晴れのち曇り所によりしっとりテイオー   作:ししゃも丸

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不思議なお薬

 

 

 トレセン学園はウマ娘専門学校ではあるが、かと言ってレースに関する以外のスポーツがないという訳ではない。普通ならそれが部活というものに該当するのであろうが、ここではサークルか愛好会、もっと言えば女子会とも言えるのかもしれない。

 

 話を戻すが、学園にはもちろん他の学校と動揺に体育館はあるし、そこにはバスケットコートやバレーボールをするための道具など一式揃っている。

 ここでは自由時間を使って他のスポーツを楽しむウマ娘がよく目に入るが、中々見応えのあるもので見るだけでも楽しめるというものだ。

 

 運動部の他にも当然文化部のようなものも存在するが、私が今向かっている場所は実験室などがある校舎だ。

 教師でもない私がここに来ることは本当に滅多こと以外ではないはずなのだが、残念ながら私はトレーナーでありながらここの常連であった。悲しいことに。

 

 悲観したくなるのも仕方がないのだが、私は彼女に頼らなければならないのだ。でなければ誰が好き好んでこんな所に来ようものか。

 その目的の部屋の前まで来て、私はいつものように挨拶をしながら扉を開けた。

 

「アグネスタキオンいるかい。いや、キミのことだから当然いるに違いない」

 

 皮肉を交えながら部屋を見渡せば、実験台の上で顔をうずめながら寝ている白衣を着たウマ娘がいた。

 

 アグネスタキオン。彼女がここの主で支配者であり、どういう訳か私が頼らずにはいられない存在なのである。

 タキオンは少しして唸りながら重い頭をあげてこちらを見た。まあ、控えめに言えば可愛い。素直に言えば、何ともまあ酷い顔だろうか。寝起きならばこんなものかと思いたくもなるが、彼女の残念な顔を見られるのは、この学園においてはきっと私だけだろう。

 

「ン~……ああ、キミかい。ふあぁ……で、どうしたんだい。ああ、言わなくてもわかるよ。また、なんだろうね。うん、なんたってキミがここに来る理由なんてそれしかないから」

 

 寝ぼけているかと思えば、喋るうちにどんどん意識が覚醒していき私がここに来た理由を見事に言い当てた。まあ、タキオンからすれば私がここに来る理由など一つしかないのだが。

 

「分かっているなら話が早い。早速頼む。今日は右腕だ」

「はいはい。ちょっと待ってくれたまえよ」

 

 立ち上がるのも面倒くさそうな顔をしながらタキオンはアレを取りに向かう。私はその間に実験室には似つかわしくないオフィスチェアに座りながら待つことにし、彼女にあることを尋ねた。

 

「また寮に帰らずにここで寝泊りしたのかい」

「ああ。実験がちょうどいいところだったんでね。なに、学園側が私にここ実験室を自由に使うことを許可しているように、私には色々と融通が利くんだ」

「だからと言ってそう毎日こんな生活をしていたら身体を壊すぞ。あくまでも本業はレースだろ」

「それはそうだが、別にキミは私のトレーナーではないんだ。何度も言うようにそこまで私が心配ならキミのチームに移籍させるんだね」

「悪いが問題児はこれ以上ごめんだ」

「やれやれ。天っ才の私を欲しがらないとは。キミも罪な男だ」

「何とでも言ってくれ」

「……ふむ、残り少ないな。あとで作っておくか」

 

 タキオンは片手に注射器を持ち、例の薬が入ったケースを見ながら言った。私はそれを聞いて隠すことなく嫌な表情を浮かべたに違いない。

 そんな私に構うことなく、タキオンは私の前に座った。私は何も言わず右腕の袖を上がるとこまで捲り、その体制を維持した。一方彼女は鳴れた手つきで刺すであろう場所にアルコール綿で皮膚消毒して、何も言わずにブスリと私の腕に針を刺した。

 

「……」

 

 針が皮膚に刺さる感触はあれど痛みはない。

 

 私は注射は嫌いではないが、やはり針が刺さるところを直接見るのは好きではない。対して彼女は今はこうして本業の医者並みに上手くやっているが、最初はまあ酷かった。痛いし、怖く仕方がなかった。

 

 それが今ではこれだ。やはり天才と言うだけはある。

 

 しかし、そんな天才でも私生活は酷い。現にここで寝泊りしている所為なのか、はたまた実験で付いた匂いなのかはしらないが、ちょっと臭う

 

「はい、終わり。また放課後にでも寄ってくれ。採血するから」

 

 注射を終えてタキオンはいつものことを伝えながら注射器を片付け始めた。

 

「分かった。所でタキオン、ちょっと臭うぞ」

 

 普通女性に対してこのような事を言うのは失礼が、彼女とは知らぬ仲ではない。むしろ、直接言ってやれなければ気づかないままこともあるのだ。なのでタキオンも平然と言葉を返してくる。

 

「このあとシャワーを浴びるさ。なんなら一緒に入るかい?」

「遠慮するよ」

「自分で言うのもなんだが、私はこれでも可愛い女だと思うけどね」

 

 垂れた白衣の袖で私の顔を撫でながら言葉の通りの表情()を作って私を誘惑してきた。だが、臭うし寝癖が酷い。まあ、臭いというよりは独特ないい匂いに入る部類だと思う。

 

「可愛いは認めるが、それ以外が酷いからねキミは」

「正直なキミは好きだが、時には必要なウソで喜ぶことも言ってほしいね」

「言っているよ。キミ以外にはね」

「やれやれ。で、どうだい。もういいんじゃないか」

 

 タキオンに言われて右腕を動かす。うん、痛みはないしヒビも治ったようだ。なのでここにはもう用はない。

 

「相変わらずよく効くよ」

「どちらかと言えばキミの身体が異常だと思うけどね」

「何を言うんだ。私の身体は至って普通だ」

「うん。普通は注射しただけで曲がった骨が治ったり、傷が塞がったりしないんだよ。ま、私はとても興味深いだけで、これと言って何も思っていないがね」

「そりゃあどうも。では私は行くよ。ちゃんと今日はベッドで寝ろよ」

「はいはい」

 

 とりあえず大人としてそれらしいことを言ってみたが、当の本人は受け流すだけで言うことを聞くようには見えなかった。

 まあ、これ以上は私の管轄外だ。それこそ彼女の担当トレーナーの仕事だろう。

 

 さて。まずはトレーナー室で書類を片付けることにしよう。

 

 ただ……。

 

「今日こそは誰もいませんように」

 

 

 

 

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