ラブライブ!ーschool idol produce-   作:AGRS

29 / 33

ひっさびさの更新です! ども、AGRSデスッ!

はい、というわけで初の番外編です。いや、実はですね。ヤンデレ書いてて自分の心が荒んでいくのを感じてしまい、そこで番外編でも書いてリフレッシュしたいな~と思ったのです。

リフレッシュできました、あざーす!

今回は真姫が結婚して何年か経っている内容です。ちょっと長いけど気軽に読んで下さいな。

では~どうぞーー!


EX① Zの未来/終わらない幸福を

 

 

 

 

「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」

 

 

 

 

夕食に使用する材料を台所で切っていると、リビングのテーブルに腰掛けた愛娘がコップに麦茶を注ぎながら唐突に聞いてきた。

 

 

 

学校から帰宅して間もないのだろう、制服を少し着崩している。また、夏休み前の暑さに抵抗して、手でパタパタと微弱な風を自分に送っていた。

 

 

 

夢神 真姫ーーー旧姓、西木野 真姫は娘の方を軽く一瞥すると、何でも無かったようにまた包丁を動かし始めた。

 

 

 

 

「……さあ。気付いたら結婚してた、それだけの事よ。どうしてと聞かれても今では思い出せないわ」

 

 

 

 

真姫は淡々とした口調でそう返す。

 

 

 

肩まで伸びた真紅の髪、やや吊り上がった目付き、ぶっきらぼうな物言い。結婚し、子を儲けて、一児の母になっても、かつてスクールアイドルであった時と何一つ遜色ない貫禄を醸し出していた。

 

 

 

唯一髪型の方は色々と試行錯誤して変えてみたが、夫が「やっぱり真姫はそれが一番似合ってるよ」と言っていたので結局この髪型に落ち着いた。

 

 

 

……断じて彼が「似合ってる」と言ってくれたのが嬉しくて変えなかったという訳ではない。断じて、断じてだ。

 

 

 

 

「ええ~? 何それ~~…」

 

 

 

 

麦茶を飲み干した少女は母の返答に不満たらたらのようで、足をジタバタさせながらさらに質問を続ける。

 

 

 

「それ絶対嘘っぱちだよ! なんかあるでしょ、なんか~」

 

 

「ないわ」

 

 

「二人で家出して数々の苦難を乗り越えた必死の逃亡劇の末、ついに結ばれたとか~」

 

 

「ないわ」

 

 

「世界の危機に立ち上がったお父さんが人助けをしてた時にお母さんと出会って恋に落ちたとか~」

 

 

「ないわ」

 

 

「あるいは魔法少女として覚醒したお母さんがワルモノ共を倒してた時にお父さんと出会ってーー」

 

 

「……あなたはアニメの見過ぎよ、姫那(ひな)

 

 

 

 

真姫は呆れ顔で自分の娘を軽く叱りつける。だが、姫那と呼ばれた少女は特に悪びれる様子を見せず、幼さ全開のあどけた笑顔を浮かべるだけだ。

 

 

 

この少女は夢神 姫那。……12年前、真姫と彼女の夫の間に産まれた最初の子供だ。赤色の髪を後ろに括っている以外は、友人曰く「真姫ちゃんがロリ化したみたい」と言わしめるほど真姫とそっくりな容姿をしていた。

 

 

 

ただ一つ違うと言えばその性格だ。思慮深く慎重な真姫とは打って変わって、気になる事はズバズバと聞いてくる様は母として眩しく見える。

 

 

 

とはいえ、来年には中学生になるのだからもう少し落ち着きというものを……まあ、それについては今後ゆっくり指導して行けばいいだろう。願わくば、自分のような捻くれた性格にはならないように、と皮肉に近い想いを内心で呟く。

 

 

 

 

「でもでも、お父さんもお母さんも音ノ木坂学院だったんだよね?」

 

 

 

姫那の口から今となっては懐かしい、自分の母校の名を耳にする。

 

 

 

 

国立音ノ木坂学院はかつて入学希望者数の激減から廃校の危機に瀕していたが、共学化のテスト要員として採用された一人の少年と、九人のスクールアイドルの活躍により今では男女共学の伝統校として名を馳せていた。

 

 

 

ここまで有名に至ったのは、やはり当時の理事長が駄目元で編み出した『共学化』というのが大きい。テスト生として投入した少年が、廃校阻止の為に結成された音ノ木坂のスクールアイドルのプロデューサーを請け負い、見事全スクールアイドルの聖地ーーー"ラブライブ!"で優勝を果たしたのだ。

 

 

 

無論、その少年だけでなく彼女たちの才能もあったのかもしれない。しかし、少年と少女たちーーー十人の想いが無ければ今の音ノ木坂は有り得なかった。ほんのわずかな希望として生み出された『スクールアイドル』という選択が功を為したのだとすれば、彼らは胸を張って誇っていいだろう。

 

 

 

だからと言って、胸を張って自慢する気など毛頭ない。私は自分の意志でスクールアイドルになり、自分がやりたいようにやったのだからーーーと()()のスクールアイドルであった彼女は結論付ける。

 

 

 

 

「いいよねぇ、音ノ木坂! お母さんの時は女子高だったんでしょ?」

 

 

「まあ……そうね」

 

 

「そしてお父さんが入ってきたんでしょ? 共学化の……テスト要員? だったっけ」

 

 

「……待ちなさい姫那。それ、誰から聞いたの? 私もお父さんもあなたにそんなこと話しては……」

 

 

「ん? えっとねー…この前ご飯食べに行った時、にこおばさんがこっそり教えてくれたの!」

 

 

「……」

 

 

 

真姫は嘆息しながら旧友の顔を思い浮かべた。

 

 

 

姫那が言ったにこおばさんというのは矢澤 にこーーー高校時代からの友人であり、スクールアイドルとして先輩とも呼ぶべき人物だった。

 

 

 

家族で食事に行くときはたまに彼女も誘うのだが……席を外した隙にいらんことを娘に教えていたようだ。大方、自分が如何に可愛かったかなどの自慢話ばかりだとは思うが、高校時代に色々と恥ずかしい思いをさせられた真姫にとっては迷惑極まりない。

 

 

 

 

「それとねー、穂乃果おばさんからも聞いたのー」

 

 

「穂乃果? ……彼女といつ会ったの?」

 

 

「んーと、少し前にね、学校から帰った時に穂乃果おばさんがお家の前で泣いてたの」

 

 

「泣いてた……?」

 

 

「うん。姫那も気になったから上がってもらってお話を聞いたんだけどー……」

 

 

「……」

 

 

「なんかね、昔のお母さん達の事を話してくれたんだけど、急に小声で呟いてー……なんだっけ? 『裏切り者ぉ……真姫ちゃんの裏切り者ぉ……!』って言いながらまた泣き出したの。姫那、ちょっと怖かったなぁ……」

 

 

「姫那、今度穂乃果が来ても家に上げるのは絶対にやめなさい」

 

 

「? なんでー?」

 

 

 

 

なんででもよ、と真姫は姫那に言い聞かせて表情を曇らせた。

 

 

 

穂乃果ーーー高坂 穂乃果も旧友であり、同じ学校のスクールアイドルだった。……彼女が結婚した夫に高校の頃から好意を寄せていた事は知っている。しかし、あれから二十一年経ってもまだ根にもっているとは……中々の嫉妬深さだ。

 

 

 

それにしても、裏切り者って……。そんなこと言われても彼が私を選んでくれたのだからこちらが非難の言葉を浴びさせられるのは見当違いだ。

 

 

 

そうだ、彼が私を選んでーーー

 

 

 

私を……選んで……

 

 

 

………………

 

 

 

 

「お母さん? なんか顔赤くない?」

 

 

「何でも、ない……」

 

 

 

にやけそうな顔を叩いておしどめ、姫那に背を向けて何度か深呼吸すると、振り返り姫那の方を向いた。

 

 

 

 

「うーん、姫那も早く高校生になりたいな~。そして音ノ木坂に入学したい!」

 

 

「へぇ……音ノ木坂に行くつもりなの?」

 

 

「うん!」

 

 

「それはまたどうして……」

 

 

「ふっふっふ……もちろん……」

 

 

 

もしや若き頃の自分のようにスクールアイドルになるつもりで……? と期待しているとーーー

 

 

 

 

 

「もちろん、音ノ木坂で格好いい男の人をGETするためだよ!」

 

 

 

 

脱力した。

 

 

 

 

 

「高校生になったらきっと姫那の王子様が見つかるはずなの! クラスメイトの男の子はそーしょくけーでつまらないしー……ああ、今から待ち遠しいなぁ~♪」

 

 

「……」

 

 

 

 

何故だろう、凄く頭が痛い。ここまで酷い頭痛は久しぶりだ。しかし、まさか娘がそんな不純な理由で自分の母校に行きたいと聞かされればこの体調不良も必然なことではないだろうか。

 

 

 

 

「す、スクールアイドルは……」

 

 

「ほぇ? だって姫那別に歌を歌うの好きじゃないし~…ダンスだってやりたいと思わないもん」

 

 

 

 

これが、高校時代にやってきたことを全否定された母親の気持ちか……と、真姫は自嘲気味に笑い、舞い上がっている自分の娘に半ば自棄になって言い放つ。

 

 

 

 

「……あなたは男とか恋愛云々の前に、自分の成績について考えることね」

 

 

 

 

ビクゥッ! と非常に分かりやすい反応を見せた姫那は、蛇に睨まれた蛙のように身をすくませながら動揺の汗をダラダラと流す。

 

 

 

 

「べ、べべべ別に勉強とかいつでも出来るし? 数字だけが全てじゃないんだから慌てなくても…」

 

 

「またそんなこと言って……この前だってーーー」

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

真姫の言葉を遮るかのように家のインターホンが鳴る。抜け出すチャンスとみた姫那は勢いよく椅子から立ち上がり、玄関へと駆け出した。

 

 

 

 

「ほら! もう来たみたいだよ!」

 

 

「あ、姫那! ……ったくしょうがない子ね…」

 

 

 

 

愚痴をこぼしながらも、姫那が向かった玄関先へ急ぐ。廊下に出ると、一足早く着いた姫那が大きな玄関扉を開けていた。

 

 

 

そこに立っていたのは、両手いっぱいに巨大な紙袋を持ち、華やかな衣装に身を包んだツインテールの()()()女性だった。

 

 

 

 

「久しぶりね、二人とも!」

 

 

「にこおばさん! 来てくれてありがとう!」

 

 

「うんうん、姫那ちゃんは今日も可愛いわね~……って誰がおばさんじゃコラァ! にこお姉さんと呼びなさい!」

 

 

 

 

笑顔から一転、般若のごとき顔になったにこが、唾を飛ばしながら姫那に怒鳴り散らす。だが、姫那は怯えた様子もなく、久しぶりに会った母の旧友に微笑みかけた。

 

 

 

やれやれと溜め息をついた真姫が、姫那に続いて感謝の言葉を告げる。

 

 

 

 

「来てくれてありがとね、にこちゃん」

 

 

「ま、昔からの友達の結婚記念日となればね」

 

 

 

 

そう、今日は真姫と彼女の夫の十五回目の結婚記念日であり、それを祝って古くからの友人であるにこを家に招いたのだ。

 

 

 

本来ならばもっと大勢の知人を呼ぶのだが、今年は少数がいいという事になり、その結果、特に親交が深いにこを呼ぶことになった。

 

 

 

彼女はその誘いを二つ返事で了承してくれた。そして、お祝いの品をありったけ詰め込んだ紙袋を持ってたった今訪れたという訳だ。

 

 

 

 

「それにしてもにこちゃん、その格好はなんとかならなかったの……」

 

 

「何よ、今日になっていきなり収録が入ったんだから仕方ないでしょ。着替える時間も惜しかったんだから」

 

 

「だからってそんなピンクのフリフリ衣装で来ることないじゃない……」

 

 

 

 

にこは音ノ木坂学院を卒業後、芸能関係の仕事に就くことを決め、プロのアイドルとして歩み始めた。

 

 

 

スクールアイドルとして、"ラブライブ!"で優勝したことによる余韻が、彼女のアイドル魂をさらに焚き付けたのだ。

 

 

 

結果的に見れば彼女の選択は大成功と言える。あざといながらも観客の視線を惹き付けるその立ち振舞いは、着実に人気とファンを掴んでいった。

 

 

 

テレビのバラエティでは彼女が出てない方が稀になり、名実ともに誰もが認める現役アイドルとして、その立場を確立していた。

 

 

 

が、真姫から言わせれば彼女は友人としてのイメージが強いため、逆にそんな格好をしているのを見ると痛い……もとい恥ずかしい気分に駆られるのである。

 

 

 

 

「……んで、晴人はどこよ?」

 

 

「あの人はまだ仕事中よ。もうすぐ帰るってさっきメールがあったけど…」

 

 

「にゃにぃ!? ……この国民的アイドルのにこにーを待たせるとは……いい度胸してんじゃない」

 

 

 

 

にこが指の骨をポキポキと鳴らす。およそアイドルとして相応しくないその動作に真姫は触れなかったが、何か思い付いたように手をポンと叩いた。

 

 

 

 

「……そうだ。にこちゃん、あの人が帰ってくるまで暇でしょう? 姫那の勉強を見てあげてくれないかしら」

 

 

「ふぇぇぇぇ!!?」

 

 

 

奇声を上げたのは姫那である。ここでさっきの話を蒸し返されるとは思ってなかったと言わんばかりに激しく狼狽していた。

 

 

 

「あなた、また成績が下がってたでしょう? 少しは勉強しなさい」

 

 

「だからって何で今なのさ!」

 

 

「お父さんはまだ帰ってないし、料理も全部出来てない。時間は十分あると思うけど?」

 

 

「そ、そんなぁ! ひどいよ~!」

 

 

「つべこべ言ってるとデザート抜くわよ」

 

 

「う、うぅぅ~……」

 

 

 

根負けした姫那は、涙目でにこに勉強を教えて貰うよう頼んだ。にこは勉強が得意なわけではないが、流石に小学生の問題で躓くことはないと思い、首肯する。

 

 

 

「じゃあ、準備ができたら呼ぶね……」

 

 

 

肩を落とした姫那が、自室に向かうための階段を上がっていく。それを見送ったにこが真姫にひっそり耳打ちする。

 

 

 

「ちょっと厳しすぎじゃない?」

 

 

「単に甘やかすだけでは駄目なの。適度な飴と鞭、それが我が家の教育方針よ」

 

 

 

平然と言ってのけた真姫を横目で見て、にこは「なるほど」と口にした。

 

 

 

 

「それが娘に対するあんたとあいつの接し方ってわけね。ご立派ご立派」

 

 

「……棘があるように聞こえるんだけど」

 

 

「べっつにぃ? こっちが男なんか作る余裕がないほど忙しいってのに、二人仲良くイチャイチャしてんのが気に食わないだけよぉ?」

 

 

「イチャイチャなんか……だったらにこちゃんも男作ればいいじゃない。その歳でアイドル続けて行くよりは……」

 

 

「無理。……あいつ以外に好きになれそうな奴なんていないもん」

 

 

「……にこちゃん、あなた」

 

 

「ストップ。そんな顔しないの。大丈夫、未練なんてない。あいつは真姫ちゃんが好きで真姫ちゃんを選んだ。なら、私が……私たちが入り込む余地なんてなかったってだけよ」

 

 

 

 

一時期、二人がスクールアイドルとして活動していたユニットーーー『μ's』は、活動停止に追い込まれるほどにメンバー同士のいがみ合いが絶えなかった。

 

 

 

その時の真姫は正常とは言い難く、精神が不安定であったのを結婚した夫が救ってくれたのだ。

 

 

 

彼の優しさに触れた他のメンバーも、彼に対して淡い恋心を抱くようになり、お次は彼をめぐっての泥沼争奪戦に成り変わった。

 

 

 

その末、彼は真姫を選んだ。にこが選ばれてもおかしくはなかった。あるいは穂乃果を、他のメンバーを。

 

 

 

それでも彼女を選んだということはーーー正真正銘、真姫のことが好きだった何よりの証拠だ。

 

 

 

 

「にこちゃん……」

 

 

「それに、私は現状を気に入ってんだから不満なんてないのよ」

 

 

 

 

憂いはない、と言うようににこは大きく伸びをする。彼女の表情は実に明るく、見る人を活気付けるくらいのものに変わっていた。

 

 

 

「にこおばさーん! 準備出来たよー!」

 

 

 

二階から姫那の声が響く。つい先ほどの落ち込みなど忘れ去ったかのような、耳に残る声だ。

 

 

 

 

「はいはい……って、だから! にこお姉さんつってんでしょ! いい加減覚えなさいよ!」

 

 

 

 

悪態をついたにこは、不意に視線を感じたのでそちらの方を見る。そこには真姫がニヤニヤと笑っていた。

 

 

 

その目が言っている。

 

 

 

 

 

ーーー実際、姫那の言う通りでしょ?

 

 

 

 

にこはありったけのメッセージを込めた視線を真姫に返した。それはもう、力強く。

 

 

 

 

 

 

お・ね・え・さ・ん・よッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー…っと」

 

 

「おかえりなさい」

 

 

 

スーツ姿の夢神 晴人が鞄を片手に帰宅すると、エプロンを付けたままの真姫が出迎えた。

 

 

 

 

「珍しいな、真姫が出迎えてくれるなんて」

 

 

「ま、たまにはね……」

 

 

「にこはもう来てるんだろう?」

 

 

「ええ、二階で姫那の勉強を見て貰ってるわ」

 

 

「へぇ、にこがね……でも、そんなに慌てなくてもいいんじゃないか? 姫那はまだまだ先のこととか考えつかないと思うし……」

 

 

「甘いわよ。だからこそ、今の内からやれることはやっておく必要があるの」

 

 

「何年経っても生真面目なところだけは変わらないな……」

 

 

 

 

苦笑する晴人は上着を真姫に預け、首元のネクタイを緩めた。一息つこうと冷蔵庫からよく冷えた麦茶を取り出す。

 

 

 

 

「……私ね、時々不安に思うの」

 

 

「?」

 

 

 

 

翳りがさした妻の表情に、晴人は彼女の胸の内を知るべく耳を傾ける。

 

 

 

 

「私、晴人を好きになって……晴人と結婚してよかったと思ってるわ。好きな人と付き合えて、姫那という子供もできて……十分過ぎるほどの人生を歩んできたけど……」

 

 

 

 

でも、と彼女は無意識に口調を強める。

 

 

 

 

「いつまでも続くわけじゃない。この世に産まれて来たからにはいずれ死ぬ。晴人とも、姫那とも、永遠に会えなくなる……もしかしたらそれが明日かも、って考えてしまう事があるの……」

 

 

 

 

満ち足りた生活を送ってきた分、不幸に見舞われた時の衝動は巨大だ。それが家族の誰かであったらもっての他だろう。幸福と不幸は平等に天秤で測られる。誰かが幸せであるならば、それ相応の不運が別の誰かに降りかかるのである。

 

 

 

この生活が、いつまで続くか分からない。できればいつまでも続いて欲しいと思う。だが、人間には寿命という時間制限があり、どれだけ足掻こうともいずれ終わりを迎える時がくるのだ。

 

 

 

 

「……そんな事気にしてたのか?」

 

 

 

顔を上げ、夫の顔を直視する。ムカつくほどにあっけらかんとしており、シリアスな雰囲気が台無しになっていた。

 

 

 

 

「真姫らしくもない、そんなセンチメンタルになっちゃってさ」

 

 

「でも……」

 

 

「考えるだけ無駄なんだよ」

 

 

 

 

晴人は軽く笑うと、天井を見上げて語る。

 

 

 

 

「俺から言わせればさ、出会ったこと自体が贅沢なんだよ。人はこの世に産まれ落ちた瞬間から幸せなんだ。ただそれを自覚してないだけ、本当に幸せなんだて思ってるんならは最初から誰とも出会わなくていいだろ? けど、人は一人じゃ生きられない。人間は感情ってもんがあるから寂しいと感じて、人を求めて、出会いを求めて、相互理解をしようとする。……そう考えたら誰しも最初から幸せって思えないか?」

 

 

「……滅茶苦茶偏見だとは思うけどね」

 

 

「あ、やっぱり? ま、そんな訳なんだから今はただ楽しもうぜ?ーーーこの贅沢な人生をさ」

 

 

 

 

無駄にキリッとした表情で最後を決める晴人。真姫は心の中で呆れていたが、それは表に出さず、変わりにポツリと呟いた。

 

 

 

「……イミワカンナイ」

 

 

「お? 久々に聞いたな、それ!」

 

 

「…………あ」

 

 

「ははっ! いやぁ、あの時の真姫はほんと可愛かったよな! 今も可愛いけど素直じゃなかったあの頃はマジでーーー」

 

 

「それ以上言ったら離婚するわよ、晴人」

 

 

 

 

押し黙る晴人を満足そうに見ながら、真姫は自分の心が温かくなっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

ーーーこの人と生きていこう。

 

 

 

 

 

それはいつの日か決めたこと。

 

 

 

大丈夫、今までも一緒に全部やってこれたんだから。これから先、どんな困難があろうとも、なんとかやっていける。根拠はない。けど、彼とならーーー

 

 

 

 

 

「ねぇ、晴人」

 

 

 

 

最愛の夫に抱きつきながら、真姫は胸焼けしてしまうほどの甘い声で静かに囁いた。

 

 

 

 

 

ーーー私は今、幸せよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この家の棚には二つの写真立てが置かれている。

 

 

 

一つは、シャッターの光が反射して衣装を煌めかせている九人の少女たちが写っている。中央の少女が大きなトロフィーを掲げており、全員が目尻に涙を浮かべながらも柔和に笑っていた。

 

 

 

 

そしてもう一つはーーー

 

 

 

 

純白のウェディングドレスを纏った花嫁が、隣に立つモーニング姿の新郎に腕を絡めて幸せそうに寄り添っている。

 

 

 

 

現在(いま)も昔も変わらない、最高の微笑みで…

 

 

 

 







あ、サブタイのZに意味はありません。
本編で使わないと思ってこんな形で使っただけです。雑だな……。

更新遅れがちですが、次からはまた本編に戻りますよ! 荒れ狂った真姫を見逃すな!

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。