メイドラゴンの世界のモブだが、朝起きたら職場の先輩である小林さんが隣で寝ていた件について 作:風神・雷神
「そんなことないですよ小林さん!」
どうにかして小林さんを止めるために、言葉よりも体が先に行動に動いていた。立ち上がり、すぐ近くまで移動すると至近距離で目を見て話し始める。
「え!?いきなり何!てか近いって!」
小林さんは目を白黒させ動揺を隠しきれていない。卑怯だがこうでもしないとはぐらかされて、ちゃんと話を聞いてくれないだろう。
それでは、ダメだ。
「小林さん。貴方はとても素敵な人です!そんなこと言わないで下さい!」
今まで受けた恩を思い出せば、湧き上がるように言葉が出てくる。
「俺知ってますよ。会社で課せられた俺の仕事を代わりに請け負ってくれましたし、仕事で分からないことがあったらちゃんと教えてくれましたし、ミスした時も俺の代わりに怒られてたり、励ましてくれたじゃないですか!それが、どれだけ心の救いになったと思ってるんですか!」
「分かった。わかったから……」
顔を赤らめて目が泳いでいるがそんなのお構いなしに言葉を続ける。
「それに小林さんは……十分魅力的な女性ですよ!」
「わ、わかったから。離れて……」
「それに……」
これを本人に直接言うのは、恥ずかしいし気が引けるが仕方がない。
「三白眼気味の目つきはとてもチャーミングだと思いますし、スレンダーな体系もとても魅力的に思います。いや……むしろそこがイイですよ!」
そう。個人的に胸がささやかな人がタイプだったりする。それさえも、武器になるなら伝えてしまおう。
「はぁ!?急に何言い出してるの!?少し落ち着きなって!」
「それを踏まえて、小林さんにお願いがあります!」
握っていた手を離して数歩後ろに下がり、両膝を床に着け、両手で八の字を作り床に着け、額を床に着ける。自分が今できる誠意を見せるための方法として、導き出した答えが土下座だった。
「え?ちょっと。急になに!?顔上げなって……」
流石に急な土下座で困惑してる小林さんに構わず話し出す。この人の場合変な小細工するより、真正面からアタックする方が効果的に違いない。
「責任とか義務感とかの付き合う関係じゃなくて、小林さんを惚れさせてみせます。俺にチャンスを下さい。お願いします!」
思っていたこと、言いたかったことを全て言葉にして吐き出した。だが、自分の状況を客観的に想像すると、急に不安になってきた。これでダメだったり、ドン引きされてたりされたらどうしようか。気の利いた言葉なんて思いつかないからこんな方法しかできなかったが、今思えば告白方法が土下座はあまりいい方法ではなかったのかもしれない。
「……」
『失敗』という文字が頭の中をぐるぐる回り始めた。やってしまったか……。
少し待っても、返事が返ってこないのでゆっくりと小林さんの顔を下から見上げる。
「……一つだけ聞いてもいい?」
「はい?」
帰ってきた返事は、【はい】でも【いいえ】ではなく俺に対しての質問だった。
「……本当に昨日のこと覚えてたりしないの?」
「え?それって……」
質問の意味が分からずうまく答えられない。しまった……。
もっとうまく返事をすればよかったと、今になって後悔してしまう。
小林さんは、目を閉じて何か考えているようだったが、少しすると考えがまとまったのか頬を赤らめ、ゆっくりと目を開きこちらを見てきた。
「……ホントに私でいいの?」
小林さんの返事でさっきまで感じていた不安や緊張が、嘘のように無くなる。
「もちろんです!」
「……分かった。それでいいからさ。土下座はもうやめてよ……」
「じゃ、じゃあ……」
「……でもその代わり、会社のみんなにバレたくないからこの関係は秘密にして。多分そんな人いないと思うけど。小田原君が私を襲ったとか、私が後輩食べたとか噂になるとだるいからさ……」
確かに、今日の出来事をきっかけに付き合い初めたと聞くと、あまりいい印象は浮かばない気がする。
「……そうですか。分かりました」
言われた通り、土下座をやめるため立ち上がる。
小林さんの方が身長が小さいのもあり、こちらを見上げている。
「そういう訳だからさ。よろしくね……」
「え?あ、はい。こちらこそお願いします」
こうして、一夜の過ちで職場の女の先輩と付き合えるようになりました。
その後小林宅を離れ、自宅へ戻り一通りやる事を済ませていると、いつの間にか辺りは暗くなりかけていた。シャワーを浴びて明日に備え直ぐに寝る体制に入る。
今日一日、正直仕事より疲れてしまった気がする。
そんな体とは反対に心の疲れはどこか飛んで無くなってしまった様に軽い。
これは、もしかするとこれは小林さんのおかげなのかもしれない。
思えば、今日はとんでもない一日だった。
起きたら隣で職場の先輩の小林さんが寝ていたわ、ただ寝ていたわけではなく肉体関係を持ってしまい、それがきっかけで付き合い初めてしまう、まるで映画だ。
今までパッとしない人生を生きてきた俺には、もったいないぐらいだ。
月曜からまたデスマが始まると思うと、心にくるものがあるが、小林さんの事を考えると少しだけ気持ちが楽になる気がした……。
……………………
…………
…
それから1週間は互いに忙しかったこともあり、会社でもプライベートでも普段とあまり変わらなかった。
唯一違ったのは、仕事が終わった後に、たわいもない世間話を連絡し合ったぐらいだ。
そんなデスマを乗り切った日曜日の夜に、小林さんから連絡が入り、次の日の月曜日の朝話し合いも兼ねて一緒に会社まで行こうと誘われた。
翌日の朝、内心ウッキウキで小林さん家へ向かっていた。
先週は仕事で忙しかったのもあり会って話す機会さえなかったが、今週は少しは余裕がある。
カギは当然持ってはいないので、インターホンを鳴らす。少しするとドアの向こう側から足音が聞こえてきた。
約束よりも少し早めに来てしまったが、ちゃんと時間に余裕をもって起きているなんてさすがは小林さんだ。
「おはようございます!小林さ……」
ドアから出てきた人物に驚いて、固まってしまう。
小林さんの家から出てきたのは、小林さん本人ではなく『メイド』と思われる全く知らない人だった。
メイドといえど、ただのメイドではない。
外国の人なのだろうか、頭には黄金の様に輝くブロンドのツインテールと、作り物なのだろうかメイド服とはミスマッチな先端が平らな二又の角があり、長い丈のスカートの裾からはここからでも見えるくらいの、ゆらゆらと揺れる立派な尻尾を生やした成人女性がそこにいた。
停止した思考が復活すると、自然にある結論へ収束した。
それは……。
「……すいません。部屋を間違えました。早朝からお騒がせいたしました……」
一礼して、出てきた外国人に謝り、直ぐに来た道を戻る。
おかしいな……。
記憶だと、さっきの所なんだけどな……。階を間違えて別の部屋を訪ねてしまったのだろうか。
月曜日の朝からコスプレとは、なんて気合の入った外国人なのだろうか。
結局、さっき尋ねた場所が小林宅で間違えないことを確認した上でもう一度、インターホンを鳴らす。
すると、またさっきのブロンド美女メイドが出てきたので聞いてみる。
まず、日本語が通じるだろうか。しかし、聞くしかない。
「すいません。小林さんが勤めています、会社の後輩の小田原と言います。こちらって小林さんのお宅で間違いないでしょうか。貴方は小林さんのご友人でしょうか……」
すると彼女は、軽蔑の眼差しで、まるでゴミを見るような目を俺に向けて答えた。
「劣等種の下等な人間が私の愛する小林さんになんの用です?正直言って目障りなので今すぐ消えて下さい。さもなくば、私のブレスでチリにかえてしまいますよ人間」
……なるほど。
どうやら言葉は通じたらしい。取り合えず一安心だ。
ん?
いや、ちょっと待った……。
アイドルや女優と言われても不思議に思わないほどの容姿とは裏腹の言葉に、思考がもう一度止まる。
どういうことだ。
この人は何を言っているんだ……。
小林さんは独り暮らしのはずだし、誰かと住み始めたなんて聞いていない。
まるで全ての人間を見下しているような言葉使い、そしてさっき言っていた『私の愛する小林さん』とはどういう事なのだろう。
謎のブロンド美女メイド、彼女は一体何者だと言うのか……。
次回からトールちゃんが出てきます