ラブライブ!ーschool idol produce- 作:AGRS
…はい、連日投稿となります。
久々に書くとえらく執筆が捗って気付けばこんな早く出来ちゃいました。こりゃ次は遅れるな、うん。
あ、それでは29話、どーぞ!
ガチャリ、と部室のドアノブを回す。
いつもなら問題なく開くアイドル研究部の扉は、彼女の予想とは裏腹に硬く閉ざされており、鍵が掛かっていると理解して海未は嘆息した。
「……はぁ」
ついに誰も来なくなる迄に至ったか、と海未はどこか諦めにも似た感情を抱いた。いや、ただ彼女が一番早く来ただけで暫くすれば他のメンバーもひょっこり顔を出してくるかもしれない。
しかし、そんな事は言い訳でしかなく、
憂う表情で部室の鍵を取り出し、開ける。静寂に満ちた部室内。机には食べかけのお菓子や開きっぱなしのファッション雑誌が散乱しており、確かに昨日見た光景と同じだった。
綺麗好きの海未がそれを見て不快に思わないわけがない。片付けようと手を伸ばす───やめる。
片付けた所で、誰も来ないのだ。ならばする必要もないし、何より今は何もしたくなかった。
学生鞄を机に置き、パイプ椅子を一つ引っ張り出して腰を預ける。そのまま上を見上げ天井を仰ぐ。
自分が今すべき事。
それは、考える事だ。
晴人の事を。
μ'sの事を。
にこの活動停止宣言から四日。停止期限は一週間のため、残り三日となった。
活動停止になったからと言って、全員が納得する訳ではない。最初の一、二日は何人か集まり、対策を考えるべく話し合っていた。
しかし、特にいい案が思い付かず結局一人、また一人と話し合いを放棄して部室を出ていってしまった。呼び止めようにもアイ活部長であるにこが活動停止を宣言している以上、どうすることもできない。
更に、精神的支柱である晴人が居ないことも問題となっていた。入院しているのだから仕方がないと言えば仕方がないが、何もこの状況の時に入院する羽目になるとは不運というしかない。
残る頼みの綱とすれば穂乃果だが……彼女は最近、自分と共に行動することが無くなっていた。
その例がつい数分前である。授業が終わり、一緒に部室へ向かおうと誘ったら「用事があるから」と言って帰ってしまったのだ。ことりにいたってはそそくさと自分を避けるように帰る始末。
一緒に居ないから何も話せない。話せないから問題は解決しない。つまり、ままならぬ状況になってしまうのだ。
「……はぁ……」
…せめて晴人が居てくれれば何か進展するかもしれない。あの頼れる少年が居てくれれば───
自分の儚い願望を、海未は即座に否定した。どれだけ願おうと、今の彼がここに来ることはない。彼が居るべきはこの部室ではなく病室のベッドの上である。
故に、自分の力でどうにかするしかないのだ。この状況を、打破するために、あらゆる知恵を振り絞って。
だけど、しかし────
「……どうにか出来るのでしょうか」
不安めいた自分の声。その声に覇気はなく、あるのは自信の薄さを表現した声色。心のどこかで、違う自分が「不可能だ」と告げているような気がした。
顔を曇らせながらも大きく首を振って打開策を考えようとした海未は、突如開いた部室の扉に思わずぎょっとして椅子から転げ落ちそうになった。
「────凛!?」
「……あ、海未、ちゃん」
怯えたような目で海未を見る凛。反対に海未は誰か一人でもこの部室に来てくれたんだという喜びが大きく、瞳を輝かせていた。
とりあえずパイプ椅子を一つ出して、凛に勧めると共に自分も座り直し、彼女に問いかけた。
「凛、ここには一人で? 真姫と花陽は…」
「……かよちんは途中早退。真姫ちゃんはそもそも学校に来てないにゃ……」
「……そう、ですか……」
無粋な質問だった、と海未は自分を戒める。
彼女が部室に入ってきた時からそんな事だろうと予想は出来ていたのに。下らない好奇心が凛の心を更に傷付けてしまう形となった。
「海未ちゃんは……穂乃果ちゃんとことりちゃんとは一緒じゃないにゃ……?」
「ええ……私もそんなところです」
「……今日のかよちんも……怖かったにゃ……」
パイプ椅子に体育座りしている凛が制服の裾を握り締める。
彼女は怯えているのだ。自分のクラスメイトに、自分のかけがえのない友達に。
四日前、彼女が垣間見た花陽の豹変した姿。見間違いなどではなかった。けれど、見間違いだと信じたかった。
あの日から、自分と彼女には見えない壁ができた。表面上は問題ない。クラスではちゃんと話すし、仲の良い関係に思う。
しかし───それだけだ。自分は仲良い関係と思っていても、実態はそうとは限らない。凛は彼女は何を考えているのか分からない。自分と話していて楽しいのか、この現状をどう思っているのか、
問い出したい、と思う。でもその一歩が踏み出せない。踏み出したら───もう、戻れないような気がする。何もかも、壊れてしまいそうな……
「……ねぇ、海未ちゃん……」
猫のような小さき声に海未は何ですか、と返し続きを促す。
「凛……どうなっちゃうのかな。このままかよちんも…真姫ちゃんも…みんなみんなバラバラになっちゃったら……」
「……」
「嫌だ……いやだよぉ……そんなの……そんなことになったら、凛、本当にひとりに……ひとり、ぼっちに……!」
「……!」
「う、わあああああああぁぁぁぁぁんッ!!」
胸に飛び込んできた凛を優しく抱き抱える。そして、海未は彼女の涙を拭いながら事態の深刻さを改めて思い知った。
凛も……苦しんでるのだ。友達が得体の知れない存在に変貌してしまった事に。それが記憶に残り、四六時中頭を痛ませていたのだ。
ギリ、と歯を食い縛る。海未は自分の不甲斐なさを叱咤したいと心から思った。
───海未だって愛されてるよ。海未の存在意義は歌詞を作る事なんかじゃない。
……違う。
───皆が挫けない、その力強い精神なんだ。胸を張って誇っていい事さ。
いいえ、晴人。そんなのは───
私は、所詮ただの平凡でありきたりな人間なんです。少し歌詞を作ることに富んだ……どこにでもいる女子高生だったんです。
希望を持たせるような事をしてごめんなさい。
出過ぎた真似をしてごめんなさい。
私に出来る事と言えば……こうして凛の背中を撫でて彼女をどうにか落ち着かせる事ぐらいなんです。何かを変えようと思っても私はあまりにも……無力なんです。
海未の目から一滴の涙が零れる。悔しい、悔しい。胸を締め付けるのは後悔の念ばかり。とめどなく押し寄せるその感情は、やがて滝のように流れる涙へと変わった。
どうにかしたいとは思っても、自分がそれを許さない。そんな事の繰り返しが彼女の心を磨り減らす。
もう……いい。もう……何もかも疲れた。
もう、このまま楽になる事が出来れば……どれだけ幸せな事だろうか。このまま……凛と一緒に……
「……凛、もうこのまま……」
共に身を投げよう───そう告げようとした海未の言葉は、部室へと入ってきた人物によって遮られた。
「───!?」
「……真姫、ちゃん?」
「……凛と──海未ね。まあ、大方予想通りだわ」
学生服に身を包んでいる少女は部室内を一通り見回すと、パイプ椅子に座る海未と凛に近付いた。
「凛、今日一緒にご飯を食べれなくてごめんなさい…って何であんた泣いて……それに海未まで」
真姫はクラスメイトと一つ上の先輩が涙を流していることに面食らっているようだ。指摘を受けた海未は即座に手で目元を擦った。
「な、泣いてなんか……」
慌てて取り繕う海未だが時すでに遅し。ハイハイと凛の涙をハンカチで拭いてる真姫に辟易しつつ、彼女に訊ねる。
「真姫、貴方は……その、大丈夫なのですか?」
「……ええ、ごめんなさい、二人とも。私はもう大丈夫。ちゃんと心の整理ついたから」
海未の言葉の意味を瞬時に理解した真姫は穏やかな表情でそう返した。それを見て凛は今まで泣いていたのが嘘のように真姫に飛び付いた。
「……ま、真姫ちゃんにゃ。本物の、真姫ちゃんにゃー!!」
「ちょっ、ちょっと凛! 急に飛び付いてくるんじゃないわよ!」
真姫にじゃれつく凛を見て、海未は微笑ましく思う。ほんの少しではあるが、いつもの日常が戻ってきたのだと、その幸福を噛み締めていた。
「もう! ……それより二人とも。早速で悪いけど、ちょっと協力してもらうわよ」
どうにか凛を引き剥がした真姫は、乱れた制服を直しながら二人にそう告げた。
「協力……? それはいいですが、何を…?」
「決まってんでしょ」
腕を組み、勝ち気な表情で二人を見据える。その瞳にはとてつもない自信が満ち溢れている。真姫は大きく息を吸い───
「μ'sの皆を元に戻すための作戦によ」
高らかに、そう宣言した。
『……そうですか』
希咲菊理は現状報告を最後まで聞き終えるとそう呟いた。
『真姫さんが正気に戻るとは……彼女は他の子達とはまた違った
惜しむように菊理は囁く。その表情には落胆の色が見えるが、果たして心の底から落胆しているのかは分からない。
───貴方は初めからこうなる事が分かっていたのですか?
『さあ? それはどうでしょう。私とて万能ではありませんから。ただ晴人さんならこの程度の事ぐらいならやってのけるとは思っていましたが』
───以後はどのように?
『現状維持で構いませんよ。貴方の報告を聞く分だと何やら動きがあるようですから。……上手くいけば、
クスリ、と菊理は妖艶な笑みを浮かべる。それを目にした者ならば誰よりも彼女に見惚れるだろうが、電話相手の少女には関係のない話だった。
───……あまり欲を出し過ぎるといずれしっぺ返しを食らいますよ。
『あら、それは実体験ですか? ああ、ごめんなさい。気分を害したのなら謝ります。ですが私は今のこの状況が───とても気に入っているのです』
恍惚に満ちた顔で菊理は告げる。彼女にとってこの世界は幸福と絶望に満ちた世界だ。否、そうでなくてはならない。平凡な存在が、天才と呼ばれる存在が、彼らが紡ぐ物語を隅から隅まで見ていたいのだ。
───そうですか。……では、私はこれで。
『ええ、引き続き報告をお願いします。出来ればそれが非常に愉快なものだと祈っておりますよ───穂乃果さん』
通話を切る。持っていた携帯を無造作にベッドへ投げやった。
彼女───高坂穂乃果は虚ろな瞳で窓越しから宵闇の空を見上げる。そして、小さく、一言呟いた。
「……穂乃果の復讐はまだ終わってない」
その言葉が、無人の自室に深く響いた。