
一瞬の判断ミスにより生まれたフォーメーションの隙間、そこを上手く突かれてしまった。
誰が悪いという訳ではない、血式少女達も自分も気が緩んでいた。あえて言うのなら全員悪いのだろう。
メルヒェンの割には知恵が回る……と心の中で一つ毒づいた。
だがそんなことをしても結果は変わらない、あと数秒も経つ間もなくメルヒェンの攻撃に自分は晒される。
一撃で死ぬことはないだろうという合理的な判断の元、目を閉じ痛みを待つ。
一秒……二秒、三秒。
必然的に訪れるはずだった痛みがやってくるこはなかった。
血式少女の誰かが間に合ったのだろうか? そう思い目を開けてみるが、彼女たちは自分が襲われた時と同じ場所で固まっていた。
メルヒェンが全滅しているから良いものの、硬直するのはいかがなものかと思いつつも今度は自分に襲い掛かったメルヒェンを見やる。
そこにあったのは、無残にも引き裂かれた異形の死体と。
──一匹の大きな、青い犬だった。
「なんだ……お前は」
「わふ! ボクは魔獣ヘアリージャック、コンゴトモヨロシク……」
──────
あの後、突然現れた犬のような生き物への対策の為にキャンプへ戻ってきた。
それが無くてもただのメルヒェンに対してあそこまで追い詰められていたのだから、正しい判断だと言えるだろう。
今現在はあの生物の正体と処遇についてハルとジャバウォックが暫定的な判断を話し合っているところだ。
「ジャックさん! お手!」
「わふっ!」
「おっ、賢い賢い! じゃあ次は私も……ジャック、おかわり!」
「わふ!」
「本当に賢いですわねこの子……」
白雪姫、赤ずきん、シンデレラの三人がどうやらあの生き物に飼い犬にするようなことをやっているらしい。
そもそも人語を話したのだからできるのは当たり前だろう。だとかいくら名前がヘアリー「ジャック」だからと言って離れ離れになった仲間と同じ呼び方をするのはどうなんだ。だとか言いたいことは、いくらでもあるが、今は僕自身も混乱しているし口を出せばややこしいことになりそうなので静観することにした。
「ジャック~、わらわをテントまで乗せていってください~」
「わふ~?」
「思いっきりとぼけられてるわね……ぐーたら姫の言う事は聞きたくないみたいよ?」
人語を理解しているだけでなく、どうやら命令されている事柄の大変さも考慮できるようだ。思っていたより知能が高い。
犬、という生物は地下でも地上に来てからも見たことはないが、そこまで賢い生き物なのだろうか。
「どうやら、仲良くやっているようだね」
血式少女達とヘアリージャックのやりとりをしばらく見ていると、どうやら話し合いを終えたらしいジャバウォックとハルがこちらへやって来る。
「ジャバウォック、ハル。なにかわかったのか?」
「あー……いや、なんつうかな。なんて言ったらいいか」
なんとも言えないような表情をしたハルがジャバウォックの方を見る。対するジャバウォックも困ったような顔をしていた。
「結論から言うと、あの生物がなんなのかわからなかった。今は調べられる資料も少ないから断定はできないが……少なくとも既存の生物のどれにも当てはまるものではなかった、という事だ」
「ま、勿論メルヒェンでもなかったけどな。ナイトメアならともかくちゃんと話せるメルヒェンなんて聞いたこともねえし」
「監獄塔やウィッチクラフトの影響で既存の種が変異したという可能性はないのか?」
「その可能性も否定はできないが……」
どうにも歯切れが悪い様子だが、何か引っかかるものがあるのだろうか。
確かに既存の生物でもない謎の存在というのは恐ろしいものだ、しかしあの二人がそんなことでここまで言葉を濁すだろうか?
「ジュウ、実はだな……あのヘアリージャックとかいうのは既存の生物の枠には存在しなかった。だがその外には存在した記録がある。って言われたら信じるか?」
「生物の枠の外?」
だとすれば、植物……いや無機物だとでも言うのだろうか。
目の前で少女達と遊んでいるそれは、サイズは大きいが俗に言う犬にしか見えない。
あまりにも精巧に作られたロボットだという可能性も頭によぎるがそれこそあり得ないだろう、こんな状態になった地上でそんなものを作ることができるはずもない。
だとすれば……アレはなんだ?
「この星に種が落ちてくる前……まだ国という機構が存在していた過去の時代に一つだけ該当するものがあったよ。シンプルに言ってしまえばあの子は古くはイングランドと呼ばれた国の伝承に残っている妖精。さらに大きく言えばそのような人ならざる空想の存在として呼称されているもの……」
──つまるところ、悪魔だ。
と、ジャバウォックはそう僕に告げた。
随分とまあ、リアリティの無い話に落ち着いたものだ。