メイドラゴンの世界のモブだが、朝起きたら職場の先輩である小林さんが隣で寝ていた件について 作:風神・雷神
「……トール様と別れて!」
……一体これはどういう状態だ。
小林さん宅で、女の子が小林さんへ、言葉のトーンを強めてそんな言葉を投げかける。
対する小林さんも、いきなり彼女の言った内容に驚いているのか、きょとんとしていた。
俺は、こんなことになると予想してはいなかった……。
……この子は、一体何を知っているんだ。
………………………
………………
………
10分前 一般道
仕事が休みの今日、特にやる事も無かったので、スロットでも打ちに行こうと思っていたら、小林さんから連絡があった。
どうやら、何かトールさんの事で相談があるそうなので、今小林さん宅へ向かっている。
小林さんからの連絡は、あまりなかったので頼ってくれていると言う実感が湧いてとても嬉しいが、肝心の相談したい内容はまだ聞いていない。
一体どうしたのだろうか。
何かトラブルがあったなんて話は、会社でも聞いていないし、連絡も特にはなかった。
だが、人は時に最悪のケースを考えてしまう。
もしも……。
前に、トールさんを説得する時の事に少し言い争いなどをしてしまったが、もしかするとそのことに怒って、別れ話を……。
それは、流石に考えすぎだろう。
まあ、そんな大変な事ではないと思うが、一応何を話されてもいいように心の準備だけはしておこう。
そんなことを考えていると、小林さんが住むマンションに着き、階段を上り、部屋の前まであと少しというところで、ドアの前に誰か立っていることに気が付いた。
誰だ……あの子……。
「君。どうしたの?この家の人に何か用かな?」
膝を曲げ、腰を落として視線の高さを女の子と同じにしてから話しかけた。
民族衣装のようなドレスを身に纏い、歳は7歳~9歳程ぐらいの、角と尻尾が生えている女の子が、ドアの前に立っていた。
「……」
気になって話しかけるも、答えてはくれなかった。その代わりに、無言でこちらを見てくるだけだった。
この感覚、これは前に話した時のトールさんの人間嫌いに似た感じがする気がするが、感じもそうだが、見た目もドラゴン特有の角や尻尾が見て取れる。
トールさんの知り合いなどではないだろうか。
取り合えず、トールさんに話を伺ってみようと思い、インターホンを鳴らすと、小林さんがドアを開いてくれた。
「いらっしゃい。ごめんね。いきなり連絡入れちゃってさ」
「いえ、大丈夫です。それよりもこの子トールさんの知り合いみたいなんですけど話とか聞いてます?」
小林さんは、少女を見るも、首を傾げる。
どうやら、小林さんでも分からないようだ。
ということは、まだこの家には来たこと無いか、小林さんが仕事の時にトールさんが家に呼んだかのどっちかだ。
そうなると、やはりトールさんに直接聞いてみたほうが早そうだ。
「小林さん。トールさんっています?」
「トールなら、今買い物に出ちゃってるよ」
「そうですか。それなら、トールさんが来るまで家に上がって待ってもらいますか」
「だね。ごめんね。トール帰ってくるまで少し待つ感じになっちゃうからさ、うち上がってよ」
小林さんの家にお邪魔すると続くように少女は、無言で家に上がりこんできた。
少し思ったが、話さないのは前に話したトールさんみたいに人間を嫌っていると思ったのだが、改めて彼女を見ると嫌っているとはまた違った何かが原因ではないかと感じた。
まだ、その何かが分からないが、話していけば分かるだろう。
少女は、リビングの椅子には座らず、カーペットに腰を下ろし、女の子座りをしている。
その光景は、何とも言えない愛くるしさを感じさせる。
小林さんは、オレンジ色の座椅子へ座っている。
その間に、飲み物をと思って小林さんへ許可を取り、冷蔵庫を開けてジュースなどを探すが、見当たらずコーヒーしか無いようなので、ブラックと砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを淹れ、二人の元へ持っていく。
「どうぞ、小林さんがブラックで……。ごめんね、今探したんだけど、ジュースとかお菓子とか無くて。コーヒーだけど砂糖とミルクたっぷりで飲みやすいと思うから、今はこれで勘弁してね。今から、ちょっとコンビニ行って買ってくるから。」
そう伝えると少女は、出されためちゃ甘コーヒーが入ったコップに手をかけ、口元へ運び飲み始めた。
「じゃあ、そういう訳なんで、小林さん。ちょっと行ってきますね」
「うん。分かった。ところで、君名前は?」
小林さんは、お礼を言うと、話さない少女へ話しかける。
ここは、小林さんに任せよう。
買い物へ行くため、玄関へ向かおうとすると、今まで無言だった少女が口を開いた。
「……トール様と別れて!」
その言葉を聞いて、玄関へ向かっていた足を止めて、後ろを振り向き二人を見てしまう。
「……え?」
………………………
………………
………
「うん?様?なに?どうゆう事?」
小林さんが言っている事が分からないのか、少女へ聞き返す。
だが今俺は、この少女が言ったことが頭の中に残り、一つ思うことがあった。
それ……俺じゃないのか……。
しかも、トールさんなのか……。
不思議にもこの少女は、小林さんとトールさん2人が付き合っていると思っているそうだ。
一体何を勘違いして……!?
その瞬間、小林さん宅へ向かう途中に考えたあることが、頭の中に浮かんだ。
【前に、トールさんを説得する時の事に少し言い争いなどをしてしまったが、もしかするとそのことに怒って、別れ話を……】
まさか……。
この少女が言っていることは実は本当で、今日小林さんが俺を呼び出した理由って……。
別れ話をする為なんじゃ……。
俺の脳内では、最悪の展開をシミレーションしていた。
『ごめん。私、小田原君よりメイドのトールの方が好きなんだ。だから、別れよう……』
『そんな……。いきなり過ぎますよ……。あの時は仕方なかったんです……。だから……』
『見苦しいです、小田原さん。小林さんはこのメイドである私を選んだのですから。さあ、行きましょう!小林さん!』
『うん。そうだね。トール……。』
『ま、待って下さい。小林さん!俺が悪かったです。もうあんなことしませんから!行かないで下さい!小林さん!小林さん……。俺は……俺は……』
その先を考えようとしたら、脳が強制的に考えるのを止めさせたように、二人が話す世界へ戻された。
だが、更に少女は意味ありげな話を続ける。
「知ってる。あなたが誑かした……体で!」
か、体で!?
「寝取られ」
ね、ね寝取られ!?
「淫乱メガネ!」
い、いい淫乱メガネ!?
い、淫乱……こ、小林さんは淫乱だったのか……。
そのことについては、ぜひ詳しく聞きたいものだが、今はそんな余裕が無く、まるで魂が抜けてしまった様に床に座り込んでしまった。
小林さんどうして……。
「なんか、誤解してない。そもそも私は……」
「別れろ!別れてえぇぇ!」
少女は話を遮り、ぽかぽかと小林さんを叩き始めたが、少女を止めようと思っても、立ち上がる力が何故か出てこなくて立ち上がれなかった。
すると、玄関からドアが開く音と、声が聞こえてきた。
どうやら、トールさんが帰ってきたようだ。
「小林さん。ただいま帰りま……!?」
帰ってきたトールさんが、小林さんと少女を見るや否や、怒りからか、手には鋭い爪、殺気の籠った目、口には人間ではありえないほどの、鋭利な牙に変え、こちらに向かってきた。
め、滅茶苦茶だ……。