ラブライブ!ーschool idol produce-   作:AGRS

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覚えてる方は少ないと思いますがお久しぶりです。
AGRSです。

度重なるスランプを経て、なんとか最新話を投稿できました。

出来ればまた気軽に読んでくださると嬉しいです。
それでは、どうぞ。




第31話 訪問者X/逆襲のアイドル

 

 

 

 

 

 

「……医者の娘としては驚きの一言に尽きるわ」

 

 

 

俺が今まで巻き付けていた包帯を外し終えると真姫は愕然とした表情でそんなことを言ってきた。

 

 

 

「まあ、俺も驚いてるけどさ…」

 

 

 

俺は背中の傷痕に触れる。正確には()()()()()()()にだ。数分前までは一目見て大怪我だと言えるような傷跡はキレイさっぱり消えていた。少し動いただけで感じたあの鈍い痛みもない。まるで、初めから怪我などしていなかったように。

 

 

 

思わず先程飲み干した中身のない小瓶に目をやる。夢の中で手渡されたその薬はそれこそ魔法のように傷を完治させた。確か菊理さん、数時間で治るとか言ってなかったっけ? 感覚としては一瞬と言っても過言じゃなかったぞ。

 

 

 

 

「その小瓶に入っていた薬が傷を治したのですか…」

 

 

 

 

いつの間に最初に持ってきていた花だけではなく、(実際に見るのは初めてな)果物の盛り合わせを両手に抱えている海未が小瓶をまじまじと見つめる。

 

 

 

 

「些か信じられませんね…」

 

 

 

 

海未の発言に俺は苦笑する。確かにあんな大怪我が嘘のように消え去ったのだから信じられないと思うのが人としては正常だ。だが、その信じられない事が現実として起きたのだからそれは受け入れるしかない。これは理屈で説明できるものじゃないし、そもそも菊理さん……あの人はこんなことを理屈抜きでやってのけるだろう……と思う。

 

 

 

 

 

「私だって信じられないわよ…というか、そんな簡単に治せたらこの世に医者なんて要らないわ…」

 

 

 

 

 

真姫が若干悔しそうに唇を噛み締める。……そうだ、感覚が麻痺してた。完治に1ヶ月はかかると言われた怪我を一瞬で治したのは奇跡とも言える事なんだ。そうでも思わないと怪我の治療や入院の手配などをやってくれた真姫やその両親にすごく申し訳ないと感じてしまう。

 

 

 

 

「あー、えっと。真姫はそんなに気にすることないと思うぞ?」

 

 

「うるさい……ほっといてよ……」

 

 

 

 

慰めるつもりが真姫はそっぽを向いてしまった。うーん、今回の件は菊理さんが異常なだけでホントに気にすることないのに……

 

 

 

 

「とにかく晴人君の怪我が治ってよかったにゃ!」

 

 

 

 

海未の持ってきた果物のバナナをバクバク食べながら重い雰囲気をぶち壊すような甲高い声で凛が言ってくる。

 

 

 

 

「り、凛! 貴方が食べてどうするんですか! 」

 

 

「え、駄目かにゃ?」

 

 

「駄目に決まってるでしょう……!」

 

 

 

 

 

二人のやりとりに思わず表情が緩む。随分と懐かしく感じる光景に胸が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

「それより二人共、よく来てくれた。話は真姫から聞いてると思うけど…」

 

 

 

 

俺の言葉に凛と海未は一瞬戸惑った後、少し気まずそうな顔で尋ねてくる。

 

 

 

 

「はい……ことりや花陽たちの事ですよね?」

 

 

「元に……戻せるの?」

 

 

「戻すさ。……絶対に、な」

 

 

 

 

現在μ'sはアイ活停止中。だがそれも今日を含め3日で解ける。しかし、たとえ停止期間が終わったとしても今の状態でアイ活ができるとは思えない。

 

 

 

 

原因は分かってる。ことりや花陽……それと真姫の話では絵里も含まれる。ユニットには不可欠な協調性が彼女達から失われつつある。というか、自分の友達もまともに認識できてないぐらいの状態だ。

 

 

 

絵里はともかく、ことりや花陽の不気味さは俺も感じたが……何にせよこのままじゃラブライブ優勝なんて到底できっこない。

 

 

 

だから、彼女達を元に戻す。そしてもう一回μ'sとして、一杯練習して、皆で夢の舞台に上がるんだ……!

 

 

 

これが、俺の決意。もう絶対揺らぐことない、俺が心に決めたこと。成し遂げなきゃいけない、大事な事だ。

 

 

 

 

 

「ですが、元に戻すと言っても具体的にどのように…?」

 

 

「そりゃあ……話し合いだろ?」

 

 

「……結局ノープランというわけですか」

 

 

 

 

 

期待してたとこ悪いけど、俺に他の対抗策は思い浮かばない。人を説得するには真正面からの言葉のぶつけ合いが一番だろ? 暴力で説得するとかナンセンスだ。そもそもプロデュースを請け負っている女の子を殴る度胸なんか俺にはない。

 

 

 

 

「……まあ、確かに私達が出来ることなんか限られてるし……それでいいでしょう」

 

 

 

 

真姫が如何にも渋々といった感じに頷く。な、なんだよぉ! そんな「もう少しマシな考えは無かったのか」みたいな表情はやめてくれ! 傷付くから。

 

 

 

 

軽く頭を掻いて気を取り直した俺は言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「それで、まずは俺が「待って!」うわっ!?」

 

 

 

 

いきなり真姫が俺の言葉を遮ってくる。真姫は「大きな声を出さないで」と指示してくる。

 

 

 

 

「ど、どうした真姫?」

 

 

「誰か……来る」

 

 

「へ?」

 

 

 

 

誰か来るって……誰が来るんだ?

 

 

 

 

 

暫くすると誰かが廊下を歩いている音が聞こえてくる。徐々に音が近くなっているのでこの病室に向かってきているのだろう。

 

 

 

 

「面会の方でしょうか……?」

 

 

「……()()()面会だといいけどね」

 

 

 

 

やがて足音はこの病室の前でピタリと止まった。代わりにコンコンと控えめのノック音が響く。俺は無言で真姫と海未を一瞥し、生唾を飲み込んで返事をする。

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ」

 

 

 

 

 

間髪入れずに開け放たれた扉の前には───とてもよく見知った顔の女性がいた。

 

 

 

 

 

 

「き、桐葉!?」

 

 

 

 

 

我が姉───夢神桐葉が相変わらずの無表情でそこに立っていたのだ。

 

 

 

 

「……大怪我を負ったって聞いたのは嘘だったようね。心配して損したわ」

 

 

 

 

開口一番そんなことを言ってくる桐葉に多少感心しつつも、俺は驚きを隠さず桐葉に問いかけた。

 

 

 

 

「えっと、見舞いに来てくれたの?」

 

 

「それはまあ、弟が入院してるのだから見舞いにも来るでしょう。それに、前にも来たわよ」

 

 

「うん、知ってるけど……」

 

 

 

 

 

ムッとした表情でお見舞の品と思われる沢山の紙袋を俺に押し付けてくる桐葉。……いや嬉しいんだけどさ、ちょっと量多すぎじゃね?

 

 

 

 

 

 

「……周りの子はあんたの友達?」

 

 

「え、あ、ああ……」

 

 

 

 

桐葉が周りを軽く見渡し、説明を促してくる。

 

 

 

 

「晴人の、お姉さん……!?」

 

 

「わー……キレイな人だにゃ~」

 

 

 

 

 

海未と凛がそれぞれ桐葉を見つめる。海未は何とか自己紹介をしようと言葉に詰まっており、凛はボーっと桐葉に見とれてる感じだ。

 

 

 

 

「俺が音ノ木坂でプロデュースを請け負っているスクールアイドルだよ」

 

 

「ふぅん……」

 

 

 

 

そこで固まっていた海未がようやく言葉をまとめたのか自己紹介をしてくる。

 

 

 

 

「は、初めまして! 園田海未です! はる…夢神君にはいつもお世話になっていて……ええと、その……!」

 

 

 

 

 

……訂正。全然まとまってねえわ。

 

 

 

 

 

「……夢神桐葉。何をそんなに緊張してるか知らないけど……ひとまず落ち着きなさい」

 

 

「は、はいぃ……」

 

 

 

 

緊張が解けた海未は同時に腰も抜けた感じでその場に崩れ落ちた。仕方がないので凛に手伝ってもらい俺が寝ていたベッドに寝かせた。

 

 

 

 

 

 

「あら、貴方は見知った顔ね。……確か真姫、と言ったかしら?」

 

 

「……はい、覚えててくれて光栄です。お義姉(ねえ)さん」

 

 

「…………今、物凄い幻聴が聞こえてきたのだけど……気のせいかしら?」

 

 

 

 

何故だろう。この二人会話を聞いていたら全身に寒気が走った。いくら真冬のような寒さとは言え、暖房がバッチリ効いてる病室に有り得ないくらいの寒気が。

 

 

 

 

「いえいえ、そんな。幻聴だなんて……私は当然の事を言っただけですよ、お義姉さん」

 

 

「……どうやら以前の冗談も幻聴じゃなかったみたいねぇ……ふぅん……」

 

 

 

 

 

違う。寒気どころの話じゃない。これは悪寒だ。全身の震えと流れ落ちる汗、ビシビシと伝わってくるおぞましい何かを考えると下手すればそこらの風邪より(タチ)が悪い!

 

 

 

 

 

「き、桐葉! わざわざ見舞いに来てくれてありがとな! でもほら! 見ての通りキレイさっぱり治ったから!」

 

 

 

 

とりあえず話題を変えようと俺は服を捲り上げて背中の完治した傷を桐葉に見せた。

 

 

 

 

「……それなんだけど晴人。随分と治るのが早かったみたいね。この前見たときはかなりの重症だと思ったのだけど……」

 

 

 

 

 

あ……ヤバイ。

 

 

そう言えば桐葉は以前見舞いに来てたときに怪我の具合を知ってた筈なんだ。それがこんなに早く治ったのを見たら不審に思うのも当然だ。何とか上手い言い訳をしないと……

 

 

 

 

 

「……再検査の結果、思ったよりも傷の治り具合が早まっていたみたいです。本人の自然治癒力の影響もあると思いますが、完治まで1ヶ月というこちらの判断は大きな誤りでした。ご心配をお掛けして申し訳ありません」

 

 

 

 

俺の思考を読み取ったのか、真姫が予め台本でも用意してたかのような説明を行う。この病院は真姫の両親が経営している。その娘が言っているのだから多少なりとも説得力はあるだろう。

 

 

 

 

 

「……再検査、ね」

 

 

「ええ、なんなら診断書もお持ちしましょうか? 少々時間を頂くことになりますが」

 

 

「いいえ、結構よ。早く治ったのだからこちらとしても喜ばしいわ」

 

 

 

 

そう告げると桐葉は踵を返して扉の方に振り返る。振り返る間際、桐葉の視線が例の小瓶に向けられたような気がした。

 

 

 

 

「なら、私は帰らせて貰うわ。晴人、もう退院できるのでしょう?早く帰ってきなさいよ」

 

 

「ああ、夜までには帰るよ」

 

 

「そう、ならね……コホッ」

 

 

「にゃ? おねーさん、風邪かにゃ?」

 

 

 

 

扉から出ていこうとした桐葉に凛が尋ねる。確かに、咳をする音が聞こえたような……

 

 

 

 

 

「ええ、外の寒さに当てられたみたいね。……貴方たちも気を付けなさい……コホッコホッ……」

 

 

 

 

最後にそう言い残して今度こそ桐葉は病室から出ていった。

 

 

 

 

 

「ふー……サンキューな、真姫」

 

 

 

 

病室を満たしていた緊張が解けたのを感じると、俺は真姫に礼を言う。真姫の咄嗟の機転にはマジで助かった。

 

 

 

 

「別に……礼を言われるほどの事じゃないわ。それより、貴方のお姉さんも風邪なんか引くのね」

 

 

「え? あー……そう言えば」

 

 

 

 

よく考えてみると、桐葉が風邪引いたのを見るのなんか何年振りだろう? スクールアイドルをやってた時も体調を崩したことはなかったし、凄く珍しい事なんじゃないかな?

 

 

 

 

「帰ったら労ってやらないとな……」

 

 

 

 

入院やら何やらで迷惑をかけてるのは事実。弟として、ここは桐葉の看病でもしてあげよう。

 

 

 

 

「う、う~ん……。あれ? 晴人のお姉さんは?」

 

 

「帰ったにゃ」

 

 

「そ、そうですか……」

 

 

 

 

ようやく目を覚ました海未がベッドから起き上がる。予期せぬ来客に話を中断させられたが、これで本題に入る事ができる。

 

 

 

 

「それで、ことり達の事だけど───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果は……まだ来てないみたいね」

 

 

 

 

 

 

静まり返ったアイドル研究部部室で佇んでいるのは綾瀬絵里。自分を呼び出した張本人はまだ来ていないのを確認すると、彼女は夕陽を背景に重い溜め息を吐く。

 

 

 

 

明確な時間指定をしたわけではないが、自分が先に着いてしまった事を、絵里は少し不気味に感じてしまう。

 

 

 

 

手持ち無沙汰のせいだろう。絵里は一息入れようと部室のボットを使い、カップにお茶を注ぐ。口に運んで喉を潤すと、体が少し温まった。

 

 

 

 

「……この部室に、来るのも久しぶりね」

 

 

 

 

 

ほんの少し前までは、μ'sのメンバーと今後の方針や活動について楽しく話し合っていたはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 

 

 

……いいや、どうしても何も自分がこの状況を作り出した原因の一端を担っているのは明白だ。けれど、別に後悔はしていない。自分はただ、晴人の為にやったのだから。後悔する理由などない。

 

 

 

 

 

「そうよ……私は、晴人の為なら、何だって……」

 

 

 

 

 

彼女の瞳が再び黒く濁ろうとしたとき、勢いよく部室の扉が開けられた。

 

 

 

 

 

 

「あれ? 絵里ちゃん、早いね! 待たせちゃった?」

 

 

「穂乃果……」

 

 

 

 

 

自分と同じく学生服に身を包んだ穂乃果が、屈託ない笑顔で絵里に軽く頭を下げる。

 

 

 

 

 

「ごめんねぇ~。あ、でも寒いだろうと思って飲み物買ってきたんだよ! はいこれ!」

 

 

 

 

 

そう言うと穂乃果は缶コーヒーを絵里に差し出す。しかし絵里は遠慮するように首を振った。

 

 

 

 

 

「気持ちだけ受け取っておくわ。飲み物ならこれがあるし……貴方が飲むといいわよ」

 

 

 

 

 

絵里は何口か飲んだカップを掲げる。断った理由はそれもあるが、その缶コーヒーに何か仕込んである可能性もあったからだ。とてもではないが、受け取れない。

 

 

 

 

 

 

「……ふーん。飲んでくれないんだ」

 

 

 

 

 

 

瞬間───絵里の身体に激震が走る。

 

 

 

穂乃果が()()()()()からだ。いや、ただ笑っているだけならいい。絵里が恐怖を感じたのはその笑顔が彼女が時折見せる無邪気な笑顔ではなく、人を蔑むような悪魔の笑い顔だったからである。

 

 

 

 

 

「警戒してるのかな?」

 

 

 

 

 

穂乃果が一歩絵里に近付く。絵里はすぐにスカートのポケットに手を突っ込み、万が一の為に備えていたスタンガンの感触を確認した。

 

 

 

 

 

……もう少し間合いを詰めて、これを……

 

 

 

 

 

自分と穂乃果の距離を冷静に把握し、攻撃のチャンスを窺う絵里。しかし、そんな彼女とは対照的に穂乃果は無防備に近付き淡々と告げる。

 

 

 

 

 

「でも、ちょっと遅かったかな?」

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

穂乃果の言葉の意図を解りかねた絵里は反射的に問い返す。穂乃果は髪を掻き上げ───(わら)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、絵里ちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「何───を……っ!!」

 

 

 

 

次の瞬間、絵里の視界が霞み、全く力の入らない身体が地面に這いつくばる。

 

 

 

 

そうか、と絵里はようやく納得する。自分が部室に先に来ていたのではなく、穂乃果が先回りしてポットかカップに仕込んでいたのだ。自分が絶対に、穂乃果から何を渡されても受け取らないと分かっていたから───

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果……あなたっ……!」

 

 

「さぁ……お話ししよう? 絵里ちゃん。楽しい楽しいお話しをね……」

 

 

 

 

焦点の定まらない瞳で自分を見下ろす穂乃果に、絵里は悲鳴も上げることも出来ないまま、身体を強張らせていた……

 

 

 

 


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