”緊急警報!5分後にランクCの複数の小型・中型悪鬼出現します!場所は────”
小さな領国である大日本帝国には平安の時代からヒトと妖怪が存在し、日々互いに対立をしていた
妖怪にとってヒトは食い物であり、食物連鎖の2番目でしかない存在
ヒトにとって妖怪は恐怖の対象であり、食物連鎖の頂点に立つ害悪の塊
ヒトは血肉汗を迸らせ、逆転を狙っていた
妖怪は血肉を口から垂らしながらもヒトを蹂躙してきた
そうした”負け戦”を長年の時を経て、ヒトは妖怪側に混在する【善】【悪】にたどり着いた
そこで妖怪は分類されており
【善】には、ウマの耳や尻尾を持つ美しい女性たちがいる『ウマ娘』と呼ばれる種族などが存在し
【悪】には、ヒトを食料として、力を蓄え、進化に備える『悪鬼』のような種族が存在する
「カノープス小隊!ただいま到着ーっ!!」
「だからリーダー!早いんだってば!」
「悪鬼複数確認────カノープス小隊隊員イクノディクタス、戦闘に入ります。タンホイザ、聞こえてますね?初弾、着弾確認次第リーダーを突っ込ませます」
『りょうかい〜、それじゃ────』
【悪】は闇、そして、影でもある
【善】という光が影を作る
【悪】が亡びることは無い
『えい、えい、むん!!』
ヒトの最終目標は【悪】が増えても抑え込める力を持つこと
そのためにヒトビトは【善】を味方に取り入れた
”着弾確認!ツインターボ隊長、懐に────”
「やだ!正面から殴ってぶっ飛ばす!!」
「ちょ、無計画とかないわー」
「ネイチャ、右。私が左から挟撃します。リーダーの援護を」
「ま、そうなるよねぇ〜……タンホイザは周りの雑魚片付けて〜」
『任せて!』
『ウマ娘』という種族を協力得たヒトの進化は早かった
戦争は利器の進化を早めると言うが
悪鬼との戦闘でも進化した
『無線通信』は『ウマホ』へ
『伝書鳩』は『ウマッター』へと
種族『ウマ娘』が存在する【カノープス小隊】達の行う無線のやり取りなどは、ウマ耳に着けたイヤリングがその機能を発揮していた
声の出力には喉に装備された骨伝導によって発さられ、応対を可能にしている
「グゥゥゥオオオオ!!!」
醜い化け物が、タンホイザことマチカネタンホイザの大型破壊ライフルの砲撃により視界を損傷させると、リーダーであるツインターボが化け物の顔面に躍り出た
「妖怪悪鬼!族『羅刹』!全力でやるから簡単に死んでね!!」
【カノープス小隊】隊長ツインターボ
称号【師匠】を持つ彼女は、勝負服でもあるダボッとした白のジャケット、その下から無限にあると思わせるほどの暗器を少数だけ掴み、宙に放る
「ガォゥ!?」
「首貰うね!!」
そう宣言すると『ウマ娘』の特徴である脚の強さがツインターボに発揮され、空中にいるにも関わらず暗器をオーバーヘッドキックの要領で蹴り飛ばした
結果、見事命中するが二足歩行の巨体である族『羅刹』の硬い皮膚では全てにおいて浅く、すぐに抜けそうになった
「ネイチャ、腱を。合わせて」
「いつもどおり、ね!」
左右から『羅刹』に切迫したネイチャこと、ナイスネイチャとイクノディクタスは、自身の持つ剣や銃を用いて族『羅刹』の腱を攻撃し、破壊させた
「グ、ァ、ギィィアアア!!!」
「うっさ!」
「咆哮により一時停止、タンホイザ────」
『もう撃ってるよー』
族『羅刹』の叫びによる咆哮でナイスネイチャとイクノディクタスが静止したのを見かねて、周りの雑魚掃討を一旦やめたマチカネタンホイザは、目標に砲撃をしていた
『羅刹』は咆哮により大きく口を開いていたままなので、砲撃が口に入る
結果、羅刹の口から爆発が起こり、黒煙を吐き出した
「がァァ、ゲッ、エゥッ!」
「仕留めたァ!!」
近くの建物の壁を利用し、ツインターボはナイスネイチャとイクノディクタスによって腱を破壊され、膝を着く羅刹の浅く入った暗器に向けてライダーキックを首に食らわせた
「オ”、ヴ────ッッ!?!?」
断末魔はなく、喉仏に一蹴り入って深深と食い込まれた暗器が血を吹き出すのをツインターボは確認していると
地に伏せた妖怪【悪鬼】の族『羅刹』は事切れた
「リーダー、お疲れ〜」
「ネイチャもイクノもタンホイザも!!ありがと!!」
「どうも。しかし、確実に仕留めます。何かあっては遅いですから」
『雑魚掃討かんりょ〜、今日の私個性出てた!?ねぇ出てた?!』
確実に仕留めると宣言したイクノディクタスは銃を用いて確実に殺し、勝負服を汚しながらも死んだことを確かめると、周囲を確認しながら無線による交信を始める
「オペレーター。こちら片付きました、周囲に敵影無────え?」
視線の先にはヒトがいた
────その姿は【悪】そのもの
”緊急事態発生!!!ヒト型悪鬼です!!でも、なんで……今まで現れる予兆すらなかったのに!!”
「取り乱さないで!ランクを早く!!」
過去から今に至るまで、ヒトの姿に化ける悪鬼は例外なく存在した
『ウマ娘』がヒトの形に近いのは、近い形になればヒトとの親交を持つことができると考えられているためだとか
”うそ……ランクAです!カノープス小隊は退いてください!!【総大将】を────ザッ──ザザッ────”
「うっそ、ジャミング?しかも、ランクAって……少将クラス?な、ないわ〜……」
『周りの住人は避難済みだけど……』
「ヒトの形がはっきりしてます……ここで逃がしてしまえばヒトビトの生活に紛れ、区別つかないでしょう!」
『ならやることは1つ!!私たちだけでもこの場に残って討伐する!』
マチカネタンホイザの提案に、口を挟む者がいた
「やだ!みんなは逃げて!!」
【師匠】ツインターボによる提案の否定
その言葉は混乱を極め、一瞬でだけカノープス小隊が硬直していると
ヒト型悪鬼はツインターボの鼻先に、一瞬で歩を進めた
「っ!!」
繰り出されたヤクザキックは、音速を超えた
周囲に存在したビルの窓にツインターボはぶつかると、その一室をバウンドし、反対側の窓を割って出た
「り、リ────ダッ!!」
次に叫んだナイスネイチャは、いつの間にヒト型悪鬼がへし折られていたのか、電柱が鳩尾へと入った
「け、ゥ……!」
一人一人倒していくタイプの悪鬼だと分かれば、イクノディクタスの行動は早かった
「私たちが止めなければ、誰がや────っ!!」
ガンカタと呼ばれる銃と武闘を合わせた格闘技を用い抵抗するも、ヒト型悪鬼に全て弾かれ、逆に銃を奪われてイクノディクタスの腕から足、脇腹から肩までと撃ち抜かれた
「痛っっ!!ぐぅ……っ!!タンホイザ、だけでも……逃げてっ……!!」
『むり、むりむりむり!!みんな置いていくなんて!!』
声は無線からだと言うのに、ヒト型悪鬼は周囲を見渡すと────跳んだ
『ふぇ……っ!!』
マチカネタンホイザは、急に目前に現れたヒト型悪鬼に反応できなかった
バチィン!!と頬を叩かれ、歯を何本か口内から吐き出したタンホイザは、脳震盪を起こし、その場で気絶した
ウマ娘には勝負服と呼ばれる装備品を、各隊員1人ずつに与えられる
それはヒトが『ウマ娘』を味方に取り入れた時の条約として契約されたからだ
故に多少怪我をしても元々ある妖怪の力が作用して、再生能力が機能し、勝負服に循環する
そういった役目を持っている
だからか
完全に壊れないことに、ヒト型悪鬼は
足りないと、物足りないと思考をめぐらせた
それは空腹による飢餓ではない
それは殺しの、殺戮衝動が収まらないことでもない
それは闘争本能の、暴力による蹂躙が足りないことでもない
ヒトの形をした悪鬼は、マチカネタンホイザの首を掴み、体を持ち上げる
『カ────フッ────!』
イクノディクタスは、無線の向こうから聞こえた嗚咽に、銃弾による穴の空いた拳を握る
それは無力を呪ってか
所詮、カノープス小隊はランクC止まりの狩人に過ぎないのか
だから、祈った
「誰か────助けて」
『その腕、切り落としますね!』
斬ッ!!と音が鳴った
”【総大将】が来ました!!目標は【総大将】と接敵!!支援班はカノープス小隊を救出に回ってください!!”
この小さな領国を代表する”大将”格が一人
称号【総大将】の名を持つ1人のウマ娘
過去の戦績ではランクCまでを1000体以上も屠り、ランクBでは50体、ランクAでは15mある大型悪鬼10体に対して1人で殲滅させるなどの記録を持つ
その名をイクノディクタスは呼ぶ
『【総大将】スペシャルウィーク!』
白と紫を基調に、淡いピンクの勝負服を身に纏う彼女こそ、【総大将】スペシャルウィークだ
「…………」
「腕1本持っていったのですが、無言ですか」
彼女、スペシャルウィークの持つ得物は自分の2.5倍もある大太刀【悪鬼殲滅刀─蛍丸・紫電─】を自在に振り回すと連撃を繰り返した
「…………ッ!」
「あれ?声は驚いてるのに表情一つ変えないんですね」
この時、ヒト型悪鬼は大太刀からの連撃を片腕で防ぎながらも驚いていた
初見ということもあり、彼女自身より倍もある大太刀を容易く振り回すことも要因の1つではあるが────
「……ッ…………!」
「避けましたね?」
ヒト型悪鬼は『防戦』一方だったが、腕の痺れからか『避け』に転じたのだが、それは悪手だった
スペシャルウィークからすれば好機なのだが
「皆さんは昔、私のことを田舎育ちのワルだとか噂が立ってました」
ヒト型悪鬼は目を見開くと、足元を見た
振るわれる大太刀の切っ先に集中してしまっていた為か、スペシャルウィークの片足が自分の足を踏み潰し、固定しているのを見落とした
「格闘技において、喧嘩殺法はマナーの悪さが目立ちますが」
踏み潰した足を軸に、スペシャルウィークは腰を一つ捻ると大太刀を横薙ぎした
「殺せれば何でもありです……あれ?」
大振りの横薙ぎ一閃は首を狙ったものだが、臨機応変に対応されたのか、ヒト型悪鬼は身体を反らすことで皮一枚残った
首皮一枚とは、このことだろう
それによって、スペシャルウィークは殺しの算段を狂わされた
悪鬼には必ず【核】が存在する
スペシャルウィークは首が吹っ飛ぶことで、首の再生に集中しているところを狙うはずだった
予定が狂わされた
しかし、予定は未定
イレギュラーなんてのはこの界隈では日常茶飯事だ
なれば次に狙うは【核】そのもの
潰した足はスペシャルウィークの足から離れ、再生している今、もはや引き止めることに意味を持たない
スペシャルウィークと退いたヒト型悪鬼との距離を詰めるのには、2歩、必要とした
「近くて遠い、二歩」
「…………!!」
呟くことすら時間が惜しい
スペシャルウィークは大太刀を振り回し、構えを突きに変えると一気に切迫した
一歩
ヒト型悪鬼は肘を変形させ、拳を加速させるように空気を排出する
所謂エアブーストだ
スペシャルウィークは、大太刀を突きの構えの姿勢から変えない
二歩
互いの殺意がぶつかった
ヒト型悪鬼の拳がスペシャルウィークの顔面を捉えたはずだった
しかし
その拳はスペシャルウィークのウマ耳を破損させる程度だった
「ッッ!?」
そう、スペシャルウィークは突きの構えをさらに低くしていたのだ
好機。大太刀の先端が、ヒト型悪鬼に刺さる
「────私、ア”……」
「!?」
”ジャミング解除確認!!【総大将】!!ご無事ですか!?”
無線越しのヒトのオペレーターからの応答に、最初は黙っていたスペシャルウィークだが、口を開いた
「こちらスペシャルウィーク、イレギュラーによる新たな目標討伐に失敗。逃亡されました」
”──ッ、了解……支援救助班がマチカネタンホイザの救助のため、そちらに向かっています。”
通信を切ると、スペシャルウィークはヒト型悪鬼を見た
【核】があろう部位の、その横を貫いた大太刀は微動だにせず、ヒト型悪鬼を地面に固定していた
大日本帝国軍カノープス小隊隊員・遠距離射撃要員マチカネタンホイザの日記・140ページにて
”今日も日記をつけるむん!
と言っても色々ありすぎてなにやら書けばいいのやら……
大事なことだけ書く!それでいいかな!
普通の、変わらない任務だと思ってたら■■■■■■の悪鬼が現れて私たちの小隊はもう大混乱
しかも■■■■って、今までに相手したことがなかったからもう手足すら出なかったなぁ
でもでも!【■■■】が助けに来てくれたから助かったんだけど……
【■■■】は■■■■を逃がしたって報告したんだよね〜
■■■■■■■、■■■■■■■■■■■
ありえないけど、何か考えがあると思って日記に書くまで誰にも言わなかったよ!
今日はこんな感じかなー、誰かノックしてるし
また明日も頑張ろう!
えい えい むん!”
行方不明のマチカネタンホイザの日記発見時、一部の文章は黒く塗りつぶされていた為、文章の修正には時間がかかることを記載しておきます