その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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序章
パチンコって楽しいね!


「いや、これは駄目。本当無理。私の腹筋を壊しに来ていやがる」

 

 女の目に映るのは、無数の釘に囲まれる液晶。液晶に映るのは某ロボットアニメのキャラクターで、流れる映像を見てどういうわけか女は腹を抱えていた。

 

「……これ、ホールでやられたら一溜りもないな。だって1000ハマりからの単発って、もうね」

 

 罪深いなお前っ! と指をさして言い捨てる女。指差すものは、遊技機――パチンコと呼ばれているものだ。

 女は現在、オンラインショップで購入したパチンコの手前にカメラを置き、遊技している様子を動画投稿・配信サイトにて生放送していた。

 パチンコには“スタートチャッカー”――通称“ヘソ”と呼ばれる部分があり、そこに玉が入ることで当落抽選が行われる。

 店舗での実践動画ではなく自宅での配信のため、わざわざ実際に玉を打って大当たりを狙うのは正直手間だ。それに玉と釘がぶつかる音は、配信においては雑音にしかならない。そのため配信では、ヘソに玉が入ったと認識させる外部パーツを取り付け、玉を打つことなく遊技している。

 

「……あー、もうそろそろ日付が変わるね。どうする? ラッシュまでやる?」

・『寝たいっす』

・『続けてどうぞ』

・『お肌荒れちゃう』

・『いいぞ~』

・『作業用BGMにするわ』

 

 チャット欄には女の配信を観ている視聴者のコメントが流れていて、その流れは遅い時間帯もあって他の配信と比較して穏やかだ。

 配信の内容が内容だけに、この配信を観に来ているのは女と同じくパチンコ店に足繁く通う者たちがほとんどだ。

 変わった女が変わった配信をしていると聞いて観に来た、パチンコ店にはいかない層もいるにはいるが、女の言うことには大体追いつけていない。ただ、女はいつどのような配信でも陽気であり、視聴者を分け隔てなく楽しませる才を持っているため、不思議と視聴者は離れなくなるのだ。

 

「――そういや、今日は自分が住んでるところで急に雷雨が降ってきたんだけど、皆のところは大丈夫?」

・『傘持ってなかったからずぶ濡れで帰った』

・『ビニール傘ぶっ壊れた』

・『いかん住所割れる割れる』

・『でも雷雨のときに寝るとなんか気持ちよくなる不思議』

・『あれ、雷雨ってたしか関東だけだったような気が……』

「気持ちよくなるの分かるわ。台風のときは角材が窓ガラス突き破ってきてマジで腹立ったけど」

・『草』

・『怖い』

・『ヒェ』

・『やめてくれよ……』

・『それはビビる』

「あ、そうだ。『雷雨で気持ちいい』ってことで明日はサンダーの配信しようか。ホールでもサンダー打ってくるね」

・『俺のスパチャが!』

・『あかん投げ銭がサンドに消えてゆくぅ!』

・『バーサスも打て』

・『新ハナビは?』

・『サンダー、マイホに置いてないねんな……』

「サンダー、設置店舗がバーサスに比べて少ないよね。解せんよな。私としては新ハナビのビッグの出玉の少なさのほうが解せねぇけど」

・『分かる』

・『パチタレは甘いって言ってるけどあの少なさは無理』

・『そんな私は大花火』

・『あの、スパチャ……』

・『スパチャどこ……ここ?』

「まあホールでは満遍なく打ってるよ。ノーマルタイプは特にね」

 

 ここで欠伸を一つ。視聴者のコメントに言葉を交わしているうちに、睡魔が押し寄せてきたようだ。

 そろそろいい頃合いだろう。女は配信を終える旨を告げ、最後にこう締めくくった。

 

「ユニコーンやりたいって人はまず遊タイムのありがたさを牙狼で感じてからやりましょう。以上終わり!」

・『950回転ハマれと』

・『そんだけハマってる牙狼が空いてればいいけどね』

 

 

 

 さて、女の名前は北山洋子。この女は某動画投稿・配信サイトに『パチンカスX』というふざけた名前のチャンネルを持ち、“裏物クチク”というこれまたふざけた名義で日夜活動している(名義に関しては真剣に考えた末に決まったものであり余計に救いがない)。顔出しはしていない。

 北山は普段、成人向けPCゲームの制作会社《Eve》で働いている。ポジションはシナリオライター。

 男性向けのゲームで、内容はハードで人を選ぶものがほとんどだ。しかし売りはそのハードさにあり、コアなファンも多い。

 元々北山は大学時代、個人の同人サークル《北山》で活動していた。有り余る創作欲を男性向け18禁小説にぶつけていたのだが、その欲が就活に突っ走った結果、成人向けPCゲームのシナリオライターとして働くことになったのだ。

 仕事の性質上、北山は毎日オフィスに出向く必要がなく、必要な時以外は自宅を仕事場としている。

 

「親友の目玉抉り取ってお手玉させるのもアリだね……」

 

 現在北山は、プロデューサーより提示された続編の大まかな流れに沿い、Eveの主力作品の続編のプロットを執筆していた。

 北山は筆が速い。創作欲が仕事に上手く噛み合っているおかげだろうか。いつも上司が提示した締め切りよりも早く書き上げてみせる。おまけに書く文章量も多く、物語を作るときは設定を緻密かつ膨大にする性分であり、新作の設定やストーリーを任されたときはA4・500ページに及ぶ設定資料を提出して上司を泣かせた。

 今回もそのつもりで制作に携わっているが、しかし北山も人間である。――自分の好きな創作とて、疲れは溜まる。

 

「ぬーん……」

 

 疲れを体から取り除き、癒すにはどうするか。日本人としては、ここはやはり風呂だろうか。湯船に浸かって体をもみほぐすのだ。或いは整体院に行ってプロの施術を受けて筋肉をほぐしてもらうか。それとも、酒を飲んで疲れを忘れてしまういい気持ちになるか。

 ――この女の場合、そのうちのどれでもない。

 

「うしっ」

 

 時刻は、18時25分。

 テキストファイルを上書き保存し、意気揚々と立ち上がり、

 

「サンダー打ちに行こ!」

 

 そう言い、ジーンズのポケットにスマホと財布を突っ込み、クローゼットに吊ったポール・スミスのネイビーのジャンパーを着て、部屋を出た。

 

 

 

「おおやっべ、スイカ取りこぼしてら」

 

 部屋から一番近いパチンコ屋の、スロットコーナーの隅に追いやられた北山のお目当てのスロット《サンダーVリボルト》は、2台あるうちのどちらも空いていた。

 データカウンターを見ると、片方は300ハマり、もう片方は649ハマりしていた。北山は「ハマっているほうが当たりやすいのでは」と649ハマりの台を選び着席した。

 この女、疲れを癒すには決まってパチンコ屋だ。風呂でも整体院でも酒でもなく、パチンコやパチスロに疲労をぶつけてしまうのだ。

 北山はパチンコが好きで、スロットが好きだ。それゆえネット上では自身をパチカスやスロカスと呼んで憚らない。好きすぎて生配信まで始めてしまう始末。

 全ての始まりは社会人1年目に遡るが、この話は別の機会でしたほうが盛り上がるだろう。

 

「だいぶ疲れてるな私。取りこぼすなんて……」

 

 それはスマホを使っているせいでもある。左手にスマホを持ち、弄りながらスロットを打つ北山。これではスイカを取りこぼしても致し方あるまい。ハナハナでもスイカをしっかりフォローする北山としては、これは失態である。

 スマホをしまおうと尻を少し浮かせてポケットに入れようとしたとき、スマホの通知が目に入る。

 

「……、――誰だ?」

 

 それはLINEの通知で、メッセージを受信したことを報せるものだった。

 メッセージの差出人――“ゆり”という名前に、北山は首を傾げる。

 少なくともここ最近遣り取りした人物ではないだろう。自分の記憶にないということはそういうことだ。

 通知をタップしてLINEを開くと――この人物、北山は友達登録していなかった。

 知人を伝って私とコンタクトを取ろうとしているのだろうか。

 ひとまず追加のメッセージが来ないか待っていると――、

 

「高校時代の同級生だった星田ゆりだけど」

 

 と、自分の素性を語ってきた。

 星田ゆり――該当する人物を知っているけど、私は彼女と友好的だったわけではない。ただの同級生で、それ以上でもそれ以下でもない関係だった気がするけれど……。

 まさかマルチとかアムウェイとか、それとも宗教の誘いだろうか。それは嫌だねぇ。

 北山が身構えていると、さらにメッセージが届いた。

 

「北山さんって、裏物クチクって名前で配信してたりするよね?」

 

 その文章を読んだ北山は眉間にしわを寄せると、『タバコ休憩中』の札を台に置いて、その場を離れた。




 ※本作はパチンコ&スロットを奨励する作品ではありません!!!!!!


 創作にはいなかった(と思われる)パチカス系VTuberの話を書いてみてかったのです。
 用語の解説は作中で追々やるので、取り敢えず今の段階は自分で調べてください。世界が広がりますよ。下の方向に。
 パチンコはほどほどに楽しみましょう。私は先日超源RUSHにしてやられました。
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