メイドラゴンの世界のモブだが、朝起きたら職場の先輩である小林さんが隣で寝ていた件について 作:風神・雷神
「この子の名前は、カンナカムイ、私の知人です」
一旦落ち着いてからトールさんから話を聞けば、少女の名前はカンナカムイと言い、やはりトールさんの知り合いだった。
当然この子もこの世界の人間ではなく、トールさんがいた世界にいるドラゴンで、こちらに来た理由も本人曰く『トール様が行方不明になって探してた』らしい。
前に、会社まで空飛んで送ってもらった時に見つけて、ここへ訪ねてきた。
そして、カンナちゃんはトールさんと元の世界へ帰りたい為、トールさんを探しに来たのだろう。
だが、当のトールさんはその誘いを断った。
その理由が……。
「私は、小林さんを愛しているからです!」
そう……それがトールさんが元の世界へ帰るのを断る理由である。
トールさんを説得した時は、友達として好きなのだと思い込んでいたが、まさか恋敵だったとは。
考えて見れば、彼女と小林さんの出会いの話を聞けば惹かれていくのは時間の問題で、トールさんは小林さんの事を本気で好きなのだろう。
話を聞いていた小林さんが、ばつが悪そうに答える。
「トール。真面目に……」
「やっぱり!」
すると、今度はカンナちゃんが小林さんを睨みながら話し出した。
「……デートしてるの見た。人前で手を繋いで……変態!」
カンナちゃんは、刑事ドラマで事件の真相にたどり着いた主人公の刑事が、『あなたが犯人です。』と犯人役へ指を差すように、堂々と小林さんに向けて指先を向けていた。
どうやらカンナちゃんの中では、手を繋ぐと言う行為で変態扱いらしい。
話を聞いていて一つ思ったのだが……。
手を繋いだだけで変態なら、小林さんと寝てしまった俺はとんでもない何かになってしまうのではないか……。
「……こうなったら……お前を殺してでも……」
などと心の底でそんなことを思っていると、急にカンナちゃんの周辺の空気が変わったのが分かった。
なぜ、その異変に気付けたのか。
それは、つい最近自分自身で体験して感じたのを覚えていたからである。
初めて会った時に話していたトールさんが俺へ向けていたものと似ていた。
自身の失われつつある野生の感とでも言うのだろうか、全身に鳥肌が立ち、額には汗が流れ、鼓動がうるさいと感じるほど、心拍数が上がっていくのが分かった。
それを言葉で表すなら……殺気とでも言おう。
「!?」
危険を察知したのか、小林さんは立ち上がるも、関係ないとでも言わんばかりに、カンナちゃんは向かっていった。
「死ねぇぇぇ!」
これは、不味いことになった。
トールさんと同じドラゴンであるカンナちゃんが、本気で小林さんへ危害を加えようとしたなら、それはとても危険だと言う事だ。
しかも、カンナちゃんは突進しながら、その小さな手で拳を握り小林さんを殴ろうとしている。
例え幼い容姿をしていても、中身はドラゴン。
もし、この子供のような見た目をした少女のパンチが、人間の基準を超えた力を秘めているとするなら、鍛え上げられたプロボクサーが放つパンチは人の顎の骨を、まるで瓦割の瓦の様に簡単に破壊してしまえるように、それ以上の力が掛かっているかもしれない攻撃をただの人間である小林さんが喰らってしまう意味とは……確実なる死。
振り上げた拳は、勢いよく小林さんに向かっている。
「小林さん!今すぐカンナちゃんと距離を取って下さい!急いで!」
「え?」
声を掛けるも遅かった。
小林さんの腹部にタックルが当たり、拳をも振り下ろしつつある。
子供のような容姿だったから油断してしまったが、この子もトールさんと同じドラゴンなんだ。
気に入らない人間の一人や二人簡単に殺すことだってできてしまうに違いない。
この瞬間、全身の血が体から抜けていくような感覚に襲われたが、直ぐにそんな心配はなかったと安心することが出来た。
「この……この……この!」
カンナちゃんは怪力があるわけではなく、そんな力が無かったのか、ポカポカと非力に小林さんを叩いていた。
その姿はまるで、母親にじゃれついている子供のように遊んでいる様にしか見えない。
どうやら今いるこの世界では、思った様に力が出せないようだ。
まあ……兎に角小林さんにケガしたりしなくて良かった。
…………………………
………………
…………
「「いたずらして追放された?」」
カンナちゃんから話を聞くと、どうやら元居た世界で何かやらかしてしまいここ人間界へ追放されてしまったらしい。
小林さんが例えていたが、子供が悪戯をしてしまい親が反省するまで家に入れない状況に似ていた。
だが、個人的には追い出したのが【家】ではなく【世界】規模なのでスケールがデカすぎてあんまり上手く想像できない。
トールさん曰く、反省するまで帰れないらしく、例えトールさんが元いた世界に返しても無駄らしい。
「今は独りぼっちってことか……」
「ですね……」
「……」
小林さんが言った『独りぼっち』という単語が俺の心に何かモヤモヤした何かが生まれた。
ドラゴンとはいえ、こんな子供をこのままにしていいのだろうか。
いや、絶対にダメだ。
子供の頃の孤独は、ドラゴンであるカンナちゃんであってもとてもつらいことに違いない。
それに、存在を知られ邪まな考えを持った人に出会ってしまい、カンナちゃん自身も危険にさらされてしまう。
それに、見捨ててしまうのはどうも良心が許してくれない。
ここは、保護したほうが良さそうだ。
俯き涙を浮かべているカンナちゃんを見て、それは行動へ移った。
「小林さん……あの……」
声を掛けると、小林さんはこっちを薄っすら笑っていた。
「いいよ。小田原くん。言わなくても分かるから……」
そう言うと、小林さんは真っ直ぐにカンナちゃんを見て言った。
「カンナちゃん……。行くとこ無いなら家来る?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の内が熱くなるのを感じた。
小林さん……。
俺は今、あなたのを好きになって本当に良かったと思っています。
あなたは覚えていないでしょうが、昔そのあたたかな優しさに救われたように、行く当てのないトールさんに帰る場所を作り出した、その裏も表もない純粋な思いやりに満ちた言葉を掛けられるあなたを、俺は誇らしく思います。
「あれれ…?私の時はダメって言ったのにあれれー?」
「一つ受けたら二つも同じだ」
「あはは…。確かにそうですね」
不服そうにぼやくトールさんに答える小林さんを見て自然と笑ってしまった。
カンナちゃんも、他に行くところはないようだし了承して解決だろう。
だが、カンナちゃんからの返答は意外にも否定の言葉だった。
「に、人間なんて信じない!何か企んでる……」
行く当てが無いカンナちゃんにとっては、無力な自分を受け入れてくれるという提案を拒否する選択肢はないと思っていたが、現に今まさに申し出を断った。
だが、断ったカンナちゃんは何か怯えている様に見える。
一体何を怯えて……。
そうか……分かった。
カンナちゃんは、【怖い】んだ。
この世界の人間が、何を考えているか分からないから、怖いんだ。
いや、怖くて当然だろう。
初めて来たこの世界で、思ったような力が出せないこの現状は、カンナちゃんにとってはとても怖いことかもしれない。
「利用しようとしてる!」
それを聞いた小林さんはゆっくりとカンナちゃんへ近づくと優しく頭を撫で始めた。
「知らない世界で、誰も信じられない。当たり前だと思う。誰かを信じるなんてさ、友達になったり、恋人になったりした後の事なんだよ。私だって信じない」
親が子供に言うような感じとはどこか違った言い方で話を続ける。
「カンナちゃん。友達になろうなんて言わないよ。……一緒にいよう」
「で、でも……でも……」
カンナちゃんは迷っているのか、視線をそわそわさせ落ち着かない様子で答える。
あと、一歩と言った所だろうか。
「じゃあ、俺からも一ついいかな?カンナちゃん」
「な、なに?」
「……別に、小林さんの言う通り、今すぐ信じろなんて言わない。ただ、カンナちゃんは小林さんを信じているトールさんを信じてくれないかな……。……今はそれで充分だからさ。何だったら、俺の事は信じなくてもいいからさ……ね?」
「う……う……うん…」
カンナちゃんは、話を聞くと大粒の涙を流しながら、座り込んでしまった。
今度こそ、これで今回のカンナちゃんの件は解決しただろう。
これで一安心と思っていると、カンナちゃんの為に買い物をするのを思い出し、コンビニへ行こうとすると、小林さんに呼び止められた。
「あとさ、今日連絡した通り、ちょっと相談があるんだけどさ。いい?」
そうだった……。
今まで、カンナちゃんの事で忘れていたが、何か相談したいことがあると言われていたんだった。
釣られて最悪の展開についても思い出して思い出してしまった。
「…はい。俺も分かってます……」
もしかすると、これでこの関係も終わってしまうかもしれない……。
…………………………
………………
…………
「だったら話が早くて助かるよ。引っ越しについてなんだけどさ」
「小林さん。俺を捨て……はい?引っ越し?」
「うん。トールも住むようになったらもっと広い家の方がいいかなって思ってたんだけど、カンナちゃんも住むことだし、思い切って4Ldkの部屋借りちゃおっかなって」
「え?ああ、引っ越し……え?引っ越すんですか?」
思っていた話の内容とは違っていて、どうやら勘違いをしていたことに気付いた。
このことを話すのはやめておこう。
小林さんは、こちらを不思議そうに見ながらも話を続ける。
「何言ってんの?他に何かあるの?」
「……いえ。何でもないです。それにしても、思い切りましたね。4LDKなんて。3人で一部屋ずつ使っても部屋空きますよ?」
「いや、トールとカンナちゃんで二人で一部屋使って貰うよ」
「だったら、あとは小林さんの部屋が一部屋だとして、二部屋空きますね。書斎にでもするんですか?」
「うん。だからね……もし良かったらなんだけどさ……」
どうしたのか、小林さんは、頬が少し赤くなりながら、照れくさそうにこっちを見ないで呟くように言った。
「……一緒に住まない?」
「え?」
話の流れ的に、勝手に引っ越しの手伝いを頼まれるのだと思っていた為、突然の誘いに驚いて声が出てしまった。
「…マジですか……」
小林さんの花嫁衣装凄かった。ホントに